実家に帰省してます。
一家全員で(俺含む)風邪引いてますが(汗
まあ、ノロウイルスのときにくらべれば全然軽くて余裕なんだけれども。
母がへばってます。
とりあえず新幹線の中で加筆やってたshe&me第11話、置いときます。
スレ投下版の二十三話途中から二十四話までにあたります。
では、どぞ。
魔法少女リリカルなのは〜She & Me〜
第十一話 高町家の事情
──高町家・フェイトの部屋──
なのはがプレシアによって責め苦を受けている、その頃。
「……なの……は……」
何度、その名を呼んだだろう。
だが、呼べばいつだって返事を返してくれた友は、今はもういない。
動物形態のアルフとユーノが心配そうに見つめる中、フェイトは失意に沈んでいた。
───友情ごっこは、終わりよ。
プレシアの言い放った言葉が幾度となくリフレインし、その度に傷ついた心に新たな爪あとを残していく。
(母さんの言うとおりだ……。私が……私がいたから)
自分が得られるはずもない絆を求めたから。アリシアのまがいものに過ぎない身で、温もりを欲したから。
大切な友と築き上げた絆を奪われ、周囲の人間を傷つけてしまった。
何もかもが、自分がいたせいで起きたこと。
囚われているなのはとは違った形でだが、彼女もまた自責の念に心を痛めていた。
────コンコン。
「!!」
ドアをノックする音にビクリ、と反応するフェイト。
誰だろう。もしかすると、クロノだろうか。
だとすれば、会いたくはなかった。会えばきっと辛いに決まっている。
彼を、もう兄と呼ぶことはできない。
(私なんかに……そんな資格、ないよ……)
人間ですらなく、周囲を危険に巻き込んだ自分にそのような資格があろうはずもない。
────コンコンコン。
再度、ドアがノックされる。
だが、返事ができない。返事をするのが怖い。
返ってくる声が、もしもクロノのものであったらと思うと。
「……」
フェイトは身を固くし、じっと扉を見つめる。
そしてゆっくりと部屋の扉を開き入ってきたのは、あまり予想していなかった人物。
親しくも、深刻な話などは殆どしたことのない相手。
「フェイトちゃん、ちょっといいかな?」
なのはの姉───美由希が、すずかを連れてそこに立っていた。
* * *
「全部、聞いたよ」
壁にもたれかかった美由希が見守る中。
すずかは少し迷ったあとで、前置きを省いて単刀直入にフェイトに告げた。
全部。それが意味するところは、フェイトにも理解できた。
彼女たちはもう知ってしまったのだ。彼女達の前にいる金髪の少女が、人間でないということを。
フェイトがいたせいでなのはが巻き込まれたということを、彼女たちはわかっている。
一瞬、全身を寒気が走っていった。
「……ごめんなさい……」
せめて今、謝らなければ。消え入りそうな声でフェイトが告げたのは、謝罪の言葉。
「どうして、私たちに謝るの?」
「だって!!」
顔を上げるフェイトの頬には、ずっと堪えていたのだろう、涙がつたっていた。
それは震える身体と裏腹に、ひどく熱かった。
「だって、私がいたから!!人間じゃない私がいたせいでなのはが……!!」
「違うよ、フェイトちゃんのせいじゃ……」
「そんなことない!!」
なだめようとするすずかの言葉も、聞こえない。聞いてはいけない。
自分に、やさしい言葉に甘える資格なんてないのだから。
「みんな、私が……得られることのないものを欲しがったから……。そんな資格、ないのに……ッ!!」
「フェイトちゃん……」
「なのはがいなくなったのも、クロノが傷ついたのも……全部私が悪かったから……!!」
だからもう、私にやさしくするのはやめて。
やさしさが、つらいから。欲してはならないものを目の前に提示されるのは、なによりもつらい。
すずかの視線を避けるように、再びフェイトは視線を落とす。
「私に……家族や、友達なんて、不相応だったんだよ……結局……」
「そんな」
なおも声をかけようとするすずかに首を振り、頭を抱える。
何も言わないで。何も、聞きたくない。
「……資格とか、そんなの関係ないと思うよ」
だが、彼女達のそのやりとりの惨状を見かねたのか。
それまでずっと静観していた美由希が、はじめて口を開く。
「え……?」
「……リンディさんも、クロノ君も、フェイトちゃんの生い立ちを話す時ね、すごく辛そうな顔してたんだよ」
「美由希さん……?」
「それってフェイトちゃんの思う資格とかそういうのに関係なく、二人にはフェイトちゃんが大切な家族だからじゃないかな」
美由希は壁から離れると、ベッドの上、フェイトのすぐ横へと腰を下ろす。
「フェイトちゃんが責任を感じてるのも、なのはやクロノ君達のことが大切だからからでしょ?だったら、根っこは同じ」
「それは」
「私も、そうだったから」
「?」
苦笑を浮かべ、美由希はなんでもないことのように言葉を繋ぐ。
「私ね。本当は、恭ちゃんともなのはとも、血は繋がってないんだよ?」
「「え?」」
───なんだって?
すずかとフェイトは同時に驚きの声をあげていた。
あんなに仲のいい姉妹、兄妹なのに?
美由希と恭也、なのはが本当の兄妹ではない?
あまりにもイメージとかけ離れすぎていて、彼女のたった一言で信じられるわけがなかった。
「うそ……」
「本当だよ。このこと人に言うの、すごく久しぶりだけど……私は、とーさんとかーさんの娘じゃない」
美由希の本当の母は、現在の父・士郎の妹で、今はわけあって香港にいる。
父親の顔は覚えていない。どんな人かもよく知らない。
幼い頃引き取られて、恭也やなのはと共に兄妹、姉妹として育てられた。
「しばらくは、私も普通に恭ちゃん達と兄妹として生活してた。けど……丁度その頃だったかな」
士郎が当時の仕事中の事故で、大怪我を負ったのは。
しばらくは入院したまま動けず、開店間もない翠屋の経営はたちどころに苦しくなった。
幼いなのはを一人残して、家族はそれぞれ必死に働いた。
桃子一人ではとても、やっていけなかった。
「そのとき私、思ったんだ。こんな風になったのは私のせいかもしれない、って」
本来なら高町家は四人家族。自分という余計な存在がいるせいで、ただでさえ苦しい家計を余計に圧迫してるのではないか。
恭也や桃子に大変な思いをさせ、なのはをひとりぼっちにしているのは自分のせいではないか、と。
更には士郎の入院の原因となった怪我も、自分を養うために必要以上に危険な仕事を引き受けなければならなかったからではないか。
そのように考えるようになっていた。
「今考えると、飛躍しすぎなんだけどね。当時はほんと、罪悪感でいっぱいだった」
「そんな」
「……それで、どうしたんですか……?」
「しばらく悩んで……かーさんに聞いてみたんだ。私なんかいないほうがいいんじゃないかって」
「……!!」
なつかしむように、美由希は笑い。
髪をかきあげる。
「おもいっきり叩かれて、怒られた。馬鹿なことを言うな、って。泣きながらだったけど、あれほど怒ってるかーさんは見たことない」
「……」
「責任を感じて背負い込んじゃうし、それが許せなくて悲しくなる。お互いのことが大切だから。フェイトちゃんも、きっとそうでしょ?」
「それ、は」
「辛い思いをさせたくないのはお互い様ってこと。リンディさんがフェイトちゃんの過去を話したのも、きっとあなたに言わせたくないから」
言えばきっと、フェイトが辛い思いをするから。
ならば、自分がそれを引き受ければいい。リンディはそう思ったのだろう。
「……」
「要は気持ちの問題。だから、ね?互いを思いやることができるって時点で、フェイトちゃんとリンディさん、クロノ君は立派に家族だよ」
「気持ちの……問題……」
「そう。リンディさん達はフェイトちゃんを家族と思ってる。あとはフェイトちゃん次第。血の繋がりも、資格も関係ない」
資格よりも、気持ち。美由希の言うとおりなら、自分は。
再びクロノを、リンディを。家族と呼んでもいいのだろうか。
不安げに見上げたフェイトの頭を、美由希の柔らかな手がやさしく撫でた。