ぎゃあああああ

 
過去作品をおさめてるフォルダと日記とを見返していってたら、重大なことが発覚。
 
the day、第七話すっとばして収録してましたorz
 
ほんとごめんなさいorz
ということで慌てて第八話の日の記事を修正、そして第七話今更ですが投下します。
後日話数一話ずつずらしてきちんと順になるよう直しますので。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
 
「嘘!!そんなの、嘘よ!!」
 
アリサが、叫んだ。
涙を撒き散らして首を振りたくり、白い両手をきつく握りしめて。
 
──言葉を発したのは、彼女だけだった。
  
他は、皆。
 
はやても。
シャマルも。
すずかも。
シグナムも。
ヴィータさえもが、口を噤み。
ベッド横の椅子に座り俯くリンディと、身を起こして首を振るフェイトの告白を、信じられぬという眼差しで見つめながら聞いていた。
 
「本当、だよ。全部。なにもかも全て、事実なんだ」
 
何を、考えているのか。
細めた目で己の、こころなしか水気が少し失われたように思える右掌を見下ろし、フェイトは軽く笑みさえも浮かべる。
 
「私がいなくなる前に、知っておいてほしかったんだ。隠したままには、したくなかった」
 
故に、リンディも語ったのだ。彼女の意志を尊重したからこそ。
また、だからこそ語るのを渋ったのだ。知ったところで、どうにもなるものではないからこそ。
シャマルはそのことに思い至り、目尻に滲む涙をつぶすようにきつく両目を閉じて、顔を背ける。
 
「私は、誰の身体から生まれたわけでもない。アリシアテスタロッサの不完全なクローン……それが、私だってことを」
 
彼女の顔には満ち足りた笑顔、ただそれだけがあった。
見ている者たちにとってそれは、何故だか寒々しいものに見えてしょうがなかった。
 
 
魔法少女リリカルなのはA’s −the day−
 
第七話 光に、ついて
 
 
「高町小隊長ですか?少々お待ち下さい」
 
ほぼ、同時刻のこと。
ユーノは拾った一枚の書類を届けるために、武装隊のオフィスが連なる区画を訪れていた。
なのはの預かる小隊のそれは、その一番隅に配置されている。
 
「申し訳ありません。本日は既に退勤されてしまっているようです」
「そうですか」
 
一口に武装隊といっても、ただ戦闘や鎮圧に出撃するだけではない。
部隊編成や、勤務シフトの作成。報告書から、補充申請など。
デスクワークの量だってもちろんそれなりに多い。なのはのように隊長クラスともなれば、なおさら。
 
だから小隊長たるなのはのデスクをはじめとし多くの隊員たちが平時に利用するここは、他の戦闘とは無関係な部署と、一見見ただけでは殆ど変わりはない。
 
雑然と書類が積み上げられた机が並び、棚には分厚い本やファイルが並ぶ。
 
……よくよく見れば壁に緊急用の転送装置や高出力の通信機が並んでいたり、出撃時の混乱が少ないようにと他の部署に比べ通路が広めにとられている点など、細かい違いもあるのだが。
 
書類を届けるついでに会えるかとも思っていたが、生憎と彼女は既に帰宅したあとだった。
また、彼女が落としていったと思しき書類は隊長クラスでなければ扱ってはならないものらしく、受け取れない隊員は、すまなそうに頭を下げる。
 
「明日、また来ます」
「お手数をおかけして、申し訳ありません。そうしていただけますか」
 
応対に出た隊員とは、初対面だった。というよりも彼女の部下を殆ど、ユーノは知らない。
思えば、ユーノはここに数えるほどしか来たことがなかった。
 
忙しかったというのもあるけれど、自分が赴いて、なのはとの間に変な噂が立って
迷惑をかけてはいけないと思っていたからだ。
無限書庫の司書と、武装隊隊長。局員たちの噂の火種となるには、十分であろう。
また、基本的にはなのはのほうから無限書庫に訪ねてくることのほうが多かった。
 
「じゃあ、明日の昼にまた来ます」
「はい。……明日でしたら、まだいらっしゃいますので」
「まだ?」
 
───『まだ』?妙にひっかかる隊員の言い方に疑問を覚えた彼は、眉を顰めた。
異動するという話は、本人からも聞いてはいないが。なにかあったのだろうか。
 
「ああ、いえ。明後日から一週間、有休をとられるとお聞きしていますので」
「有休?なの……高町隊長がですか?」
「ええ、隊の者にいない間の引継ぎのことで話しておられましたから」
「はあ」
 
それも、初耳だ。
確かに、最近の彼女はフェイトのことを忘れようとするあまり、働きすぎていた。
だがだからといって、それで体力に限界がきたとしてあのなのはが、休もうとするだろうか。
 
(……いや、ないな)
 
まずあり得ない。なのはなら限界であったとしても、無視する。
無視して、倒れて。きっと無理を承知で働き、戦い続ける。
なによりもそれを本人が、望んでいたのだから。
 
そうでもしないかぎり、眠れないと。
言っていたのは本人ではないか。
 
友が苦しんでいる中、ゆっくり休んでいられるような性格ではない。
 
「わかりました。ありがとうございます、それじゃ」
「またお待ちしています」
 
局の上下関係がある以上やむを得ないとはいえ、遥かに年下の自分へと丁寧に接してくれた
隊員に別れを告げ、ユーノは踵を返す。
 
(……なのは、一体何を考えてるんだ……?)
 
やはりアレは、なのはで間違いなかったのだと思う。
だが、確かにやってきていたはずなのに、顔すらあわせず。
歩きながらユーノは首を捻る。
姿すら見せずに去っていった彼女のことが、隊員から聞いた話への違和感と重なって、どうにも頭から離れなかった。
 
 ****
 
右手にすっぽりとおさまるくらいのグラスの中で、氷がからんと音を立てた。
 
「……エイミィ、か」
 
気付かぬうちに眠っていたらしい。
氷が溶けた音と彼女が入ってくる気配とで、目覚めたようだ。
 
「ダメだよ、クロノくん。未成年でしょ?」
「……知るか。いいだろ、ミッドでは酒は18歳からOKのはずだが」
「家は海鳴なんだから、日本の法律にあわせなきゃだめでしょ」
 
それは、屁理屈だろう。
彼女の物言いが癇に障った。
 
エイミィの背後で自動ドアが閉まると、机の上の小さな明かりしか点いていない艦長室は、殆ど真っ暗となる。
歩み寄ってくる彼女に目もくれずに、デスク上のグラスへとクロノは手を伸ばす。
 
まだ半分近く、中身は残っていた。
 
「ダメだってば」
「うるさいな、僕の勝手だろう」
「……もう」
 
呷ったグラスをデスク上に戻すと、今度はそれをエイミィが取り上げた。
小言でも言われるのかとぼんやりと見上げたクロノに対し、彼女は無言でそれを口につけ、一気に残りを飲み干す。
 
「あ、おい」
「こほっ」
 
結構強い酒だ。一気飲みするようなものではない。
顔からグラスを離したエイミィは、眉を寄せて咳き込んだ。
 
「……これで、もう飲めないよね」
「無茶をするやつだな、キミは……」
 
ボトルも、没収。
ずしりと重い瓶を片手に、机に体重を任せ寄りかかる。
ちょうどクロノの斜め前で、壁を向いている形になり、ほんのりアルコールで赤く染まったその顔は見えなくなる。
 
「フェイトちゃんに、怒られちゃうよ。お酒に逃げるなんてお兄ちゃんらしくないよ、って」
「……」
 
互いに、恋人がどんな表情をしているのかはわからなかった。
淡いライトの光を見つめ、クロノがぽつりとつぶやく。
 
「らしくなくたって……飲まなきゃ、やってられないんだ」
「……」
「彼女に……あの子に、執務官になる道を提示してなかったらと思うと」
「クロノくん」
「普通の……女の子として。ただの、うちの妹として生きる道を選ぶよう勧めていたら」
 
このようなことにはならなかったのではないか。
彼女がリンカーコアに負担をかけ続けることもなかった。
 
「……いや。せめて。せめて、もっと楽な仕事をさせてやっていたら……!!」
「やめて」
 
自責が、声を荒げさせる。
もっと、できることが。すべきことがあったはずだという悔恨の念が、そうさせる。
次第に大きくなっていく彼の声量を遮るように、エイミィは短く言った。
 
「……やめようよ。クロノくんが自分を責めても、なんにもならないよ」
「エイミィ……だが、僕は」
「頼まれたの。『お兄ちゃんのこと、お願い』って。フェイト、ちゃん、笑って……くれてたんだよ?」
「エイミィ」
 
エイミィは泣いているのだろう。声が揺れている。
気付いてもクロノはただ、俯くしかできない。彼女が鼻をすする音を聞きながら。
 
「だから……ね?そんなに、責めないで。責めちゃだめ、だよ」
「……」
「ねえ、クロノくん……」
「……ああ」
「ほんとうにもう、どうしようもないのかなぁ……?」
 
暗い室内でも、肩を彼女が震わせているのがわかる。
唇を噛み、やはりクロノは自分を責めずにはおれない。
自分がもっとしっかりした兄で、上司であったなら。
彼女の涙も、妹を待つ終焉も、迎えることはなかったのではないか、と。
かえって、自責が増幅される。
 
「……あ」
「っ」
 
二人の時間を裂くように、机上の通信機が電子音を立てる。
ごしごしと制服の袖で顔を拭うエイミィに申し訳なく思いつつも、渋々クロノは通話機を手に取った。
 
「私だ」
 
同時に展開された映像ウインドウに眼鏡の少年が現れるまで、そう時間はかからなかった。
 
(つづく)