九話補完話の。

 
明日にでもまとめのエントリーつくっておきます。
 
でわWeb拍手レスから。
 
>シグナム、ストッパーになれてねぇっ!過去と変わってないのがまた(ノД`) 
個人的にシグナムは振り回されて苦労するタイプの人だと思うのですよ。
いいくるめられやすいタイプ。
 
>ユーノ×フェイトがユーノ×なのはよりも好きなワタシ。nocturneアフターはめっさ好みです。
基本的にどっちも好きです。ただ結ばれるならやっぱなのはとかなー、と思うのですよ。
 
>nocturneアフターの回想でフェイトとなのはがすでに執務官と教導官になっているようですが、9年前ならまだなっていないのでは?
ギャース!!指摘ありがとうございます、差し替えましたー。
 
>ぐっじょーぶ。酒宴の風景がよかったです
本来ならシグナムを下戸にしたかったんですけどね。A'sのSS03で飲んでたので弱いってことに。
 
>noctorn after第三話読みました〜。「買い物に〜」の頃からこのシグナム姐さんのシーンは大好きでしたが、9年経ってもこの巻き込まれ体質(というか“押し”への弱さ?)は変わっていなかったようで。…こういうところが可愛いなぁチクショウ!(爆笑) そしてしんみりしてたはずの飲み会は何やらカオスな雰囲気に…これからどうなるッ!?(爆笑)
うん、シグナム姐さんは実はすっごくかわいい人だと思うんだ。

 
 
さて九話補完、今回は第三話。本編次第では全く別物に加筆する必要性がでてきそうなとこですが。
でわ、どぞー。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
最初に見えたのは、白い光で。
それが光なのか、自分がどこを見てそれを光だと認識しているのかもよくわからなくて。
次第に見えてきた家族の顔も、友達の顔も誰が誰だかよく見えなくて、うすぼんやりとしていて。
 
よく見えるように目を擦りたくても、首を動かして辺りを見回したくても、何故だかまったく動いてくれなかった。
 
「……ぉ、かー、さん……?おと、……さん……?」
 
さしたる確証もないまま、わたしは呼んだ。
父と、母を。
なんとなく、覗き込む顔たちの中に二人がいるような気がしたから。
自分は真っ先に、二人に謝らなくてはならないことがあるように思えたから。
 
結論から言えば、それは正解だった。
もっと言うなら、そこには家族が全員──兄と姉も、揃っていた。
そんなこと、そのときのわたしに気付けるはずもないのだけれど、次元を隔てた管理局にいるはずのない家族四人が、そこにいたのだ。
 
聞こえてきた二つの安堵した色の声と、喉に詰まった二人分の涙声。
どちらも私には、現実感のない、ひどく遠くのものに感じられて。
 
一方で、まったく感じられないものもあった。
 
動かなかった、身体のこと。
まるで首から下が、どこかにいってしまったかのようで。
微かに右腕に、掛け布団の糊が効いた真っ白なシーツが当たっているのがわかるくらいだった。
 
わたし、どうしたんだっけ。
 
そのとき、わたしが目覚めていられたのはほんの数分くらいのことだった。
答えを聞く間もなく──いや、尋ねたことには尋ねたのかもしれない。少なくとも問いの答えをわたしの脳は、記憶していない。
尋ねたかどうかさえもあやふやなのだから。
緩やかなカーブを描き、わたしの思考は夢うつつの中へと舞い戻っていく。
 
きっとわたしは眠りに落ちながら、考えていた。
肉体の思考がそのことを覚えていなくとも、自分に起こった出来事、事件を記憶する、無意識が。
 
一緒だった二人は、無事なのかな。
 
レイジングハートは。ヴィータちゃんは。二人をわたしは、守ることができたのかな?
 
また一緒に……飛べるのかなぁ、──って。
 
 
魔法少女リリカルなのはStrikers another9th −羽根の光−
 
第三話 その日起こったこと
 
 
がたん、と乱暴な音が、皆の集まる部屋に響いた。
そこは、なのはの容態を案じ集まった皆のために、シャマルが用意してくれた待合室のようなもの。
 
顔をあげても一瞬、その音がなんなのか理解できなかった。
 
私はそのとき、エイミィとシグナムに左右から支えられるようにして、広いベンチで泣いているしかできなかったから。
 
「ゆー、の……?」
 
必死に求めているわけでもない解答、音の正体。それは、彼だった。
 
はやてに縋って泣きじゃくっていたヴィータを、壁に押しやって彼は俯き。
低い声で、静かに彼女へと問いかける。
 
「……教えて、ヴィータ。なのはに何があったんだ」
「よせ、ユーノ」
 
彼に普段の落ち着きはなく、制止しようとクロノが肩に置いた手は即座に振り払われる。
わずか、二秒、三秒。
鼻を啜りしゃくりあげるヴィータが、すぐに彼の問いへと言葉を返せるわけもなく。
そのごく短い時間すらも待てなかった彼は更に赤毛の少女へと声を一層に荒げ、詰め寄っていく。
 
ヴィータ!!頼む!!なのはは……なのははっ!?」
「ユーノくん、やめて!!ヴィータかて今はまだ……」
 
クロノに続き、はやてが止めに入る。
しかしユーノは聞こうとしない。
彼はこれまで見たことがないほどに、冷静さを失っていた。
 
「あ……う、なのは、は……」
ヴィータ!!」
 
ユーノの剣幕に、ヴィータはおろおろと首を振るばかりだった。
言葉を詰まらせ、未だ涸れぬ涙を頬に零しながら、震えている。
 
「どうして、なのはが!!なのはだけが大怪我を……」
「!!」
「ユーノ!!君は……っ!!」
 
彼となのはの絆の深さは、この場にいる誰よりもずっと濃密なものだ。
それは皆が知っている。知っているから、彼が取り乱すのも理解できる。
 
けれど、いくら荒れているとはいえこの物言いではまるで──……。
 
「フェイトちゃん?」
 
自然に、私は立ち上がっていた。
ヴィータともみ合うユーノと、思わず彼の胸倉を掴んだ兄とが争うのはほんの数歩先。
 
迷うことなく、私は右腕を彼の頬へと振り切った。
 
「フェイ、ト……?」
 
面食らった兄の声が、聞こえた。
ユーノが打たれた頬を押さえているのもわかった。
 
声を発するのが、このときほど大変だったことはない。
涙は次から次へと溢れてきて、とても落ち着いた呼吸なんてできるわけもなく。
ちょっとでも口を開けば、また声を上げて泣き叫んでしまいそうで。
 
床を見つめたまま、発声をしかけては口をつぐみ、口をつぐんでは嗚咽を堪えて。
私がそうしている間部屋の中で耳に入ってくるのは、ヴィータのすすり泣く音だけだった。
 
「……だめ、だよ……ゆー、の……」
 
精一杯の力が、言葉を紡ぐには必要だった。
それでもたったそれだけの語を放つだけで限界。
息ができない。苦しい。周りのことなんて、俯いていようがいまいが涙でぼやけて見えやしない。
 
言うだけ言い切ったら、あとは崩れ落ちるだけだった。
そこまでのことしか、私にはできなかった。
 
「だめ……なのはは、きっと、それ、……だめ……だ、か、らぁ……っ」
 
床に突っ伏した私の背中をさすってくれたのは、多分クロノだ。
ユーノはきっと、項垂れていた。
私の、きちんと意味を成していたかどうかも怪しい切れ切れの言葉に、俯いていたのだ。
 
*   *   *
 
−機動六課職員寮前・正面玄関−
 
「これでとりあえずは一安心、かな?」
 
ティアナが泣き止むまでには、幾許かの時間を必要とした。
 
年齢が最年長ということもありフォワードメンバーたちのリーダーへと自然に納まった彼女である。
張り詰めていたもの、溜め込んでいたものもおそらくは、少なくはなかったはずだ。
 
なのはの腕の中で、彼女はそれら全てを洗いざらい、発散してしまうかのように声をあげて泣いていた。
恥も、外聞もなく。
彼女がそうしている限り、なのははただ一回り小柄な部下の身体をそっと抱きしめてやっていた。
 
「わたしもまだまだだね、レイジングハート
『You are doing one's share enough,master』
 
背後の草むらの影から、スバルたちがこちらを覗いていることには気付いていた。
涙を拭い大丈夫ですと腰を上げたティアナに寄り添い、微笑ましい盗み見の犯人たち一同に声をかけ。
皆足並みそろえて、隊舎の寮へと戻ってきた。
 
明日の訓練について簡単に伝達事項を伝え、解散。
それぞれに部屋へと戻っていく教え子達を見送って、何の気なしになのはは来た道をほんの少し、宿舎の玄関口まで引き返したのだった。
 
「ずっと戦闘技術ばっかりを教えてきたからかな。やっぱりもうちょっと気を配らないといけないね」
 
なのは自身、これほど長期に渡ってひとところに留まって同じ教え子に指導を与え続けるのは戦技教導隊配属以来、初めてのことだった。
おまけにそれが直属の部下ともなれば、自分のように出向などといった特別なケースを除けば、教導隊全体を見回してもそうあるものではない。
 
ただ、正確な技術を教え導くだけでは足りない。
隊長兼、教官の難しさといったところか。
 
「……でも、あの子は大丈夫」
 
でもティアナはもう、大丈夫。あの子は、きっと。
この躓きもきっと、財産に代えて再び前に進んでいける。
 
「まさか、こんな形でみんなに知られるとは思ってなかったけどね」
『I think so』
 
自分にできること、自分がやることはそれを支えて、導いていくこと。
 
かつての自分のような思いを、彼女たちにさせないために。
彼女たち四人が一人前になるまでは、自分が護っていく。
いや。自分だけじゃない。ヴィータも、フェイトも。
新人達に普段あまり深く関わらないようにしているシグナムだって、その思いは同じであるはず。
 
「頑張ろうね、レイジングハート
『yes,my master』
 
空は澄んでいて、星がよく見えていた。
彼女たちが自分であの星々のように輝けるよう手助けしていくのが、自分の役目。
  
心も、身体も。どこまでだって強く、光を放てるように。
 
「みんなが、立派にひとりでやっていけるように」
 
──そう。
 
あんな思いをするのは、自分ひとりでいい。
させるのも、自分だけでいい。
 
*  *  *
 
現れたのは、詳細不明。目的も不明。なにもかもが未確認の自律行動型の機械兵器だった。
 
自分たちは襲撃を受けた近隣の部隊からの、救援要請を受けて。
帰投中だったその進路を、大きく変更させた。
無論それは現場の指揮を執っていたなのはの判断だった。
空のエースたる指揮官の決定に疑問を挟む者はヴィータを含め、誰ひとりとしていなかった。
 
「あたしが……気付けばよかったんだ」
 
空を飛ぶことが好きな彼女が。率先して先頭に立ち、皆を引っ張っていくエースが。
その日ばかりは何故か飛行隊列の最後尾で皆を見守るように飛んでいたことに。
 
彼女に寄り添い飛行を続けていながら、自分はその違和感に気付くことができなかった。
 
「呑気に、あたしが……っ」
 
ユーノが、項垂れていた。
はやての身体が、震えていた。
 
フェイトが──床に崩折れていた。
 
ヴィータは、それら全てが別の世界のものであるかのように見えていた。
 
ヴィータ、ええから。ユーノくんかてそんなつもりで言ったんと違うから」
 
相手の能力からいって、なのはが苦戦するような敵とも思えなかった。
ただし、一般的な能力の武装隊員には荷が重い。
故に自分となのはのツートップ。
 
奴らには、通常の魔力弾が通用しなかった。
今で言うところの、AMF。そして奴らは機動性だけは一人前に、高かった。
 
それでも、大した相手じゃない。
二人で順調に、数を減らしていって。
若干なのはの被弾が多かったのが気になってはいたけれど──それでも防御を抜かれたのは一撃もなかった。
 
「ラストだなんて、油断してたから……っ」
 
後退する最後の一機をラケーテンハンマーで破壊した瞬間、異変は起こった。
 
一人、破壊した敵機の残骸を確認しようとしていたなのはの周囲四方に巨大な転送魔法陣が開き、
先ほどまで戦っていた相手とは違う、別の機動兵器が姿を見せたのだ。
 
完全に、不意を衝かれた形。
それでもなのはは、応戦の態勢をとった。
 
エクセリオンモード、と彼女が愛機に命じた声を、ヴィータは離れていてもはっきりと聞き取ることができた。
そしてそのフルドライブモードが作動しなかったのを、はっきりと瞳の中に捉えた。
 
出撃に肩を並べる際、殆ど毎回のように目にしていた黄金の長槍が現れることは、なかったのだ。
直後、なのはの身体が一瞬、ぐらりとよろめいて。
態勢を崩しながらも彼女は、四機の新たな敵へとそれぞれにアクセルシューターを叩き込んでいた。
四発の多重弾核魔力弾は向かった敵を見事に貫通する。
 
しかし、それだけで敵は止まらない。いや、敵には動く必要すらなかった。
 
揺らいだエースに生じた、ほんの毛先ほどの隙。
絶対のそのタイミングで、幾筋ものケーブルが大地から飛来し彼女を捕獲する。
撃破したはずの機動兵器の残骸から、それらは伸びていた。
 
撃ち抜かれた四機の内部から、急激に増大していくエネルギー。
自爆する気だ、というのが一目でわかる動きだった。
 
切断は容易。アクセルシューターが易々と、ケーブルの束をすれ違うのみで切り裂いていく。
だがそれらの拘束から逃れたところで、時は脱出に十分なほど残されてはいなかった。
 
「のろまで……間抜けなあたしが……あいつを……っ!!」
 
手を伸ばした先を、桜色の壁が覆っていた。
それはなのは自身が生み出した、四機分の爆発のエネルギーを押さえ込むための半球状の障壁。
 
なのはは残された僅かな時間を不可能な脱出に費やすよりも、仲間たちを護るために使うことを選んだ。
自分の、ありったけの魔力を使って。
 
半透明の桜色が一際強く輝いた直後、風が吹き抜けた。
舞い散る雪が煽られて、あちらこちらへと不規則に流れた。
 
ヴィータの帽子も、飛ばされていった。
 
ふわりと風に舞い上がった帽子と、「それ」と。一体どちらが地面に落着するのが早かったのだろうか。
 
何かの、見間違いだと思った。
きっと彼女はあの爆発の中にあっても平然としていて、ちょっとびっくりしたような表情で爆煙から姿を見せるに決まっているのだから。
 
桜色の障壁が、シャボン玉が割れるようにして消滅した。
煙の立ちこめる中、いつ落ちたのか「それ」は転がっていた。
 
白い、半ば溶けかかった雪の上に。
突っ伏した人間の姿にも似た「それ」は、本来白いはずの衣を赤に染めていた。
「それ」こそが、「高町なのは」と呼ばれる少女だった。
 
ヴィータが期待したあどけない少女の顔は、どこにもなかった。
 
なかったのだ。
 
(つづく)
 
 
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