そろそろ

 
伏線が出揃う頃です。
まずはWeb拍手レスから。
 
>ユーノ錯乱&なのはの負傷。9話補完話としては、これこそが本当のスタートですね。ここからユーノはなのはの怪我の原因を知って思い悩み、なのはは辛いリハビリの日々。でも、その先には必ず光明が見えるから。だから二人とも、がんばれ。支えてくれる、皆と一緒に!
ほんと、ようやく本題に入れるかなってとこです。
この話といい喪失辞書といいnocturneアフターと拍手以外しばらくうちは鬱話が続きます。
 
>You are doing one's share→You are doing your share
がー!!やらかしてしまったー!!明日にでも修正しときます。
 
>ちょっとー!最後らへんのシーン。「それ」って……Σ (゚Д゚;)ウワアァァナノハサンー
大丈夫です、生きてますから。王大人生存確認!!(ぉ
 
>羽根の光、最新話拝読しました!このエピソードは是非補完して頂きたいと思っていたもので…次も楽しみに待たせて頂きます!
さあ、ここからが気合はいると同時に大変な部分ですたい。
 
>十歳のパパとママ面白いです。続きを楽しみにしています。ありがとう
こちらこそ読んでいただき、ありがとうございますー。
 
>あまりStSのSSを書いている方がいらっしゃらないのでこのサイトでその分を補給させていただいています
個人的にstrikersもけっしてつまらない部類には入らないと思うんですけどね。
三期すべて基本的に楽しめてる自分は異端なのか・・・?
 
 
んでもって、喪失辞書十五話です。
これといい羽根の光といい、しばらくうちのなのはさんは災難が続きます。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
 
開け放たれたファスナーは、まるで大きな口のよう。
 
……なんて思いながら、スポーツバッグへと洗濯から返ってきたばかりの着替えを詰めていく。けっして長期間の入院というわけでもなかったが、それでも下着類だけでも結構な量になる。
ジッパーを閉める頃には、青と白のスポーツバッグはそれなりに膨れ上がっていた。
 
「……よしっ」
 
もう一度、鏡を見て黒い制服の皺を伸ばし。
フェイトはバッグの肩紐を肩にかけた。
 
「っと、これも忘れないようにしなきゃ」
 
そして、書類を収めた椅子の上のブリーフケースを手にする。
入院中、微力ながら集めてきた捜査情報が、その中には詰まっている。
置いていってしまってはまずい。
 
──主治医のシャマルにも何も言わぬまま、フェイトは勝手に退院を決めていた。
 
病室を抜け出し、なのはとヴィータを助け出してそのまま連れ戻されるようにベッドの上に戻ってきたのが数時間前。
見舞いに来たクロノとヴェロッサが帰ってすぐ、荷造りをはじめて。
 
なのはとヴィータも戦線から離脱し、シグナムの傷も未だ癒えぬ現状では、じっとしているわけにはいかなかった。
おそらくこれ以上の人員増強はクロノたちの権限でも認められないだろう。
まだ無理の利く状態ではないが、動ける自分が復帰するよりない。
 
海鳴のアルフにも、こちらに向かうよう連絡しておいた。
退院したからといって向かうべきところは自宅ではない。
兄や友のいる、アースラへ行く。捜査においても、執務官がいるといないでは大きく違ってくるはず。
 
「……うん、誰もいない」
 
とは、決めたものの。廊下に出て、左右確認。
 
言ってみれば軽い脱走のようなものである。
シャマルに見つかれば、散々説教されて連れ戻されるに決まっている。
医師や看護婦の姿が見えないことに、小心者のフェイトはほっと安堵していた。
 
(……なのはのところに行ってからにしようかな)
 
その安堵のおかげか、心にいくぶんのゆとりが出来ていた。
帰還早々ベッドに押し込まれていたせいで、まだ親友の顔を見ていない。
大事無い程度の負傷とは聞いているし、そろそろ目覚めてもいい頃だ。
 
兄から聞いておいたなのはの病室に向け、フェイトは歩き出した。
 
行き交う人々の中に、医療関係者の姿は見えなかった。
 
 
魔法少女リリカルなのは 〜the lost encyclopedia〜
 
第十五話 なくしたもの
 
 
夜天の書が──リインフォースが。
彼女が祝福の風としていられたのは、ほんの僅かなことだった。
 
「時間にしてみれば……本当に。我々の過ごしてきた悠久の時に比べれば、それこそ比較にもならないほどに、な」
 
はやてはきっと、心のどこかで悔やんでいたのだろう。
彼女に何も与えてやることができなかった。与えてやれぬまま、逝かせてしまった、と。
夜天の書が遺していった、剣十字に。
 
「それが……」
「ああ。お前が海鳴で入っている、シュベルトクロイツだ」
 
それだけが、遺された者たちにできることだったから。
彼女が命をかけて護った、夜天に集う者たちが手向けとしてしてやれること。
後継者こそが、祝福の風の最期の願いであったから。
 
夜天は蒼天を望み、主は祝福の風の再来を願った。
 
「だから、お前が生まれた」
 
皆の、祝福を受けて。
リインフォースは、新たな風としてこの世界に舞い降りた。
 
「……」
「だが、どうした?急にこんなことを聞いて」
 
しょうのない子だ、とシグナムは軽く笑った。
ほんの数十分ほどであるが、憶えているかぎりのことを伝えたつもりだった。
夜天の書のことを聞きたいという彼女の要望に応えられたかは、わからないが。
 
「先日の件を気にしているならよせ。あの状況なら、お前や主はやてが気付けなければ誰も気付けなかっただろう」
「でも」
「……自身の無力を恥じるべきは、むしろ私のほうだ」
 
軽い微笑みは、自嘲の色をいつしか含んでいた。
 
現れた相手が、いかなる敵であろうとも。
自分は騎士にして将。主を、仲間たちを全身全霊をかけて護らねばならなかったのだ。
 
だが、現実にはどうだ。
 
敵の姿形に心迷い、動揺し。
打ち破られ、二次被害を広げて。
 
それでいてなお未だ、打ち破るという明確な意思を持てずにいる。
なんと、情けないことか。
 
「お前が悔やむ必要はない」
「でも……シグナムだって」
 
リインの慰めを、シグナムは黙って首を振り、聞き流した。
 
「……っ」
シャマル
 
直後、家族のいる病室の扉が内側から開かれる。
 
白衣を羽織ったシャマルは、慌てていた。
二人がベンチに座っているのを見つけ、ぎこちなく笑う。
 
「どうした?」
「いえ、あの……なのはちゃんが」
「目覚めたですか?……って、そんな感じじゃなさそうですね」
 
彼女の怪我が命に関わるような重篤なものだとは聞いていない。
だがしかし、シャマルのその様相は、彼女に良い変化が現れただとか、そういうものには到底見えなかった。
 
むしろ、想定外のなにかが起こり焦っている。そのように見て取れる。
 
「まさか、なのはさんの身になにか……」
「ううん。さっき目覚めたそうよ。手当ての済んでいる怪我以外、肉体的にどこも異常はなし」
「?……じゃあ、どうしたというんだ?問題はないのだろう?」
 
予想に反する、シャマルの言葉。それが一層二人を困惑させる。
 
「……肉体的にはね」
 
たった一言、そう言い置いて、シャマルは二人の前から遠ざかっていった。
 
*   *   *
 
「……それではやはり、これ以上の人員増強は望めないと?」
 
同時刻、アースラ艦長室。
クロノとヴェロッサが、開かれた空間モニターに向かっていた。
 
『申し訳ありません、残念ながら』
「一応、理由をお聞かせ願えますか。オーリス次官」
 
形式だけの謝罪など、いらない。
画面の中にいる眼鏡の女性もまた、その辺りは理解しているのだろう。一瞬目を伏せて、言葉を再開する。
 
『──ひとつには、戦力の集中による問題。レティ・ロウラン提督からも要請はまわってきましたが……現在投入された戦力を見たかぎりでは増援の必要性は認められません』
 
シグナムとフェイトの復帰が遅れ、なのはとヴィータまでもが負傷した今、事件に立ち向かう戦力としてアースラに残された人員には、大いに不安が残った。
敵のターゲットであるはやてに、リインフォース
ザフィーラはいいにしても、後方支援を本来の役目とするシャマルを頭数に入れねばならないのは苦しいことこの上ない。
 
故に、はやての本来の所属である陸上部隊へと支援と戦力の派遣を要請したものの。
返ってきたのは責任者からでもない、副官からのつっぱねる返事。
 
『高ランク魔導師がこれだけ揃っている部隊に、これ以上の人材を割くわけにはいかないとの少将よりの判断です』
「……第二には?」
 
持ち出された理由の一つ目は、それなりに筋の通ったものだった。
 
無能な指揮官と笑いたければ笑うがいい。
確かに自分たちはこれだけの戦力を抱えていながら、この事件に対し有効な手立てを打てていない。
 
二つ目を問うたところで、通信の相手は口ごもった。
言うべきか言わざるべきか、逡巡しているのが明らかにわかる。
彼女の代わりに応えたのは、クロノの隣にいるヴェロッサだった。
 
「……狙われているのが、はやてだから。違いますか?」
『……』
 
無言。それは即ち図星にして、肯定。
クロノもそれは、ある程度予想していたが。
やはり、という思いで陸上部隊の次の返事を待つ。
 
「オーリス次官、きみが気兼ねする必要はない。ゲイズ少将の言葉をそのまま伝えてくれ」
『……よろしいので?』
「かまわない。どの道彼が僕ら──海の人間を嫌っているのは知っているしね」
 
もっといえば、順調にキャリアを重ねる、はやてたちのことを嫌っているということも。
 
『……“犯罪者の身を守る必要などない。戦力を貸すなど、以ての外だ”と』
「そうか」
 
案の定、である。別に驚きもしない。
 
潔癖なのか偏狭なのか、件の少将の犯罪者・元犯罪者に対する嫌悪は、些か強烈すぎるきらいがある。
陸上だけでなく空でも海でも、それは局員たちの間では有名なことだ。
 
『申し訳ありません』
「きみが謝ることではないさ、次官。わかった、手間をかけたな」
『いえ。それでは』
「ああ、陸上部隊も十分に警戒をしてくれ」
 
秘書官のほうは比較的、まともなのだが。あの少将は偏執がすぎる。
そう思ってしまうのは友人を悪く言われて平静であるつもりであっても、心の奥底で実際には腹立たしく思う自分の若さゆえか。
切れた通信に、クロノはそんな思いを抱く。あの秘書官のことだから、気取られていても心配はあるまいが。
 
「さて、どうする?」
「どうするもこうするも、ないだろう。今のメンバーでなんとかするしか」
 
おそらく人員増強が認められなかったのには、被害があくまで通り魔的な魔導師襲撃に限定されている点にもあるはずだ。
被害件数の割りに、被害者の総数で言えば次元犯罪全体に占める割合としてはごくわずかなものだろう。
 
──だが、それだけで済むとも思えない。たとえ目的がはやてだけであっても、あの夜天の書……闇の書と根幹は同じものが稼動しているのだ。
夜天の書がそうであったように、暴走すれば何が起こるとも知れない。
 
「ユーノやマリーたちにもヴィータが支配された際のデータを含めて、色々調べてもらっているしな」
 
戦力が不足していても、ここで引き下がるわけには行かない。
いざとなれば、自分が前線に出向くことになっても。
 
『クロノくん!!』
「わっ」
 
と、せっかく真面目に考えていた表情が、驚きによってあっさりと突き崩される。
思わず椅子から滑り落ちそうになり、心臓が跳ね上がった。
 
そのくらい突然に、碌なコールもなしに直結で通信モニターが開いたのである。
現れたのは妹たちの世話のために本局の病院へ残してきた、エイミィのやたらに慌てた顔。
 
「な、なんだ……エイミィか。驚かすな、コールくらいしてくれ」
『それどころじゃないんだってば!!さっきなのはちゃんが目を覚まして……』
「なのはが?」
 
早かったな。流石は化け物じみた魔力を誇るだけのことはある。
報告に対し、クロノは少々呑気な感想を抱いていた。
 
彼らのやりとりは、違う場所、違う人間が織り成していたものとそっくりだった。
 
エイミィの慌てようは、ほぼ同時刻にシャマルが家族へと見せていたものとほぼ同じ。
そしてクロノとヴェロッサの怪訝な反応も、シグナムたちと瓜二つのものであった。
無論、彼らがそのようなことを知るわけもないのだが。
 
「よかったじゃないか。復帰はどのくらいに……」
『そうじゃないの!!なのはちゃん、目覚めたんだけど!!』
 
あくまでなのはが意識を取り戻したことに喜ぶ、クロノとエイミィは対照的。
そんなところまで八神家の一同のそれと同じ。
 
違うのは、結論を告げずに去るか、告げるためにやっていることかということ。
 
『なのはちゃんの!!なのはちゃんの、魔法関係の記憶が──……!!』
 
*   *   *
 
ようやく、わかった。
 
「だれ、ですか……?」
 
どうしてここまでの道のりで、誰ともすれ違わなかったのか。
その理由が、やっと。
 
「ここ……どこ……?」
 
集まった、医師や看護婦。
彼ら、彼女らの中心にいる友の姿が、フェイトへとその理由を教えていた。
 
毅然とした凛々しい表情でも、あどけない笑顔でもない。
彼女はただ不安げに、語りかける大人たちと周囲と、──そしてフェイトを、落ち着きなく見回していって。
 
「なの……は?」
「!!」
「なのは」
 
医師たちの間を掻き分けて、恐る恐ると近付いて。
荷物なんて、いらない。放り出してしまってかまわない。
それでも、フェイトが差し出した手を────……彼女はとってくれなかった。
 
怯えた声をひとつ、彼女はフェイトの手をとることなく、乱れたベッドの白いシーツの上を後ずさった。
 
「だれ……なんです、か……?」
 
代わりに、彼女は尋ねたのだ。
聞く必要など、ありえないはずの問いを。
いつだって彼女が呼んでくれた、フェイトの名を。
自分を見る友の視線は、親友を見つめるそれでは、けっしてなかった。
 
まるで、出会ったばかりのように。力の差があった、あの頃のように。
積み上げてきた思い出が。過ごしてきた日々が全て、昔に戻ってなくなってしまったかのように。
 
私だよ。フェイトだよ。
 
必死の言葉に対して向けられた目は、不安と怖れに満ちたものだった。
縋りたい己が心の否定は、医師のひとりが呟いた言葉によってあっけなく打ち砕かれる。
 
記憶、喪失。そのたった、四文字に。
 
その四文字が通り抜けざま、内側から頭を殴りつけていったかのように、フェイトは愕然と立ちすくんでいた。
 
彼女に残った思いのその中に、自分はいない。
時間が彼女の中で、巻き戻ってしまった以上。
 
(つづく)
 
 
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