未整理分は
たまってきてますし明日にでも整理します。
とゆーわけで最新話、続きを読むからどうぞ。
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「あの……ピーリス、中尉」
ルイスは、問い尋ねるというその行為に繋がる衝動を、抑え切れなかった。
同じ部隊に配属された、先任者であり上官。それでいて初対面のたった数秒で──まるで、ルイスの心を見透かしたように言葉を吐き出した人物。
今いる部隊は同じでも、それまではまるで異なる所属だった。初見で声を向けられたときは、戸惑いと、否定と。そんな感情が心を埋め尽くした相手。その女性が身体を沈めているはずのアヘッドへと、通信機を操作し声を紡ぐ。
『なにか。もう、作戦開始だが』
「あ、いえ。その──例の。二機の、ガンダムのパイロット、は」
知りたかった。知って、おきたかった。
ガンダム。それはルイスにとって、自分自身と家族との、復讐の対象にほかならなかったから。そのために入ったアロウズ。そのアロウズが、ガンダムを戦線に投入する、その意味を。どんな些細な情報でもいいから、得たかった。
しかし、上官の言葉はにべにもなく。
『知って、どうするの。例によってあの二機はライセンサーだ。私は一小隊を預かる身として、意思確認に赴いただけに過ぎない。出撃前に余計な行動は控えなさい』
「は……はい」
『どのみち、敵もガンダムなのだから。──地上戦ははじめてと聞いた、突出しすぎないよう』
「了解」
作戦開始。その瞬間が問答無用にルイスとピーリスとを隔てる。一足先に、上官である彼女の機体──『スマルトロン』と呼ばれる専用の改造型アヘッドが、カタパルトより出撃していく。
「……っ」
すぐに、自分にもその順番はまわってくる。思いながらルイスはカメラを切り替え、出撃してくるのかしないのかまだ漫然と判明もしない、最後尾に屹立する二機に目を向ける。
「ガン、ダム」
ライセンサー……つまるところ、独立し身勝手に動く、ワンマンアーミー。それが許されている二機であり、パイロット、二人。
『ハレヴィ准尉、出撃されたし』
「……了解」
今は、確認ままならない。それより──目の前に、意識を切り替えなくては。
スロットルレバーを、最大まで押し込む。
同小隊に配属となった、先任のアンドレイ・スミルノフ少尉のジンクスが一足先に、飛び立っていく。そのあとを、追う。
この、戦いで。ガンダムを。
ソレスタルビーイングを、この手で。たとえ、どんな手を使ったとしても。
離艦発進のGに耐えながらいつしかルイスの目線は、コンソールの一部に表示された、自機の役割を示す後腰部の追加コンテナの数値へと、注がれていた。
Strikers −the number of OO−
Act.3 砲火の世界で (下)
出て行こうとしていたのは、自分のはずなのに。
「待って」
なのに、肩のすぐ脇を抜けていこうとする。
他ならぬ、呼び止めた側が。思いとどまるようスバルへと促した、ディエチのほうが、だ。
「どこ、行くの」
「決まってる」
足を止めた義姉は、ちらと視線をこちらに移す。そんな二人のやり取りをノーヴェが向こうから、不安げな面持ちで見つめている。
言ったときには既に、再度ディエチの顔は正面を向いていた。
「ブリッジに。じっとしてるよりは」
「戦争に、手を出すっていうの」
「生き残って。帰るためにするべきことをする。少なくとも、自分のできる範囲でくらいは、やっておきたい」
「けどっ」
「あたしだけで、いい。あたしだけだから──いいんだ。だから、行かせて。行く」
開いた扉から、彼女は一歩を踏み出した。もう、振り向かない。
「父さんに怒られるのは、あたしだけでいい」
そして、閉じる。ディエチの姿が、その向こうに消える。
彼女の、できること。それをすると、ディエチは言った。この、砲火に晒される戦船の、真っ只中において。砲撃を得意とする彼女が。
なんだか、言い置かれた最後のひと言のあとに、まだ続きがあったような気がした。
──『悲しませるのも。また、汚れるのも。あたし一人で、いいから』。きっと、そんな風に言葉は、声にならずとも続いていた。
『Buddy』
「……っ」
気遣うような声音で、マッハキャリバーが胸元に光る。
スバルは相棒を、そっと握り締めた。
姉として出て行ったディエチを、局員として、自分は止められなかった。その苦さに、眉根を寄せて。
「スバル」
ノーヴェのかけた声もまた、耳を打っていた。
聞きながらスバルは、その場に立ち尽くしていた。
やがて──砲火が、交わった。
* * *
──手ごわい、やつ!!
思わずそう、言葉が漏れた。
半ば、意識せず。戦闘に集中しているがゆえそれは無論であり──愛機の手にしたGNソードの銃口を、上空へと向ける。それが、最優先。
命中は、ならず。アヘッドの面影濃い改良型──その機体が通称“サキガケ”、そう呼ばれることなど知る由もない──、接近戦を重視しているであろう新型は突進し、太いビームの刃を振り下ろす。
「トランザムが使えれば……っ!!」
刹那はそれを、シールド先端のブレードで受けた。ないものをねだってもしょうがない。ダブルオーの現性能でできることを、するしかない。
「!!」
あんなところに、武器が。敵機の背負ったブースターに光が宿るのをみとめ、機体を反転させる。狙いを外れたビームの光条は海面を撃ち、金属の大敵たるその飛沫を蒸発させていく。
──しょうがないとも、言ってられないか!!
こいつは、手練だ。温存が許されるような相手じゃあない。リスクがいかに大きくとも、マイナスの可能性をそこに、孕んでいようとも。
切り結ぶ。そのたび、相手の技量を認識する。
それを繰り返すごとに、刹那の意識もまた、禁じられた手段の開放へと傾いていく。
「しつ……こいっ!!」
攻めきれない。押し返される。そのループ。この敵にばかり、構い続けるわけにもいかない。
トランザム……やるしか、ないのか!!
こちらの射撃もまた、水面を蒸気に変えるばかり。次第に募るのは焦りでありまた、解決手段へ転がりゆくその、心の傾斜。
そんなとき、不意が生まれれば当然、平衡というものは崩れる。ごく一瞬であったにしても、隙と呼ばれる瞬間が形成されてしまう。
「……っ!!」
目の端に、弾幕を抜けてゆく一機のジンクスを捉えてしまったから。
たった、一機。敵である、迎え撃つ側の刹那からしても明らかに突出のしすぎ。少しずつ、少しずつプトレマイオスとの距離を強引に、詰めていこうとしている。その後ろ腰に──黒いコンテナが、あって。
オートマトン、そのフレーズが頭をよぎった。まさか、あれは。
トレミーに、あれを──と、言うほどの間もなかった。
相手は、手練。わかっていたはずだった。たとえ毛筋ほどであったとしても、そのような隙を見せてしまえば、どうなるか。
答えは、そう。やられる。
何故だか、剣撃のその動作をする敵機に、かつて戦ったフラッグの記憶に重なった。
振り下ろされるビームの刃が、視界を埋め尽くしていく。そうやってつけ入らせてしまったのは、刹那のミスに他ならない。
時間がゆっくりと流れる。その錯覚が、刹那の感覚を満たしていく。
その、時の流れの中に。刹那の指先はコンソールパネルへと伸びていた。
トランザムの、起動スイッチへと。
* * *
きっと、戦闘がはじまったんだ。青年は先ほどまでとはまた違った振動に揺れ出した足元と、時折響いてくる地鳴りのような炸裂音とに、そう認識をする。
自分の。自分のせいで──この艦が赴いている戦い。自分の行動の結果、傷つき痛みを負ったカタロンの人々を、守るための。
だから。だからこそ……なにか、したかった。しかしその意志は大いに無謀であり、ソレスタルビーイングの面々にとっては不要のものであったのだろう、やんわりと拒絶され。
ゆえに沙慈は、ひとりあてがわれた部屋に膝を抱えている。
無論、不安と。罪悪感とは、消えることなく。今なお、心を焦がしている。
「なにか……なにか」
なにか、できることを。
自分の、せいだから。焦りにも似た意識が、苛立ちを沙慈の中に募らせていく。このままで、いいのか。いや──よくは、ない。
「っ……──戦闘……相手、強いのか……?」
ふと。ひと際大きく傾いだ船体に、顔を上げる。そしてその首から上の動作を追うようにして、立ち上がる。
なにを、すればいい。プロであるはずの刹那たちが、苦戦しているというのなら。自分に一体、なにができる。
「うわ……っ」
至近弾か。また、大きな揺れ。バランスを崩し、壁に手をつき体重を支える。
瞬間、目の前に白金が躍った。
「あ……」
それは、思い出。約束を忘れぬためのもの。
かつて愛した少女に贈った指輪の、その片割れ。
細い鎖に通し肌身離さずペンダントヘッドとしたそれが、傾いだ船の揺れで胸元から、飛び出し眼前に舞った。
ルイスの姿が、重なる。そして──……、
「そう、だ」
そして、同じ声をしていた『あの子』の後ろ姿も、また。
「あの子だって、自分に出来ることを」
蒼い、刹那と話していたあの少女が。負傷者を運んでいたその姿が、沙慈のイメージに去来する。
なにをするか、じゃない。見ず知らずの、同年代のあの子だって。刹那たちのようにではなくとも、自分のやれることをやっていた。
スバル。スバル・ナカジマ。刹那は──そう、ルイスと酷似した声の彼女のことを呼んでいた。
「……!!」
壁にあって、体重を支えていた左手が確固とした力を以って、身体を床と垂直に戻していく。
すぐそこには、スライド式のドアがあった。
自分にできること。それが、すべきこと。
踏みしめた左右の足は躊躇なく、そこから一歩を踏み出していったのだった。
* * *
ガンダム、四機。蒼い機体はミスター・ブシドーとやらの機体が抑え、羽根を持った橙の機体は、ソーマ・ピーリス中尉が押し気味に戦況を進めている。
「ただ、他はこれというほどに攻めきれていない……か」
出撃前、待機所に姿を見せたピーリス中尉の顔立ちを思い起こしながら、起動済みの機体のパネルに映し出される戦域の様子に目を注ぐ。
コンテナを搭載した機体が敵艦に辿り着くまでには、もう少しかかるだろう。さあ──……どうする。
『どうする、姉上』
思ったそのとき、ちょうど同じく待機する機体から、通信が割って入ってくる。音声、画像ともに。モニターにあるのは、スピーカーより聞こえるのは幼い顔立ちと、それに反比例するかのような落ち着き透き通った声。
その間に、ひとつ光点がパネルから消えた。友軍機だ──たとえそれが、実感もない。顔も知らない。『同じ世界の住人ですらない』、相手であったにしろ。
ひとつ、命が消えたということ。
『イノベイターたちへの義理と、建前もある。隊員たちの犠牲も、これ以上見過ごしているわけには。私だけでも──……』
「いいえ」
義妹の言葉を、彼女は遮った。あちらにも映像は届いているはず。小さく首を振ってみせる。そして。
「私も行くわ。これから先のことを考えるなら、目を背けておくわけにはいかないから」
『しかし』
「いいの。姉として……万一にでもあなたひとりに、手を汚させるような真似、したくないの」
コンソールキーを叩く。わかった、と短く頷いた妹はそこまででこちらへの通信を切った。代わりにお互い、開くのは指揮を執る、ブリッジへと繋がったその回線の周波数。
キュリオスに、ナドレ。リボンズ・アルマークより告げられた、それぞれそこに各々の象徴たる名を付加された機体、ブリッツおよびスティンガーの、コックピットより。
出撃の、意志を告げる。
カーゴハッチが開いていくその様を、徐々に挿し込んでくる海上の光を、目に焼き付ける。紫電の色と、白銀と。二色の機体がともに、太陽の下に出るその瞬間を、待ち構える。
「ギンガ・ナカジマ中尉。キュリオス“ブリッツ”、出撃します」
一足先にカタパルトより放出されたチンクの機体を、そうブリッジへと告げギンガは追った。
愛機たるブリッツキャリバーが、着込んだモスグリーンのパイロットスーツの胸元に光り輝いている。
与えられた機体を、駆る。本意、不本意関係なく。
それが今のギンガにとって、この砲火の世界において唯一、自分のやれることであった。
(つづく)
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次回、『Beyond the time』