とりあえず最初に載せるべきものは何か、と考えたのですが。

やはり最初の投下作品である「forget-me-not」を加筆・修正したものを
うpしておこうと思います。
元々が無印なのはの終了後に書いた作品ですので、
A’sの設定とは矛盾する点もあるとは思いますが、
「ひとつの可能性」として読んでいただければ幸いです。
(一応辻褄あわせの設定はありますが蛇足でしょう)
初出版はリンクのスレ保管庫に収録されています。
今回はそれを再構成、加筆・修正した形のものになります。
原型を留めている・・・といいなあorz

それでは、一話目からどうぞ。
スレ投下版の、第一回と二回に当たります。


 
 

魔法少女リリカルなのは −forget-me-not−
 
第一回 夢魔

 
それらはまるで、大蛇のようであった。
太く、長く。ありとあらゆる方向から、なにもない空間を割って伸びる幾重もの鎖。
鋼の色に鈍く輝く金属製の無足ハ虫類たちは、絡まりあい、重なり合い、
大群を成してそこにある。
 
───そのうねる鉛たちの中心に、少女は居た。
 
身に纏った純白の衣はあちこちが裂け、汚れていて。
その下にある幼い柔肌と、そこに穿たれたいくつもの赤い傷を露わにしている。
両手、両足、そして身体。
巻きついた鎖によって拘束された少女の身体は微動だにせず、
開かれれば少女らしい快活さの光を映すであろう大きな両の瞳も、力なく閉じられたままだった。
少女は無惨な姿を暗い闇の中に晒し、何重にも巻きつく鋼の鎖によって空間に縫いつけられている。
 
(……私は、この娘を知っている)
 
いつからかその光景を、彼女は見ていた。
どこからともなく、気がつけば目の前に少女の変わり果てた姿が顕現していた。
 
忘れようもない。
忘れる、わけがない。
 
だって、この娘は、自分にとってかけがえのない。
たった一人の、大切な────……。
 
 
*    *    *
 
 
気が付くと、ベッドの上から暗い夜の天井を見つめている自分がいた。
 
「……!?」
 
先ほどまで見ていた光景とのギャップは、あまりに大きい。

ここは、どこだ。
今のは、何だ。

少女───フェイト・テスタロッサは起き上がり、戸惑いながらも辺りを見回す。
そこは当然のように、彼女の現在暮らしている時空管理局所属艦・アースラの一室。
生活感のあるといった程度に散らかり、何一ついつもと変わるところのないそれは、
彼女と使い魔のアルフのためにあてがわれている小さなあまり飾り気のない部屋だった。
 
「……ゆ、め?」
 
見ると、ベッドの下では本来の狼の姿をしたアルフが、静かに寝息をたてている。
少なくともそれはこの数ヶ月間、朝や夜中、目覚めた際によく見慣れた光景であった。
そんなところまで、いつもとまるで同じ。
 
「夢───、なのかな」
 
安心にも似た脱力感に、溜息をひとつつく。
嫌な汗がわずかに、寝間着の白いパジャマを着込んだ背中に感じられた。
着替えるほどではないのは助かる。
 
「……はぁ」
 
──彼女の母が起こした事件から、早いものでもう、三ヶ月以上が経とうとしている。
その事件に関与したとして起訴されたフェイトも、
地球を離れたあとに受けた裁判によって、ほとんど無罪に近い処分を下された。

処分は、二つ。
アースラでの数ヶ月間の保護観察処分と、その期間中アースラが担当した事件解決への、協力。
処分を告げられた際クロノはくやしがっていたが、
それは完全無罪とまではいかないまでも、同程度の罪を犯した者への処分としては異例の軽い処分だ。
例えフェイトの事件後の姿勢や、事件に関する彼女の事情が裁判において、加味されたにしても……である。
この異例の判決には無論、管理局の思惑も関連しており。
慢性的な人手不足に悩む彼らが、フェイトのその優秀な魔導師としての能力に目をつけたということもある。
裁判中に管理局の嘱託魔導師となるための試験を受け、合格して資格を得ていたこともプラスに働いていた。
 
そして、それ以来。
フェイトはクロノやリンディ達アースラの面々と共に暮らし、事件に臨み、解決し。
行動を、共にしている。
 
「今の、は……」
 
ただの夢だったのか。それとも、現実に起ころうとしていることなのか。
しかしそれを判断する術は今の彼女にはない。
 
「なのは……」
 
友達になったきり会うことのできない、フェイトのたった一人の大切な友達。
会いたいけれど、それはまだできない。裁判の結果を伝えた時には、
無罪となったのがまるで自分のことのように嬉しそうに返信を送ってきてくれた。
今はビデオレターでのコミュニケーションだけだけれど、大丈夫。
少なくとも、今はそれで十分、我慢できる。
きちんと償いを終わらせて、自分のできることをはじめて、胸を張って会いに行きたいから。
 
「夢、だよね」
 
けれど、この不安はそんな事情に関わらず、消えてはくれない。
自分に対し、大丈夫だと、いいきかせるようにつぶやいてみる。
そしてそのまま後ろへと倒れ、枕へと頭を預ける。
 
「……会いたい、な──……」
 
フェイトは、消えない不安を包み隠すかのように、再び毛布へとくるまった。
きっとただの夢、幻にすぎないのだから、と。
ほんの少し、彼女に会いたいという気持ちが溢れてしまったせいで、
その不安がそのような夢を見せたに過ぎないのだから──、と。
自分を納得させて。
ぽつりと心の奥底の本音を声に漏らし、彼女は目を閉じた。
 
*    *    *
 
ブリッジのモニターには、黒い宝石が映し出されていた。
 
(───『D・Y・M』。───……『ダイム』?)
 
様々な数値とともに画面の端のほうに表示されている文字は、そう読むことができる。
どうやらそれが、この不気味な宝石の名前らしい。
 
「ここにいるみんなにわかりやすく言えば、なのはさんレイジングハートのプロトタイプ──といったところかしら」
 
ブリッジ中央、艦長の椅子にすわるリンディは、そう言って任務の説明をはじめた。
──ダイム。
それは流浪の民スクライア族の魔術師によって作られたとされる、最初期のインテリジェントデバイスの一つ。
初期型であるが故に出力は非常に不安定だが、内蔵される魔力量とその思考回路の完成度においては、
姉妹型ディバイスであるレイジングハートの性能をはるかに上回るものとなっている。
いわゆるユニゾンバイスへと繋がる技術も投入されており、自らの化身としての人型の姿をも持つ。
製作者の死後、暴走を懸念したスクライア族によって封印されることとなり現在に至る。
こんなことが、リンディの説明以外にも、配布された資料に書かれていた。
だが声も文章も、今のフェイトはどこか上の空で聞き流してしまう。
 
「フェイト」
「……」
「おい、フェイト」
「?──っ!!あ、はい!!」
  
クロノに肩を叩かれ、我に返る。怪訝そうな顔がこちらを見ていた。
よほどフェイトの様子が普段から比べて、珍しかったのであろう。
  
「どうしたんだ?君らしくもない」
「あ、いえ……その」
 
フェイトから集中力を奪っているのは、やはりあの夢のこと。
そこにきてなのはのレイジングハートに関係した任務とくれば、なおさらだった。
あの夢は、なにかを自分に報せようとしていたのだろうか?
 
「なんでも……ない、です」
「そうか?ならいいんだが」
 
けれど、そのようなはっきりしないことで落ち着かなくなっているなど、言えるわけがない。
フェイトは言葉を濁して、はぐらかした。
彼もそれ以上は追及しようとはしなかった。
そんな二人のやりとりを見ていたリンディが、ゆっくりと告げる。
 
「……昨日未明、管理・保管がされていたこの『ダイム』の封印が突如解け暴走、消失しました。
 今回本艦に与えられた任務は、このデバイスの捜索、及び回収。各員、気を引き締めて任務へとあたること。以上です」
 
 
────続く