新作のプロット製作中。

一番上にきてるキーワードが「シグナムお見合い」ってのはどうなのよ俺。
これ長くなるなぁ、きっと。
 
で、she&me改稿・加筆版第3話です↓。
スレ投下版の5〜7話までをひとつにまとめたものです。
 
  
  
魔法少女リリカルなのは〜She & Me〜
 
第三話 遠い二人、止められぬ二人
 
「それじゃあファリン、すずか達のことお願いね」
「はい、お気をつけて」
 
廊下のほうから、そんな声が聞こえた。
 
「お姉ちゃんと恭也さん、お出かけ?」
 
ふとすずかが顔を出し、尋ねる。
 
「うん、ノエルも一緒にちょっと買い物に。アリサちゃんたちもゆっくりしていてね」
「はーい」
 
*   *   *
 
「そろそろ、戻ろう」
「そうだね。あんまり長いとすずかちゃん達が心配するかもしれないし」
 
フェイトの言葉をきっかけに、屋敷に戻ろうと二人が踵を返しかけたその時。
 
「「!!」」
 
町の方から強力な魔力が膨れ上がり─────……そして、はじけた。
例の怪物たちの現れる時に起こる、特徴的な兆候だった。
 
「フェイトちゃん、今の」
「うん。急ごう」
 
誘ってくれたすずか達には申し訳ないが、事態は急を要する。
直ぐにでもあの怪物たちは暴れだすだろう。アルフやユーノが持ち堪えている間に、急がなければ。
 
だが。
二人の背後、遠くのほうから、聞き慣れた少女のものらしき悲鳴があがるのが彼女達の耳に届いた。
 
「すずかちゃん!?」
 
方角は、屋敷の方。そしてそこからは、いくつもの魔力の反応を感じ取ることができる。
町のほうに気を取られ気付くのが若干遅れたが、かなりの数だ。
 
「そんな、こっちも!?」
「どうしよう……!!」
 
このままでは───すずかとアリサの身が危ない。
その事実は二人に選択を迫る。
 
(どっちに?いや、二手に、だけど……)
 
どうするべきか。
迷っている暇はない。こうしている間にも時間は過ぎていくのだから。
一瞬考えた後、即座に決断を出すフェイト。
 
「……ユーノやアルフなら、きっと大丈夫。だから」
 
二人は頷きあい、左右の手をそれぞれ掲げる。
 
バルディッシュ、行くよ!!」
レイジングハート、お願い……!!」
 
一瞬でバリアジャケットに換装・装着し、各々の杖を手に屋敷へと急ぐなのは達。
二人の想いは一つ。アリサを、すずかを守るために。
 
((間に合って……!!))
 
*   *   *
 
目の前で起きている出来事が、信じられなかった。
 
「あ、あ……」
 
蛇に睨まれた蛙。今のアリサとすずかの状況を現すには、まさにその形容がふさわしい。
 
突如として空中から現れた、狼のような怪物たちに二人は、周囲を囲まれていた。
すずかもアリサもただただおびえ、その足はすくみ動くことが出来ない。
多少の大型犬で動物に慣れていたとしても、そんなもの何の役にも立たない。
 
「アリサ、ちゃん……」
「大丈夫……大丈夫だから!!」
 
がたがたと震えるすずかを懸命に励ますアリサ。
しかし、その彼女自身の声もまた震え、目には涙が浮かんでいる。
 
屋敷内に戻っていたファリンの安否も、わからなかった。
じり、と怪物がにじり寄るたびに、小さく悲鳴を上げ縮こまっていく二人。
リーダー格と思しき個体の足元には、粉砕された机とベンチが転がっている。
あんなものに襲われたらひとたまりもない。
 
なんとかして、逃げなければ。
 
けれど普段どんなに強気にふるまっていようと、アリサは所詮、ただの小学生の女の子だ。
こんな極限状況でどうすればいいかなど、考えて行動しろというほうが無理な話である。
 
「ひっ!!」
 
目の前すれすれを、怪物の爪が抉っていった。怪物たちは威嚇でもするかのように、
抱き合う二人の周りをぐるぐる回ってほんの目と鼻の先の空間を切り裂いていく。
 
「ア、アリサちゃん……私……」
「あ……?」
 
先に「それ」に気付いたのは、すずかだった。
 
いつごろからだったのだろう。
気がつけば、地面が暖かかった。
足元の地面とスカートに黄味がかった染みが広がり、湯気をたてている。
 
鼻をつくのは、独特の刺激臭。
二人の小水が、地面を濡らしていた。
 
恥ずかしい、とか。何やってるんだろう、とか。
失禁しているというのに、まるで赤ん坊のように漏らしているというのに。
羞恥の念を感じることすら、今の二人にはできなかった。
むしろ、どこか心地いい。
その温かみが、やすらぎすら二人に覚えさせる。
 
────あんまり怖いとお漏らししちゃうって、本当だったんだ。
目前の恐怖に対する反応とは対照的に、妙に冷静に、
ぼんやりと地面を伝わっていく水を眺めている自分がいた。
 
怖くない、怖くなんてない。
何度言い聞かせてもその効果は一向になく、二人そろって怯え震えるしかなかった。
 
「!!」
 
遂に獣達の中の一匹が、怯える二人をその牙にかけようと襲い掛かる。
アリサは半ば閉じかけていた目をきつく閉じ、すずかを強く抱きしめた。
 
───ああ。きっと私達、死ぬんだ。
 
痛いのかな。食べられちゃうのかな。死ぬってどういうことなんだろう?
目の中の暗闇にいくつもの考えが浮かび、消えていく。
だが数瞬後、アリサが聞いたのは自分の肉が裂かれる音でも、まして骨の砕ける音でもなく。
ガキリ、という何か硬質なもの同士がぶつかり合う鈍い音だった。
 
「……?」
 
おずおずと、目を開けるアリサ。
 
「フェ、フェイト……?」
 
二人を助けたのは、他の誰でもない。
見たこともないような格好をしたフェイトが、怪物の爪を黒い斧のようなもので受け止めていた。
 
*   *   *
 
「ぐ、う!!」
 
異形の力はかなり強力で、爪を受け止めたバルディッシュを持つ両腕には、
ずしりと重い力がのしかかっている。魔力で強化していなければ、
到底フェイトの細腕で防ぐことのできる代物ではない。
 
「フェ、フェイト、あんた……!?」
「なのはっ!!」
 
何が起こっているのか理解できていないアリサを尻目に、大声でなのはを呼ぶフェイト。
  
「待ってて!!今!!」
『accel shooter』
「シュート!!」
  
フェイトと鍔迫り合いを演じていた異形の巨躯を、桜色に輝く光弾が直撃する。
アリサとすずかも、光が放たれた方向を思わず見上げる。
 
「なのは、ちゃん……?」
「う、浮いてる……!?」
「はああああっ!!」
 
アリサたちが視線を戻したときには既に、なのはの一撃にぐらりと身体を傾かせた異形は、
フェイトの放ったサイズフォームからの一撃によって一刀のもとに切り伏せられていた。
 
「アリサちゃん!!すずかちゃん!!」
 
二人の出現に警戒した怪物たちが後退するのを確認し、なのはがアリサたちに駆け寄る。
 
「大丈夫!?怪我とか、してない?」
「う、うん。だけど、あんたたち、一体……?」
 
困惑の色が二人の表情に、はっきりと浮かんでいた。
 
───仕方の無いことだった。
フェイト達に結界を張っているヒマはなく。仮に張れていたとしても、フェイトにできるのはただ「張る」だけ。
アリサたちのいるわずかな部分だけを残して空間を切り取るという細かな芸当は、今のフェイトにはまだできない。
なのはに至っては、まだ結界自体練習中で張るところまで行き着いていないのが現状だ。
そして、その結果として、自分達の魔法を使う姿を二人に晒すこととなった。
 
(ごめん、なのは)
(ううん。仕方ないよ、気にしないで)
 
「フェイトちゃん……なのはちゃん……」
 
不安そうに見上げてくる四つの目がある。いずれ、二人にはきちんと説明せねばならないだろう。
だけど今は、まだ。
 
「ごめん、今は説明してられない。……後で、後で必ず、ちゃんと説明するから」
 
まだ、言えない。その時間がない。
 
「なのは、来るよ!!」
「……うん。二人とも、危ないからここから動かないで。きっと、守るから」
「ちょっと!!なのは!フェイト!!」
 
残った怪物は全部で10体。
ふしぎな服に身を包みそれらに向かっていく友人たちに対してアリサとすずかに出来たこと。
それはただ、遠ざかっていく背中を、手を伸ばすこともできず見ていることだけだった。
 
その二つの背中は、いつもと同じなようで。
なんだかとても遠かった。