一応忙しさもひと段落、ってとこでしょうか。

あー、ケインさんとこ読んでない作品がちらほら出てきてるなぁ。
あとで読みに行ってきますか。
 
さて。
ようやくshe&me六話の加筆修正終わったよもん。
スレ投下版の13〜14話を一本にまとめた形になっております。
でわドゾー↓
 
 
  
魔法少女リリカルなのは〜She & Me〜 
 
第六話 クロノ救援
 
 
少女の声が、結界に隔てられた空の下空しく散らばっていく。
 
「リニス、やめて……やめさせて……!!」
 
既にフェイトの身体には、あちこち赤い切り傷が刻まれてしまっている。
呼びかけ続けながら複数体の敵を相手にするのは、さしものフェイトといえどもそう長くは続かない。
 
「反撃してこないのはこちらも助かりますが……私は命じられた任務を成すだけです」
「リニス!!」
 
彼女の言葉は、なんの意味ももたず。
そうしている間にも少しずつ狼たちの攻撃が、バリアジャケットの裂け目と傷を増やしていく。
 
フェイトにリニスは攻撃できない。
リニスはフェイトへの攻撃をやめない。
これではいつか、終わりがきてしまう。
 
「フェイトちゃん!!」
 
フェイトの窮状を助けようとふらつく身体を動かすなのはも、数体の異形が取り囲まれ。
倒れ伏す二人の仲間を守るべくそこに釘付けとされざるをえない。
 
「ッ!!」
「邪魔はさせない……しばらくその子たちの相手をしておいてもらいますよ」
「なのはっ!!」
 
まずい。
今のなのはが一人で、しかもユーノとアルフを守りながら戦える数じゃない。
一瞬、フェイトの意識がそちらを向く。
 
「あっ!?」
 
フェイトがなのはの様子に気をとられた隙に、一体の異形が背後に回りこむ。
そしてリニスは、フェイトの足元めがけ一発の小さな光弾を放つ。
狙った場所も含め、決め手になるような破壊力ではない。
せいぜい彼女の足場を穿ち、体勢を崩すのがいいところだ。
 
だが、異形達の相手で精一杯のフェイトに対しては、それで十分だった。
 
「うぁ……っ!?」
 
軽い衝撃に足をもつれさせた次の瞬間────……、
フェイトの身体は巨大な獣の屈強な前足によって、地面へと押さえつけられていた。
 
取り落としたバルディッシュが、地面を転がっていく。
地を舐める口の中に、鉄臭い血の味が広がる。
 
「ぐ……ぁ……!!」
「フェイトちゃん!!」
 
魔力の殆ど切れかかったその身体では、その力を跳ね除けることはできない。
異形が前足に力を込めていくほどにフェイトの背骨はみしみしと音をたて、
目尻に涙を浮かべた顔は絶え間のない苦痛に歪む。
 
「リ……ニス……っぐ……ああぁっ!!」
 
近づいてくる足音に見上げ、絶望の表情でリニスを見つめるフェイト。
返答代わりに受け取ったのは、背中へと食い込む獣の爪の激痛だった。
 
「あぁぁぁぁっっ……!!!」
 
全身の骨が押しつぶされ、砕けてしまいそうだった。
だがそれでも、リニスは表情ひとつ変えることなく先ほどの言葉をただ繰り返す。
 
「言ったはずです、私は貴女の知っている『リニス』ではないと」
 
そう言うとリニスは屈みこみ、その右手を彼女を見上げるフェイトの頭部へと伸ばす。
それは優しくなでてくれるための、フェイトにとって懐かしい掌とは明らかに用途が異なるもの。
 
(だめ……だ……)
 
フェイトには、彼女の差し出した右手の意味がわかっていた。
 
この右手に触れられたら、もう。
きっと、何らかの魔法で意識が刈り取られる。そしてそのまま、連れて行かれるだろう。
満身創痍のなのはや、アルフたちを残して。
 
そうなったら、アリサ達との約束も果たせなくなる。
彼女達のもとに、戻れない。
 
「っく、ぅううう……!!」
 
なんとかしなければ。
必死で全身に力を込めるが、魔力もない少女の細腕では異形の強靭な前足はびくともせず、
徐々に近づく右手に焦りだけが募っていく。
 
(なのは……)
 
目の端に映るなのはも、コンクリートの塀を背に、数体の異形に囲まれて追い詰められている。
 
片膝をつき、肩でひどく荒い呼吸を繰り返し。弱弱しい光を放つ誘導弾で迎撃をしながら。
意識のないアルフ達を守りなんとか杖を構えてはいるが、光弾に撃たれた怪物たちは
まったくと言っていいほどダメージを受けた様子もなく起き上がってくる。
 
もう、まともな威力の光弾を生成できないほど疲弊しているのだ。
彼女に既に戦う力が残っていないのは明らかだった。
 
「それでは、貴女の身体を頂いていき────……」
 
魔力の篭った右手が、今正にフェイトの顔を包み込もうとしている。
もがいてももがいても身体は自由にならず、視界を覆っていく掌にフェイトは
全身を強張らせ、怯えるしかない。
 
だが。
 
『blaze canon
「!!」
 
彼女の意識が失われるよりはやく、
リニスの飛び退いたアスファルトの地面へと、一発の魔力弾が着弾する。
 
「この……魔法は……」
『break impulse』
 
更にはフェイトを押さえる異形が突如爆発する。
それは撃破時の爆発がフェイトを巻き込まないよう威力を絞った、絶妙の一撃。
幾度となく模擬戦で目にし受け止めたその技の使い手のことは、誰よりもフェイトがよく知っている。
 
なぜならば、かけがえのない家族だから。
 
『stinger snip』
 
同時に、なのは達を囲んでいた異形達が、変幻自在の光に貫かれ次々と四散していく。
 
「クロノ君!!」
 
なのはもフェイトも、魔法の放たれた方向を見上げる。
二人とも立ち上がることもできぬ有様だが、残った力で、安堵の表情を浮かべて。
 
「お兄ちゃん!!」
「……よかった。なんとか、間に合ったか。……すまなかった、遅れて」
 
二人を守るように降り立ったクロノは、掌中の鋼色の杖───S2Uを構えなおし、リニスと対峙する。
彼の目には、正体のわからぬ女性に対する不審と。
妹とその友人、大切な者たちを傷つけられた怒りの火が灯っていた。
 
「あとは……僕がやる」
 
*   *   *
 
───遠くのほうで、爆発音が聞こえた。
 
「あっちか!?」
 
恭也は走り出す。
急に周囲の雰囲気が変わったと思った瞬間、数体残っていた化け物たちは消えていた。
一応刀は納めたが、辺りに漂う嫌な感じは消えてはいない。
 
(忍達は無事に逃げられたのか……?)
 
爆発の方向を目指しつつ、愛しい者達の身を案じる恭也。
 
(どうなってるんだ、一体?)
 
恭也は知らない。自分が今外界から隔絶された空間にいるということを。
そして、向かう先で戦っているのが彼の大切な妹達であるということも。
 
*   *   *
 
「先に、聞いておこう……何故、フェイトを狙う?」
「答える必要はありません」
「……目的はなんだ?主とは誰だ?君は使い魔ということか?」
「聞かれていましたか。まったく、執務官ともあろう者が盗み聞きとは、感心しませんね」
「……ふむ」
 
───答えはやはり、ノーか。
 
ならば、止むを得まい。
実力行使で聞き出すしかないだろう。
クロノはそこで、対峙する女性との問答に見切りをつける。
 
「待って、お兄ちゃん」
「なのはと下がってろ。もう戦えるほどの魔力はないだろう」
「そうじゃなくて……」
 
口ごもるようなフェイトの口調に顔を振り向かせるクロノ。
その目に映る義妹は、ぎこちない言葉で言いよどみ。
明らかに何かを言おうとして躊躇していた。
 
「どうした?」
「その……あの人は、リニスは……」
 
言うべきか、否か。自分とリニスの関係を。
フェイトは迷う。
 
リニスに退く意思がないからには、クロノに告げたところでどうにでもなるものではない。
フェイトが大切に思っている人達に傷つけあって欲しくない、傷ついて欲しくないと思っているとしても。
そんなことを言ったところで、自分のわがままでクロノを困らせるだけだ。
 
「……大丈夫だ」
「え……?」
「確約はできないが、努力はする。あくまで彼女の戦闘力を奪うだけだ」
 
まるで、心の内を読んだかのようだった。
フェイトの頭に手を置き、安心させるべく言い聞かせる。
顔には、微笑みさえ浮かべて。兄はやさしく妹に告げる。
 
「全部、聞いてたから」
「兄さん」
「行ってくる」
 
そしてクロノは、S2Uへと魔法の発動を命じる。
メンタルは即座に、敵との戦いへと集中する。
 
『stinger snip』
「スナイプショット!!」
 
光の弾丸を加速させるためのキーワードを紡ぎ、
円軌道を描く一撃を追うように飛び上がる。
 
「ちっ」
 
光の一撃をかわしたところに振り下ろされるS2U。
リニスはこれを両腕を交差させて受け止める。二人の腕力は、ほぼ互角であった。
 
「く……このっ!!」
 
リニスが振り払うと同時にクロノもそこから飛び退く。
逃すまじと放たれる光弾を全て的確に打ち落としつつ、クロノは綺麗に着地した。
 
「なかなか、やりますね」
「あなたが傷つくとフェイトが悲しむ。さっさと身柄を確保させてもらうよ」
 
口ではそう言いながらも。
クロノは内心、彼女の捕縛が一筋縄で行きそうにないということを肌で感じ取っていた。