過去の自分の作品を読み返してると、

結構アイタタなこと多いよね。
ss書き始めたばっかとかだと、特に。
 
まあ、だから納得のいかない部分とかを直すために
改稿作業をやってるんですが。
 
さて。てなわけで加筆版she&me、9話です。
スレ投下版、19〜21話に相当。
 
 
魔法少女リリカルなのは〜She & Me〜
 
第九話 奪われしは、星の光
 
 
その、通りだ。
 
現に、今クロノとなのはを傷つけているのは自分だった。
二人とも、自分に関わったせいでプレシアによって痛めつけられている。
 
「何も言わないということは、自分でもわかっているようね」
 
何も反論、できなかった。ただフェイトは、俯くばかりで。
 
みんな、母の言う通りだった。
 
「当然よね。所詮人形に過ぎないのよ、お前は。使い魔と創られたもの同士、傷を舐めあっているのがお似合いよ」
「……」
「絆?友情?笑わせないで。お前などには一生、そんなもの得られるはずがないのよ」
 
プレシアの言葉が、金髪の少女の心を深く抉っていく。
そして。
決定的な言葉が、フェイトを破壊する。
 
「こいつらとの……家族ごっこ、友情ごっこはおしまいよ、フェイト。お前は今まで通り私とアリシアのために働くのだから」
「────ッ!!」
 
 
───家族、ごっこ。友情、ごっこ
 
 
自分と、みんなの関係は、本当にただ、それだけのものでしかなかったのだろうか。
 
なのはと出会って、友達になって。
クロノのことを兄と呼ぶようになったけれど。
アリサやすずか、高町家の人達。義母となったリンディにアースラの面々。
彼らすべてと築いてきたありとあらゆるもの。
楽しく暖かだった日々、そのすべてが。
 
それらみんなが、まがいもの。プレシアの言うように、ただのごっこ遊びに過ぎなかったのか。
 
この身と同じ、贋作にしか過ぎなかったのか。
 
感じていた絆も。暖かさも。手に入れたつもりになって勘違いしていただけだったのだろうか。
自分が己の立場を忘れ、勘違いをしていたから。
その勘違いこそが、今のこの状況を招いた、諸悪の根源なのだろうか。
 
かつて、自分が人間でないと知った時と同じ感覚が、フェイトの視界を真っ暗に染め上げていく。
 
(わから……ないよ……なのは……ク、ロノ……)
 
心が、軋んでいく。
怖気以外、何も感覚が拾ってくれなくなる。
 
誰でもいい。
誰でもいいから違うと言って欲しかった。
 
だが。
兄と呼んでいた少年も、友情を結んだはずの少女も。
身動きひとつせず倒れ伏すだけで、何も答えてはくれない。
 
(誰か……教えて……応えて、よ)
 
もはや涙さえ、出ない。何ももう、見えない。先程まであれほど抉られ、
癒えぬ傷を刻み込まれていた心の痛みすら消えてしまっている。
 
何も、感じない。ただ。
 
ただ、フェイトには。
 
フェイト・テスタロッサには。
 
自分という存在が、「フェイト」という存在が。ただ、わからなくなっていた。
 
*   *   *
 
「ひどい……こんなの、ひどいよ……ッ!!」
 
アースラ艦橋に、エイミィの叫び声が響く。
何度もコンソールに打ちつけた右の拳は既に内出血で真っ赤に染まっていた。
 
クロノを間一髪、送り出してから。
彼らは戦闘の一部始終をモニターしていた。
 
それは必然的に、先程までのフェイトとプレシアのやりとりを。
フェイトの心の砕かれていく様を見続けねばならなかったということ。
 
エイミィだけではない。艦橋、いや、艦のクルー全員が、彼女と同じ、やりきれぬ思いを抱えていた。
 
彼らはみんな、フェイトのことが大好きだった。
みんなフェイトを娘や妹のように思っていたし、彼女が高町家に移ってからは、
それこそクロノがアットホーム過ぎるのも考え物だと頭を抱えるほど、逐一彼女の身を案じていた。
なのに、彼らの手の届かないところで。傍観者に徹するしかできない、自分達の前で。
 
妹や娘同然であった少女が、肉親によって兄と友を傷つけられるところを見せつけられ、
その上で今までの自分のすべてを、再び実の母親によって否定されているのだ。
 
おそらく戦う力さえあったなら、その場にいる多くの者が我先に飛び出していったことだろう。
 
「フェイトちゃんはあんな親に対してさえ、何の恨み言も言わなかったのに!!なのに!!どうして!?」
 
嗚咽を漏らし始めるエイミィを慰めるかのように、隣席の女性オペレーターがその肩を抱く。
アレックスとランディも席を立ち、彼女のもとへと向かう。
 
「どうしてあの人は、あんな事を平気で言えるのよっ!?」
「主任」
「艦長……」
 
そして誰とも無く言った一言に、一同の視線がリンディへと集まる。
 
「……」
 
彼女とて、辛くないはずはない。今では彼女にとってもフェイトは大切な娘であるのだから。
現に、いつもの作戦中と変わらぬように見えるその姿勢、表情は、怒りによって微かに震えていた。
 
「エイミィ」
 
エイミィが少し落ち着いたのを見計らって、つとめて冷静な口調で尋ねるリンディ。
握りしめられた拳が、必死に己を律しようとしていることを窺わせる。
 
「大丈夫ね?」
「……はい」
 
涙をごしごしと制服の袖でこすり、エイミィは返事を返す。
 
「現在結界内にいるのは、プレシアとその使い魔を除けば、恭也さんも含めて六人だけですね?」
「はい、間違いありません。フェイトちゃん達五人と、取り残された恭也さんだけです」
「……わかりました。体勢を立て直します。ゲート展開、六人をアースラへ強制転移させます」
「でも、それじゃあ恭也さんに我々のことが」
「……承知の上よ。けれど、他に手はありません。……すべてを話すしか、ないでしょう」
 
時空管理局提督としては、あまりベターなやり方とは言えないかもしれないけれど、と。
リンディは心中でひとりごちていた。
 
*   *   *
 
「プレシア。もうあまり時間がありません。そろそろ」
「……わかっているわ」
 
復讐よりも、今は目的を遂げることが先決。
堕ちたとはいえ、かつて相応の地位を掴んだ黒衣の大魔導師の頭脳は、狂気に歪んでいながらも聡明だった。
 
あとは───あとはアリシアを復活させてから、ゆっくり復讐の機会を伺えばいい。
ああ、そうだ。アリシアの手で奴らに止めをささせるのもいいかもしれない。
娘の復活を邪魔した連中を、娘自身の手で。我ながら、素晴らしいことを思いつくものだ。
 
プレシアは己の発想に、思わずほくそ笑む。
 
「きっとアリシアもよろこぶわ……」
 
狂った微笑みを向けるプレシアに対し、フェイトは逃げようともしない。
傷つききったなのはをその膝に抱えたまま、全ての感情を失ったような目で己が母を虚ろに見上げ続ける。
 
「あらあら、壊れてしまったようね?」
 
プレシアの指先に、赤い光が灯る。
それは先程リニスがフェイトの頭にしかけようとしたものと同質の光。
 
魅惑的で、どこか触れることを本能的に拒絶させるような危険な色の光だった。
 
「楽になりなさい……これからは母さんがあなたの身体を使ってあげる」
 
微笑みが、禍々しいほどに口を歪めた、悪魔の笑みに変わる。
だがそれにすら、フェイトは何ひとつ反応を示さない。
 
「安心して、我が物になりなさい……!!」
 
何ら、することもなく。
フェイトはただ、自らへと近づく終焉の赤い光を、見つめるだけだった。
全てが彼女にとっては、認識できないものとなっていた。
 
だが、身じろぎ一つしない彼女を守るかのように。
白い影が、フェイトの前に立ち塞がった。
 
*   *   *
 
何も、わからなくて。
何も、見えなくて。
何も、聞こえなかったけれど。
 
幾許かの間を置いて、
ようやくフェイトは、軽くなった膝と、苦痛に満ちた誰かの悲鳴。
そして立ち塞がる白い何かに気付いた。
 
 
「────あ?」
 
濁りきっていた視界が、次第にクリアになっていく。
働きを取り戻した聴覚が、耳を切り裂く声の主を明らかにする。
先程まで「彼女」が居たはずの膝の上には、誰も倒れてはいない。
 
道理で、軽いわけだった。
 
ゆっくりと、視線を上げていくフェイト。
消えた友の身体は、すぐそこにあって。
 
「な、のは?」
 
彼女は、己の身体を盾代わりにして、全身で受け止めていた。
 
「あ……!!ぁぁああっ!!がああああああぁっ!!」
 
本当なら、フェイトが受けるはずだった赤い光を。
シールドを張る力など、欠片も残っていないその小さな生身の身体で。
 
目を覚ましたなのはが、身を呈して襲い来る赤き閃光から、フェイトをかばっていたのだ。
 
「ち」
 
そしてそれはプレシアにとっても、予定外のことだった。
 
数ある魔法の中でも意思を持つ人間の精神を乗っ取り操る類の、いわゆる支配呪文は、最も高度な技術を要する。
ヒトの心は複雑であり、それを支配するための術式もまた並みの術者では扱えないほど複雑なものだからだ。
また必要な魔力は、対象が強い魔力を持つ者であればあるほど、比例して大きなものとなる。
 
アリシアを復活させるために必要な魔力等を考えれば、大魔導師と呼ばれたプレシアと言えど多用はできない。
まして相手がAAAクラスともなればせいぜい一度が限度。
それを。フェイトを支配するために放った貴重な操作呪文を、あのにっくき小娘がかばって浴びるなど。
 
思い通りに運ばない状況に、彼女は歯噛みしていた。
 
(どこまでも……邪魔をしてくれる……!!)
 
───だが。
 
「この程度」
 
目的を遂げるためには問題はない。好きに使える駒が一つ手に入っただけのことだ。かくなる上は、こいつを使って。
すぐに、大魔導士の思考は切り替わる。
 
「多少傷ついていても構わない。フェイトを手に入れる……!!」
 
 
「あ……あっ!!っくあぁあ……!!あ……ぁ」
 
赤い光がなのはの全身へと広がり、包み込んでいくと同時に、
強張ったように左右に伸びきっていた両腕が、しだいにだらりと垂れ下がっていく。
悲痛な叫びも徐々に掠れ、消え入るように小さくしぼんでいく。
 
「なのはッ!!」
 
そんな、自分をかばって。
弾かれたようにフェイトは立ち上がる。しかし。
 
(……め)
 
「!!」
 
(来ちゃ、だめ……!!)
 
念話。なのはから送られた思念が、飛び出して彼女を救出しようとしたフェイトを静止する。
 
(─────フェイトちゃん、来ちゃ、だめ……)
 
完全に意思を奪われる前に、必死の念話をなのはは送り続ける。
心に届くその声すら、今はもうか細い。
 
「でも……でも!!」
 
(身体、が……身体が動か……逃げて……フェ……ちゃん……わた……)
 
消えた叫び声と同じように。
その心の声もまた、潰えていく。
 
「なのは!?なのは!!!!」
 
フェイトの、必死の呼びかけも空しく。
 
一瞬、くたりと地面にへたりこんだ少女は、ゆっくりとその顔をあげ。
友であった少女は、少女自身の身体からいなくなった。
 
「……」
 
既にそこにはもう、彼女の良く知る「なのは」はいない。
「なのは」という存在が、なのはの肉体から、完全に消え失せていた。
 
明らかに異質へと変化した魔力の波動が、何よりもその事実を明確にフェイトへと伝えてくる。
 
「う……ああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!」
 
咆哮するその姿形は、高町なのはそのものだけれど。
ゆっくりと振り返る、「なのは」であった人形。
彼女は、なのはであって、なのはではない。
フェイトは、そう理解した。というよりも、理解できてしまった。
理解できないほどフェイトは魔法に関して無知ではなかったし、未熟でもない。
できなければ、どんなによかったろう。
 
「そんな……なのは、私の」
 
私のせいで。
 
自分のせいで、最愛の友を傷つけられただけでなく。
目の前で、その友を奪われた。
いずれも、母の手によって。
すべては、自分がいたために。
 
そのことが、わかってしまったから。
 
「私の、せいで……」
「違う!!フェイト、しっかりしろ!!逃げろ!!
「……」
 
見開かれたなのはの、否、なのはであったモノの目には、異質の光が宿り。
かつて笑顔に満ちていた表情には微笑み一つ無い。
 
これが、ついさっきまで笑顔をくれていた少女と同じ顔なのだろうか。
戦慄は、必死に叫ぶクロノの声すら耳から遠ざける。
 
「……いくよ」
『yes,master』
 
無機質な声で、なのは「だった」少女が杖に命じた。
レイジングハートの赤い宝玉もまたどす黒く濁り、主だけでなく彼女さえもがプレシアの手に落ちたことを告げていた。
 
「やりなさい。気絶させるだけでいいわ。くれぐれも、殺さないように、ね」
「はい」
『sealing mode』
 
プレシアの命じるまま。
なのはは杖を変形させる。
 
「まさ、か?」
 
先程まで枯渇寸前だった魔力は、プレシアと「繋がる」ことによって供給を受け、完全に回復している。
故にどんな魔法でも、問題なく行使することができる。
 
今の彼女の、魔力ならば。
 
それが莫大な魔力を消費する、平時ですら数発が限界の、彼女の持つ最強最大の一撃であっても。
今のなのはには十二分に使用可能な力が蘇っている。
 
スターライトブレイカー
 
いつも聞き慣れていたものと、同じ声のはずだったけれど。
フェイトの耳にはそのつぶやきは、なのはとは違う、まるで別人の発した声のように聞こえた。
そして。視界の隅に恭也の姿を、彼がなのはに向けて何かを叫んでいるのを捉えた直後。
 
「発射」
 
彼女達は、なのはの放った桜色の光───即ち、なのは最強の呪文、スターライトブレイカーの光───に、飲み込まれていった。