なんかケインさんを落ち込ませてしまったみたいです、俺(汗

ごめんな救いのない展開で。
でも基本ハッピーエンドの(しか書けない、とも言う)男だから
その辺は、はい。
 
今日も今日とてshe&meの加筆。
あ、ちなみに冬コミにゲストで載せるssは年明けたらここにも
改変・加筆加えて載せる予定ですんで。
まあ全く同じものにはしないけど。
 
んで、she&me加筆版10話。
スレにあげたものの、22話と23話途中までが合わさったものを
改稿した形になっています。
では、どうぞ↓
 
 
魔法少女リリカルなのは〜She & Me〜
 
第十話 汚れた絆
 
───ごめん、なさい。
 
目を覚ました義妹は────……ただひたすらに、うわ言を繰り返すように謝ってきた。
 
───クロノ……ごめんなさい……。
 
それはけっして、「兄」に対してではなく。
ただの一人の少年、「クロノ」という人物に対して。
 
巻き込んだことを。傷つけたことを。
そして、なのはを奪われたことを。
 
クロノにできたのはただ呆然と、義妹の語る謝罪の言葉を聞き続けることだけだった。
彼女がどう思っていようと、クロノにとってまだフェイトは、妹であったから。
 
*   *   *
 
─高町家・リビング─
 
「全ては、私たちが至らなかったためです。その事に関して、申し開きのしようもありません」
 
私服姿のリンディが、テーブルの反対側へと、深々と頭を下げる。
その先には、沈痛な面持ちの士郎と桃子、そして恭也と美由希が座っていた。
 
プレシアの下になのはが連れ去られて、丸一日。
 
少し離れた家族用のソファにもアリサとすずか、クロノが座しており、リンディの話す内容を静かに聞いている。
クロノは頬の傷に絆創膏を貼っていた。ユーノとアルフは自室に閉じこもっているフェイトに付き添っていて、この場にはいない。
 
「……そうですか。うちの子が……」
 
魔法のこと。時空管理局のこと。なのはが連れ去られたことについてもすべて。
リンディは包み隠さず、あらゆることを話した。
ただ、フェイトとプレシアの関係に関する、「あること」を除いて。
話すべきだと思われることは、全て話したつもりだった。
 
「なのはが、何か私達に隠してやっていたことは、薄々気付いていました。しかし、まさかあの子 が……」
 
魔法、だなんて。
そのような、御伽噺のようなことを。
 
「……その割には、あまり驚かれないんですね?」
「これでも、以前はかなり修羅場をくぐってきたのでね……。自慢にもなりませんが」
 
……確かに。 リンディは心中で頷いた。
 
以前この家にお邪魔したときもそうだったが、
この一家───なのはの母親である桃子は別だが───はどこか、 普通の人間とは思えない身のこなしをしている。
たとえそれがただ階段を登るといった一般的動作であったにしても、
一般人と場数を踏んだ人間とでは、見る人が見れば違いが見えてくるものだ。
 
となれば桃子も当然、幾度と無く相応の覚悟を迫られたことがあったのだろう。
こういった娘の危機ともいえる状況に際し、戸惑い不安に感じているようではあるが、
取り乱したりしている様子はない。
 
「おそらくは、娘さんは我々の前に立ちはだかってくるでしょう」
 
そうなれば当然、矛を交えることになる。
その場合最悪、なのはを倒さなければならなくなるかもしれない。
五体満足で帰ってくるとは限らない。
彼女が無事に戻ってくるという保証はないのだ。
 
「万一という可能性も、確かに否定はできません。ですが娘さんの救出には、我々も全力を尽くし ます。ですから」
「大丈夫です」
 
どうか、ご安心を。リンディの次の言葉を読んでいたように、士郎が割り込ませてくる。
その顔は優れないながらも、わずかに彼女の気遣いに対する微笑が浮かんでいた。
  
「心配してないわけじゃありません。できることなら私が行って娘を助け出したいくらいです。
 ですが……あの子は、強い子です。私と妻の子で、恭也と美由希の妹なんですから。だから、大 丈夫ですよ」
 
なぁ、桃子。そういう士郎に桃子は、黙ってうなずいた。
 
強くやさしい、いい家族だ。そして何より、深い絆で結ばれている。
この人たちの下にフェイトを預けて、正解だった。リンディはその光景に、心からそう思う。
 
*   *   *
 
「……あの、ひとついいですか」
 
会話が一旦途切れたのを見計らい、アリサが学校でやるように右手をあげつつ質問する。
不安と疑問が混ざった表情が、彼女の可愛らしい顔をゆがめていた。
 
「……何?アリサさん」
「フェイトの本当のお母さん……プレシア?さんのことなんですけど……」
 
それはアリサらしからぬ、おずおずといったような口調だった。
今まで、フェイトの母親と認識していた人と、別の人間のことを母と呼ぶ。
そのことに気が差したようでもあった。
 
「……どうしてその人は、フェイトにばっかり冷たくするんですか?
 その、死んだアリシアって子を取り戻したくて必死なのもわかります。けど」
「フェイトだって実の娘じゃないか。二人の娘に対して、取る態度がそんなに違うのはおかし   い。……そんなところ?」
「……はい。同じ自分の娘なのに。フェイトが……かわいそう……」
「……そうね……」
 
─────言わねばならないのだろうか。
 
きて欲しくない質問が向けられて、リンディは天を仰いだ。
純粋にこの子たちが心配してくれているからこそ、言いづらい。
 
(……フェイト……)
 
できればこのことは、言いたくはなかった。
きっとフェイトは彼女達に、知られたくない。もっと言えば、このことは思い出したくもないはずだ。
言えば、せっかく彼女達と築いた友情が、崩れてしまうかもしれないから。
彼女たちのフェイトを見る目が変わってしまうのではないか。そんな危惧がリンディにも、本人にもあった。
 
言わなくたっていい。
いつか、フェイトが自分でこのことを明かす勇気が持てるようになったら言えばいい。
それまでは、この傷に触れるべきではないとリンディは考えていた。
 
(母さん……まさか、フェイトの「あのこと」を……言うんですか……?)
(……)
 
クロノもまた、どうすべきか悩むリンディへと念話を送ってきていた。
このことを自分の口から言っていいものだろうか。自分が明かせば、フェイトはそれを責めるかもしれない。
だが────。彼女達にこれ以上のごまかしを重ねることを、フェイトは望むだろうか。
 
たとえ、どれほど自分が傷つこうとも。偽りを望むような子だろうか、あの子は。
 
 
「アリサさん、すずかさん。……よく聞いてください」
 
数瞬の後、リンディは腹を決めた。正しい選択かどうかは、わからないけれど。
きっとこの子達なら、この家族なら。きっと、受け入れてくれる。
 
「士郎さん達も、どうか。……フェイトは、あの子は普通の生まれ方をした子ではありません」
 
一同が居ずまいを正したのを見計らってから、リンディは告げる。
告げたくは、ない。そんな残酷な事実を。
忘れたかった彼女の過去を。
 
「─────フェイトは。あの子は…………、クローン、なんです」
 
*   *   *
 
「……う」
 
両腕に走る鈍い痛みに、なのはは意識を取り戻した。
 
「ここは……?」
 
薄暗い、ホールのような場所。壁にはレリーフがはめこまれているが、あちこちひび割れてしまっている。
なんだか以前、どこかで見たような、そんな気がした。
 
一体ここは、どこなんだろう。
自分はどうして、こんなところにいるんだろう。
 
「痛っ」
 
辺りをもっとよく見ようと身体をひねった時、再び両腕を痛みが襲った。
 
「……?」
 
見ると、両腕が、天井から伸びた鎖によって拘束され、身動きがとれないようになっている。
先程の痛みは、どうやらこれが食い込んだためのようだ。
きつくはめられた手枷は、少し動かすだけで痛みが走る。
 
(……そっか……わたし、プレシアさんの魔法を受けて……)
 
助けに入ろうとするフェイトを止めて。
身体が、言うことを聞かなくなって。
 
(……わたし……!!)
 
無抵抗のフェイト達に、この手でスターライトブレイカーを浴びせた。
今鎖に繋がれているこの腕が、自分の意思に逆らって。
意識はしだいに真っ暗になっていったけれど、そのことは確かに覚えている。
 
(フェイトちゃん……)
 
親友を傷つけたことに、自責の念が湧き上がる。
もう少し、自分が相手の支配に抗う術を持っていたならば。
無茶なこととはいえ、思わずにはいられない。
 
(……みんな、大丈夫かな……)
 
──────だが、それから。
 
それから、どうなったのだろう。
ブレイカーの光に包まれ行くフェイトたちの姿、そこでなのはの記憶はぷっつりと途絶えてしまっている。
気付けば、この場所に繋がれていた。
 
とりあえず自分の状態を確かめてみる。
 
(魔力は……ほんのちょっとだけど、回復してる。レイジングハートは……)
 
少なくとも、身につけてはいなかった。念話で呼びかけても返事は無い。
ボロボロに裂けたバリアジャケットもそのままだ。
 
これらの状況からして、おそらく────……。
 
(わたし……プレシアさんに捕まっちゃったのかな……?レイジングハートも取られちゃったみたいだし……)
 
ユーノから教わったことがある。
きっと自分が受けたのは、対象を支配し意のままに操る、精神操作系の魔法。
このタイプは魔力消費が激しいから、必要でない時は対象への支配維持に回す魔力を極力カットするのが普通だと言っていた。
だとすれば、今こうして自分が意識を取り戻していることにも説明がつく。
 
(ただ、ならわたしは……わたしの身体には……)
 
未だ楔のように、プレシアからかけられた呪文の術式が残っている。
 
今のうちは考えたり、思ったりもできるが、
プレシアが必要としたときには再び意識を奪われ、彼女の駒として戦わされる羽目になるのだろう。
 
(フェイトちゃん……ユーノくん……クロノくん、アルフさん……)
 
フェイト達は無事だろうか。改めて友たちのことを思う。
クロノは、ユーノは。無論アルフも。自分がしたこととは言え、それが気がかりだった。
 
(フェイトちゃん……ごめん)
 
「気がついたようね」
「!!」
 
だが暗がりに浮かび上がった影が、なのはの思考を現実へと引き戻す。
 
「プレシア……さん……!!」
 
自分を捕らえた敵の姿に、自由のきかない体でとっさに身構えるなのは。
きっと見返した目に、抵抗、交戦の意志が宿る。
 
「なかなか、反抗的な目をするじゃない」
 
しかしいくら身構えたところで、所詮今のなのはは囚われの身。
プレシアは愉快そうに口元を歪めるだけだ。
 
「立場をわからせてあげないと、いけないわね」
「……!?」
 
そう言うとプレシアは、右腕の杖を掲げなのはへと向ける。
するとその杖は次第に、別の「何か」へと変化していく。
 
「ッ!?」
 
そして変化が終わったその時、なのはの視界は捉えていた。
 
「フェイトもいい声で鳴いたものよ」
 
プレシアの右腕に、杖に代わって握られる。
なのは自身の手首ほどはあろうかという、荒縄のように太く長い、光沢を湛えた鞭を。
 
(嘘……あんなので、体を!?)
 
なのはの脳裏に、かつてフェイトの背にあった痛々しい鞭の痕が蘇る。
だがその痣よりも、確実にその鞭はひとまわり以上も太い。
 
「鳴きなさい……いい声で……」
 
 
─────少女の悲鳴が、暗闇に染まる部屋に響き渡る。