てわけで。
 
新作、the lost encyclopedia投下したいと思います。
スレのほうの連載はもう少し待ってねorz
今色々私生活で立て込んでるのorz
 
今までのssの中で一番一話が長いかも試練・・・。
批評・感想お待ちしています。
では、よろしくお願いします。
 
 
 
 
 
 
───古代から連なるベルカの源流は、この世界から絶えて久しかった。
 
それは近代において確立された、現行のベルカ式魔導とは大分において異なるもの。
 
幾千、幾万。
それが失われてから、どれほどの月日が経ったのだろう。
今やごく少数の騎士や術者が、細々と。
あるいは時空管理局の名のもと、保護を受けながらその力と術を守り続けているだけである。
 
姿を消した技術、喪失された術法はあまりに多く。
それらが失われた原因、理由さえもが今日に至るまで未だ詳らかでなかった。
 
従って、それは必然であったのかもしれない。
 
探求者とは須らく、己の知りえぬ事象を解き明かそうとするものなのだから。
また、主とは喪われた従者の過去を、その絆が深ければ深いほど、欲するもの。
 
だからこそ、それは必然であったのかもしれない。
 
人はそれを発見し、発見したそれを人はその道の人間に託す。
当たり前のその行為こそが、必然であったのではないだろうか。
 
ミッドチルダ新暦、67年。
 
発見されたのは、一冊の魔導書型デバイス
 
出会ったのは、雄々しくも心優しき、少女たち。
 
条件は、整っていた。
あまりにも、整いすぎていた。
 
 
魔法少女リリカルなのは 〜the lost encyclopedia〜
 
第一話 祝福の風の中で
 
 
白黒の、レントゲン写真の上をペンの背中がなぞっていく。
 
左腕の骨を透過し撮影されたそれには、どこにも異常は見られず。
またやってきた軌道へと、ペンの先端は引き返し同じ軌道へと回帰していく。
 
──幾度、丸い先端が無為な軌跡を繰り返し描いただろうか。
写真上から異常を探すことに見切りをつけた女性は、少女のほうへと向き直り言った。
 
「特に、問題は見られないけれど。二年前の怪我も、これといって影響はないんでしょう?」
 
白衣の女性───シャマルは、キャスターつきの椅子の背に体重を預け、問うた。
 
こくり、と。
尋ねられた少女は、主治医を兼ねる旧知の女性へと、小さく頷いた。
茶色の髪の毛を少し長めのツーテールに結った彼女の名は、高町なのはと言う。今年で、十三歳になる。
 
「ええ、まあ。痛みとかがあるわけではないんですけど」
「違和感を感じる……、か」
「はい」
 
時空管理局本局・医務課、診察室。
 
なのはがここを訪れるのは、久しぶりだった。
自身が診察を受けるのは二年前、武装隊の任務中に巻き込まれたとある不慮の事故により、大怪我を負って以来のことだ。
あとは、任務などにおいても自力で治せる程度の軽傷くらいで寄り付かず。
去年、親友のフェイトが入院して以降は友人や知人といった親しい身内にもこれといって大病や大怪我を負った者が出ることはなかったため、随分とこの場所には御無沙汰だった。
せいぜいが年に一度の、定期健診でお邪魔するくらいだろうか。
 
「どうします?なんだったら、鎮痛剤くらいは出しますけど」
「あ、そこまでは。さっきも言った通り、別に痛いわけじゃないので」
「そう?無理しちゃダメよ?」
 
心配そうに言ってくるシャマルの様子を少々大袈裟に感じながらも、なのはは首を振って答えた。
実際二年前、心配をかけたのは自分なのだから、心配するなとは言えないが。
 
「何ていうのかな?確かに痛みはないし、大したことはないんですけど」
 
ほんの少し感じただけの違和感でそこまで気を回されてしまっては、こちらが困ってしまう。
自身、これが違和感にあたるのかどうかすらわからない微細な感覚なのだ。
他の事をしていれば、感じない。ふとした瞬間になにかが違うと感じる、なんとなく気になってしまう。その程度のものなのだから。
 
「古傷が疼く、っていうんですかね。そんいう表現が一番近いと思います」
 
なのはは自身の左掌を見た。
ごくわずかに痺れるような、張ったような。そんな違和感が、そこには残る。
二年前、重傷を負い。それから二年間もの間、時空管理局の激務に耐えていながら、一度も感じたことのない異変。
それが今日。任務中に、ふと気が付けば感じるようになっていた。
 
「だから多分、大丈夫です」
 
きっと、気持ちの持ちよう次第だ。
そのくらいだから、大したことはない。
ぎゅっと拳を握り、胸の前でガッツポーズをつくってみせる。
 
「そう。なら、いいけれど」
 
彼女の笑顔にシャマルもまた、曖昧に頷いた。
 
*   *   *
 
「はぁっ!」
 
訓練用のダミーを、光の刃が切り裂いた。
ふわりと地面に着地した少女は、小さく息をつくと振り返り、自身の様子をトレースしているであろう管制室へと通信を送る。
 
「マリーさん。メニュー、終了しました」
『お疲れさまー。フェイトちゃん、どうだった?その子たちの感触は』
 
巨大な剣であった彼女の得物が根元から左右に分かれ、それぞれにひとつの独立した形へと変化していく。
ともに斧にも似た形状のそれらを待機状態に戻し、フェイトは答える。
 
「悪くないと思います。『ライト』も『セカンド』も。もちろん、バルディッシュに比べたら少し物足りないですけど……」
『あはは……まあ、一般の武装局員用の量産型だからねぇ。その辺は仕方ないでしょ』
「はい。でも、これなら十分実用に耐えうると思います」
 
フェイトは今、武装隊用に新たに開発されている二機の新型デバイスの、評価試験を行っていた。
彼女の掌のうちに握られるそれらの名はそれぞれ、『バルディッシュ・ライト』、そして『バルディッシュ・セカンド』。
武装隊のなのはや技術局のマリーと共に計画を進めてきた、バルディッシュの簡易量産型である。
 
元来、ミッドチルダ式の術者はあまり近接戦闘を好まずまた、得意としない。
故にこれまで武装隊に支給される戦闘用デバイスには射撃・砲撃を中心とした性能をもつストレージデバイスが主流であった。
ときたまフェイトのように近接から中距離をこなす者や、近接中心の戦闘スタイルを持つ者がいないでもなかったが、局の支給する装備はそういった者たちには対応しておらず。
本人が局の支給するデバイスにあわせるか、フェイトのように自前でどうにかするしかなかったのが現状であった。
 
だが、元々近接に対応したデバイスの流通量自体が少ないのだ。
バルディッシュを持つフェイトのような後者は、圧倒的に少なく。
それは、結果的に有用な戦力を非効率的に使っていることになる。
本来ならば十の力を近接や白兵で発揮する者が、四か五くらいの力しか使えないということは。
 
これではいけない。なのはから(そのとき既に、なのはは武装隊隊長として、隊員達の闘いを見る側に立っていた)相談を受けたフェイトは彼女と共に、
山のような書類にサインをする羽目になりながらも、ひとつの計画を立ち上げたのだった。
近接戦に秀でた魔導師たちのための、それに対応した量産型デバイスの開発・配備計画を。
 
幸いにしてリンディやレティ(クロノは自分までが賛同すれば身内に対する贔屓だと思われかねないと用心したのか、この件にはノータッチである)、
技術部からの賛同も得られることができ、開発のベース機として汎用性も高い、フェイトのバルディッシュが選ばれ計画はスタートした。
 
その成果が、今フェイトの手元にある二機である。
 
アックスと、シザース。二つの形態を使い分け戦闘能力に秀でた、『ライト』。
ホークとジャベリン、二形態で汎用と儀式魔法の補助をこなす、『セカンド』。
 
彼女達が手塩にかけて製作し、ここまで育て上げてきた、バルディッシュの弟ともいうべき二機のストレージデバイスであった。
量産型であるが故にワンオフ品のバルディッシュほどの性能、出力はないが、
それでも二機を連結させることでAランク程度の魔導師までになら十分な力を持っている。
 
「それじゃあ、シャワーを浴びて上がります。なのはももう診察終わる頃だろうし」
『はーい。あとは実戦でのテストかな?』
「そうですね。それは追い追い」
 
バリアジャケットを解除して黒い制服姿に戻り、バルディッシュを収めた内ポケットに二機をしまう。
管制室のほうからも灯りが消えたのを確認し、フェイトは訓練室をあとにした。
 
少し、急いだほうがいいかもしれない。
このあとに控える大事な用を思い、フェイトの歩調は早まった。
 
今日は、とても大切な日なのだ。
遅れるわけにはいかない。
 
*   *   *
 
なのはがシャマルを伴って診察室を出ると、赤毛の少女が壁に寄りかかり彼女達を待っていた。
 
ヴィータちゃん」
「なのはっ!どーだったんだよ!やっぱあのときの怪我……」
「なんともなかったって。大丈夫だよ」
 
掴みかからんばかりの勢いで不安げに問い詰める彼女を押し止め、なのはは宥める。
元々、大したことではなかったのだ。ヴィータにまでこんなに心配させては、申し訳ない。
 
「ほんとに、ほんとなのか!?シャマル!!」
「ええ。骨にも特に異常はなかったわ」
 
シャマルの言葉を聞き、ようやく彼女は安堵する。心底、ほっとした表情で肩から力を抜いて。
その様子が実に可笑しくて、なのははついつい彼女で遊びたくなってくる衝動に駆られる。
 
「心配してくれたんだ?」
「なっ……別に!心配とかそんなんじゃねーよ!あたしは……」
 
むきになって反発してくることを、予想しながら。
そしてもちろんその予想を、彼女は裏切ることはない。
 
「ふふっ。ありがとね、ヴィータちゃん」
「心配してねーっつってんだろ!」
 
この素直じゃない、子猫のような少女のことがなのはは大好きだった。
焦って顔を赤らめて、そっぽを向き頬を膨らます仕草も実に可愛らしい。
 
威嚇が、まるで威嚇になっていないというべきだろうか。
 
彼女にとってこのヴィータという少女は、愛すべき妹分だった(そのことを聞けば本人は間違いなく怒るだろうが)。
ずっとこういったやりとりをしていても、全然飽きることがないくらいに。
そのくらい、大切で。大好きな存在だ。
 
「さ、二人とも。みんなが待ってるわよ」
 
だが残念ながら、今日はその時間はない。案の定、二人揃ってシャマルから背中を押される。
忘れてはいけない、大事なイベントが今日はまだ、残っているのだ。
 
「はぁい。ヴィータちゃん、続きはあっちでね」
「聞けよ!!やらねーよ!!」
 
そう。
みんなが準備を終えて、三人の到着を待っている。
小さなヴィータよりも更に幼い、少女の生誕の日を祝うため、その準備を整えて。
無限書庫からフェイトをピックアップして、はやく帰ろう。
 
「なのは、待った?」
「あ、フェイトちゃん!!」

訓練室へ向おうとしたところで、丁度角からフェイトが顔を出した。

会場は、八神家。
なんといっても今日は、みんなの妹。
リインフォースが生まれてちょうど一年の、誕生日なのだから。
 
さあ、急ごう。
 
*   *   *
 
「夢?」
 
ボウルのサラダを合える手を止めて、はやては肩の上に座るリインフォースへと聞き返した。
どうせもう、殆ど出来上がっているも同然なのだ。
あとはこのまま冷蔵庫で冷やして、テーブルに持っていくだけ。
 
味見、と彼女が菜箸で摘んで差し出したそれを咀嚼してから、彼女の従者たる白銀の髪の少女は頷いた。
 
「どんななん?」
「えっと。起きたときには、見た内容までは憶えてないです。全部忘れちゃって。ただ、一つだけ───」
「毎回おんなじ夢やったってことは憶えとるんやな?」
「はい。すごく、すっごく大事な夢の気がするです。その夢が、ずっと続いてて」
「ふむ。そら、おかしな話やね」
 
冷蔵庫にボウルを押し込んで、これでOK。
ケーキはなのは達が局からの帰りに翠屋から受け取ってくることになっているから、料理や食べ物に関しての準備はこれで完了した。
テーブルや飾りつけの準備をし終えたアリサたちは、既にソファのほうでくつろいでいる。
 
「あんまし続くようやったら、マリーさんに診てもろたほうがええんやろうけど。どうする?」
 
肩に乗ったリインフォースも、首を傾げている。
オーバーホールに出すというのも、彼女はあまり乗り気ではないようだ。
 
「でも、いまのところリインは元気ですよ?」
「せやねぇ……。ま、もうちょい様子見ってことにしとこか。どんな夢か思い出すかもわからんし」
「はい」
 
細部までに関わる大規模な調整は、はやてとしてもなるべく避けたいところだった。
 
リインが生まれて、今日でようやく一年。まだやっと一年なのだ。
ようやくこの世界に慣れてきた彼女を変に弄って調整を変更し、感覚の違いに混乱させたくはない。
 
実害がないのなら、もうしばらく見守るべきであろう。なにぶんユニゾンバイスの運用データなど、皆無に等しいのだ。
リインがユニゾンタイプであるが故の問題であるかもしれないのだし、ここは慎重に。
もう少し情報や彼女の具体的な感覚がはっきりしてからでもおそくないだろう。
 
「ま、今日でリインも一歳やしな。それで大きくなりよるんかもしれんで?心も身体も。成長期ってやつや」
「わあ、ほんとですかー?」
 
いくら生まれて間もないとはいえ、デバイスである以上自然に成長するということなどありえないのだが(経験を積み「学習」をすることは可能)、
当の本人はそのことにも気付かず無邪気に嬉しそうに両手を挙げて喜ぶ。
その喜びように、はやての頬も綻ぶ。
 
「みんながこうやって祝ってくれる、っていっとるんやから、ちゃんとお礼言わなあかんよ?ありがとうございます、ってな」
「はい!」
 
壁の時計に目を遣る。
 
ヴィータたちがなのはとユーノを連れて帰ってくるには、もう少しかかるだろう。
こうして立ったままでいるよりも、他の皆と一緒にリビングでゆっくりしているほうがよさそうだ。
 
「うし、ほんならなのはちゃん達が来るの待っとこか。あとでアリサちゃんたちがリインに新しい服着せてくれる言うとったで」
 
一旦、キッチンの電気を落とす。四人の到着する時間に合わせて、デリバリーのピザも届くことだろう。
足にひっかけたスリッパの足音をぱたぱたと立てて、はやてはリインとともにリビングに戻っていった。
 
*   *   *
 
─同時刻、時空管理局本局・査察部─
 
書類が山と積まれ、雑然とした机上の通信機から発せられる電子音に、男は目を覚ました。
 
「……はい、こちら監査局、ヴェロッサ・アコース───」
『私です』
 
机で転寝していたことに気付き伸びをしつつ回線を開いた彼の耳を、
ぴしゃりと聞き覚えのある声が打つ。
 
半分眠ったままだった頭が、その声にようやく働き始める。
 
「……シャッハか……どうしたんだい、こんな時間に」
 
声の主は、シャッハ・ヌエラ。ベルカ聖王教会所属にして、彼の義姉を補佐する優秀な修道士である。
 
『心外ですね、こんな時間とは。まだ常識的な人の活動時間ですよ』
「そりゃ、失礼」
 
生真面目な彼女はやたらと自分に対してきつく当たってくる。
どうもこの軽さが気に入らないようなのだが、生まれ持った性分なのだから
直せと言われてもそれはそれで無理な話だ。
 
「で、何事?」
『……そうでした。至急、はやてと必要な人員を連れてこちらに来て欲しいのですが』
「はやてを?」
『ええ。できれば一両日中くらいには』
 
つまるところ、大至急とはいかないまでも、それなりに急ぐ必要はあると。
彼女の言葉を噛み砕いたヴェロッサは、理由を問い質す。
 
「何かあったの?カリムは?」
『カリムが今教会を留守にしているからこそ、あなたに言っているんですよ。義弟のあなたに』
「ま、そりゃそうだ」
 
肩を竦めて笑ってみせると、むっとした表情が返ってきた。
これもお気に召さないらしい。気難しい女性だ、まったく。
 
『……もういいです』
 
空間モニター上の彼女が手元のコンソールを操作すると、
一件の資料ファイルがヴェロッサのもとに届いた。
さっさと開き中身に目を通すヴェロッサに補足するように、シャッハは説明していく。
 
『先日、ベルカ地方で発見されたロストロギアです。今日、聖王教会に持ち込まれました』
「みたいだな、随分とこれは古い……」
『発見した研究者たちは、管理局での詳しい調査と解析を求めています』
「古代ベルカのロストロギアは貴重だ、そうなるとやっぱり担当はエキスパートが必要になるか」
『ええ、ですからはやてを向わせていただければ』
 
古代ベルカ式の術に精通する者は、少ない。
はやてやヴェロッサといった優秀な使い手を保持する管理局でも、ごくごく僅かなものだ。
 
「ん、わかった。見た感じ、僕よりもはやてのほうがよさそうだね、これは」
『ええ』
 
彼女が言い終わる頃には、ヴェロッサはキーボード操作をほぼ終えていた。
既に机上には一枚の出動依頼書が、書きあがっている。
 
「了解。遅くとも明後日までにはそちらに向かうよ」
『お願いします』
 
通信が途絶え、部屋に静寂が戻る。
 
「そういやはやてたちは、今日リインフォースの誕生会だったか」
 
送られてきた資料をもう一度見返しながら、彼は呟いた。
 
「夜天の書。闇の書。……そして、蒼天の書。こりゃ、一体何の偶然なんだか」
 
夜天の王にして、魔導書の主。
親しい少女の顔が、脳裏に浮かぶ。
 
「通称“the lost encyclopedia”……───「失われた魔導書」。ったく、悪い冗談だよ」
 
あの子だって、自身の魔導書をかつて喪っているのだから。
そんな彼女に対して、護送と調査の以来が舞い込むだなんて。
 
冗談にしては、全く笑えない。
皮肉としても、あまりに気の利いていない皮肉だと、ヴェロッサは溜息をついた。
 
 
<つづく>