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じゅーきゅーわ。

はい、she&me19話できあがりました。
スレ投下分の39〜40話に加筆したものです。
もうそろそろ、終わりが見えてきた感じですね。
では、どうぞ。
 
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魔法少女リリカルなのは〜She & Me〜
 
第十九話 eternal blaze
 
(───右側への対応が……少し遅い、かな)
 
流石にフェイトは、場慣れしている。
魔法戦闘に不慣れなアリシアに代わって己が身体の魔力をうまく制御しながら、その動きに気を配ることも忘れない。
 
的確に、バルディッシュへと指令を下し、アリシアの戦いをサポートする。
 
(───バルディッシュアリシアは左利きだよ。右への反応、お願い)
『yes,sir』
 
だから、アリシアは戦える。一人じゃないから。
フェイトと二人、一緒だから。
 
*   *   *
 
眼前で起きている出来事に、クロノは正直驚いていた。
 
杖と杖が交差し、火花を散らし。
金髪の少女は黒衣の大魔導師─と。
正確にはその姿や能力をロストロギアによって再現されたコピーではあるが……と、ほぼ互角に戦っている。
 
理性を失っているとはいえ、その力は本物のプレシア・テスタロッサとはさほど変わりはないはず。むしろそれ以上だろう。
万全の状態のクロノやフェイトならともかく、随分消耗しているその身体で、
しかも素人のアリシアがこれほど戦えるとは、クロノも思っていなかった。
 
(本当に……戦っているのは、「アリシア」なのか……!?)
 
その動きの機敏さに、戦闘を行っているのが自分の妹であるかのような錯覚すら覚えるクロノ。
だが、あれはアリシアなのだ。その魔力が何よりも確かな証拠として、教えてくれている。
 
それでも、残された記録では彼女はプレシアの魔力資質を大しては受け継いでいなかったはず。
ミッドチルダの人間である以上魔法が使えないということはないだろうが、ほぼただの一般人と言っていい。
そんなアリシアが、何故。
 
クロノの驚きもその意味では至極当然であった。
 
(……あるいは、資質が単に眠っていただけか?母親のプレシアすら気付かなかったほど、奥深く)
 
なんにせよ、クロノには彼女の───いや、彼女たちの戦いを見守ることしか出来ない。
そのことを歯痒く思いながらも、彼は妹たちの無事を祈った。
 
*   *   *
 
『Difencer』
「く!!」
 
プレシアの光弾をシールドで受け、衝撃に後退したアリシアの心にフェイトが注意を促す。
彼女たちの身を守った光の盾は、ダメージに砕け散っていた。
 
(───アリシア、できるだけ避けて。魔力にもう、あんまり余裕がないから)
「わかってるっ!!」
 
更に飛んでくる数発の攻撃をぎりぎりで避けつつ、アリシアはその声に叫び返す。
あまり感情を露にしないフェイトに比べ、彼女はいささか熱くなりやすい性格をしているようだった。
 
明らかに、苛立っている。
 
「っく!!これじゃあ!!」
(───うん。やっぱり「母さん」は、強いね)
「だからわかりきったこと、言わないでよ!!っ……と!!このっ!!」
 
振り向きざまに放ったフォトンランサーはシールドに弾かれ、そのまま四散していく。
舌打ちする間もなく(これがフェイトならば元からそんな不躾なことはしないのだが)、跳躍するアリシア
 
光弾の火線が、彼女を追っていく。
 
母の心をこれ以上傷つけないため。願いを汚さないため。
そう決意し戦うアリシアは、戦闘経験のない彼女としてはよくやっている。
だが、どうしても決め手に欠けているということもまた、事実。
そのことについて彼女がいらつきはじめていることはフェイトも把握していた。
戦闘が初めてのアリシアが焦りを感じるのも仕方のないことではあるとは思うが。
 
「あーもう、硬いっ!!フェイト、何かないの!?」
(───この状況じゃ、どうにも……母さんの攻撃さえ、しばらく止めることができれば……)
「無茶言わないでよっ!!」
 
魔力やカートリッジの残量からプラズマザンバーは無理にしても、ある程度の大技なら使える。
 
しかしそれでも母のバリアーを抜くのは厳しい、フェイトはそう考えていた。
 
「このまんまじゃ、いつか……っ!!」
(───アリシア、落ち着いて。今は冷静に)
「だけど!!」
 
これが落ち着いていられるものか。
フェイトに対し、叫ぶアリシア
無論フェイトとてこのままではまずいということくらい、わかっている。
 
立ち回りをアリシアが担当し、魔法の制御やバルディッシュへの意志伝達にフェイトは集中して。
そして更にその上で、防御などの総合的な補助をバルディッシュが行っている、そんな状態で。
 
三人がかりでようやくここまでプレシアと互角に戦えているのだ。これ以上を望むのは贅沢というものだ。
 
とにかくまずはアリシアの頭を、冷やさないと。
これでは、勝てるものも勝てなくなってしまう。
そう思い立ったフェイトであったが。
 
「……ア」
「!?」
「アリシ……ア」
 
───遅かった。
 
彼女が語りかけるより先にプレシアのつぶやきが、アリシアの意識をそちらに向けさせる。
フェイトは、先手を打たれてしまったのだ。
 
「……アリ、シア。私と……一緒に……」
「く!!言わないで!!お母さんの姿で、そんなっ!!」
 
いけない。これに乗ってしまっては。
だがそれも、あとの祭りで。
 
アリシア……私の……」
「しつこい!!この、黙りなさいよっ!!」
 
光弾の嵐をかいくぐりながら、「母」の言葉にアリシアは一層苛立ちを募らせていく。
 
(───聞いちゃだめ!!アリシア!!)
 
ただでさえ彼女は冷静さを失いかけているというのに。
埒の開かない戦況に加えプレシアの言葉はアリシアの神経を余計ささくれさせるのに十分だった。
 
「我が望み……愛しき者の再誕……我が望み、愛しき者との永遠…」
「こいつ……言わないでって……!!」
 
アリシアの全身が、沸騰していくのが分かる。
 
(───アリシア!!落ち着いて……!!)
 
それは、フェイトにも十分理解できる感情であったから。
だが彼女と違い、姉であるアリシアは、それを抑える術を知らない。
 
「我が望み……贋作の、抹消……」
「!?」
「抹消する……紛い物を……」
 
そして、それは決定的な一言だった。
 
「……言うなって」
(───アリシア!!)
「言ってるでしょっ!!!」
 
フェイトの止める声も、彼女は聞き入れることなくつっこんでいく。
 
贋作、その致命的な一言に完全に頭に血を昇らせて。
 
フェイトは贋作なんかじゃない。大切なもう一人の私。そしてかけがえのない妹。
フェイトが贋作だというのならば、母の姿を模したお前は何だというのか。
 
言わせない。絶対に。
もう、これ以上母の顔でそんな言葉、吐かせてなるものか。
お前とフェイトは違う。この子はちゃんと意志のある、人間だ───……!!
 
「贋作の抹消……愛しき者との永遠……」
 
だがアリシアの怒りを意に介する風もなく。
目の前に迫る、既に理性というものが存在しない「母」は無機的につぶやき続ける。
自分の思い通りにならぬ娘、アリシアさえもを紛い物と認め、その抹消をすべく魔力を行使する。
 
「ってえええぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
 
両手に構えたバルディッシュを、横薙ぎに打ち据える。
シールドと斧の纏った魔力とが干渉しあい、火花を散らすも、強固なバリアーはびくともしない。
 
「フェイト!!もっと、もっと魔力を!!」
(───アリシア!!お願いだから冷静になって!!)
「はやく!!これじゃこの盾破れない!!」
『Please become calm,sir』(落ち着いてください)
(───アリシア!!)
 
*   *   *
 
「まずい!!あの距離じゃ……!!」
 
妹達の迂闊な攻撃。
今までは動き回っていたからこそ、当たっても防げる程度の攻撃しか受けていなかった。
最小限のダメージで済んでいたのだ。しかしあの至近距離で動きを止めてしまっては。
 
「仕留めてくれって言っているようなものだぞ……!!」
 
だがそれを助けようにも、クロノの今の身体では、碌に身動きも出来ない。
まだフェイトから受けた電撃による麻痺が残っている。見上げることが精一杯だ。
 
(く……こんな時に!!)
 
彼は自身の動かぬ身体を罵る。
動け。動いてくれ。
 
───だがしかし、その必要はなかった。
 
彼に代わる者が、いたから。
 
「フェイト!!アリシア!!離れなさい!!」
「「……え?」」
 
響いた女性の声に、クロノが、アリシアが、同時に振り向く。
そしてその声に合わせクロノの横を抜ける紅き姿は、徐々にその身体を人型へと変化させゆく彼女の従者。
 
「フェイト!!」
「っ……リニス!?アルフ!?」
(───アリシア、よけて!!)
 
アルフの跳躍に、声の主は再び叫ぶ。
彼女達の意図を汲み取ったフェイトの指示を、リニスの登場に半ば混乱しつつあったアリシアは今度は素直に聞く。
 
「アルフ、今です!!」
 
指示に従いアリシアが身を翻した直後、後退した彼女と入れ替わるように。
 
「砕けろおぉっ!!!」
 
プレシアの展開するバリアめがけ、渾身の魔力を乗せた拳が叩き込まれた。
バリアブレイク。
主の攻撃を通す、ただそれだけのための、アルフ必殺の一撃が。
 
*   *   *
 
(本当に、いいんだね?リニス)
 
精神リンクを通じて伝わってきた、真実。
それは二人にも予想し得なかったことであり。
またアルフと今行動を共にする彼女にとってはとても辛いものであるにも関わらず。
 
リニスは首を縦に振った。主を、救わねばならない。
だからアルフも、大好きな彼女の決意に応えた。
 
(……私の主は、プレシア・テスタロッサです。主の心が囚われているのを見捨てては、おけない)
(わかった)
 
『nine』
 
「ぐうぅぅぅっっ!!!!こんのおおおおぉぉぉ!!!!」
 
だがそれでも、やはり、硬い。
並みのバリア強度ならば易々と粉砕するレベルのアルフのバリアブレイクを、プレシアは耐えている。
以前一度破った時とは、その硬度は段違いに増していた。
 
(くっ!!もう少し……もう少しだってのに!!)
 
わずかでもいい、少しでもこのバリアーを傷つけることができれば。
 
『eight』
 
「アルフ!!」
 
あれじゃ、ダメだ。クロノは思わず叫ぶ。
いくらアルフの特性が障壁破壊とはいえ、プレシアの展開するシールドは強固すぎる。
さきほどまでアリシアが置かれていた状況と彼女が入れ替わっただけでしかない。
せいぜいヒビが入るかはいらないかがいいところだ。
 
「大丈夫です」
 
クロノの心配を他所に、壁を支えにしながら立つリニスの声には自信があった。
余裕の笑みさえあるというほどはいかずとも、それは確信に近いまさに「自信」と呼べるべきものが。
 
「どうして、そう言える……!?」
 
『seven』
 
「決まってるよ」
「!!」
 
───答えたのは、少年の声だった。
 
「アルフから念話で聞いた。フェイトもアリシアちゃんも、彼女達だけで戦ってるわけじゃない」
 
少年はリニスの横を抜け、クロノの横にかがみこむ。
 
『six』
 
少年の言葉に、表情に。クロノは、ようやくあることに気付く。
 
聞こえてくる彼の声よりも後ろ。
ほとんど動けないクロノには見えないその場所に収束しつつある、よく知った魔力の波動の存在に。
そして一方で、激戦によってこの場に満ちていた魔力の残滓が、驚くほど減っているということを。
 
忘れもしない、この現象は。
この庭園内に居る者でそれを起こすことができるのは、クロノの知るかぎり、一人だけ。
 
『five』
 
「そういう、ことか」
「そう、そういうこと……けど、念には念がいる」
 
左手を掴まれたと思うと、少年はクロノの脇下に身体を潜らせ支えにし彼を立たせる。
 
『four』
 
「悪いけど、もう少し働いてもらうよ。時空管理局執務官殿?」
「……ああ、わかってるさ。お前もしっかり支えてろよ、フェレットもどき」
 
少年の皮肉に彼の嫌がるその呼び名で返して、クロノは右手のS2Uへと残った魔力を集中させていく。
 
「……僕だってやらなきゃいけないことはあるんだ。年下に頼らず自分でちゃんと立ってろ」
 
彼もまた空いた方の手に翡翠色の彼自身の魔力を集中させ、準備を進めている。
もう少し、あとは「彼女」の準備さえ完了すれば、すべては整う。
 
「年下扱いしたら怒ってたのはどこのフェレットだ?」
「うるさいな。それにフェレットはやめろ、このシスコン……ストラグルバインド、いけるね?」
 
『three』
 
「ああ」
ふん、シスコンで悪かったな。誰がシスコンで、誰が。だけどやれる、大丈夫だ。
 
僕はあの子達の「兄」なんだから。
あと少しくらい、がんばれるさ。妹が一生懸命やってるのに兄が休んでいてどうする。
 
クロノがもうひとふんばりする決意を固めたのにあわせ。
二人の少年の背中、その向こう側に星々の光が集まり、その桜色の輝きを増していく────……。
 
*   *   *
 
(───アリシア、私が合図したら全速力で飛んで)
「えっ!?」
 
突然の闖入者──アルフにうろたえ、見守るだけだったアリシアとは対照的に。
クロノ達と同じくフェイトは状況に気付いていた。
その冷静な声にアリシアは戸惑い、聞き返してくる。
 
(───いいから。もうすぐ!!)
「けど!!」
 
アルフは。
自分たちと入れ替わるようにシールドに挑んでいるアルフは、どうなるのだ。
 
(───もうすぐアルフが吹き飛ばされるはず。そうしたらブリッツラッシュ全開でつっこんで)
「でもそれじゃ、アルフが!!」
(───信じて)
「フェイト……」
 
先ほどアリシアがクロノに対して言ったように、
今度はアリシアに対しフェイトが、信じてくれることを願う番だった。
 
(───私を。アルフを、信じて)
 
『two』
 
「……わかった。アルフが離れてから、でいいんだよね?」
 
状況が同じなら、出した答えも同じ。
フェイトのことを信じられないなんて、あるはずない。
 
 
(───うん。すぐ「アレ」が来るから当たらないように気をつけて)
「「あれ」?」
 
あれって何よ。疑問に思ったアリシアだったが、聞くには時間がなさすぎた。
 
『one』
 
胸の中の少女のいう「アレ」が何であるかわかっていたなら、アリシアは全力で拒否していたかもしれない。
なにか別の手を考えるべきだと反対したかもしれない。少なくとも、生きた心地はしない。
フェイト自身、以前に正面から受けたときの恐怖を語っていたというのに、それをまさか、後ろから撃たせるなんて。
 
『zero』
 
「いくよっ!!本日二発目!!」
「へっ!?」
 
なにしろ、吹き飛ばされたアルフを確認し、
突っ込んでいく彼女をわずかにかすめ背後から飛んできたのは、よりにもよって。
 
「ブレイク……シューーーーーーート!!!!!!」
 
全てを貫き討ち滅ぼす、星の光───……なのは必殺の、スターライトブレイカーだったのだから。
 
 (つづく)
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