なんてやろーかな、と。

 
喪失辞書のオフセ版原稿の加筆作業も概ね完了しつつあるので。
 
てわけでエイプリルフール企画などやります。
 
(内容)
・メインとなるキャラと簡単なテーマを募集(根本のテーマはもちろん「四月馬鹿」)
・キャラはA’sまで(とらハのみのキャラは除く)+漫画版登場済みキャラから。
web拍手にぶちこんどいてください
・全体的に指名の多いキャラや、面白そうだと思った意見を参考にさせていただきます。
 
期間は本日から今週日曜23時59分まで。
一度やってみたかったのよ、こういうこと(ぉ
 
 
なのユー話、最後まで書き上げます。
やっぱ途中で投げるのはいけないよね。
というわけで更新します。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
 
 
 
魔法少女リリカルなのはStrikers −nocturne−
 
第六話 転換の使者達
 
 
『……master?』
 
レイジングハートの紅い宝石が、何かに気付いたように光った。
 
「はれれ?どうしたですか、レイジングハート?」
 
既に一同は、高町家関係者だけの控え室にひっこんで雑談に興じている。
 
あとは当人同士でどうぞ、というわけだ。
彼女を抱えたリインもまた、はやてについてテーブルで、頬にいっぱいくっつけながらガラスの器のバニラアイスなどぱくついている。
 
「あーほら、せっかくのスーツなんやから汚したらあかんで?」
「むー」
 
はやてが見かねて、紙ナプキンで口の周りを拭いてやる。
くすぐったそうに目を閉じたリインは彼女の手が離れたあと、
スプーンを置いて膝の上のレイジングハートをはやてに差し出す。
 
「はやてちゃん、なんかレイジングハートが変です」
「お?」
 
指先で摘んでも、レイジングハートから反応はなかった。
何か、他の事に気をとられているような。
 
沈着冷静な情緒の人工知能を持つ彼女にしては、非常に珍しい。
 
「どないしたんや?」
『……』
 
宝石ははやての言葉にも、終始無言。
彼女たちの元に異常が発生したとの報が入ってきたのは、それからわずかにあとのことだった。
 
*    *    *
 
男の言葉は、明瞭にして簡潔なものだった。
 
「それは……つまり僕に、帰ってこいと?」
 
ボロ布の外套のフードを下ろした男の肌は、日によく焼けていた。
屋外での作業を生業とする、ほぼ毎日常に照りつける太陽を浴び続けた肌特有の、健康的な光沢のある褐色に染まった色だ。
 
その彼は、言った。
 
「はい、ユーノ・スクライア。長老から……内々に重大な話があるとのことです」
 
それはまた、急なことで。
わざわざこんなところにまで使者を送ってくるとは、手間のかかる。
 
「それは急ぐこと……ですよね?ここまで来るってことは」
 
無言で頷く男。
重要かつ、迅速さを要求される案件のようだ。
 
ユーノはすぐに計算した。
一応学会の開催期間は明日までだから、休暇は同じだけ申請してある。
今部族がどの次元のどの辺りにいるかはわからないが、行って帰ってくるには十分だろう。
 
どうせ、碌でもない面倒な話だろうとは思うが。
 
「わかりました、行きましょう」
 
なのはのいるであろうホテルの方角を一瞬、見えないながらも見やりつつ彼は男に従った。
そんな自分の未練がましさが少々、情けなく思えた。
 
丁度いい踏ん切りではないか。
二つの選択肢で迷っていたところだったのだ、三つ目が提示されればそれを選ぶのも悪くはないだろうに。
 
感傷を振り切ろうと、彼は頭を振って歩を進めた。
 
*   *   *
 
「え……?スクライアって、ユーノくんの……?」
 
同じ頃、なのはは動揺していた。
 
突然現れた、幼馴染みの少年の同族。
その要求があまりに唐突すぎて、困惑する。
 
レイジングハートを、渡せ?彼女はそう言ったのか?
 
きん、と魔法の発動音が耳に届く。
 
「!?」
 
そして両腕、両足に広がる圧迫感。
四つの光輪が彼女の四肢を宙に持ち上げ、拘束する。
 
(バインド!?でもどうして……)
 
このように一方的な武力行使に出るなんて。
まだこちらは何の返答も、拒否姿勢も見せてはいないのに。
力づくで無理矢理にでも奪っていこうというのだろうか?
 
彼女の疑念に回答するように、目の前の女性は振袖姿の彼女へと迫る。
 
「ご高名は伺っております。万一ということもありますので、自衛のためとご了承下さい」
 
我々一族には、戦う術がございませんので。
ユーノ・スクライアのことを親しくご存知であるあなたなら既に知っておられるかもしれませんが。
 
いきなり人を拘束しておいて、女性は平然と言ってのけた。
荒野を長年流浪し生き延びてきた民族ゆえの生存の姿勢なのだろうか、これが。
 
たしかに女性からはさほど強力な魔力は感じない。
このバインドだけで精一杯というところだろう。
ならば、要求を拒否され矛を向けられた際の万一に備え、こちらの戦闘力を警戒したということか。
 
同族ということからか、魔力光の色もユーノのそれに近い。
 
レイジングハートを……お渡し下さい」
 
なのはとしては、しまったという思いが強かった。
 
もちろん問答無用でバインドをしかけてくるような相手に、事情も聞かずただはいそうですかと愛機を渡すつもりはない。
だが、自分を拘束するこの魔法は想像以上に術式が複雑に練られていて、とても自分ひとりの処理能力では簡単に解除できるものではない。
 
お見合いの間くらいは、とリインにレイジングハートを預けてきたことを、なのはは後悔した。
交渉をするなら、せめて対等の立場に立たねば不利だというのに。
 
「……レイジングハートは、今ここにはありません」
「?」
 
仕方なく、なのはは正直に答えた。そして問い質す。
この十年近くもの間なのはの下に彼女を放置しておきながら、今日この日、どうしてこのように強引な手段を採ってまで取り返しにきたのかを。
 
「でも、どうして?なんで今更、レイジングハートを?」
「……あれが、我々のものだからです。部外者の好きにしていいものではない」
「だったら、どうして今まで」
「我々は、ユーノ・スクライアのもとにあれがあるものと思っていました。故に動かなかった」
 
流浪の民故に、細かな情報まで精密に入手することが困難であり、そのため気付くことができなかったと、女性は言った。
 
「ですが此度……ユーノ・スクライアの身辺を調査していく上で判明したからには」
 
野放しにはできない、ということか。
あくまで自分たちのものは自分たちのものである、と。
 
レイジングハートを、お渡しください」
 
だからといって、そう易々と渡せるほど、なのはとレイジングハートの絆は短い時間に育まれたものではない。
この女性のことを完全に信用しきっていいものか、というのもある。
 
言っていること自体は理解でき納得が可能であるからこそ、なのはは戸惑い迷う。
 
「そんな……でも、レイジングハートは、わたしの……」
「我々の、です」
 
彼女の呟きを、女性は即座に訂正してくる。
 
バインドはまだ解除できない。
どちらにせよこの場にないものを渡すことはできないのだから、なのはは先程の言葉を繰り返すより他にない。
 
「今、手元には……ありません」
「お渡し下さい」
 
水掛け論に近い状況になっていた。相手を信用しきれないのはあちらも同じ。
手を出すのならばとっくにもう出しているだろうから、さほど身の危険はあるまいが。
それでも、女性の眉がぴくりと動いたのは見てとれた。
 
「──はい。そこまでよ」
 
直後、かちり、と激鉄を起こす音が化粧室にしては広い間取りに響く。
乱入者が、現れた。
 
「……!!」
「ティアナ」
 
女性の背後に、スーツを身に纏った少女の姿。
愛用の銃型デバイス、クロスミラージュを片手に、警備についていた部下が銃口を突きつけていた。
急いでここまで上って駆けつけてきたのだろう、肩が不規則に上下している。
 
「うちの隊長を襲うなんて、いい度胸してるじゃない。妙な動きしてみなさい、ぶっぱなすわよ」
 
二丁拳銃のもう一方を抜き、四連射でなのはの四肢を拘束するバインドを破壊する。
解放されたなのはは、手首に残る圧迫感の残滓を確認しつつ女性を改めて見据えた。
 
「……」
「動くんじゃないわよ。今他のメンバーが……」
「いいの」
なのはさん?」
「いいから」
 
なのはに促され、渋々ティアナは突きつけていた銃を下ろす。
 
「なのは!!」
 
駆け足の靴音を響かせて、フェイトも到着した。
三人の少女たちに囲まれ、女性はひとつ、溜息をついた。
 
「今日は、時間のようですね。高町なのは
「……あなたは」
 
そして足元に魔法陣が輝く。
おそらくは時限式か、予め術式を準備しておいたものを起動させたのだろう。
その場で組み上げたにしては、発動までの間が短い。
 
「!?」
 
取り押さえようと前に出るフェイトの進路に右手を上げて塞ぎ制し、次第に薄れゆく女性を見る。
 
「確かに些か、不躾だったようです。……一週間、待ちましょう」
「?」
「一週間後、答えをお聞かせ下さい」
 
それはなのはの対応を期待したものではなく、一方的な通告だった。
彼女の返事も待たず、空気に色素が溶け込むように女性の姿は消えた。
 
「なのは……今のは?」
 
ようやくフェイトが口を開いたことで、鏡に面したその場所に音が戻ってくる。
沈黙が消えたことで、ようやくなのはは肩から力を抜き、壁に体重を預けへたりこんだのだった。
 
女性の声が、耳に残った。
 
*   *   *
 
それからはもう、お見合いどころの状態ではなくて。
フェイトたちになんでもないから、となのはは首を振って誤魔化すくらいしかできず、ぼんやりとした気分のまま、うやむやにその日の会合は終わりを迎えた。
 
せっかくの日だったのに水を差すような雰囲気にしてしまい申し訳なく思っていたのを、相手のほうが気にするなと肩を叩いてくれたのが、救いであったかもしれない。
 
後日日を改めてもう一度会いましょう、と彼とその関係者側の人達はなのはを慰めてくれた。
 
けれどその声も右から左に音が流れていくようにしか、なのはには感じられなかった。
 
ただ確かなのはリインから受け取ったレイジングハートの、強く握りしめた掌中にあるはっきりとした硬質な感触と、彼女を突然に失わねばならないかもしれないという事実をつきつけられたということ。
 
そして今この時自分の側に、彼女を自分にもたらしてくれた少年。
ユーノが隣にいないという、それだけだった。
 
なによりもそれだけで、なのはの心は千路に乱れ、不安と混乱を抑えることができなかった。
大変なとき、困ったとき。そんなときいつも側にいてくれた彼がいない。
不安に揺れる心を、支えてくれる少年の姿が隣にない。
 
ひょっとすると結局なのはの心にとって最も大きかったものは、第一にそこなのかもしれない。
 
(つづく)
 
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