紅の牙が熱いです。
ツヴァイ最終回の尺の足りなさっぷりとかつっこみどころは色々ありますが、
自分はグラヴィオン結構好きです。
視聴済みのバリ作品の中では一番好きかも試練。
サンドマン様とかサンドマン様とかおいてけぼり食らって壊れるレイヴンとか。
鈴村声の主人公と桑島ヒロインはやっぱり結ばれないのねーとか思ってみたり。
スパロボに出てくれないかなぁ。
以下、web拍手レスです。
>なのユー話最高です!!次回の更新を心待ちにしています。
ありがとうございますー。頑張ります頑張らせていただきますとも。
なのユー自家発電のためにも(ぉ
>くそ、負けてられねぇ。凄い刺激になりました! byケイン
HAHAHAなにをおっしゃる、毎回読ませていただいて刺激を受けてるのはこちらですよw
刺激通り越してレヴェルの違いに軽く鬱入ることすらたまにorz
the day、第十二話を更新します。
スレ投下時とはサブタイトルもちょっと変更。
てわけで
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部屋のドアが、無機的な軽い音を立てて開く。
その音に振り向き、注がれる視線は数多かった。
なにかを言いかけて歩み出ようとしたはやてがシャマルに肩を抱かれ制され、眼鏡の少年だけが入室してきた者たちのほうへと進み出る。
「……なのは」
少女は、シグナムとクロノに付き添われ、隣のヴィータに心配げな目を向けられながら憔悴した表情で俯いていた。
両手には銀色に輝く、鋼でできた頑丈な手錠がはめられている。
魔力の行使もその手錠に組み込まれた術式によって、制限されていた。
「……」
当然といえば、当然の処置である。
局の定めた規律に背き、同僚に矛を向け。
一歩間違えば次元世界に危機を及ぼすかもしれない行動を、彼女はとったのだ。
形式上だけでも拘束をしなければ、他の局員たちに示しがつかない。
「フェイトが、待ってるよ」
だが、なのはを迎えた彼らの態度は、罪人を迎えるそれではない。
すずかと両手を握り合うアリサが、若干の非難めいた視線を送るだけだ。
少年が、やさしく彼女に告げた。
「……?」
そしてクロノが、彼女の手をとる。
僅かに視線と顔をあげたなのはの、手首の手錠に設けられたスリット部分に、待機状態のデュランダルが滑り、噛まされる。
デバイスからのデータを読み取り、ロックが解除され。
彼女の両腕を束縛していた金属輪が、直後に床へと落ちた。
自由になった少女の肩に、少年はそっと触れた。
魔法少女リリカルなのはA’s −the day−
第十二話 君の声さえ、もう
フェイトの体の状態は、彼らの到着までになんとか安定を取り戻し小康を保っていた。
ユーノに寄り添われ、肩を抱き押されるようにしてなのはは彼女のベッドの側に立つ。
人工呼吸器や、生命維持装置の類。
点滴のチューブなどが密集するベッド上の少女はあまりに痛々しく、半ば思考することを放棄したがっているなのはの今の頭では、眠る彼女になんといって声をかけていいのか、出てこない。
自分は、彼女を助けられなかった。
こうして誓いも果たせず、のうのうと舞い戻ってきた。
そんな自分に一体、何が言える?
「……ぅ」
微かな呻きが、呼吸器の透明なマスクに覆われたフェイトの口元から漏れる。
どきり、となのはは肩を怯えさせて顔をあげた。
瞼が数度動き、ゆっくり開いていく。
「フェイトちゃん……」
「なのは」
ぼんやりとした目だった。
なのはが辛うじてかけた声にも彼女のほうを向くことはなく、虚空を視線が彷徨っている。
声は思っていたよりも、しっかりと耳に届く通ったものだった。
呼吸のためのマスクで、くぐもってはいるけれど。
「……なのは?どこ?」
「───え?」
それだけならば、よかったのだ。
よかったのに。
「なのは?お兄ちゃん?どこ?母さん?」
酸素を供給するマスクで自由にならない首のかわりに、目だけをきょろきょろと動かして、彼女はすぐそばにいるなのは達を探す。
見えない位置では、ないはずなのに。
点滴のチューブの刺されていない右腕は虚空をかき混ぜるように掴んでいた。
「暗い……みんな、どこ?ねえ?」
「失礼。フェイトちゃん?」
何度も自分たちのほうを見ているはずなのに、彼女は同じ動きを繰り返す。
彼女の奇妙な動きに気付いたシャマルが、フェイトの手をとり話しかける。
「フェイトちゃん?私よ、わかる?」
「シャマルさん?あれ、どうして……」
「ちょっとごめんなさい」
なのはに彼女の手を握らせ、自分は医療用のペンライトでフェイトの目を照らす。
上下の瞼を押さえ広げて、丹念に。
小さいながらもライトの光は強く、傍から目に入ってくるそれに、なのはは瞼を細めた。
二言三言、フェイトに問診を交わしながらの診察。
しばらくそのやりとりを続けて、シャマルはライトの光を落とす。
シャマルの診察を受けている間じゅう、フェイトはその眼前にある眩い光量にもかかわらず、一度も瞬きをしなかった。
「……」
そして胸ポケットにライトをしまった彼女がだまって首を振ったのをみて、一同は理解する。
──彼女は、見えていないのだ。
リンカーコアの損耗・消失の進行に伴って、フェイトの視力はもう、失われているのだと。
声もなくすずかとアリサ、そしてはやてが肩を寄せ合ったまま崩れ落ちた。
他も一様に愕然と、その事実を受け入れざるをえなかった。
一同皆、言葉を失う。
けれど、なのはだけは違っていた。
「みんな、ここにいるよ」
そんな中で口を開いたのは、なのはだけだった。
「大丈夫、心配しないで」
握った彼女の手を、強く抱きしめて。
愛おしむように胸元に引き寄せながら、語りかける。
「眠ってる邪魔になったら、いけないと思ったから。もう少し眠ってて、いいんだよ」
「なのは?」
「もう……いいの……ゆっくり……っ」
「なのは」
頑張って無理につくった笑顔を、保ちきれない。
察したユーノが、なのはの頭を抱いてくれる。
嗚咽を、悟られてはいけない。泣いていることをフェイトに気づかれてはならないのだ。
彼のやさしさと気配りにも、涙が出た。
あとからあとから、とめどなく溢れ出てきた。
* * *
本当に、何も見えなくて。真っ暗で。
フェイトの目には、何も映っていなかった。
だけど、なのはがこの手を握ってくれている。
彼女の胸に、抱いてくれている。
それだけは、ぬくもりが、鼓動が教えてくれる。
──けれど同時に、彼女の震えが伝わってくる。
泣いているのかな。だとしたらそれは、きっと自分のせいだ。
自分は悪い子だな、と思う。
友達や、家族や。
大勢の大切な人たちに、いっぱい悲しい思いをさせているのだから。
みんなを悲しませるなんて、悪い子だ。
(……ごめんなさい)
だから、みんなに謝った。
(……ありがとう)
そして、みんなに感謝した。
謝罪の言葉よりもはるかにずっと、強く、強く。
こんな自分に対し、こんなにも思いを向けてくれる人たち、みんなに。
「母さん、お兄ちゃん。いる?」
「……ええ、ここに」
「ちゃんといるよ。なんだ?」
みんなが向けてくれた、その思いだけで十分な気がした。
「私、ね」
自分には、十分すぎて勿体無いくらいだとフェイトは思った。
「私……ここにいられて、よかっ……た……」
「フェイト?」
思いながら次第に彼女の意識は、闇に沈んでいく。
「あり……と……う……」
なんとか、間に合ったはずだ。
その前に言いたかったことが、なんとか言えたと思った。
兄と母に、自分の率直な思いを伝えて。
応じた二人の声が涙に濡れていないことに、密かに安堵しながら。
もとから見えなかった視界だけでなく、全てが黒く塗りつぶされていくような、そんな感覚の中へと。
なぜだかその闇を怖いとは、思わなかった。
ごくごく自然に、身体がそれを受容した。
くるべきときがきたのだと、すんなりとその中に沈んでいくことができる。
『──フェイト。会いにきたよ』
それはきっと、意識を失う直前。
大好きなあの子の声が、聞こえてきたから。
だから安らかに、フェイトは恐れることなくその闇を受け入れた。
* * *
「どいてください!!シグナムは看護師さんたちを!!」
「あ、ああ!!」
彼女は、再び昏睡に陥っていた。
身体にとりつけられたいくつもの生命維持装置の類が警告音を発し、なのはを押しのけたシャマルがせわしなく動き回る。
こうなると医学の知識のない、その場の殆どの人間にできることはない。
ベッドサイドからユーノ共々弾き出されたなのはと同様に、急変した事態を見守ることだけしかできない。
「そんな……はやすぎる……っ!!」
緊急を要する事態を告げる耳障りな発信音は、とめどなく鳴り響き続ける。
「フェイトちゃん……っ戻って、きなさい……っ!!」
懸命に処置を続けるシャマル。
まだ、時間はあったはずなのに。その思いが、焦りの表情からにじみ出ている。
病状の進行が加速度的で、急激過ぎる。
額に汗を浮かべ彼女の行う処置も空しく、計器に表示される数値が次第に低下していく。
明らかな下降線、急カーブを描いて。
「シャマル!!今看護師の応援が──」
「急いで!!」
振り向きもせず、怒鳴る。
怒鳴る間も手は動きを止めず、薬品の入った注射器をフェイトの腕に投与し、彼女の胸元にマッサージを施す。
助かれ。
助かってくれ。
その動きひとつひとつに、自分も含めた皆の思いをこめて。
「ダメ……フェイトちゃん、ダメよ……っ!!」
どたどたと騒がしい音を立てて、複数人の看護師、白衣の医師たちが室内へと踏み込んでくる。
急激に低下していく、フェイトの生命活動の数値。
それらはなにひとつ、踏み込んできた医療スタッフの手を借りても食い止めることが敵わない。
「ダメ、ダメよ……あがって、あがってっ!!」
いつしかなのはは、膝を折っていた。
シャマルの悲痛な叫びが、耳から耳へと抜けていく。
三人の親友達も、きっと同じなのだということを心のどこかで、理解して。
彼女の肩をユーノが支えていた。涙するエイミィの肩は、クロノが。
ヴィータは肩を震わせてシグナムの身体へと顔を埋め、体重を預かったシグナムは天を仰ぎ。
フェイトの母親たるリンディは気丈にも引き結んだ表情で、娘へと群がる医療スタッフたちを見つめている。
みんなが、見守っていた。
下がっていく数値と、けたたましい警告音を響かせる生命維持の機械に囲まれた一人の少女を。
精一杯、助かることを信じていた。
「……バイタル、ゼロです」
しかしついに、皆が見守る中。
全ての数値が、ゼロを指し示した。
機械たちの発する電子音が、空虚で単調なものへと、変化した。
慌しかった部屋は静寂に包み込まれ、彼らの耳の内を満たすのは、その無味乾燥とした音だけになっていた。
皆が皆、夢でも見ているような感覚だった。
(つづく)
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よかったら押してやってください。悶えます多分。つweb拍手