取り乱して申し訳ない。

 
落ち着きました。
メビウスは血圧をいい意味であげてくれるから困る。
泣いても笑っても来週で終わりなのか・・・。
リュウさんがヒカリ二代目になるのかなぁ。
ザムシャーに合掌。
 
以下、web拍手レスです。
 
>涙・・・
ここで終わらせたらバッドエンドですな(ぉ
遠い星から来た男も知っていたんだ涙の味を。なんつってな。
あと残り二話、お付き合いくださいー。
 
 
てことで、the day第十三話更新。
多分わかる人が見れば一発で元ネタのわかるサブタイトル(ぉ
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
 
 
桜色の光が、ゆっくりと落ちていく。
 
少しずつ、少しずつ。
暗い空虚な世界を切り裂き落ちていく光は、次第にその明りを弱めながらも、無音の中に確かに輝き続ける。
 
落着点を、目指して。
 
暖かな光は、どんなに掠れようとも、けっして消えはしない。
魔力を放出した持ち主の、不屈の心と同じように。
 
その輝きはまさに、希望の光。
 
 
魔法少女リリカルなのはA’s −the day−
 
第十三話 the day −約束の日−
 
 
真っ暗だった闇は、いつしか何も無い、真っ白な世界へと変わっていた。
 
どれくらい、そうしているのだろう。
いつからかフェイトは、足跡ひとつない雪原にも似たその世界に一人立っていた。
 
───どこだろう、ここは。
 
声を出してみようとして、自分の声が聞えなくなっていることにフェイトは気付く。
更には、この光景が視覚によって捉えられたものではないということも。
 
彼女の視覚には、なにも映ってはいなかった。
この白い風景は、自分の意識がそう認識している、感じている。
視覚ではなく、知覚によるものだ。
 
首を巡らせて辺りを見回したつもりでも、その感覚が無い。
見えなければおかしいはずの自分の身体すら、なにも見えない。
四肢は果たして、くっついているのだろうか。
 
(ここは……みんなは……?)
 
当然、誰もいるはずもない。
世界はどこまでも果てしなく白く、そして空虚だった。
 
なのに不思議と、孤独感は感じない。
ひどく満たされた気持ちで、不安はまったくといっていいほど浮かばない。
 <<──フェイト。ようやく、みつけた>>
 
その感覚が奇妙で戸惑うフェイトの感覚に、少女の声が響き渡る。
それは忘れようもない、聞き違えるはずのない、懐かしい声だった。
 
(……え?)
 
だが、その懐かしさはフェイトは疑問をより深くする。
何故、彼女の声が?夢の中以外で会ったこともない彼女の声が、どうして?といった具合に。
 
(!?)
 
次の瞬間。
彼女の問いに、答えるかのように世界が砕けた。
真っ白な360度四方が、粉々に崩れ去っていく。
 
そして、辺り一面に記憶からけして消えることのない、あの緑の世界が広がった────……。
 
*   *   *
 
時を同じくして。
 
まるで残り火のごとく小さく、儚いものとなった桜色の光が、到達すべき場所へと落着した。
 
偶然か。あるいは奇跡か。
結界の、小さな小さな綻びから漏れ出した魔力の光は、限りなく力を弱めながらも、確かにその光を保っていた。
 
ほんのわずかな光沢すら消える、この冷たい漆黒の世界にあっても。
輝きは触れるべきものへと触れる。
 
桜色の出会った水色の宝石は、音もなくそれを、内部へと取り込んだ。
 
暗闇に、今度は空色の輝きが灯り、そして消えた。
 
*   *   *
 
「……んな…………ちゃ……」
 
少女たちが泣き崩れる病室内で。
ユーノの腕の中から漏れてくるなのはの声を、クロノは虚空を見つめながら聞いていた。
 
──まるでなにもかもが空っぽに、抜け落ちたようだ。
 
ほんの数分前に失われた家族が自分の中に占めていた割合の大きさを、実感する。
これほどまでにあの子の存在は、大きかったのだと。
 
自分の胸のなかに、恋人の嗚咽を受け止めつつも。
クロノ自身もまた、自失としていた。
 
*   *   *
 
「久しぶりだね、フェイト」
「───え?」
 
その子は、気付けばそこにいた。
 
現れた少女に対し驚き、自分の声が出るようになっているのにもまた驚く。
見れば、なくなっていたはずの全身の感覚も、姿形も、いつの間にか己が肉体となって戻ってきていた。
 
「会いにきたよ、って言ったのに。さっさと行っちゃうんだもん」
「アリ……シア?」
「うん?」
 
まったくもう、と肩を竦める少女におずおずと尋ねるフェイト。
訊かれた当の本人は、何?といった感じで、フェイトが何を訊きたかったのかも気付いていない。
 
さも、自分と彼女がここにいるのが当然といった様子で、フェイトの次の言葉を待っている。
 
「ここ、どこ?」
「どこって……うーん?どこだろ?名前まではわかんないなぁ」
 
嘘をついているとは思えなかった。
少女は──姉は。無邪気に首を捻って、真剣に悩んでいる。
違和感を感じる自分のほうが間違っているのだろうかと思うほどに。
 
そう、彼女はアリシアテスタロッサ
かつて夢の中で出会った幼い姿の姉、その以前に見た外見とと何ら変わりはしなかった。
 
アリシア……君がいるってことは、その」
 
だが故に、フェイトは尋ねざるを得ない。
 
ここは、私は。
認めたくないことを、フェイトは自ら口にする。
 
「私は……死んだの?」
 
彼女の言葉に、小さな姉は首を捻るのをやめ。
真剣な表情をつくる、しばし黙りこくって──やがて、頷いた。
 
*   *   *
 
ロストロギア。あるいは、ジュエルシード。
 
かつてそうよばれていた「それ」は、魔力を得て蘇った。
その魔力に込められた、強く深い願いを受けて。
 
また、即座に外部環境が己の稼動に適さない、虚数空間であることを判断した。
 
よって、「それ」は。いや、彼は。
本来、外部に起動させるべき力を。
自身の内部、外殻に護られた己が内に、発動させた。
 
*   *   *
 
「……そう」
「肉体的には、ね。もうリンカーコアが限界だった」
 
もしかしたら。
そんな儚い願いは、崩れ去った。
もうきっと、あの場所には。みんなのところには、戻れない。
 
予想に違わず、自分は死んだのだ。
 
「ごめん、フェイト。きっと私のせいなんだ」
「ううん」
 
私の代わりに生み出されたり、しなければ。
俯くアリシアに、フェイトは首を横に振った。
 
「そんなことない。私、十分幸せだったよ」
 
近寄り、随分身長に差のできた姉を抱き寄せる。
強がりではない。心からそう思う。
 
「みんなと会えて。新しい家族とも暮らせて。それも全部、アリシアがいてくれたから。でなければ、私は生まれてくることはなかったんだから。少しもアリシアが気にすることなんてない」
「フェイト」
 
アリシアがいてくれたから、自分は一人にならなかった。
なのはやクロノ、リンディ母さんやはやて。みんなと出会うことができた。
そして今も、アリシアがいてくれるから一人じゃない。
 
「……ありがと。でも……」
アリシア。三年前のこと、憶えてる?」
「三年……前?」
「そう。闇の書の中で過ごした日のこと」
 
憶えていなくても、当然かもしれない。
なにしろ、あれは闇の書がフェイトに見せた、ほんのひとときの夢に過ぎないのだから。
あの夢で出会ったアリシアが、今目の前にいるアリシア本人とは限らない。
 
「……忘れるわけ、ないじゃない。ほんとうに嬉しかったんだから。妹に会えて、私」
 
だがしかし、彼女は憶えていた。
わずかながらも、共に過ごした時間を。
それが今、フェイトにはたまらなく愛おしく、嬉しく思う。
 
聞き手に回るアリシアとは逆に、彼女はいつになく饒舌になっていた。
 
「あのとき、言ってたよね。『現実でも、こうしていたかった』って」
「……」
「今なら、アリシアのその気持ちに応えられる。ずっと側にいられる」
 
あの日はきっと、このときのための約束だったのだとフェイトは思う。
雨の中、交わした言葉。あれは二人の今日この日のために結ばれた誓いだった。
三年前のクリスマスから続く二人のための、約束の日。
 
「だからね、私。怖くないよ」
「フェイト」
「私もやっと、一緒にいけるんだから。アリシアや、リニス……それに母さんのところへ」
 
*   *   *
 
起動した蒼い宝石が、暗い廃墟の中へと浮び上がる。
かつて、それを求めた魔導師の居城たる庭園に。
 
二条の光が放たれ、現れるのは二つの影。
同時に、完全に死んでいた機器系統に火が入り、重厚な音を立てて稼動が始まる。
 
黒衣と、白衣。
主と、使い魔。
頷きあった二人の女性の指が、キーボードの上をなぞっていく。
いとし子の燻る微かな命の炎を、再度強く燃え上がらせるために。
 
*   *   *
 
「……私だ」
 
胸元のデュランダルが通話の着信を告げ、クロノは渋々応答した。
無力感と虚脱感に、今は何もしたくないというのに。
 
切迫したオペレーターの声も、どこか遠いものに聞こえる。
 
『艦長、大変です!!』
「……どうした?」
 
よって受け答えも自然、投げやりなものとなる。
今は放っておいてほしかった。
どうして、そっとしておいてくれない。そんな態度になっているのが自分自身感じ取れる。
 
『時の庭園の動力炉が……稼動しています!!』
「……なんだと?」
 
エイミィを抱いたまま壁のほうを向き、報告に耳を傾ける。
そんな彼の背後で少女の身体から機材を外し、事後処理を進めていた医師たちの一人が素っ頓狂な声をあげた。
 
「バイタルがっ!?……復活しました!!」
 
*   *   *
 
「──ごめん」
 
しかし、フェイトの思いとは裏腹に。
アリシアは困ったように眉根を寄せて首を振ると、そっとフェイトの身体からその身を離した。
 
アリシア……?」
「ごめん。だめなんだ」
アリシア?」
 
どうして。障害なんてもう、あるはずがないのに。
繰り返し横に振られるアリシアの首に、フェイトは戸惑いを隠せない。
 
「言ったでしょ、『会いにきた』って」
「え?」
「フェイトは、戻らないと。待ってくれてる人たちのところへ」
 
アリシアの言葉に、フェイトは強く首を振る。
 
「でもっ……!!」
「大丈夫。リンカーコアさえ正常になれば、フェイトは助かるんだ。今なら、まだ」
「そうじゃなくてっ」
 
せっかく、会えたのに。
これからずっと一緒にいられると思ったのに。
そんなのって、ない。
 
かつてとは、立場が逆になっていた。
泣きそうな顔で見下ろす妹をアリシアは見上げ、微笑み諭す。
 
「フェイトには、私が母様にさせた思いを他の誰かに、させて欲しくないんだ。だから」
「……」
「だから、お願い。お姉ちゃんの言うことを聞いて?」
 
涙が、零れ落ちそうだった。
アリシアが手を伸ばし、目尻に溜まった雫を指先で拭き取ってくれる。
 
「こんなのって……!!」
「うん……ごめんね。二度もこんな辛い思いさせて」
 
悪いお姉ちゃんで、ごめんね。
姉の言葉がフェイトの心に一つずつ滲み入ってきて、堪えられない。
 
「そんな、ことっ……」
「ありがと、フェイト」
「私……わたし!!」
「いい子だから聞き分けて……お願い」
 
再び。今度はアリシアのほうから抱きしめてくる。
やさしく、強く。
フェイトは堪えきれない嗚咽を漏らし、涙を零しながらも、繰り返し頷く。
もう、それしかできないというほど、激しく。
 
それがアリシアの、望みだから。
 
「ん。いい子だ」
「アリ、シア……っ」
 
顔を上げて笑いかけてきた彼女も、少し泣いていた。
私のキャラじゃないね、なんて笑いながら。
 
「ねえ……最後にひとつだけお願い、いいかな?」
「何?」
「一回。一回でいいから。お姉ちゃん、って呼んでくれない?」
 
一回だなんて、そんな空しいこと、言わないで。
フェイトは彼女の身体をきつく抱きしめ、声を搾り出す。
 
「お姉……ちゃん……」
「うん」
「お姉ちゃん……お姉ちゃん……っ!!」
「ありがと……嬉しい」
 
満足げに、少女は笑った。
何度も連呼する彼女を見上げるアリシアの目は、紛れもなく「姉」の目だった。
自分の妹を案じ包み込む、その幼さとは不釣合いの輝き。
そんな姉の瞳を見つめ、拭っても拭っても溢れ出てくる涙を、フェイトはひどく熱く感じる。
 
「元気でね、フェイト」
「う、ん……お姉ちゃん、も……」
 
アリシアが、離れていく。
フェイトも、自分の身体が光に溶けていくのがわかる。
 
「いつか……また」
「またね」
「母さんたちに……よろしく」
「うん、任せて」
 
姉の姿が輝きに消え、見えなくなる。
彼女のほうからも、こちらはもう見えなくなっていることだろう。
声もか細く、遠のいていく。
 
「さよなら……またね、お姉ちゃん……」
 
手を振る姉の様子を、脳内に幾度も反芻して。
 
愛おしむべき彼女の温度を刻み込むように、フェイトは強く己が身体を抱きしめた。
 
 
(つづく)
 
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