気付けば朝でした。

 
まずはWeb拍手レスっ。
 
>ティアナ編に一票。8-9話の衝撃が大きすぎて…。
御意に。ティアナさん一票はいります。
 
>ちびっこかっぷるへんに欲望にそまった一票をいれておきます・・・汚れた大人なんですorz
大丈夫、このブログやってる人間がそもそも真っ黒に汚れた大人ですから。
 
>ヴァイスがうれしーとして、スタイリスト小松とか土井Pのポストも用意されるんでしょうか?
ヴァイスは言ってみればサイコロ3の代理Dのようなもんです。基本カメラはザッフィー。
いやだって、しゃべらないじゃないですか(ぉ
 
>the day非常に面白かったです。中盤の鬱展開は素晴らしかったです。
鬱展開は鬱な気分になりながらもなぜか筆が進む不思議。読んでいただいてありがとうございますー。
 
 
リンクに一件追加。いつく様の「瑠璃小窓」。久々に直球で18禁サイトなのでご注意ください。
 
  
はい、てことでようやくなのユー話14話更新です。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
 
──もう、歩けないかもしれないんだって。
 
それはたしか、フェイトが花瓶の水を換えに席を外した、そのタイミングであったように思う。
いや。自分の記憶に間違いはない。忘れるはずも、曖昧になってしまうこともあり得ない。
 
彼女が怪我をしたのは元を辿れば自分のせい。
遠い過去のあの日なのはと魔法を出会わせてしまった、ユーノに責任があるのだから。
 
「動かないの……手も、足も……力が、入らなくて……」
 
いうなれば、自分が傷つけたに等しい。
事故後殆どつきっきりのフェイトやヴィータたちが責めることはなくとも、心のどこかで己を責める自分がいた。
 
そして彼が傷つけてしまった少女はか細く、弱々しく震える声で、少年へと吐露を続けていく。
 
「魔力も……うまく……通ってくれなくて」
 
動かぬ、本来の利き腕である左腕ではなく。
辛うじて無傷に近い右手で、苦しげになのはは胸を押さえる。
ともすれば不安に支配され、恐怖に怯え泣き叫びだしてしまいそうな自分を律するため。
 
「もう……わたし。飛べない、のかなぁ……?」
「……なの、は……」
 
彼女が、他の誰かのために見せた悲しみはいくらでも見てきた。
苦難に直面した、自分ではない他人のため。なにもできない己の力不足や無力に、彼女は泣くことのできる人間だった。
 
そのなのはが、今にも自分自身に押しつぶされそうな涙声を搾り出している。
けっして弱音など吐かなかった彼女が、ほんの少し触れれば砕け散ってしまいそうに、弱々しい姿を見せている。
 
「やだ……どうして、こんなことユーノくんに言ったって……困らせるだけなのに……」
「なのは」
 
あとにも先にも、なのはのことをしっかりと両腕の中に抱いたのはその時だけだった。
 
「ゆ……の、くん……?」
 
あまりにも、彼女が儚げだったから。
包み込んでやらなければ僅かな風でさえ霧散してしまいそうなほどに、弱々しい彼女の姿をみてしまったから。
 
重傷の彼女の身体が痛まないよう、衝動的にではありながらも、そっと。
 
「ごめん」
 
言ったところでどうにもならぬとわかっていながら、言わずにはおれなかった。
 
「どうして……ユーノくんが謝るの……?」
「……ごめん」
 
自分の責任だという意識があった。
また、それでいてなお、もう一度彼女に自由に空を舞ってほしいという身勝手な望みがあることを自覚していたから。
 
「失敗したのは、わたしなんだよ……?ユーノくん、なにも悪く、ないよぉ……」
 
対照的になのはは、ただ強く。四肢で唯一動く右腕で、痛むであろう全身を強張らせ、強くユーノにしがみつく。
震える声を、密着した身体に響かせて。漏れ出てくる嗚咽を、ユーノは黙って聞いていた。
 
「──っ」
 
……そういう夢を、見ていた。ずっと昔の、たった一度きりの抱擁の出来事を。
 
そして彼がいたのは、祭儀のときを待つ控え室。
椅子に腰掛けたままいつの間にか眠り、扉の向こうからのノックの音に目覚めていた。
 
「新族長、お客様です」
 
補佐として付けられた女性の声が、途切れたノックの後に続いた。
 
 
魔法少女リリカルなのはStrikers −nocturne−
 
第十四話 桜の季節
 
 
ミッドチルダ北部・第四陸士訓練校−
 
「機動六課……フェイトかなのはかしら?」
 
来客の報に、コラードはペンを置いた。
補佐官の口から出た部隊名からの来訪者ならば、何通りかの心当たりはある。
確か、近々今度の会合日程の打ち合わせをすることになっているはずだ。
とすれば、八神部隊長ということもありえるか。
 
「いえ、それが……」
 
だから、名前を挙げた二人。あるいは部隊長の八神はやてが訪ねてきたものだとばかり思っていた。
しかし耳打ちするようにして補佐官の伝える名前は、彼女の想像から外れており。
 
柔和な細い目が、軽い驚きに意外そうに開かれる。
 
「あの二人が?」
「いかがなされますか?アポイントはとられておりませんが……」
 
補佐官が困惑気味に気を回すのは、双方の階級差によるものだろう。
突然に面会を求めやってくるには、あまりに不躾、無礼。
組織という縦割り社会においてけっして好まれることではない。
 
そのくらい、来客の相手はコラードの三佐という地位に対し不相応だった。
 
「いえ、会いましょう。わざわざ遠くから来てくれたのだし、相応の理由があるんでしょう」
「はっ」
 
もっともコラードはといえば、そういった体面を気にする人間ではないが。
元よりそんな堅苦しい規律は性にあっていない。
がちがちに規則を教える教育隊ではなく教導隊を志したのも、そんな理由だったか。
 
結果的にこの訓練校の学長をやっていくにあたって、それはつくづく正解であったように思う。
応接室へと来訪者たちを呼び込むべく補佐官が扉の向こうへ消え、コラードはひとりごちた。
 
「さて……主席コンビのじゃじゃ馬娘たちは、一体なんの用かしらね?」
 
*   *   *
 
短いうたた寝の最中に見た夢に、自身の未練がましさを覚える暇もなく。
 
「一体どういうことかな、これは」
 
一台の車が、高架道路を制限速度ぎりぎりのスピードでひた走っていた。
疎らな交通量をこれ幸いとばかりに車線変更を繰り返し、次々と追い抜き疾駆するそのフロントガラスから見えるのは、一組の男女。
 
「なにって。もちろん、ついてきてもらうんよ。ユーノ・スクライア司書長」
 
ハンドルを握る少女は、こともなげに言う。
 
「あんな辞表一通ではい辞めますー、で済む思たんか?きっちり事情説明しいや」
「……本局にかい?」
「ユーノ君は無限書庫の司書長やろ?そうほいほい辞められたんじゃ業務にも影響出るし、他の人間に示しもつかん」
 
たとえ、あくまでも民間委託業務を行うだけの仮の局員であったにしても。
 
そう言われては、黙り込むより他にない。
個人的な感情をぶつけられるならともかく、理詰めで攻めてこられては。
急なことで碌に事情も説明せぬまま局を後にしたという自覚は、ユーノにもある。
 
「けど、もっとやり方があったんじゃないか?」
 
だが、これはいかがなものだろう。
 
突如、一人の女の子を連れて(フェイトの部下の……たしか、キャロと言ったか)現れたはやては、顔を合わせるなり彼とその補佐役へと式典の延期勧告を申し渡し。
否応を返答する間もなく半ば拉致にも近い形で彼の腕を引っ張って無理矢理に転送ポートへと押し込んだのである。
 
「警備の不十分と出席予定者たちの持ち込むであろう個人所有ロストロギアの希少性……もっともらしい理由ではあるけど、こじつけ以外のなにものでもないだろう?」
「生憎と、情報が錯綜しとってな。事実の誤認やら判断ミスなんてのも現場ではよくあることや」
 
ここが攻守の入れ替え時だった。
自分を出頭させるためだとしても、やり方に強引が過ぎる。
ただ本局に連れて行くだけならば、勧告書なりなんなりを持参してくるはずだ。だがそれがない。
彼女はまだ真意を隠している、そんな気がしてならなかった。
 
「……どうして誰にも何も言わんと、こんなことしたんや?ユーノくん」
「?」
「なのはちゃんのためなんか?ほんまにユーノくんは、それでええんか?後悔や未練はないんか?」
 
運転のために前に向けられていた視線が、わずかに一瞬こちらに向けられる。
射抜くような鋭さは、幼馴染みといえどやはり一部隊の隊長クラスの海千山千の眼光。
 
そしてその問いかけこそが、彼女の真意だった。
 
全て知っているような──いや、知っている口ぶり。
侮れない。ユーノは入れ替わりかけた攻守が再び戻ったのを実感する。
彼女が知っているのならおそらくは、フェイトも知っているはず。
でも、どうして。
 
「……またそれか。きみには関係ないだろ。それに、僕がいなくったってなのははやっていける」
「『僕がいないほうが』やなくって?」
「なっ」
「拗ねるんも自虐もええかげんにしとき。聞いてて腹立つわ、それ」
 
急カーブ。殆ど減速することなく、危なげなしにはやては曲がりきる。
標識の表示に従い、高架の出口へと車体の方向を向ける。
 
「別に私が迎えにきたんは、別に本局にひっぱってくためってわけやない。そんなもんおまけや」
「え?」
「けど、このまんまじゃきっと後悔するから。なのはちゃんもユーノくんも。やから連れていく」
「どういうことさ」
 
ハイウェーを降りた先も、車の波は流れていた。
問い返しながらも多分、ユーノははやての言葉に欠けている目的語がなんなのか、漠然とわかっていた。
 
それは苦々しくもあるし、そこに向かっていくことは少し怖くもある。
決別を決心した、今となっては。
 
「説明ぐらいしたったらどうなん、ってこと。誰に対してかまで言わせたら、流石に怒るよ」
 
ほどなくウインカーが点滅し、車は右の道へと入っていく。
その方向は、本局のある本来の方角とはまるで違うものだった。
 
「ほんま見せてやりたかったわ、ユーノ君がいなくなったて聞いたときのなのはちゃんの様子」
「……」
 
車の向かう先にあるものは、多くの次元間航行船が係留される港への一本道。
ドックでの整備を終えた艦や船がその身を休める、いわば次元の港の最先端にある桟橋だ。
 
「きっちり自分の口で言うこと言って、自分の耳で聞くこと聞き。私から言えるんはそれだけや」
 
──なのはも全てを、知ってしまったのだろうか。
 
そこには真新しい白銀の船体を、夕日に染め上げて。
一隻の艦が車から降り立つ二人を待っていた。
 
「たまには欲張っても、罰は当たらんのと違う?」
 
“クラウディア”、そうミッド語で刻まれた艦名のレリーフが、目についた。
 
「いい加減、正直になってもええと思うで」
 
吹いた強い風にたなびくことのない短くなったユーノの後ろ髪を、はやてが寂しげに見つめていた。
 
*   *   *
 
「……そう。うん、わかった。ごめんね、うん。……うん。今度帰ったときにカレルたちにお土産買ってくから」
 
おそらく義兄からの小言やぼやきを聞かされていたのだろう、携帯電話を手にした親友が戻ってくる。
顔をあげて見返すと、心配ないから、という表情で小さく手を振る仕草が返ってきた。
 
腰掛けたベンチが、ひんやりと気持ちよかった。
 
あのときもちょうどこんな風にここに座ってたんだっけ、と。
その冷たさが、無性に顔を綻ばせる。
  
──もう、十年前か。
 
あれはもっと暗い、時間もおそい夜のことだった。
今と同じように日中は暖かく過ごしやすく、また日没後は涼しく快適な春の夜。
 
自分は、魔法と出会った。
 
彼の、名前を聞いた。
 
「不安?」
「……少し」
 
桜も散りつつある、この季節。
今なのはのいる、同じこの場所で。
 
はじめて、互いの名を呼んだ。
 
「はやて、張り切りすぎて無茶してないといいんだけどね」
「……うん」
 
だからここは、二人にとって本当の意味で始まりの場所。
魔法とか、そういうのは関係ない。
互いが互いを単なる存在ではなく、ひとりの人間として認識したその瞬間が生まれた場所だから。
この場所でなのはは、彼を待つ。
十年前のあの夜、彼がなのはのことを必死で待ってくれていたように。
 
名前と同じように、伝えたい。伝えなくてはならないことがあるから。
彼から聞いた名前と同じように、聞かなくてはならないことがあるから。
 
ごめんなさいをして、ありがとうを言って。
今更、もうおそいのかもしれないけれど。もうどうにもならないことなのかもしれないけれど。
 
(──伝えるんだ、わたしの気持ち)
 
緑のリボンを握りしめる。
伝えなくては。高町なのはが、ユーノ・スクライアに抱く、この想いを。
 
たとえもう手遅れでもはっきりと。
きちんと言葉にして、悔いのないように彼に伝えるのだ。
彼に対する偽ることのない、まっすぐな気持ちをただ。
 
「来た」
「……うん」
 
十年前には、当たり前に見ていた光景。
魔法の概念が存在しないこの世界に開く転送魔法陣という構図が、なんだか懐かしく、新鮮だった。
 
友は席を立ち、公園の奥へと下がりなのはを一人その場に残す。
ありがとう、と声を出さず口の動きだけでなのはは彼女に感謝した。
ここから先は自分ひとりでやるべきことだから。
友に甘えてはいられない。
 
掌に、緑のリボンを握り。
展開中の魔法陣から人影が現れるのを、なのはは待った。
 
お互い待ちすぎ、待たせすぎた時間を、終わりにするために。
 
 
(つづく)
 
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