一応。

 
今後も不定期にこの時間軸の話はやってきますが。
 
まずはWeb拍手レスっ
 
>はやては父性には事のほか弱そうなので私的にはアリです(笑)>ゲンはや
確かに年上好みっぽい印象はありますね。でもね、ガチで生々しい話ね?
5つ差でも結構大変なもんですよ?(何が
 
>sts九話補完の話wktkして待ってます。
九話ってより九話と事故前後の補完ですなー。
 
>事故に関しては本編でもう一回ぐらい言及されそうな気が。この時の未確認がドローンの試作品とか
んー、なんかそれっぽいかも。
 
>エピローグ、楽しみにしています!!
書き上げましたっ!!(トドロキくんスマイルで)
 
 
はい、てことでエピローグでございますー。
なんかフェイトばっかしゃべってるのは仕様です。
↓↓↓↓
 
 
 
 

ここだけの話。あくまでも、ここだけの話だが。
実を言うとフェイトは、車庫入れはあまり得意ではない。
個人的な好みからすればどちらかといえば車の少ない広い道を、心の赴くまま走らせているほうが好きだ。
細かい微調整の必要な駐車──特に後ろを見ながらの駐車ははっきりいって、苦手である。
魔力の行使にしても加速が得意な一方で細かな誘導が苦手、と兄や訓練校の恩師達に評されたことといい、性格的なものなのかもしれない。
 
もちろんかといって、せっかくのお気に入りの愛車をぶつけるわけにもいかない。
捜査主任として外回りに出ることの多いフェイトにとって、車は貴重な足である。
大体下手糞な運転で車庫入れに失敗しました、なんてことがあっては、エリオやキャロ、スバルにティアナといった部下達に対して隊長としての威厳も何もなくなってしまう。
 
故に隊舎隣のガレージへと車で戻ってくるその瞬間は彼女にとって、一日で最も神経を使う時間かもしれなかった。
 
「……よし」
 
そして、今回も無事成功。ちょっとスペースからはみ出て斜めを向いているのは、気にしない。
思わず安堵の息がこぼれる。助手席のフォルダを手に取り、キーを抜く。
時間はもう、随分と遅い。これでは今日はキャロとエリオにかまってやるのは無理かもしれない。
ロックを確認、踵を返すフェイト。
 
……と、そこで時間のことを思い出したおかげで、あることに気付く。
 
「あ、しまった」
 
この時間では、もう食堂は終わっている。
夕方から忙しく働いていたおかげで夕食がまだの身としては、これは少々困る。
記憶する限り、部屋に食べ物といえば簡単なお菓子くらいしか残っていなかったはずだ。
 
どうしよう。このまま車に戻って何か買いに出るか。
だが少々郊外にある隊舎からだと、この夜遅くに営業しているような飲食店を探すのにはちと面倒だ。
その神速の戦闘スタイルと同じように、フェイトはこれからどうすべきか思考を巡らす。
 
「ま、何かデリバリーすればいいか」
 
結論はすぐに出た。
 
「どうせ今日は一人なんだし……ね」
 
そう、親友と、その娘と暮らす三人部屋に今夜は、ひとり。
もう一方の住人であるルームメイトはちょっとした野暮用で、幼子のほうは検査明けにもう少しかかる。故にどちらも隊舎を空けている。
 
繋げた想いが、二度と切れてしまわないように。彼女は「彼」とともに、古き部族へと最後の交渉へと向かっていったのだ。
 
──宅配サービスのメニュー表、どこにしまったっけ。
 
ひとまず注文して、シャワーを浴びて。
お茶でも飲みながら一日の疲れを癒すとしよう。
 
これからの順序に思いを巡らせながら、フェイトは所々の窓から灯りが漏れたり、落ちていたりする六課の隊舎へと足を向けた。
 
誰もいない、主の片割れが帰ってくるのををただ待っているだけのはずの彼女の部屋からもまた、何故か白い光が窓から漏れていた。
 
 
魔法少女リリカルなのはStrikers −nocturne−
 
エピローグ 空も飛べるはず
 
 
部屋の中は、真っ暗でなければいけなかった。
だって、誰もいないのだから。
誰からも返事の返ってこないただいまを言って、自分で灯りを点けて。
ぐだぐだとデスクに届いたメッセージや書類に目を通しつつ着替えて、おそい夕食に備えるはずだったのだ。
 
なのに。
 
「おかえりー、フェイトちゃん」
 
鍵を回して入った部屋は明るくて。
 
「今日、外回って打ち合わせだって聞いたから。ご飯まだでしょ?」
 
テーブルの上には簡単なものでありながらも、暖かい湯気と芳しい香りを漂わせる料理が並んでいて。
 
「戻ってきた時間が時間だったから、こんなもので悪いけど」
 
なんで、鼻歌混じりに食器を洗いつつ出迎えてくれる友が、いるのだろう。
 
「えっと、なのは?」
「ん?」
 
落ち着け、落ち着け。
とにかく、今ここに彼女がいるということ、そこだけは動かし難い現実なのだ。
冷静に話を聞いて、状況を整理しよう。
 
「どうしてここにいるの?ユーノは?」
「ああ、全部終わっちゃったから。だったらお互い早く戻ったほうがいいよね、ってことで」
「終わった?」
「あ、いや。追い返されたとか、そんなのじゃなくって」
 
それは一体、どういう意味で言っているのだろうか。
まさか、と悪い方向にフェイトの思考が向く。
友の顔が曇ったことに気付いたなのはは洗い物の手を止めて、慌てて否定した。
 
「わたしも会うのはじめてだったから、もっと気難しい人たちなのかなって思ってたんだけど」
 
壁にかけてあるタオルで両手を拭い、どうぞ、と料理を示す。
その動作に促され、フェイトも席に着く。
 
制服の上着を脱いだ彼女が人心地ついたのを見て、なのはは話を続けた。
 
ユーノとともに訪れた、スクライアの部落でのこと。
そこで受けた、予想以上のあたたかい出迎えに少々面食らったこと。
 
彼女からの話を聴いた上でよくよく考えればそれは、新しい一族の長の客人である以上当たり前のことではあるのだが。
 
「それで、はやてちゃんとレティ提督、リンディさんのお手紙を渡して」
「手紙……ああ」
 
ユーノの依頼退職をつっぱねる内容と、引き続き民間の学術研究者と立場での管理局への協力を要請する内容。
またそれに際して一族の長としての職に補佐・代行を設置してはどうかという提案。
はやてのものにはシャーリーの作成したスクライア出身の著名な人物らのリストが添えられていたはずだ。
 
名うての提督二人に、若手出世株の筆頭として報道に載ることの多いはやてからの親書である。
いくら歴史が古いとはいえ流浪の一部族の態度を変化させ、恐縮させるには十分すぎるものだったのだろう。
 
もっとも、それを渡した当のなのはは彼らの態度が急変した理由には気付いていないようであるが。
 
「そっか、それじゃあ」
「うん」
 
もう大丈夫だろう、と言い出したのは彼のほうからだったけれど。
 
そんな前置きとともに、なのはははにかんだ微笑を見せて。
小さくVサインをしてみせた。
赤らめた頬が、今までになく綻んでいた。
 
*   *   *
 
……が。
 
彼女がそのVサインを親友に見せるに至った原因を作った本人はというと、それどころではない状態で。
 
「こんのアホたれーっ!!」
 
景気のいい乾いた音が、人気のない夜の無限書庫に響いた。
無重力に浮かぶのは、こめかみに青筋を浮き立たせた少女と、左頬にでかでかと大きな紅葉を作ってふっとばされていく青年。
青年が周囲を囲む書架にぶつかる前に体勢を立て直したのを確認し、びしりと彼女は指先をつきつける。
 
どこぞの三度変身を残している許さんぞ虫けらどもな人や、あるいは世界をおおいに盛り上げる団長かといわんばかりに、びしっと。
何故そんなことをユーノが知っているかといえば以前ふと地球の本に興味を覚えた際になのはを通じて頼んだところ、アリサから送られてきたのがその手の本ばかりだったわけで。
あ、すずかからの分はまともな童話や物語が中心だったのだけれど。
 
「……い」
「い?」
 
ああもう、そんなことは本当にどうでもいい。
打たれた頬を押さえ、青年はゆらりと幼馴染みへ顔をあげて。
 
「いたいなっ!!入ってくるなりいきなり何するんだよっ!!」
「何するん言うんはこっちの台詞や!!せっかく休みあげたんに、なんでなのはちゃんが帰ってきとるんや!?」
 
怒鳴り声は、同じく怒鳴りつける声に返される。
視線と視線が交差し、数秒間の張り詰めた空気──少々大げさだが──が二人の間に流れる。
 
「……へ?」
「なんやねんなそのリアクションー!!」
「わ、こらはやて!!やめて!!やめてったら!!」
 
そんな空気も、一瞬でぶちこわし。
自覚なしに藪の蛇をつっついた彼は、ぽかぽかと頭を殴られる。
 
はやてとしては二人に、気を利かせたつもりだったのだ。
丸二日もあれば交渉にある程度時間がかかったとしても、十分にお釣りがくるだろう。
だったらその余った時間で、今まで離れていた分を取り戻してくれれば。そう思っていたのに、この男は。
寮のもといた部屋の準備がまだできていないからといって、書庫の当直室に寝起きする生活にさっさと戻ってくるなんて。
人の好意を無碍にするにも、程がある。
乳繰り合うなりいちゃこらしてくるなり、存分にやってくればいいものを。
 
なのはが夕方に部隊長室へ帰隊の挨拶にやってきたときは、なにかの冗談かと思ったほどだ。
 
「なのはだってそのほうがいいね、って言ってくれたし……」
「そーいう問題ちゃうわっ!!なのはちゃんがそーいう性格やわかっとるなら多少強引にでも引っ張って行かなやろ男の子!!」
 
もちろん、それを受け入れるなのはもなのはだ。
その点では相変わらずの彼女にも問題はある。
 
「でもやっぱ、ユーノ君が悪いっ!!」
「何がっ!?」
 
つまるところ、二人はどこまで行っても似たもの同士。
 
鈍感で、朴念仁で、周囲の人間のことを第一に考える。
 
まあ、だからこそ二人は十年という長い間変わらぬ絆を維持し続けることができたのだろうが。
 
「もういい、決めた」
 
でももう、彼ら、彼女らの関係は十年間のそれとは違うのだ。
あれだけ周囲を巻き込んで回り道をしながら辿り着いたその結末を受け入れておきながら、今までと同じでは済まない。いや、済ませない。
 
呆然としているユーノを放置し、はやては携帯を開き番号を操作する。
 
「はやて?」
 
なに、大したことではない。
こちらの世界で繋がる相手というのは殆どいないが、それで十分。
少しばかり、話のわかる上司へと連絡するのだ。
 
「あ、もしもし?レティ提督?」
 
幸いにして人事担当の恩師は、こういったことに非常に柔軟な思考を持ってくれているのだから。
 
「実は休暇申請を……有休で、はい。いえ、なのはちゃんとユーノくんに。はい、はい」
 
話が纏まるのには、十数秒とかからない。
万事、オーケー。
 
「うっし」
「は……はやて?」
 
どうしてこう、この二人は周囲が押してやらないと前に進まないのだろう。
つくづく、前途多難な二人である。
だったら、とことんまで押してやろうじゃないか。
 
本人たちがついてくる前に、既成事実を作って逃れられなくしてしまえばいい。
 
「今週の日曜、どっかなのはちゃん連れて出かけてくこと」
 
それは、つい先ほど見た構図。
目を突くのかといわんばかりの距離で、再びはやては彼の眉間に人差し指を突きつけ言った。
 
「さもないと限定解除したオーバーSの砲撃が二人分、飛んでくるから」
 
もちろんなのはには、今日中に自分で連絡すること。そう、付け加えて。
 
*   *   *
 
−三日後、日曜日−
 
「そう。ゆっくり、ゆっくりね」
「……は、い……っ」
 
そして。
物語は、少々前後する。
 
なのはの差し出した手を、ウイングロード上のティアナがしっかりと握る。
足を踏み出すのは、何もない虚空。
そこは陸戦魔導師たるティアナには未知の領域──空。
 
スバルたち四人が、また落下防止用の緩衝ネットを張るヴィータが地上で見守る中、
ぎこちないながらも彼女はなのはに手を引かれ、空に身を泳がせる。
 
「術式を意識しすぎないで、デバイスの補助があるから大丈夫。身体に慣れさせていくしかないから。考えすぎると逆に神経が戸惑っちゃう」
「はい」
 
少しずつ、なのはが手を離していく。
しかしそれでも彼女の身が落ちることはない。
はじめての訓練で浮けるようになるだけでも、大したもの──なのははティアナの飛行を、そう心中で評した。
 
「よし、じゃあここまで移動してきて」
「っ……」
 
距離にして、ほんの2メートルほどの距離だ。
だが今のティアナにはその2メートルが、永遠にも思えるひどく長いものに感じられることだろう。
もとよりなのはもここまで届くことは期待していない。
飛ぶということに慣れさせる、それ自体が目的なのだから。
 
「あっ!?」
「ティアナ!!」
 
案の定、数十センチほど進んだところでティアナの姿勢は崩れた。
アクセルフィンを軽くはためかせ、そこにある彼女に向かい腕を伸ばす。
引っ張り上げてウイングロード上に戻してやると、消耗しきった様子でその場にへたりこむ。
 
「すいま……せん」
「いや。はじめてでこれくらいやれれば、上出来だよ。それじゃあ──……」
 
それじゃあ、もう一度。
そう言おうとして、なのはは親友が金髪を揺らしビルの上から手を振っているのに気付く。
訓練着に着替えた彼女がやってきたということは、彼が到着したということ。
 
「……それじゃあ、今日はこのくらいにしとこうか」
 
鼓動が一瞬、大きくなったのを自覚しながら、彼女は教え子に訓練の終了を告げた。
 
*   *   *
 
「服と荷物、ベッドの上に出してあるから!!気をつけてね!!」
 
ビルを降りる階段の向こうに走り去るなのはは、軽く手を上げて了解した意を表現し、遠ざかっていく。
彼女と入れ替わるようにヴィータに運ばれ、ティアナがビルの屋上へと尻餅をつく。
 
「ユーノのやつ、もう来たのか。早かったな」
「うん。暫く待ってる、とは言ってたんだけど。せっかくだし早めに呼びに来たんだ」
 
とはいっても訓練後のなのはだ、準備にはもう少々時間を必要とすることだろう。
休暇当日、出かける直前まで訓練に参加する点、らしいといえば彼女らしいことだが。
シャワーを浴びて汗を流し、髪型を整えて。
服に袖を通すには早く見積もっても三十分ほどは要するだろう。
ちなみにその服をチョイスしたのはフェイトだ。
ルームメイトとはいえ彼女が外出着の組み合わせを気にして人に見繕ってもらうなんて、珍しいこともあったものだ。
 
いや。むしろもっとかかるかもしれないし、短く済むかもしれない。
ただ確かなのはこれから彼女はユーノに「友達」として会いに行くのではなく、一人の「女の子」として会いに行く。
故に彼女は彼を待たせないよう急ぐだろうし、その身なりも随分と気にして時間を食うことだろう。
差し引きでプラスになるかマイナスになるかは、微妙なところだ。
だがあのなのはがそんな風に変わっていくことが、フェイトには妙に可笑しい。
 
「……あの」
「ん?」
 
しばし呼吸を整えながら二人の会話を足元で聞いていたティアナが口を挟む。
 
なのはさんスクライア先生……将来的にはやっぱり?」
「あん?んなこと考えてる暇あったら休んでろ。これからふつーの戦闘訓練も待ってんだぞ」
ヴィータ、まあまあ」
 
グラーフアイゼンをつきつけるヴィータをなだめ、眼下を一望する手すりに寄る。
言葉は濁されていたが、彼女の言わんとしていることは理解出来た。
 
……正直、どうなんだろうなぁとは思うけれど。
 
隊舎に向かい走っていく白い豆粒ほどの後姿を、見送る。
 
「さあ、ね。そこまでは二人もまだ考えてないんじゃないかな」
 
そして思ったままの答えを、フェイトは返す。
 
なにぶん、合わせ鏡のように似たもの同士の二人だから。
片方が意識しなければ、それは双方にとって大分先のことだろう。
ゆっくり、一歩ずつ。今回は急がざるを得なかったけれど、彼女たちのペースで進んでいけばいいのだと思う。
 
時には周囲に急かされたり、押されたりしながら。
これから二人は一緒に飛んでいく。
 
きっとずっと、いつまでも。
 
「さて、それじゃ訓練に戻ろうか」
 
ユーノはなのはと行く先に、一体どこを選んだのだろうか。
フェイトはそれを聞かされていないし、聞かなかった。
帰ってくればきっとゆっくり聞けるだろうし、そうでなくともはやてやシャマルあたりが白状させることだろう。
 
別に、どこでもいいと思う。どこであっても、変わらない。
二人がともに、そこにいる。大切なのはその部分なのだから。
共に歩める。共に飛べる。それだけで二人、きっと笑っていられるのだ、彼も彼女も。
どこにいても、どんなときでも。共に飛べる空の下、彼女たちは手を取り合っていくことだろう。
 
そんな二人の関係が少し、羨ましく思えた。けれど、心から祝福できた。
 
今日はどんな空が、二人を待っているのだろう。
 
−end−
 
 
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