友人に誘われて

 
ミクシィなんぞはじめてみました。つこちら
システムがよくわかってないので慣れてかねば・・・。
日記はあちらをメインにして、こっちはssばっかにしてしまおうかとも考え中。
あとで色々まわってみますかね。
 
んで、今日は喪失辞書十三話を投下します。
 
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友の鉄槌によって撃墜された身体の行方は、レイジングハートが気を利かせてくれていなければ危なかっただろう。
愛機の操作によって両足の翼が羽ばたき、落下の勢いを殺し。
打撃のダメージによって半ば朦朧とした意識の中、反射的に体勢を整え着地する。
 
殺しきれなかったその運動エネルギーで、足元の岩を砕き。
濛々と土埃を巻き上げながらなのはの肉体は停止した。
 
「……う……」
 
がらん。
左腕がとりこぼしたレイジングハートが大地に落ち、音を立てた。
 
感覚がないどころか、左腕はもはや指一本、動かなかった。
ずたずたになったジャケットの袖から覗くそれは所々の傷を晒し、だらりと垂れ下がっている。
 
『なのはちゃん!!状況は!?無事なの!?』
「……左、手に、ダメージ……やっちゃったみたい、です……。」
 
手探りするようにして自由な右腕を動かし、レイジングハートを掴み上げる。
脳味噌がヴィータの一撃で嫌というほどシェイクされてしまっている。
おかげで視点が定まらず、杖の支えなしに立ち上がることができない。
 
「っく……」
 
だがそれでも大地を蹴り、飛翔する。
直後地面を穿った、連接刃を避けるために。
 
「ふうん。まだ避けるか。ま、いいわ。とっとと蒐集させてもらいましょ」
 
利き腕ですらない右腕のみで杖を構えるなのはの前に、連接刃を戻した騎士が立ち塞がる。
そして、背後には紅の少女騎士が。
 
手負いの獲物を追いつめんがため、彼女を取り囲んでいた。
狩られるのは、もはやこちらのほうだった。
 
 
魔法少女リリカルなのは 〜the lost encyclopedia〜
 
第十三話 墜ちる星
 
 
クロノとなのはの問答に背を向け、はやてはユーノの横を抜ける。
 
「なのは!!退け!!そのままだとまずい!!」
『……そうも、いかないよ。ヴィータちゃん……助けないと……』
「馬鹿!!状況を考えろ!!そんな無茶の利く状態か!!」
 
ヴィータの救出を重視するなのはと、彼女自身のコンディション、ダメージを考え撤退を命ずるクロノ。
どちらの言い分ももっともだし、理解できる。
 
大事な家族と大切な友人。それを天秤にかけているのは間違いなく、はやて自身でもあったのだから。
 
「はやて」
「ユーノくん、止めんといて」
「でも」
「止めても行く」
 
そしてはっきりと自分の中にあるのは、怒り。
自分はあの騎士と、そしてあの魔導書から現れた男に対して醜い感情を抱いている。
今はさほど、大きくはない。直接対面したわけでもない相手に対して人はそこまで感情的になれはしない。
 
だから今のうちに、問い質したかった。
自分の内にある汚泥が、まだ静かに波打っているだけである今のうちに。
 
本当に、ユーノの言った通りなのか。
画面の向こうにいるあの男こそが、すべての原因なのか。
 
自分の大切な家族たる守護騎士たちに辛い宿命を背負わせ、祝福の風を奪っていった張本人が、彼であるのかを。
 
「けど」
「いざってときはこっちからプログラムに割り込みかけてヴィータ叩き起こす。大丈夫や」
「大丈夫って……それじゃはやてとリインが」
ヴィータみたいにはならへん。今のリインはあくまで蒼天の書で、夜天の書やない。心配あらへん」
 
──嘘だった。
 
相手がどのような手を使ったかもわからない以上、自分までもああなってしまう可能性をゼロと言い切れるはずもない。
リインの身体を構成するプログラムの少なくない部分が残された先代リインフォースの資料・データをを参考にされているのだから。
まして相手は夜天の書を生み出した製作者の一人。ユニゾンバイスやはやての使う術式には精通しているはず。
 
だがその危険性を押し隠し、引き止める声を欺いてもはやてはいかねばならない。いや、いきたかった。
少なくとも、ヴィータは。なのはと彼女の二人はこの方法であれば助けられるはずだから。
 
『その必要はないよ。ヴィータのプログラムを外界から遮断すればいいんだね?』
 
神と呼ばれる存在がいるならばそれは、はやての嘘を見抜いていたのだろう。
そして、人を欺くよりは多少の無茶のほうがいい。そう判断したのだ、きっと。
 
そんな風に思いたくなるようなタイミングで聞こえてきた声は、通信の乱れにかき消えそうな、遠距離からの通信。
自分たちの会話に彼女の声が割り込んでくることができたのは、声の持ち主がアースラの通信へと介入する権限を持ち合わせ、
聞き耳を立てることのできる立場にあったからこそ。
 
『プログラム同士を遮断するなら……私の雷のほうが向いてる』
「フェイト!?本局を抜け出してきたの!?」
『もうすぐそっちに着く。なのはとヴィータの回収に当たる。二人の受け入れ準備、お願い』
 
*   *   *
 
「……」
 
やっぱりまだ、完全とはいかないか。
既に閉じているはずの傷口の上辺りが、じんわりと熱を持っているような感覚で痛みを伝えてくる。
 
インパルスフォームの胸元を押さえ、飛行を続けながらフェイトは顔を顰めた。
 
(急がないと……)
 
けれど、飛び出してきて正解だった。
本当ならばシャマルの回診までにはベッドの上に収まっておくつもりではあったが。
ユーノの慌てようが気になって、そのまま病室に戻る気にはなれなかったのだ。
 
バルディッシュ、スピードあげるよ」
『yes,sir』
 
全速力には、程遠い。
それにはまだ、身体がついていけるほど回復していない。
 
「バリアジャケット、パージ。フォームをライトニングへ」
 
だが多少の痛みは、耐えねばならない。
自分には己の痛みよりも優先して、救援に向かわねばならぬ人物がいる。
彼女たちの戦う敵を止められず蘇らせてしまった責任の一端は、自分にあるのだ。
 
防護性能に長けた濃紺のバリアジャケットが光となって砕け散り、代わりに防御の薄い速度を重視した黒いボディスーツが身を覆う。
 
直後、再加速。
 
「ぐっ……!!」
 
ディフェンサーを前面に張り、身体へ猛烈な勢いでぶつかってくる風の衝撃と抵抗を和らげつつ。
歯を食いしばり、フェイトは急いだ。
 
*   *   *
 
いくらか回復しだした程度の視界で、達人二人を相手に勝負になるわけがない。
 
刃の軌跡が白いリボンを、バリアジャケットを。若い柔肌を斬り裂いていく。
かわしきるなど当然不可能。
自身の反射神経と本能だけを頼りに紙一重を維持するだけで、精一杯。
 
「左腕……本格的に使えなくなったみたいね?」
 
それすら、追いつかなくなってくる。
隙を衝かれたとはいえ、フェイトが斬られただけのことはある。
加えてヴィータの振り回すラケーテンハンマーがこちらの反撃をことごとく潰しにかかるのだ。
 
「片腕が使えないくらいで……っ!!」
「あら。片腕って結構大きいわよ」
 
数の上で不利、間合いでも不得手。
いくらなのはといえども遂に対応しきれなくなるときがやってくる。
遠からず、そして今。
 
「特にあなたみたいな射撃の補助の……半可に型の出来た二番手三番手の間合いとしての近接だとねっ!!」
「っぐ……きゃああぁぁっ!!」
 
ヴィータの一撃へのスウェー、そして上段からの剣にレイジングハートのガードがあがったところへ、強烈な膝蹴りが吸い込まれる。
ほぼ、心臓の下。鳩尾よりも上の固い肋骨に守られたであるが故悶絶はせずに済んだものの、バリアジャケットに緩和された衝撃が身体の中心を貫いていく。
そして後頭部に、肘の一発。蹴り、肘ともに魔力が十分に行き渡った一撃を浴びせられ、オートのプロテクションが砕け散った。
 
「が……っ」
 
再び意識の炎が、消えかける。
彼女の身体に飛行能力を与えていた両足の翼が、か細く揺らめいた。
 
若干のタイムラグの後の、再度の落下。
もんどりをうった身体は、見下ろす二人の騎士とその主、そして広がる空を視界に捉え地面へと墜落の途を辿る。
 
(……め……っ……わた、し、二度と……)
 
目の下の切り傷から流れた血が落下に煽られ、眼球を紅く染めていく。
右半分が真っ赤に染まった世界は、殆どが空。
なのはの目に映るのは、空と……そして真紅の騎士甲冑を纏った友人の姿だけ。
 
──二度と、倒れない。二度と、ヴィータちゃんの前では。
 
捉えたその姿が言った、言葉がある。
自分が彼女にかつて流させた涙を、忘れない。
 
ヴィータちゃんは……言った……「守ってやる」って……)
 
自分の不注意で、自分が傷ついて。彼女の心を傷つけた。
その彼女が守ってくれる。守りたいと思ってくれている。
 
それならば、自分にできることは。
 
(わたし……もう、二度と……絶対に……っ)
 
想いに応えて、傷つかないこと。
 
彼女の前で二度と──倒れないこと……!!
 
「……イジング……ト……エクセリオン、バスター……」
『all right』
 
震える右手を、持ち上げた。
定まらぬ照準で黄金の杖の先端を、上空の三つの影へと向ける。
 
落ちゆくなのはへと迫ってくるのは、その内のひとつだけ。
巨大な、いや、巨大すぎる大鎚を振りかざし止めの一撃を放たんと疾駆する紅い影。
 
守ると言ってくれた彼女に、もうあんな顔はさせない。
彼女の攻撃で自分は、傷ついてはならないのだ。
 
「……ギガント」
「ブレイク……」
 
──ああ、そうだ。これでいい。
 
ぼんやりとした意識の中でも、それは見間違いなどではない。
振り下ろされる鋼の鎚の、向こうの彼女の目からは。
 
意識も自由も奪われている彼女の瞳は、滂沱に涙していた。
きっと意思ではなく肉体そのものが、交わした誓いを憶えていたからこそ。
 
──自分はこの子に、討たれてはならないのだ。
 
迷わずなのはは、引き金となる最後の詠唱、そのキーワードとなる言葉を叫んでいた。
 
「シュラァークッ!!」
「シュートッ!!」
 
*   *   *
 
目を覚ませと、誰かが呼んでいる。
いつの間に自分は眠っていたのだろう?
 
なにか、大切な約束があった気がする。
 
声のするほうから吹く風が運んでくるのは、随分となつかしい匂いがした。

(……あたしは、誰かを守んなきゃいけなかった気がする)

でも、誰を?
誰も他に見当たらないのに?

「……?」

ぽつり、と手の甲に雫が滴った。
雨?いや、違う。
水であってもそれはけっして、冷たくはない。

赤毛のおさげを振り乱し、少女は周囲を見回す。

「……あ」

その雫は、涙だった。
あとからあとからそれは零れ落ちてくる。

吹く風は、強く。そして温もりを増していく。
少女の──ヴィータの肉体すら吹き飛ばさんとするほどに。

*   *   *
 
それらはかつて、同じ敵を討つために振るわれた二つの力だった。
鋼鉄の巨大鎚と、大火力砲撃の激突はそれぞれ一方だけでも強大無比な破壊力を
相殺しあい、互いを押し切らんとせめぎあう。
 
一進一退。
互いを認め合う、その発動者同士の刺激しあう仲のように均衡を保って。
 
『……な……はちゃ……!?な……ちゃん!!』
 
その余波故に、通信など乱れに乱れてまともに繋がるわけがない。
騒がしいノイズ音が、なのはにはひどく耳障りに聞こえた。
 
少なくともこの激突に勝ったのは自分ではない、と思った。
ただ、負けたのかどうかはわからなかった。
 
真っ白な光が、自分を包んでいって。
それは二つの魔法がぶつかりあった、その中心から生まれたもので。
多分、相討ち。
互いが互いの威力を押し返し合い、干渉しあった結果なのだろう。
 
ヴィータちゃんは……だいじょう、ぶ、かな……?)
 
わたしが、助けるから。
だから、無事でいて。
 
レイジングハートがこぼれた右手を、光の向こうにいるであろう少女へと伸ばす。
半分白く半分紅い視界が、次第に明瞭さを失っていくのを、ぼんやりと実感しながら。
 
「……タ、ちゃ……」
 
彼女の目が最後に捉えたのは、魔弾の射手と化した緋色の騎士。
光の向こう、見えるはずのないその場所にいるはずの敵は、こちらに弓の一矢を向け、引き絞っていた。
 
なのはが見たものが、事実であったという確証はない。
そのような暇もなく、意識は光に埋もれていく。
 
なんとなく、その矢は放たれなかったような気がした。
 
地面まで、あとどのくらいだろうか。
 
 
(つづく)
 
 
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