新連載、とりあえずでけた。

 
昨日ニコニコ動画覗いててよかった。
十四話を見ることが出来たおかげでしっくりこなかった部分がどうにかこうにか形になった(ような気がする)。
まだ微妙にスランプ臭残ってますが。
 
とりあえず長さとしては6〜7話程度の中編の予定です。
今回の第一話に関してはsts14話について少しだけネタバレになってしまうかもしれない(本筋とかそういうのに関するものではないですが)ので、そういうのが嫌な人はご注意ください。
 
 
てわけで、どうぞ。一話目はそんなにエリキャロ目立っておりません。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
太陽が気持ちよく照りつける空の下、なのはとキャロが対角線上に立つ二人を見守っていた。
 
背の低い少年と、それに輪をかけて小さな、幼い少女。
少年の手には柔らかい、オレンジ色のボールがあった。
 
「いくよー!!」
 
エリオのかけた声に、少女は身構える。
 
直後、手のうちのボールが、緩やかに弧を描き投げ放たれた。
もちろん本気ではない。
相手が確実にキャッチできるように手加減した、山なりの優しい一投だ。
 
だから、けっしてエリオの力配分が失敗したというわけではない。
彼はうまく力を制御し、相手の年齢や身体能力も考慮に入れた上で、十分な調整をボールのスローに加えていたはずだった。
 
だがそれとて、受け手の不測の事態までもを見越しているわけではない。
 
「っあ」
 
少女は、元より向かってくるボールの軌道に対し怯えた視線を向けていた。
 
ぎこちなく両腕を空へと伸ばし、眉根を寄せて飛来する球体がその間に収まるのを待つ。
右に、左に。覚束ない足どりでその軌跡を追いながら。
 
ぶつからないか。当たって痛くないか。おそらくはそのようなことばかりが少女の意識を埋め尽くしていたはずだ。
自然、足元になど注意が向かうはずもなく。
ただでさえ危うげだった足運びは、散漫になった瞬間、もつれる。
 
「っ!!」
 
そして結果として当然の如く、少女は転倒した。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 外伝 −十歳のパパとママ−
 
第一話 少年少女と、幼子と。
 
 
「よし、よし。大丈夫だから。痛くない、痛くないよー」
 
駆け寄ってきたなのはの腕の中で、擦り剥いた膝の痛みにヴィヴィオは泣いていた。
最も安心できる場所である彼女の身体にしがみつくようにして、大きな声をあげて。
 
小さくバウンドを繰り返し止まったボールを拾い上げ、幼子をなだめあやすなのはのもとにエリオも歩み寄る。
 
「あー、ほら。すぐ痛いのなくなるから。だから我慢して、ね?」
「……すみません。うまくできなくて」
「ううん、エリオのせいじゃないよ。……と、キャロ、ありがと」
「いいえ」
 
流石は用意周到というべきだろうか、なのはは座っていたベンチに救急箱を用意していた。
とってきたキャロに礼をいい、泣き喚くヴィヴィオをあやし続ける。
しばらくそうしていて──……はたと困ったような顔を見ている二人に向けた。
 
どうやら、例によって離れてくれないらしい。
一瞬躊躇して、キャロが救急箱を開く。
 
「治癒魔法が使えればいいんだけどねー……」
 
まだ身元も、どういった力を秘めているかもわからないのがこのヴィヴィオという少女である。
検査ではなにも出なかったとはいえ人工生命という出自である以上、その能力の詳細が判明するまで極力魔力からは遠ざけておきたい。
それがなのはたち隊長陣三人、そして部隊付き医務官主任のシャマルの一致した見解であった。
 
もちろん同じ建物内で生活していく部隊員たち──特にフォワード陣にも、守秘義務に抵触しない範囲でその旨は通達されている。
歳も近く彼女の遊び相手を務めることの多いエリオとキャロも、ヴィヴィオに接する際には最も気をつけている一点であった。
 
「じゃ、消毒しますね。少し沁みるかもしれませんけど……」
「───……っ!!」
 
キャロのその言葉は、予め心の準備をさせておくためのつもりだったのだろう。
しかしそれも幼い女の子にとっては気休め程度にもならなかったらしく。
 
ちょん、と消毒液をしみこませた脱脂綿を当てただけで少女の背が反り返り、なのはの身体を抱きしめる腕に、余計に力がこもる。
そして泣き声もより一層、激しいものとなっていく。
 
四人のいる隊舎前のパーキングを見下ろす部隊長室に、清々しい風を取り込むべくテラスの窓を開け放たれた、食堂に。
なんだなんだと隊員たちが業務中のデスクから顔をあげる中、耳を劈くばかりに木霊する。
 
「ご、ごめんなさい!!ヴィヴィオ、痛かった!?」
「ほらほら、泣かないでー。いい子だからちょっとだけ我慢しようねー」
 
慌てて、絆創膏をぺたり。
それがまた、傷口を強く押さえてしまったようで、悲鳴のボリュームが一層増す。
 
結局ヴィヴィオが落ち着くまでこうしているというなのはをその場に残し、救急箱を抱えた二人は残った業務を終わらせるために先に隊舎へと帰されたのだった。
 
*   *   *
 
「──ってことがあったんですが……」
 
その夜。
宿舎内のレクルームに、スバルとティアナを加えたフォワードメンバー四人は集まっていた。
エリオにキャロ、二人の悩みについて、議論するために。
 
「なーるほど。それでヴィヴィオ、今日一日二人のこと避けてたんだ」
「で?つまるところ、二人はあのおチビさんに懐かれたいわけ?なのはさん達みたく」
「いや……懐かれたいとか、そういうことじゃないんですけど」
 
相変わらずこういうときのティアナの物言いは単刀直入で俗っぽい。
わざとそのような言い方をしているのがわかっているからこそ、長年のコンビであるスバルを含め三人とも苦く笑うより他にない。
 
あながち、間違ったことを言っているわけではないのだし。
悪ぶっている、とでも言えばいいのだろうか。
 
「うちの部隊で歳が一番近いのは僕とキャロなわけですから。もう少し……仲良くしたいというか。仲直りというか」
「今日の一件を抜きにしてももっと心を開いて、頼ってくれてもいいんじゃないかな、って思うんです」
 
エリオとキャロの言葉に、缶ジュースを持った二人は顔を見合わせる。
 
意外や意外、なんとも頼もしいことを言ってくれるじゃないか。
 
(お兄ちゃんやお姉ちゃんの自覚が出てきたってことなのかな?エリオも、キャロも)
(さあね、どうだか)
 
一応二人の姉貴分として接しているスバルとしてはなんだか二人の変化が嬉しかったし、念話で返ってくるティアナの返事も、
そっけない言葉とは裏腹に満更でもなさそうだった。
子供はこうして大人になっていくのかと、自分たちもけっして完成された大人ではないということも忘れてしみじみとしてしまう。
 
「でもあたしちっちゃい子とか苦手だし、よくわかんないわよ?スバルは?あんたこの中で一番仲いいでしょ、あの子と」
「んー……仲いい、までいくかどうかは微妙だけど。ただ具体的にどうしたらいいかはわかんないなぁ」
 
そもそもがヴィヴィオと接するのは基本、保護者二人のいずれかが一緒にいるときだけだし。
 
生憎と二人とも、妹としての経験はあっても姉としてのはっきりとした経験はない。
一応年上としてコンビの主導権はティアナにあるが、それもどちらかといえば悪友の関係に近い。
エリオとキャロとの関係は同僚でもあるし、それに二人とも最初から素直だったことであるし。
 
正直、参考になるようなデータとは言い難い。
 
「ていうか、フェイトさんに聞けばいいじゃない。あんたたちにとってはお母さんみたいなもんでしょ。その経験からなにか、アドバイスくれるんじゃないの?」
「それも考えてはみたんですが──……」
 
あそこまで達人的な幼児への応対を見せられて、それをそっくりそのままやれる気がしない。
今度は逆に、完璧すぎて今の自分たちには参考にならない。
 
エリオの物言いに、思わずヴィヴィオがこの隊舎にやってきた初日のやりとりを思い出す一同。
確かにアレをそっくりそのままトレースしろというのは十歳の二人には、些か酷であろう。
大体同室の保護者二人に比べキャロもエリオも、彼女と接する機会が圧倒的に少ないのだ。
必然的に距離を縮めていくには時間がかかる。
 
では他にとなると正式な保護責任者であるなのはもまた、自身が試行錯誤しているような段階だ。これも除外。
 
「そうは言ってもなぁ……他に年下の世話の経験が豊富そうなのっていったら……」
「あ、シグナム副隊長は?ヴィータ副隊長とかリイン曹長の世話とか、色々やってたんじゃ?」
「じゃああんた、訊けるの?あのシグナム副隊長に」
「……ごめん、無理」
 
あの鬼の副隊長に訊けというのが無理な相談というものだ。
以前殴られた頬をさすっている辺り、ティアナも嫌なことを思い出しているらしい。
 
「ま、月並みな意見で悪いけど。少しずつ改善して、慣れていくしかないんじゃないかしら、お互いに」
 
結局はそれしかないか。
 
明日も朝早くからの訓練が待っている。
あまり遅くまでこうやって話し込んでいるわけにもいかない。
就寝までの限られた僅かな時間ではスバルも、相談を持ちかけたエリオやキャロも当然、それ以上の案は思い浮かばなかった。
 
*   *   *
 
「そう。私が隊舎を空けてる間にそんなことがあったんだ」
 
寝かしつけたヴィヴィオの髪を、なのはは梳くようにして静かに撫でていた。
自分が見守る立場にある幼子から、寝言でぽつぽつと名前を呼ばれるというのは悪い気分ではない。
彼女はなのはとフェイトの名を呟きながら、よく眠っていた。
 
丸一日外に出て捜査や打ち合わせ、資料の収集に飛び回っていた身体の疲労が、癒されていくようだ。
 
「もう少しで打ち解けるかな、って気もしてたんだけど。どうも振り出しに戻っちゃった感じかな」
 
もっともエリオもキャロも、ヴィヴィオの世話を焼こうとしてはくれているのだが。
今朝の一件でどうにも、二人は彼女にとって「痛いことを運んでくる嫌な人たち」という認識が刷り込まれてしまったらしい。
 
周囲に誰もいなければ、逃げ出し。
なのはやスバル、ザフィーラといった保護者たちが側にいる場合にはその後ろに隠れてしまう。
こちらが促したところで、首を横に振ってより強くしがみついてくるだけであった。
 
「印象は理屈じゃないからね……。エリオとキャロも、年下の子の世話は不慣れだろうし」
「余裕がない同士だから?」
「うん。結局本人たち次第じゃないかなぁ、とは思うんだけどっ……と」
 
脱いだワイシャツをストッキングと共に丸め、洗濯籠に投げ入れる。
 
「ザフィーラは、なんて?」
「フェイトちゃんと同じこと言ってた。当人同士でなんとかすべきだろう、って」
 
ベッドに腰掛けたなのはの横に、ヴィヴィオを起こさぬようそっと腰掛ける。
 
明日になっても駄目だったら、もう一度言って聞かせるつもりだとなのはは言う。
本人たちに任せるべきだという案を聞いてなお、放っておけないのだろう。
なんだかんだでなのはも過保護だなぁ、とフェイトは密かに思った。
 
「……ん?」
「はれ?」
 
そしてどこからか、軽快なメロディが流れ始める。
周囲を二人見回して辿り着くのは、仕事机の上に置かれた黒い携帯電話。
一応充電は欠かしていないが、こちらの世界では殆ど使うことのないそれが振動し、着信を告げているのは珍しいことだ。
 
機動六課の部隊員たちの中で携帯電話を所有している者は、僅か四人に絞られる。
そもそも空間モニターによる通信技術の発達したミッドにおいて電話という文化は根付いていないし(類似物がないわけではないが、既に廃れた技術である)、それ以外の次元であっても明確にそれと呼べるシステムを持っていない世界の出身者であることが多いためだ。
 
故に、地球出身の二人──部隊長たるはやてと、なのは。
そしてかつて地球にて過ごした経験のあるシャマルであり────……。
 
「もしもし?フェイトですけど」
 
ミッド出身であっても実家を海鳴に持つフェイトももちろんまた、数少ないその中の一人であった。
 
彼女たちはそれぞれに皆、次元の彼方はるか遠い世界に残してきた家族、友人たちとの絆が途絶えぬよう、
次元間通信を可能とする特殊な通信を、その小さな端末には些か不釣合いな性能を与えるがため施して使用している。
送信側、受信側双方に、けっして低くはないコストをかけて。
 
従って受信できる電波も、その端末に繋げることの出来る電波も非常に限られる。
ごく個人的なことをわざわざ次元の海を越えてまでアナクロな技術に頼ってまで伝えようなどという機会も、そうあるものではない。
よって、転ばぬ先の杖、憂いを見越した万一の連絡手段としての備えといった程度でしかミッドに持ち込まれた携帯電話の役割はなく。
一家揃ってこちら側にいるはやてもシャマルも殆ど携帯は無用の長物と化しており、使うのは主に実家を管理外世界に持つ二人のいずれかくらいのものであった。
 
『……フェイトか、僕だ』
 
相手が誰かも確認せずに、応答に出る。
もっともミッド側の世界からかかってくる電話なんて、あろうはずもない。
電波が送られたのは当然、彼女が幼少期を過ごし今も尚家族をそこに残す、海鳴から。
 
『助けてくれ。なるべく迅速に』
 
更に言えば、彼女自身の実家から。
嫌というほど聞きなれた静かな口調が、若干緊張していた。
 
「……クロノ?」
 
聞き間違えるほど、通話状態が悪いわけでもない。
遥か次元を超えてフェイトの耳に届いたのは聖王教会での一件以来、数日ぶりにややご無沙汰の兄の声だった。
 
 
(つづく)

 
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