新旧なのは。

 
ああ、シリーズ集大成なんだなぁ……と、しんみりしてしまいました。
十九歳と九歳のあわせ技は反則だって。
リアルタイムでの視聴は今期からだけど、作品自体を追いかけてたのは一期の頃からだから。
公式のあらすじと2chのスレばかりが頼りだった一期。
DVDは全部発売日に買いましたよ、ええ。まだ1スレ目だったssスレで書き始めたのも一期終了後。
急激になのは人口が増えた第二期もリアルタイム視聴は適わず千葉(というか筑波)の友人待ち。
非オタの友人に録画なぞよくもまあ頼んだもんだ……。
そして三期。なんだかちょっと見ないうちに成長してた親戚の子を見るような感じで少し寂しい始まりだったわけですが、もう半分ないんですね。
うん、終わったら鬱はいりそうだ。
 
てことで鬱な話。
第九話補完話、第二話いきます。第一話もちょこっと加筆しました。
↓↓↓↓
 
 
 
 
−時空管理局地上本部・第七ミーティングルーム−
 
最先端技術の塊としての時空管理局の設備は、小さな会議室ひとつとっても例外ではない。
説明されたところで一般人や畑違いの人間には首を傾げることしかできないような代物がそれこそ、見えるところも見えないところにもふんだんに。
地上本部も本局も、双方同じように。
実務面では地上、福利厚生面では本局といわれるもののその実、使っていて実際そこまで大差ない。
 
「……」
 
だからそんな場所の扉に張り紙というアナクロなものが通行する者たちに見えるように大きく張り出されているというのも、ある意味では非常に場違いである。
 
──『筆記試験使用中、立ち入り禁止』。
 
室内には試験官が一人。
不正防止のためと紙面で用意された試験問題に取り組む受験者は、三人。
 
無論、フェイトもその中の一人である。
さして広くないその部屋が試験会場に選ばれたというのも頷けるほど、室内の人口密度は低い。
流石は難関・執務官資格試験というだけのことはある。
受験資格を満たしかつ、試験に臨む人口の少なさを窺わせる人数だ。
 
(……この場合は管理局航空法第二十一条十五項が適用されるから……)
 
緊張を残しながらも、フェイトは順調に筆記の手を紙上に走らせる。
一問一問、確実な手ごたえを感じて。
 
数十分後告げられた試験終了の合図に合わせて提出された彼女の答案は、余すところなく。
びっしりと細かくも読みやすい、少女らしい字体の文字によって埋め尽くされていた。
 
 
魔法少女リリカルなのはStrikers another9th −羽根の光−
 
第二話 八年前の、あの日
 
 
午前中の筆記試験は我ながら、よく出来たと思う。
あとは午後の実技と、面接を切り抜ければ大丈夫。
 
慣れない陸上本部での試験であったり、本局からの受験者は自分ひとりであったりと不安な点も多いが。
 
きっと、大丈夫。……多分。
 
しっかりね、と朝送り出してくれた母の顔を思い浮かべ、大きく深呼吸する。
それでもテーブル上の昼食に殆ど手がつけられていないのは、ご愛嬌といったところだろうか。
 
『──今回の任務も、部隊員のみんながよくやってくれたおかげです。幸い死傷者を出すことなく済みましたし』
「……ん?」
 
と、不意に二重、三重にエコーのかかった音質で彼女の耳に入ってきたのは、親友の声。
マイク越しのような、どこか音響的に本人のものとしては不自然な響きのそれにフェイトは周囲を見回す。
 
「あ」
 
声の正体は、すぐに判明した。
 
食堂の壁面に設置された、利用者用の大型モニター。
丁度放映中の昼の報道番組のその映像の中に、記者たちからインタビューを受けるなのはの姿があった。
任務終了直後の取材攻勢なのだろう。
ロングスカートのバリアジャケットも、黄金の長槍・エクセリオンモードに変形したレイジングハートもそのままに、彼女は記者たちの差し出したマイクに向かっている。
 
「おー、やってんじゃん昨日の任務。流石空のエース様は言うことが違うねえ」
「や、やめてよヴィータちゃん。受けてるほうは結構恥ずかしいんだから……」
 
そして今度は本人の口から発せられたものだとわかる友の声が、別の友人のそれとともにフェイトの耳を打つ。
 
再び視線を泳がせた先に、見覚えのある短いツインテールと、赤毛のおさげが見えた。
お昼時の混み合った食堂内でけっして大きくないその二つの頭は、モニターのニュース映像を見ながらも自分たちの行き着くべき空席を探して彷徨っているようであった。
 
「なのは、ヴィータ
 
友人たちがこちらを向いたのに合わせ軽く右手を挙げ、声をかける。
二人とも目はいいほうだし、さして距離があるわけでもない。
フェイトの姿を見つけた二人はそれぞれの食事が載ったトレーを手にやってくる。
 
向かい側になのはが、隣にヴィータが腰を下ろした。
 
「うーっす」
「ありがとー。出撃の準備で出遅れちゃって、困ってたんだよね」
 
──もう、お腹ぺこぺこで。
 
親友はミートソースのかかったスパゲティを置いて、頭を掻きつつ笑った。
フェイトにニュースの中の自分を見られた気恥ずかしさというのもいくらか、あるようだ。
 
「いや。副隊長さんは大変みたいだし?高町准空尉殿」
「ふぇっ!?……うー、フェイトちゃんまでー……」
「ふふっ。ごめん、ごめん」
 
ちょっと、からかってやれ……というわけではないが。
緊張続きの試験の最中で友人と顔を会わせて、少し気が軽くなっていた。
冗談めかしたフェイトの言い様に、なのはが縮こまって赤くなる。
その恥ずかしがりようは傍から見ていて、ニュース映像の中の堂々とした受け答えをする姿と同一人物とはとても思えない。
 
まあ、それが友人達の間にいる時の、なのは本来の姿なのだけれど。
 
「試験、どーだ?順調か?」
「どうかな。一応手ごたえはあったつもりだけど」
 
丸く縮こまってスパゲティを口に運ぶなのはに代わって、ヴィータが会話を繋いだ。
フェイトとしても胸を張って大丈夫、と言いたいところではあるが、まだなんともいえない。
自己採点の結果としては問題ない程度の出来ではあったがこの先二種類もの試験が控えているのだ。
ここは大口はたたかないほうが賢明であろう。
 
「おいおい、大丈夫か?そんなんで」
「大丈夫……になるようにあと二つ、頑張るよ」
 
実技と、面接。
前者はともかく口下手を自覚するフェイトにとって後者は鬼門だ。
言葉通り、目一杯気合を入れて頑張らなければなるまい。
 
「私もはやく、なのはに追いつかなきゃいけないし」
 
つい先ほどまで彼女のインタビュー映像を映していたニュース番組は、いつの間にか天気予報へと変わっていた。
冬も半ばのミッドの気温は総じて低い。
地域によっては既に冠雪している地域もあるようだ。
 
「二人はこれから出撃なんだっけ」
「うん。って言っても、簡単な観測任務なんだけどね」
「あたしなんか非番だったんだぜー、もともと。人手足りないっつーから昨日言われてよ」
「あ、それうちもだよ。隊長は別任務あるしでわたしが代行やってくれって」
 
ぶつくさと愚痴るヴィータに、三人の間に自然と笑いがこぼれる。
武装隊をはじめとする実働部隊の人手不足は今に始まったことではないが、せっかくの休みを潰されてはそう言いたくもなるだろう。
緊張で変な感じだった胃も友人たちとの談笑のおかげかいくぶん治まり、フェイトの皿も気がつけば空になっていた。
 
ヴィータの皿も、とうに完食。話が途切れたところでなのはだけが半分以上食事を残し、立ち上がる。
 
「さて、そろそろ行かなきゃ」
「もう?ちゃんと食べていったら?」
「色々準備がまだ残ってて。ヴィータちゃんはどうする?」
「あー、あたしも行く。どーせもう食い終わってんだし」
 
つられるようにして、ヴィータも席を立った。
昼休みはまだ十分に残っていたから名残惜しくはあるが、任務とあれば仕方がない。
試験の合間に友人たちと気晴らしができたということをよしとすべきだ。
 
それじゃあ、頑張って。
なのはもヴィータも、気をつけて。
 
短い言葉のやりとりのあと、フェイトは座ったまま二人を見送った。
 
なのはが返却しにいったトレーの食べかけのスパゲティが、しばらく洗い場へと消えずに残っていた。
一度目を離してふともう一度見ると、食器の波に流されてそれはもう、見えなくなっていた。
 
*   *   *
 
−現在・機動六課隊舎−
 
「随分と機嫌が悪そうだな」
「ったりめーだろ」
 
シグナムの言い様が、やけに癇に障って仕方がない。
 
理由はわかっている。
思い出したくもないことを思い出す羽目になったこと。
それが予期せぬタイミングでやってきたこと。
事情が事情だけに怒るべき相手に対し面と向かって怒れないことだって、そうだ。
全部、気に入らない。
吐き出す先がないから当然苛立ちは募るし、仲間の言い方に腹も立つ。
 
「なのはがティアナを連れて帰ってきても当たるんじゃないぞ」
「わーかってるよ。そこまで子供じゃねえ。自分こそぶん殴っといて言うなよ、そういうこと」
 
諌めるような言い方にも、ついつい噛みついてしまう。
 
「あいつらに……なのはみたいな思いをさせないために、あたしらがいるんだからな」
 
鉄拳一発で済んだティアナは、幸運だ。
なのはともしっかり話して、それが幸運であるということを深く心に刻んでくれればいいのだが。
 
「思い出したくない過去は……増えないほうがいいしな」
「……ああ」
 
廊下の先で、開いた部隊長室の扉からフェイトが退出してくるのが見えた。
室内に一礼したあとにこちらに気付いた彼女と、通りかかったヴィータたち。
三人は苦笑し、やがて肩を並べた。
 
*   *   *
 
ほんの二、三時間前、彼女とは手を振って別れたばかりのはずだった。
頑張って、の一言を聞いて、自分は執務官資格取得のために実技試験に臨んだのだから。
 
彼女の励ましを受けたおかげか、儀式魔法も長距離砲撃魔法も、近接格闘もいつになく調子よく。
十分に満足できる内容を試験官に見せることができたのだ。
これならば、いける。自信を持って最後の試験、面接へと臨む順番を今か今かと待っていたのに。
 
それなのに。
 
テスタロッサ。落ち着いて聞いてくれ」
 
どうして自分は控え室でもなく廊下に、しかも地面にへたりこんでいるのだろう。
シグナム?落ち着くのはあなたのほうだ。血相を変えて駆け込んできて、私を廊下に連れ出して。
そんな、どす黒く真っ赤に染まった騎士甲冑を着替えもしないで。
 
「じ……こ……?」
 
どうして、そんなに真っ青な顔をしているんですか。
 
どうして、そんなに慌てているんですか。
 
……どうして。
 
どうして私は、泣いているんですか────……?
 
『受験番号三番、フェイト・T・ハラオウン候補生。試験場に入室してください』
 
ああ、そうだ。
試験、受けなくちゃ。
この日のために面接の特訓、いっぱいしてきたんだもの。
無事に終わらせて、合格して。
母さんを、クロノを、エイミィを。
はやてを、みんなを、安心させるんだ。
 
なのはと一緒に、喜ぶんだ。
 
「どうなるかはまだわからない。今はシャマルや医務局の医師たちが処置を続けてくれている」
 
でも、やっと力の入った私の両足は、試験場の会議室に向かってはくれなくて。
なにも用なんてないはずの方向に、動き始める。
 
「アースラがUターンしてすぐそこまできている。なにか動きがあれば報せるから──……」
 
それから、私はどうしたんだろう。
少なくとも面接を受けなかったことは確かで、走っている最中に何度か、足がもつれた気もする。
痛くはなかったけれど、こけたのかもしれない。
 
嘘だ。嘘だ。嘘だ。
頭を埋め尽くすのは、嘘だの一言、そればかり。
 
向こう側から歩いてくる人を避けきれず、何度も何人もぶつかって、でも止まれない。
足が止まらなかった。シグナムの呼び止める声が急激に後ろのほうで小さくなっていって、そして聞こえなくなった。
 
喧騒からかけ離れた場所に、気がつくと私はいた。
 
自分でも知らぬ間に転送ポートに飛び乗って、アースラを経由し。
いつの間にかエイミィや兄の制止を振り切って、本局に辿り着いていたらしい。
まったく記憶に残っていない行動であっても身体は無意識に、最短のルートをはじき出していたというわけだ。悠長にアースラが本局に到着するのを、待ってはいなかった。
 
そこが静かだったのは、簡単なことだ。
赤いランプの点灯した処置室の重苦しい扉の前で、誰がはしゃいでいられる?
 
いるはずのない人たちが、医務局にはいた。
 
海鳴の住人、管理外世界に住む人々。
士郎さん、桃子さん、恭也さん、美由希さん。
なのはの家族が何故だか、はやてたちと共にそこにいた。
 
クロノ、エイミィ、シグナム。三人分の駆ける足音が、私の背後で止まった。
 
煤で汚れたヴィータの顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
 
事故に遭った。
なのはが。
運び込まれた。
病院に。
……参った。言葉が、ロジックを成していかない。
 
ヴィータの首に光るひび割れたレイジングハートに、ようやく私は自分がここに来た理由を認識した。
だってそこには、なのはがいなかったのだから。
認識せざるを、得なかった。
 
事故に遭ったのは、高町なのは。私の親友。
彼女は今、生死の境を彷徨っている。その身に受けた重傷によって。
 
涙と震えは、既にあった。
そこに、私の悲鳴が加わった。
 
(つづく)
 
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