更新更新。

 
第四話でございます。微妙に牛歩ですがその辺スルーで。
Web拍手お礼ssも八神家どうでしょう第二夜に更新。
 
 
なのは×ユーノステーション、告知中です。
 
<企画捕捉感謝>
 
PUNPKING様。
ありがとうございますー。
 
 
では羽根の光四話、どぞー。
↓↓↓↓
 
 
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「おかえり」
 
親友はテーブルにお茶を用意して、待っていてくれた。
結構な時間が経っているから、先に寝てしまってもよかったのに。
だがそれでも待ってくれていた友の気遣いが、嬉しいものに感じられる。
 
けっして根掘り葉掘りは、訊かない。
ただ自分の帰りを待って、そしてやさしい笑顔で迎え入れてくれた。
 
「お茶、淹れたから。……ちょっと冷めちゃったけど」
 
だから、自分も応えるのだ。
友への感謝を、一杯に込めて。
 
「ただいま、フェイトちゃん」
 
 
魔法少女リリカルなのはStrikers another9th −羽根の光−
 
第四話 折れた翼
 
 
一度、ほんの数十秒にも満たない間の目覚め以来。
未だなのはは目覚めない。
 
彼女を見守っているのは、自分──八神はやてと。
シグナムと、エイミィ。そしてアルフだ。
他は皆めいめいに仕事に戻らざるを得なかったり、長丁場を見越して交代で休息を摂っている。
 
例外がヴィータとフェイト、そしてユーノの三人で。
 
峠は越えたという医師の言葉に張り詰めていた緊張の糸を切らしたヴィータは、崩れるように意識を失い。
なのはの意識が戻るまでついているといって聞かなかった二人は、クロノとリンディに休むよう諭され、用意された仮眠室へと引っ張られていった。
彼女の両親も今、医療局の医師にシャマル立会いの下、なのはの怪我について容態の説明を受けている。
 
「……ん」
 
こんこん、と扉がノックされ、眼鏡をかけた女性が顔を出す。
 
「マリー」
 
旧知の技術士官はベッド上のなのはの姿を見ると、後ろ手に扉を閉めながら沈痛な面持ちで入室してきた。
 
眠り続けるなのはの全身は包帯に覆われ、さながら昔話の中のミイラのようですらあった。
両腕には数本の点滴チューブが繋がれ、口元を酸素マスクが包む。
 
レイジングハートの損傷のほうは……そこまで深刻じゃなかったから……報告に……」
 
修理完了した、と。
言葉の途中でマリーは声を詰まらせ、顔を押さえる。
シグナムが肩を抱いて、嗚咽を漏らし始めた彼女を隣に座らせてやる。
 
「私のせいなんです……私がもっとしっかり、レイジングハートをみてあげてれば……」
 
記録とレイジングハートの破損状況から、なのはの負傷の理由も解析が進んでいた。
直接の原因はやはり、周囲をアンノウンの爆発から守るべく展開したシールド内でその破壊力を直接にその身に受けたこと。
けれどそうなる状況をつくってしまったのは、レイジングハートの機構トラブル。
 
その理由はまだ定かではないものの、エクセリオンモードへの変形を失敗したが故生じた隙が彼女の退避を困難にしたことは否めない。
 
「違う。マリー、きみのせいじゃない」
「クロノくん?シャマル?」
 
部屋の人口密度は、気がつけば徐々に増えていた。
疲れた顔でファイルを脇に抱えたクロノと、シャマル
彼らもまた、ドアをノックすることもなくこの場に戻ってきていて。
 
「……こちらのミスだ」
「え?」
「……毎回、です」
「?」
 
なのはちゃんが、フルドライブを。
ここ一ヶ月、エクセリオンモードを使用して完遂した任務は、ほぼ毎回。
せざるを得なかったと、言ってもいい。
 
シャマルの呟きに、はやても息を呑む。
 
「毎回って……カートリッジは!?」
「……こちらもほぼ……全ての任務で使い切っています」
 
一般的に、カートリッジシステムは長期戦に向かないとされている。
 
理由は単純だ。自分のもつ魔力以上の力が肉体に注ぎこまれ、負担が大きい。
瞬間的な爆発力ではたしかにただ魔法を放つだけよりも強力な一撃を可能とするが、持続力はない。
持久力よりも瞬発力の戦法だ。
 
「うかつだった……なのはのシフトは一応、母さんや僕も把握はしていたんだが」
 
加えてなのはのレイジングハートに搭載されているそれはミッド式のものとしては初期型。
安全性や出力制御に関してはこの二年の間に開発された現行の機種に比べ明らかに劣る。
一度のカートリッジロードによる肉体、デバイスへの魔力供給のリミッターが、搭載されていないのだ。
 
それを利用したフルドライブモード……エクセリオンが彼女の肉体に与える過剰な魔力による負担は、いうまでもない。
 
「シフト数自体は一般的な副隊長クラスの武装隊員と大差なかったんだ。だが……」
エクセリオンモードと、カートリッジの乱用。なのはちゃんが駆り出されてたのは常に、それが必要な現場だったんです」
 
フルドライブは、あくまで切り札だ。そして切り札には切り札とせねばならぬが故の理由がある。
 
カートリッジシステムを利用したなのはのエクセリオンモードも然り。
フルドライブの破壊力は強力ではあるがその分術者にもデバイスにも大きな負担がかかる。
故に二年前、フレーム強化が未遂であったレイジングハートの第三形態の起動を、エイミィはなのはに禁じた。
 
対策なしの乱用があまりに危険であったからこそ。
 
だが闇の書事件後、レイジングハートの強化も終わり、なのはが武装隊でその名を知られるようになっていくに従い。
その危険性に対する危機感も、皆の中で薄れていった。
彼女はいつだって全力で、そして笑顔で帰ってきていたから。
豊富な魔力量と積んできた戦闘経験による絶対の信頼が、なのはと肉体のダメージという現実の結びつきを周囲の人間に感じさせなかった。
 
局内で他にカートリッジを使用する人間は少なかったし、接近して一気に状況を制圧する短期決戦タイプのシグナムやヴィータはその消費量も少なく、またフェイトもその場その場で最低限の力で最大の効率を心掛けるよう、師であり兄であるクロノに教えを受けていたということもある。
 
カートリッジは使わずとも同じく高出力の攻撃を得意とするはやても、現場での実務よりこのところはあちこちに飛んでの研修がメインだった。
唯一前線で常に最大限の力を求められ続けていたのが、空のエースと呼ばれるようになっていた──なのは、ただひとり。
 
事故の原因はなのはの能力が低かったのではない。
むしろ、高すぎた。
その年齢と発展途上の肉体には不釣合いなほどに、その行使する、できる能力が。
 
肉体が悲鳴をあげるほどのその力を、彼女は無理をして使い続けていたのだ。
まだやれると、自覚のないままに。真面目かつ常に全力投球の、その姿勢故。
そして本人も気付かぬままだったその歪みは、いつ暴発してもおかしくないほどに膨れ上がり──……。
 
こうして魔力伝達の齟齬と行動の遅延。その結果としてのこの事故に繋がった。
 
「なのはは、良くも悪くも手加減を知らない子だ……。すべてに全力で立ち向かおうとする。もう少しこっちが気をつけておいてやるべきだった。少なくともそれらしい兆候はあったはずなんだ」
 
なのはが眠り続けるベッドの縁に、手を置くクロノ。
 
少女は未だ、目覚めない。
 
*   *   *
 
なのはの事故に、兆候があった?
 
だとしたら、それを自分は見ている。知っている。
きっと、あの食堂でのやりとりがそれだった。
 
「フェイト?」
 
床が、ひんやりと冷たかった。
両の掌が、尻餅をついた腰から下が、体温とその冷たい表温とを交換していく。
 
自分は食堂で会ったときに見ているはずだ。
 
空腹を訴えていたなのはが、不自然なほどに食事を残していた光景を。
武装隊員ゆえ人並み以上には食欲のあるはずの彼女の、食の細さを。
 
「かあ……さん……」
 
なんとなく、違和感は感じていたのだ。
いや、感じていなかったはずがない。
それなのに自分は自分のことで精一杯で、彼女の微細な異変を取り逃がしてしまった。
 
「フェイト?どうしたの?仮眠室にいるって……まさか、抜け出してきたのね?」
 
手にしていた花束を置いて、母が駆け寄ってくる。
白いズボンが汚れることも構わず、膝をついた母は両肩を抱いてくれた。
縋るものを得た身体は包み込んでくれるその広い背中を、きつくきつく抱き返す。
 
「わたし……なのは、こうなる前に……止められた、のに……っ」
「フェイト」
 
眠れと言われても、眠れなかった。
 
だから母が花を買いに出て行ったのを見計らって、こっそり仮眠室を抜け出した。
うなされるユーノや、寝言でなのはの名を呼ぶ美由希を起こさぬように注意しながら。
一直線になのはの病室へ向かい、扉に手をかけて。
 
そして、兄の悔恨の言葉を聞いた。
 
なのはの負傷は自分ならば、防ぐことが出来るはずだったのだ。そのことを、知った。
知った瞬間、腰に力が入らなくなった。
自分がどういう顔をしているのかもわからなくなった。
 
「わたし……わたし、がっ……もっと……」
「フェイト。大丈夫、大丈夫よ。もう命に別状はないのだし……あなたのせいじゃないわ」
「でも……ぉっ」
 
いくら抱きしめられても、泣き叫ぼうとも自責の念はどうしようもなかった。
母の着る提督の青い制服が、自分の涙で汚れていく。
 
それでも涙も心の痛みも止まらない。
自分が自分のことばかりに意識を向けていなければこんなことにならなかった、という思いは。
かけがえのない友が自分のせいで、傷ついてしまった。
死ぬかもしれない重傷を負ってしまった。
 
その苦しみは、けっして。
 
まったく同じ時間、自分とまったく同じ状況にあった少年のことを、フェイトは知る由もなかった。
彼女から若干遅れてベッドを抜け出した少年が、いたことを。
 
*   *   *
 
盗み聞きがいけないということくらい、わかっている。
けれど、聞かないわけにはいかなかった。
 
いくら眠ろうとしても、眠れない。
なのはの包帯にまみれてベッドに横たわる姿が、瞼の裏に焼きついてはなれない。
彼女の無残な姿が浮かぶたび、心臓が跳ね上がる。
嫌な汗が、頬を伝っていくのだ。
 
そして今、それと同じ汗が額に。頬に浮き出て顔を伝っていくのがわかる。
 
「……冗談でしょう、そんな」
 
なのはの父、士郎の声が耳に入った。
 
「いいえ、残念ながら。結論として、言わざるを得ません」
 
盗聴に忍び込ませた術式を、今すぐ破棄して消滅させてしまいたかった。
しかし身体は石にでもなったかのように硬直し、ただ医師たちの次の言葉を、なのはの両親達の反応を待つだけであった。
 
「詳しい検査の結果次第ですが。お子さんは……高町准尉の身体機能は、戻らないでしょう」
 
戻らない、とは。
わかっていながら、心中で問わずにはいられない。
 
「魔導師としての再起。いえ……日常生活を送る上での歩行・動作も……困難でしょう」
 
決定的な宣告に、腰が砕けた。
まったくの同時刻、別の場所でへたりこんでいるフェイトと、同じように。
 
あとの言葉は殆ど、耳に入ってこなかった。
 
室内に響いた、内線のコール音も。
桃子がすすり泣き、士郎が机を力任せに殴りつける音も。
 
なのはが目覚めたという連絡を受けそれを両親へと報せる、医師のいくぶん安堵したような声すらも。
 
医師たちの安堵など、今のユーノにとっては一文の価値もない。
彼らの告げた事実を聞いてしまった、今となっては。
 
彼女が、もう飛べない。その絶望の前に、意味はなかった。
 
(つづく)
 
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