東京行きのチケットもとった。

 
夜行バスのつもりが夜行列車にちょっぴりグレード・・・あがってんのか?
あとはコピー本書き上げるだけでございます。
 
てなわけでまずはWeb拍手レスー。
 
>出会いがあれば別れもある、か。
皆様にお届けできるよう、リリマジ3に間に合うようがんばりまする。
 
ノクターン第二部頑張ってください。楽しみにしてます
今週じゅうにもう一話更新したいですなぁ。
 
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sts本編が終わってもうそこそこ経つけどもうちょっと続くよ羽根の光。
てわけで九話更新。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
「フェイト。僕だ、いるか?」
 
夜。帰宅したクロノは、フェイトの部屋の扉を叩いた。
本当はフェイトがアースラを飛び出したその日、話をするつもりであったしすべきだったのだが。
如何せん艦長職というものは容易にその椅子を離れることをよしとしてくれない。
溜まっていた仕事や、駆け込みでやってきた報告書を片付けて艦に泊り込み、出張や航行任務を繰り返すうち一週間ほどロスしてしまった。
 
何度か連絡を取ろうと鳴らした携帯にも、クロノからでは応答しなかった──携帯にかかってくる電話がすべてプライベートなものだとわかっているからこそ。
バルディッシュに繋いでも、話を切り出すとすぐに通話を切断される。
家で母がそれとなくフォローしておいてくれればいいが──とも思うが、基本的に放任が教育方針のハラオウン家ではそれも望み薄だろう。
 
返事の返ってこない扉に、クロノはノックを繰り返す。
 
「フェイト?……入るぞ」
 
閉じこもって、無視を決め込んでいるのかとも思った。
けれど扉は何の抵抗感もなく、クロノの押すままに開いていき、もぬけの殻の室内へと彼を導く。
灯りは当然点いておらず、執務官試験に向けての勉強で多少の散らかりを見せる彼女の机が、一足遅かったことを部屋の主の兄へと伝えてくるのである。
 
時刻は夜の九時をまわったところ。
この時間に小学生の妹がいないとなれば普通の家庭なら騒ぎ立てでもしようものなのだろうが、一家全員管理局員のハラオウン家には珍しいことでもない。
それに生憎と、彼には義妹の行き先に心当たりがあった。
 
「……また、なのはのところか」
 
NO.5……五冊目、ということなのだろう、表紙に黒いマジックで書かれたノートを、クロノは手にとる。
 
一瞬躊躇して、彼はページを捲った。
勝手に見ることは悪いと思ったが、執務官試験に向けての勉強の中でフェイトが自分から見せに来ることも多かった。
ここひと月ほどは見てやれていなかったと、思い出したのだ。
 
ぱらぱらと、綿密に書き込まれたページが進んでいく。
自己採点の部分は、総じて丸、即ち正解が多い。これならば──……。
 
「!」
 
しかしそれは途中までのこと。
次第に、書き込みや予想問題の数は減っていき。
比例するように、丸の数は不正解の数に押し流され、減っていった。
 
字もどこか、彼女らしからぬ乱れた筆跡であるように、思えた。
 
 
魔法少女リリカルなのはStrikers another9th −羽根の光−
 
第十話 フェイトの焦り
 
 
5年B組、の文字が躍る札が教室の前には提げられていた。
お昼にはまだ少々早い、四時間目の授業真っ最中。
私立聖祥大学付属小学校の五年生たちはそれぞれに授業のノートをとる手を動かしている。
 
彼らの座る椅子と机が並ぶ中、最後列のそこだけがひとつ、他の者たちとはいささか趣を異にしていた。
 
「それじゃあ、この問題を──高町さん」
 
少女が腰を下ろすのは、ただの椅子ではない。かつて親友の使っていたものと同じ、紺色の車椅子だった。
ノートをとっていた“右手”をとめ、彼女は顔をあげる。
 
まだ立ち上がることは無理だから、そのままの姿勢になってしまうけれど。
 
「はいっ」
 
元気な声が、教室に響いた。
 
まだ退院は許されず、病院からの通学になるけれど。
高町なのはは自身の通う馴染み深い小学校へと、数ヶ月ぶりに戻ってきていた。
 
*   *   *
 
「でも、学校に出てこれるようになったってことはもうちょっとなのよね?完治も」
 
本日の体育は、バスケットボール。いくら登校してきているとはいえ、流石に足が動かないではしょうがない。
わいわいと声をあげながらボールと戯れる級友たちの様子を、試合の順番待ちのアリサたちとともになのははコート外から眺める。
 
アリサと、はやてが車椅子の彼女の脇に控えていた。
今現在はフェイトのチームがすずかのチームと互角の好勝負を演じている真っ最中である。
 
「うん、左手も少しずつは動くようになってきたし。足も……まあ、追い追い、ね」
 
心配をかけぬよう、なのはは笑ってみせた。
勿論それだって、徐々にではあるが身体が回復に向かっている実感があるからこそ言えること。
 
大丈夫。その言葉が、今ははっきりとした自信とともに口に出せる。
気休めや強がりでなく言えるということが、嬉しい。
 
「心配かけたぶん、しっかり治さないと承知しないわよ」
「アリサちゃんのゆー通りや。……お、フェイトちゃんチームにボールがまわったで」
 
はやての声に、視線をコート内へと戻す。
二つのチームの得点は同点、攻め上っていたすずかのチームがボールを奪われたところだ。
全般的にどちらもエースのすずかとフェイトにボールをまわす作戦、男子たちの動きではややフェイトのチームのほうに分があった。
しかしすずかのチームメイトたちも、バスケットボールに重要な要素の一つである高さという点において上回っている。
チーム員中二人が、クラスの身長ナンバー1、3であるというのは大きい。
戦力的にも、直接的な意味としても。
 
「フェイトちゃん、がんばれー!!」
 
親友のひとりは相手側コートに一人、走りこんでいた。
全員攻め上がっていたすずかのチームは、彼女へと通されたロングパスに対応することができない。
 
これが通れば、完全にフェイトはフリーで相手側のゴール前。
絶好のチャンスに、観戦中のクラスメイトたちから歓声が巻き起こる。
なのはも同じく友に巡ってきた見せ場に拳を握り、応援の声を張り上げた。
 
──が。
 
「……えっ?」
 
なのはが声援を送った、直後だった。
運動神経抜群、毎年運動会にはリレーのクラス代表としてすずかと共に選ばれるフェイトが、である。
 
突如、走っていた姿勢を乱し、自身を追う様に放たれたパスのボールを振り返りキャッチするタイミングを誤り。
 
ぼすん、と鈍い音が体育館に木霊した。
続けて反発力を弱めながらコート外へと跳ね転がっていくボールの、空しい音。
体育館が、静まり返っていた。
 
「……うそ」
 
見る者全て、フェイトの運動神経は知っている。故にその場にいた全ての者たちが、顔を押さえて蹲る彼女の姿に唖然としていた。
 
「フェイトちゃんの……顔面キャッチやて」
 
額と鼻とを紅く腫らした彼女の、ようやく上げた顔の中心から、鼻血の帯が一本重力に従って流れ落ちた。
 
苦笑するでもなく、照れ隠しするでもなく。
二言三言チームメイトと言葉を交わした後、淡々と彼女は教師のもとへ走っていった。
 
*   *   *
 
同じ頃、時空管理局本局にて。
 
「珍しいね、クロノ。きみが僕に相談なんてさ」
 
自らが普段立ち働く無限書庫の司書室に、ユーノは不本意そのものの顔のクロノを迎えていた。
 
相談したくはないが、せざるを得ない。そんな諦めが表情からは見てとれる。
出されたお茶に手をつけず、彼はぼそりと漏らすように言った。
 
「……フェイトのことだ」
「へ?」
 
なのはは、今日から地球のほうへ──登校のみという形でだが、戻ることを医師から許可された。
彼女が戻ってくるまでの間に、溜まりがちになっている仕事を少しでも減らしておこう。
ソファに腰掛けるクロノとは対照的に、ユーノは大量の資料本を手に室内を何度も往復していた。
 
その彼が、首を傾けて立ち止まる。
 
「……ああ、聞いてる。喧嘩したんだって?」
「喧嘩というか……まあ、そうなるか……」
 
まあ、確かにクロノは手厳しいやつではあるけれど。他人に対しても、自分自身に対しても。
妹であるフェイトに対しては、やや甘い。自覚はないかもしれないが、ほんの少しだけどこか甘い。
そんな彼でもやはり、妹の執務官試験間際ともなればこれまた自覚なく神経質になりきつい言葉を向けてしまうというのは無理なからぬことだろう。
 
普段が仲のよい兄妹である分、余計に。
 
「心配なのはわかるけどさ、試験受けるのはクロノじゃなくてフェイトだろ?もう少し見守ってやりなよ」
「いや、しかし……」
 
本の山を机上に置いて、身を捻り向かい合う。
ユーノがこちらを向くのを待って、クロノは語り始める。
 
「もう、執務官試験当日まであまり日数もない。なのはの身体だってもうフェイトが常に側についていなければならないほどじゃないんだろう?せめて今の時期くらいは……」
「くらいは?」
「きみたちになのはのことを任せて、自分のことに集中すべきだ。なのにあの子は“大丈夫”の一点張りで聞こうとしない」
 
俯き加減の姿勢で、組んだ両手の上に彼は顎を載せていた。

深々とついた溜息が、空調の風に消えていく。
 
「で、しつこいきみとの間で喧嘩になったわけだ」
「……まあ、そうなるな」
 
しつこい、という表現に少々むっとした顔を見せながらも。
彼はユーノの言葉に同意する。結局兄妹の間に行き違いが生じたという事実はどうしたって変わりようがない。
 
「悪いとは思ったんだが……昨日、あの子のノートを見た」
「ノート?」
「試験に向けた、勉強用のだ」
 
ああ、と得心がいった様子で頷くユーノ。
そして若干、咎めるような目になる。
 
「そう、睨むな。勝手に見たのは悪いと思ってる。言っただろ」
 
うんざりと、クロノは言葉を吐く。
前髪をかきあげ、ソファに背中を預け。体重を沈ませて、呟いた。
 
「正直……今のままだと厳しいな。勉強量とかの問題じゃない。試験そのものに目が向いていない」
 
他のことに、気をとられすぎていて。クロノは妹のことをそう評した。
 
「……ん、まあね。ちょっと最近のフェイトは一杯一杯だなぁって、僕から見てても思うよ」
「やっぱりか」
「ただ、仕方ないんじゃないかな。色々、複雑なんだよフェイトも」
「何?」
 
だが、一応の同意を示した上でユーノが述べたのは、また別の意見。
ソファーのところまでやってきて、彼はぬるくなったカップを手にとり再び机のところまで戻る。
 
一口すすって、空いたところに置き話を続ける。
 
「なのはが目覚めたばかりか、まだ目覚めないかくらいの頃──フェイト、自分のこと責めてたから」
「……」
「なにも責任、ないし感じる必要もないのに。“ヴィータよりもっと先に、気付くことができたはずなのに”って。責任の大元は僕にあるっていうのにね」
「おい、それは」
「……事実だよ。なのはに魔法を教えたのは、ジュエルシードを発掘したのは僕だからね。根本を辿っていけばそうなる」
 
さばさばした口調だった。
自分の責任を痛感しているからこその言葉を、紡いだ自らの口によって彼はどこまでも肯定する。
眉を顰めたクロノに、小さく笑ってみせながら。
 
「まあ、それは別として。とにかくフェイトが心を痛めてたのは事実だろ」
「……そりゃあ、まあ」
 
暗くなりすぎないところで、話題を本流へと戻す。
 
「きっとフェイトは、戸惑ってるんだよ」
「戸惑う?何を、だ?」
「うーん、なんて言えばいいかな?そういった自分の心配と、なのは本人の意志とのギャップというか」
 
ちょうどきみとフェイトがすれ違ったみたいにね。
ユーノの例えはわかるようでわかりにくいようで、クロノは暫し考えた後首を傾げる。
 
人差し指を立てて、彼は理解しきれていない友に話を切り替えて持ち出してみる。
 
「だから。フェイトはきっと、なのはにこれ以上苦痛や辛い思いはしてほしくない。けどなのはは違う」
 
なのははむしろ、正面から苦痛に向かおうとしている。
再び、空を舞うために。苦痛を受け入れ、乗り越えるために自ら望んでそちらに進んでいくのだ。
見ているこっちのほうが辛くなるくらい、必死に。
 
「いくらフェイトが止めても、心を痛めても。どんどん先に行ってしまう。自分の苦痛もおかまいなしに」
 
向かっていくと、決めたから。
もちろん辛さに折れたり、砕けてしまいそうになることもあるだろう。
 
だからこそ彼女の中にある弱音を、あの夜ユーノは聞くことができた。聞いて、支えると決めたのだ。
進んでいく彼女を支え、その弱さを少しでも分け合い補うために。
 
「だからきっと、戸惑って。そして焦っちゃってるんだよ」
 
けれど、フェイトの場合は。
護りたいなのは本人が持つ意思と、自分の中にある『護る』という言葉の持つベクトルとが噛みあわなくて。
心の奥底が行き先の指標を失い乱れたそこに、目前に迫る執務官試験が見えてきている。
 
やりたいことと、望まれていること。やらなければならないことの三つがちぐはぐに交差して、きっと消化しきれていない。
 
なのはを苦痛や困難から護りたい。フェイトはそう思っている。しかしなのはは、護られるよりも立ち向かうことを望んでいる。
そして一度失敗した執務官試験に再度挑む彼女自身と順調に復帰に向けて歩き続けるなのはの前進とを比較して、焦っている。
遥か先に歩き去る親友と、近付いてくる試験とどちらを追いかけるべきか、迷子となりわからなくなったまま。
二つがまったく別のことだということさえもひょっとすると、混在してしまっているのかもしれない。
 
「フェイト自身が、整理をつけるしかないんじゃないかな。いくら他の人間が言ってきかせても、本人が心から納得しないかぎりは」
「……そうかも、しれないが」
 
どちらにしろ、あと二ヶ月少々。
いくらフェイトが本来真面目でよくできる少女とはいえ、管理局の資格試験における難関の代名詞のひとつともなっている執務官試験に間に合うだろうか。
立ち直ったとしても、準備期間としては些か厳しいものがあるのは明らかだ。
 
「フェイトは、やさしいから。見守ってあげなよ、義理の兄」
 
無論、やさしいからというだけでは済まない問題ではあるけれど。
茶化すつもりもなく、ユーノは言った。
 
「不器用なやさしさが、これほど厄介とはな」
 
誘発されて、クロノがぼやいた。
 
そして、二ヶ月と二週間──二つの二が過ぎ去った頃。なのはが、僅かな時間杖をついて歩けるようになったその日。
 
フェイトの、二度目の執務官試験の朝がやってきた────。
 
(つづく)
 
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