うん、結構面白いことになりそう。その分俺もしっかり書かないとだけど。

夜中に腹抱えて爆笑した。
 
さてさて、そんな今夜は喪失辞書二十四話ー。Web拍手レスは明日、羽根の光を週末か週明けには。
 
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魔導書を包み込んでいた繭が、割れる。
フェイトとなのはは吹き荒れる魔力の起こす風に手を翳しながら、その様子を見守っていた。
 
やられる前にやる。相手が殻に閉じこもり、動きを止めたこの隙に討つ。そういった手がないではなかった。
しかし相手が相手、あの闇の書と同等の力を秘めたロストロギアである。下手に藪の蛇をつっつけば何が起こるとも知れないのだ。
それこそ、生半可な次元災害程度ではすまないかもしれない。
 
鬼が出るか、蛇が出るか──どちらにせよ、それを叩いたほうが確実かつ、リスキーではない。
二人は敢えて攻撃の手を休め、出てくるものを待っていた。
 
「これは……」
 
現れたその形状は、なのは達二人にとって見覚えのあるものだった。
 
「闇の書の……闇」
 
ただ、違うのはあくまで純粋に異形であるということ。
人の姿を模していた女性的なラインの頭部は存在せず、代わりに八岐にも及ぶ太く長い大蛇の首がまるで伝説獣のそれの如く甲殻から伸び大地をうねる。
 
色は、なにもなく。暗闇そのままの漆黒を全身に浴びたかのように、黒光りするのみだった。
 
黒き魔獣の周囲には無数のベルカ式魔法陣。
呼び出されるは、先ほどまで自分たちの行く手を阻んでいた鳳凰の群。
 
『Analytical completion 』
バルディッシュ?」
『Armors seem to be more fragile than before 』
レイジングハート?あなたも?」
 
二機のデバイスが、それぞれに報告した。
彼と彼女に与えられた新たな力は、センサーや処理能力についても──遥かに腕の中にある彼女たちの性能を向上させている。
 
主であるなのは達が思っていたよりも遥かに。
 
──ならばその持ち主である自分たちはどうする?
 
決まっている。彼女たちの成長に、主として応えるのだ。
全身、全霊を以って。
 
「フェイトちゃん」
「うん。……私が、切り拓くから。だからなのはは」
 
なのはは、撃ち抜いて。大剣を振り腰だめに構えたフェイトは友にそう告げ、愛機へと切り札の解放を命じる。
 
「ライオットフォーム。いこう、バルディッシュ
『yes,sir』
 
 
魔法少女リリカルなのは 〜the lost encyclopedia〜
 
第二十四話 我、劫火より熱き炎となりて
 
 
殆ど、呼吸らしい呼吸が出来なかった。
肺をやられたわけでもないはず。なのにいくら吸っても、傷の痛みと失われていく鮮血とが、体内の酸素量を満足させてくれることはない。
 
必殺の一矢を構えた両肩は朦朧とした意識のもと上下に激しく喘ぎ、己の血の匂いがする吐息が切れ間なく鼻腔を衝く。
時が経つにつれて身体を倦怠感が覆い、血とともに傷口から力が抜け落ちていくようだった。
避けきれなかった刃傷は、当初彼女が思っていたよりずっと深い。
応急処置程度の治癒魔法では塞がらない。悟ってすぐ、シグナムは貴重な魔力を無意味に消費することを放棄していた。
 
「……っく……」
 
痛みを堪えんと噛み締めた唇から、紅い雫が滴る。
顎を伝い落ちたそれと同じ色に、切り裂かれた彼女の脇腹は染まっていた。
 
──しっかりしろ。この程度で……!!
 
朦朧とする視界に一矢を放つべき相手を捉え、シグナムは己を鼓舞する。
 
「きちんと避けないからよ。二手三手先のことばかり考えて紙一重で交わすのは悪い癖ね、シグナム」
「……っ」
「まあ、その紙一重の薄さであなたに手傷を負わせられる人間もそう多くはないでしょうけれど」
 
あの金髪のお嬢ちゃんなんかは、できるかもしれないわね。
引き絞った弓を向け合う相手がそのように言う姿が歪んで見えるのは、こちらのダメージのせいだ。
 
「さて。そんな状態で撃ったところで、ファルケンが私に届くと思ってるの?」
 
両目を開けているのが、既に億劫だ。
瞼を持ち上げ続けているのが辛い。右目だけを辛うじて見開き、シグナムは照準を敬愛すべき師へと向ける。
 
「魔力量はもちろん私のほうが上。一撃の威力も、火炎の爆発力も。デバイスの性能も然り。そのことは誰よりもあなたが実感しているはずじゃない?」
「それでも……っ。それでもっ!!」
 
レヴァンティンに残っていたカートリッジを、ロード。鋼の矢の先端に炎が点る。
シュツルムファルケン──その準備は既に整っている。
 
加えて、弓から片手を外したシグナムは懐をまさぐり。
その五指にそれぞれ四つ、残りのカートリッジ全てを手にする。
 
「は、あああああぁっ!!」
 
拳に炎を宿し、完全に指と指とを閉じ。
それら全てが握りつぶされ、粉々に砕かれれば封じ込められていた濃密な魔力が溢れ噴出するのは道理。
解放された圧縮魔力をシグナムは己が炎と化し、彼女の全身を一体化した緋の魔力光そのままの色の鮮やかな炎が包みあげる。
 
燃え広がったのは、一瞬。
全身を覆った炎は次には、再び番えられた一矢を、火炎弓へと変えていた。
ぴしりと音をたてて、緋色の轟炎に包まれた弓の表面を亀裂が走る。
 
「ふぅん。及ばない破壊力は魔力の上乗せで補う……か。考えたわね」
「退けない、と言っています」
「そうね。あなたやレヴァンティンの心配するなんて、野暮よね」
 
敵であるあなたに対して失礼だったわ。騎士は首だけで頭を下げる。
 
「あなたにもいるのだものね。騎士としてではなく、あなた自身の意志として退くわけにはいかない、守るべき大切な人が」
 
八神はやて。夜天の王。
声に出さずとも、彼女の唇はそう発音していた。
 
ぼやけがちな視界にあって、シグナムの右目にはそれだけが不思議なほど鮮明に映った。
 
「ならばよし。これ以上の問答は不要」
「……ええ。全身、全霊を以って」
「ぶつかるのみ、ね。いい返事だ」
 
こちらが魔力を放つべき一矢それだけに集中させているように、相対する射手から吹き上がる膨大な魔力もまた、次第に彼女の構える刃の矢へと収束していく。
 
「……駆けよ、隼」
「舞え、飛燕。天高く」
 
あとは彼女の言葉通り──まさに、ぶつかるのみ。互いの誇りと、思いと、全力を込めて。
二羽の火炎鳥を双方、自らの手から大空へと解き放つ。
 
それで、終わる。
 
『Sturmfalken』
『Sturmvogel』
 
真に力で勝った者が、己の炎とともに勝ち残る。ただそれだけのことだ。
 
*   *   *
 
「どうか……ご武運を」
リインフォースっ!!」
 
自らの後継者をはやてへと託した祝福の風は、そっと身を引いた。
愛機を抱いた彼女は退く銀髪の女性へと思わず手を伸ばし、その腕を掴み──……、
 
そして、“すり抜けた”。
 
「……あっ!?」
 
とうの昔に回復しているはずの両足が、動かない。
車椅子から腰を浮かせた姿勢で前のめりに、はやてはリインフォースそのものを透過し雪の中へと突っ伏す。
白いひんやりとした感触に顔が埋もれ、見上げた鼻の頭に氷の粒が残る。
 
彼女が触れられなかった祝福の風は、湖面に立っていた。
次第にその色素を薄め、空気に溶け込んでいくように景色へと同化しながら。
 
「時間のようです、主。あとは……お願いします」
リインフォース!!」
 
少しずつ、少しずつ。彼女は、消えていく。
 
「魔導書の魔力に触れたが故の、奇跡にも等しい一時の帰還だったのですから。あなたが気にすることはなにもない」
「せやけど!!私……私、二度も!!」
 
せっかく再会できたというのに。そう自分が考えていることはおそらく、見透かされている。
そのことがわかっていながら、はやてには自分を抑えることが出来ない。
想いは彼女も同じはず。取り乱しては困らせるだけだというのに。
雪の大地に蹲り、その寒さに身震いをしてなお這い寄ろうとする。
 
「二度も別れるなんて……嫌や……っ!!二度もリインフォースを、死なせてまうなんて……私、主やのに……っ」
 
零れた涙が白い雪上に落ち、その部分を溶かす。
 
薄れゆく彼女はそっと右手を振った。ゆるやかに、なにかを投げかけるように。
直後にそよ風がはやての頬を、髪を撫でる。
 
「だだっこは……まだ治っていませんね、主」
 
くすりと、彼女は笑った。止まることのない静かな風がはやての周囲で穏やかな渦を巻き、幼い身体を抱きしめていた。
まるでそれは抱擁。そう、もはや触れること叶わぬ夜天の意思が二本の腕の代わりに抱き寄せる、風による抱擁なのだ。
冷たくみずみずしい雪解けの匂いが風に乗り、はやての鼻腔を擽っていく。
 
無機質の内に不器用な暖かみを持つ、彼女らしい選別の香りだった。
はやてが涙するように、消えゆく銀髪の融合機の頬にも一筋の涙が零れ落ちる。
涙の中に、笑顔があった。
 
「私なら、大丈夫です。一番大切な想いを残していきます、その子のために」
 
はやての掌の中に眠る幼子へと、リインフォースは潤む目を落とした。
 
「あなたの中にある、リンカーコアのどこかに。きっとその子ならいつか私の想いを。願いを見つけてくれると信じていますから」
「リイン……っ!!」
「その呼び名は……その子のものでしょう?」
 
いよいよ、リインフォースの姿は空気中に薄まっていく。
終わりのときは、すぐそこまできている。
 
はやては風にまかれ、いたわられながらただ腕を彼女へと伸ばすしかできなかった。
 
「父なる……創造主を……どう……か……」
 
──その風も、吹きぬけていった。
 
ほんの少し。ほんの少しだけ伝えたい言葉を彼女が言いきるには、時間は早すぎて。
次に続いたであろう“お願いします”のたった一言を伝えられぬまま、そこには青空と湖の水面だけが残った。
 
「あ……っ」
 
奇跡の時が終わったのだと、はやては理解した。声も、出なかった。
 
我が身を包んでいた穏やかな旋風が、そよぎを失いただの空気になっていく。
左腕で少女を胸に抱き、雪の大地を彼女は拳で打っていた。
強く、強く。何度も、何度も。
 
雪の中にくず折れる彼女の肉体は、九歳のそれではなくなっていた。
騎士甲冑にその身を包まれた十三歳の少女は夢の残り香たる冬の湖畔、豊かな自然の風景の中。
ひとり、慟哭した。
 
*   *   *
 
──そして。
 
二羽の火炎鳥が激突したのは、わずか一瞬のことだった。
炎と炎、己の渾身を込めた一矢同士の勝敗は例え僅かの差であろうとも一瞬で決する。
 
水鳥と隼、相手をその炎熱の翼によって屠り去ったのは──火炎に受肉する水の鳥、その矛盾した名の元に天空を翔る一羽であった。
 
勝利したより強き炎が、己が糧としてもう一方を食らい尽くし飲み込んでいく。
避けようもない。止めようもない。火炎の化身たる隼を放った騎士の肉体とともに、劫火に満ちたその鋭き嘴の内へと。
 
「ッ!!」
 
烈火の将・シグナムの姿が炎に包まれ紅に消えていく。
 
騎士は、弓を下ろした。明々と燃え盛る紅蓮が、彼女を照らし出す。

「……」
 
ファルケンを放った直後で、まともな防御方法もなかったはず。
オートの防壁程度で防げるほど、二発分の炎が溶け合った熱と破壊力は甘くはない。
 
炎の鳥は視界一面全てを覆いつくす壁となり、その向こうには何も残らない。

絶えることなく燃え上がる炎の先に、もはやシグナムはいまい。
そこでは焼き尽くされた灰さえもが消滅し、消え失せる。
いかに騎士甲冑に袖を通した優秀なベルカの騎士とて、それは例外ではない。
 
「……残念ね」
 
目を伏せた騎士は一言、そのように呟いた。
煌々とした炎の赤の中に彼女は一瞬、もしかすると騎士ではなく姉として、師としての慙愧を感じたのかもしれない。
 
……しかし、それは無用のものだった。
 
「っ……ぐ、おおおおおぉっっ!!」
 
炎が、弾ける。全てではない。まるで弾丸に貫かれたかのように一点が薄く、長く引き延ばされていき。
その破裂とともに現れたのは、銀色に輝く鋼の刃の先端。そして続く──緋色の剣士。
 
身に纏う衣は外套も装甲も、殆どが焼け落ち。
頬も、腕も。燃え破れた騎士甲冑から覗くありとあらゆる場所には、赤黒い火傷の痕が痛々しく刻まれる。
彼女の外見を印象付けていた、ポニーテールにひとつに纏められていた長い緋色の髪も消し炭となったリボンを失い、大きく乱れ散らばる。
脇腹に大きく口を開けた裂傷から鮮血が飛び散ると共に炎熱に蒸発していくのだ。
 
シュツルムファルケンとシュツルムボーゲル、二つ分の炎によってではない。
紅の血を流す、彼女本人の肉体を包む熱さそれ自体によって。
 
満身創痍の烈火の将を包み込んでいた緋色の透明膜が、砕け散る。
 
騎士はその光景に、納得した。
シグナムの身を包み、守り。そして今割れた魔力光の防壁の名は、パンツァーガイスト。
紫電一閃、シュツルムファルケンとともに騎士が彼女へと授けた多くの技のうちのひとつ。
彼女が炎に耐え、その最中を貫いて再び姿を現すことができた理由だった。
 
シグナムは飛燕よりも遥かに鋭い隼の嘴に、賭けたのだ。
破壊力でも、爆発力でもない。デバイスのダメージを無視してまで強引につぎこんだ魔力で彼女が強化したのは──シュツルムファルケンの貫通力。
彼女の一矢が容易に飲み込まれたのは単純に、威力において劣っていたからでもある。だがそれ以上に彼女は己が最大の一撃の威力を、一点に絞りきっていた。
矢の造った一筋の道を、彼女は追った。出来うる限りの速度で、炎が押し寄せきる前に。
カートリッジをすべて使い切ることで体内に残った、あるだけの魔力を防御に注ぎ込み身を守りながら。
 
力尽きた刃の残した、炎という名の最後の壁を突き破り、彼女は躍り出てきたのだ。
そして少しでも魔力が残っていれば彼女は──……。
 
「レヴァンティン!!」
『Jawohl!!』
 
炎の魔剣は刃も、その柄さえもが主と同じく傷だらけだった。
だが白銀の刀身に幾筋ものヒビを走らせながらも、彼は高らかな声で応じる。
 
騎士はシグナムのふるう刃の前に、弓の姿となった愛機たちを差し出した。
防御のための当然の動き。幾多の戦いの中で染み付いた、生き残るための反射。
しかし自分でそうしておきながら、レクサスは自分が弟子の刃を防ぎきれないということを認識していた。
理屈ではない。身体が反射的に動いたのと同じ、戦を繰り返す中で培われた、勘のようなものだ。
 
「はあぁっ!!」
 
原型を保っているのが不思議なほどに砕け、ひびわれた鞘でシグナムは差し出された鋼の弓をかち上げる。
力と、力がぶつかりあい。全身のばねを以って、彼女は師の両腕を跳ね上げた。
 
紫電──」
 
残った少しの魔力を、全身から搾り出す。この一撃でいい、倒れたっていい。
大丈夫だ、魔力は──魔力は、“残っていた”。
相手のガードを崩した勢いを殺すことなく、シグナムは身を翻す。
螺旋を描くように、雄雄しき竜が長い身体を従え、天に昇っていくように。
 
弓へとぶつけた衝撃に砕け散った鞘を投げ捨て、両腕にレヴァンティンを握り締め。まっすぐに彼女は斬り上げる。
 
「──……一閃っ!!」
 
最上段から振り下ろす通常のものと違うそれは、本来あるべき正調の紫電一閃としての型ではない。
師たるレクサスが彼女に授けたベルカ式剣術における奥義たる紫電一閃、そのバリエーションのひとつ。
 
名を、紫電一閃──翔龍の型。
 
乗り越えるべき相手、その胴から胸……更に肩へとかけて渾身の力で。
肉を筋繊維一本一本から斬り裂く感触が剣を通じ、握る掌へと伝わった。
騎士の肉体を上薙ぎに払い肩口へと剣が抜けたとき、限界を迎えたレヴァンティンの刃が真っ二つに砕け折れた。
 
折れた刃は虚空へと跳ね上がり、弧を描き──そして不毛の大地へと突き刺さった。
ほどなくして、僅かなタイムラグで影が二つ、それを追うように地面へと落下した。
 
先に落ちたのは、シグナムではなかった。 
 
(つづく)
 
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いい感じで厨臭い技名ですねって言うない。書いた本人自覚してっからorz つWeb拍手