アニメは見てないけど(見れないけど)

放映始まってから漫画に手を出しました。
10巻まで今現在そろえてるけど、マリアさんヒナギクと咲夜がいいですな。
このところは咲夜が自分の中で上昇中。あー、アニメだと中の人はやてやね。
 
ナギお嬢様もかわいいんだけど、どっちかってーとマスコット的なかわいさを感じてしまう私。
 
閑話休題
んだば羽根の光の更新、久々にいきまーっす。
 
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 なのはの肉体の回復状況はゆるやかに、かつそれでいて確かな歩みを以って、ゆっくりと前進していった。
 
雪の日の事故から、ほぼ半年。なのははほんの少しの時間くらいならば杖をついて、車椅子や補助を必要とせず立ち歩けるようになり。
同時に病院も退院許可が出るとともに引き払い、無事自宅へ戻り学校と本局の病院とに通う日々を送っている。
 
この半年じゅう、ずっとというほどではなくとも。
それぞれに出来うる限りの時間を割き、ユーノが、ヴィータが、そしてフェイトが彼女の側についていた。
今は復帰に向けての魔力制御と、日常生活での運動能力の回復との二つを主眼に、なのははリハビリに臨んでいる。
 
徐々に自分の身体が元に戻っていく実感があった。距離に例えるならほんの1ミリというほんの少しずつの前進であっても、明確に。
その実感があるから、彼女は朗らかでいられた。ひたむきにリハビリに打ち込んでいた。
一杯一杯ではあったけれど、満ち足りてはいた日々だ。気になってはいても、気付く余裕なんてなかったのだ。
笑顔を見せる親友が、隠し事をしていたことなど。
 
すっかり、大丈夫だと思って安心しきっていた。
フェイトの執務官試験の結果を、なのはは未だ、彼女の口から聞いていない。
 
彼女だけでなく、ユーノも、ヴィータも。近しい者たちですら誰一人聞かされてはいなかった。
よく知っているはずの彼女の笑顔が作られたものへといつしか摩り替わっていたことに、皆気付けなかったのだ。
 
 
魔法少女リリカルなのはStrikers another9th −羽根の光−
 
第十一話 try again
 
 
「なんやて?」
 
そのことを一番初めに報されたのは、はやて。そして彼女にその情報を持ってきた烈火の将──シグナムであった。
正確に言うならば、その情報が漏れ聞こえてきた場にシグナムが同席し、帰宅するなりそれを主たる彼女に告げたことになる。
 
「私も驚きました。レティ提督のところにクロノ艦長が来ていなければ……」
 
柄にもなく動揺した素振りで、呼吸を整えながらシグナムは言った。
 
フェイトの二度目の執務官試験が失敗に終わった。
そのことを他でもない、彼女の兄であるクロノの口から聞いたと。
相当に慌てて帰ってきたのであろうシグナムは制服も着替えず、リビングに滑り込むなりはやてに伝えたのである。
 
「でも、失敗って……そんな様子、どこにも……」
 
フェイトが、試験に落ちた?
信頼する彼女の言葉を、はやては俄かには信じられなかった。
だって今日も学校で普通に友人同士五人仲良く笑いあい、過ごし。局の病院に行くなのはとともに道を折れていくところを見送ってきたばかりだというのに。
 
いつも通り、フェイトは笑顔だった。受験の失敗による落ち込みなど、微塵も触れ合っていて感じはしなかった。
学校で顔をあわせた彼女に、どこにもおかしなところはなかったはずだ。
 
「一昨日、結果の通知があったそうです。それから家では食事と入浴、トイレ以外は部屋に閉じこもりっぱなしだと」
「一昨日……あっ」
 
二日前──即ち、こちらの世界における時間で言う日曜日。
シグナムの言葉にその日の出来事へと思いを巡らせ、はやては思わず声を上げていた。
 
そういえば、と思えることがあった。
日曜、ちょっとした書類の残りを提出するために訪れた本局ではやては彼女と顔をあわせていたのだ。
自分は用事を終えてなのはのリハビリに少し顔を出し、帰るところ。
対するフェイトは、これからなのはのところに向かうところ。
 
殆どすれ違おうかという距離に互いの身体が近付くまで、なにか考えているような仕草の彼女は手を振ったはやてに気付かなかった。
一方はやては、見える位置にきたところで既に気付いていた。
 
……彼女のYシャツのボタンの一番上が派手に、掛け違っていることを。
今言われてみればという結果論に過ぎないし、そのときは二言三言言葉を交わしてそのまま別れたが。
たしかに今思い返せば、彼女らしからぬ落ち着きのない様子に少々心中で首を捻ったことも事実である。
 
「それで、なのはちゃん達はこのことは?」
「これからアルフと合流して、彼女たちにも伝えにいくと言っていました。私はそこで退出しましたが……」
 
暫く二人、無言で立ち尽くす。
夕飯のサラダにとゆでていた卵が、沸騰したお湯の中で揺られかたかた鳴っていた。
 
「さよか」
 
さしあたってはやてに出来るのは、そういってキッチンに戻ることくらいであった。
でた結果が変わることはないのだから。自分が騒いだところでどうしようもない。
 
そう思う彼女もまた、鍋の縁でうっかり火傷してしまう程度にはやはり動揺していた。
 
*   *   *
 
−同時刻・時空管理局本局医務課、リハビリテーションルーム−
 
「わたしのせいなんだね、きっと」
 
いくらかの沈黙と、気まずい空気と。
一同がそれらを感じ言葉を継ぎあぐねていた頃、なのはが口を開いた。
 
ユーノが、ヴィータが、アルフ、そしてクロノが固いウレタンのリハビリ休憩用ベッドへと腰掛け呟いた彼女へ各々、ハッとしたように目を注ぐ。
Tシャツ姿で頭から被っていたタオルを引き摺り下ろして、なのははその一言だけを漏らしたのだ。
 
「ちが……違うだろ!? 別にお前のせいじゃ……」
「ううん。わたしのせいだよ。わたしがこんな風に心配かけたり、フェイトちゃんの勉強時間奪ったりしなかったら……」
 
思えば彼女は、時間の許す限りなのはの側にいて身の回りの世話を焼いてくれていた。
試験のことをこちらが案じ尋ねても、ただ笑顔で大丈夫だと返すばかりで。
 
だが冷静に思い返してみれば、大丈夫なわけがないのだ。
時空管理局の数ある資格試験のうちでも上級キャリアに並び難易度が高いとされる執務官資格取得試験。
そんなことが百も承知でありながら、自分たちは深く察してやることができなかった。
彼女の笑顔に──誤魔化しの微笑みに、甘えてしまった。
フェイトが執務官試験に失敗したというのならば、それは自分の責任だ。
 
「いや、あの子自身の責任だ。なのは、きみが責任を感じることはない」
「でも……」
「試験に向かうことよりも、なによりも。そうすることを選んだのはフェイト自身だ」
 
彼女の試験結果を一同に伝えた張本人であるクロノが、助け舟を出す。
あわせてユーノも、自分を責める彼女の肩に手を置いた。
二人の顔を交互に見比べ、それでもやはりなのはは視線と肩を落とさずにはいられない。
 
選んだのがたとえフェイト本人の意志によるものであったにせよ、その原因となったのは他でもない自分自身の負傷によるものなのだから。
自分がもっとしっかりしていたなら。彼女がそう自分を責めることを予測した上でのクロノのフォローの言葉も、役には立たなかった。
 
「それで、フェイトは?」
「家ではずっと落ち込んでいる。また失敗してごめんなさい、とだけ」
「それに……『私、執務官目指すのに向いてないのかもしれない』って」
「そんな、それじゃあまるで」
 
まるで、執務官になるのを諦めたみたいじゃないか。
 
言いかけたユーノの服の裾を、なのはが引っ張った。
俯いたまま、静かに首を振る。推測だけで滅多なことは言ってはいけないと、幼馴染みの彼に諭すような仕草で。
 
「執務官になるのは、フェイトちゃんの夢だから」
 
彼の言いかけた言葉と同じ想像は、彼女の中にもあったのだろう。
だから彼女は裾を引っ張ったまま放さない。
『ごめん』、その一言の返事の代わりにそっと手の甲を撫でたユーノの掌を、触れた瞬間きつく握り返す。
 
その飲み込まれた言葉の通りに、なってほしくないから。親友の想いの強さを、信じていたいから。
自分のせいで彼女の夢が断たれてしまうなんて、考えたくはなかったから。
 
「遅かれ早かれ、君たちが既にこのことを知っているとあの子も気付くだろう。そうなったとき、どうするのか」
「大丈夫……大丈夫。フェイトなら」
 
なのはや他の皆に言う以上に、ユーノは自分に対してそう言っていたのかもしれない。
痛いくらいの力で彼の手は、なのはの手を握っている。
強く、強く。互いに掌と指先に力を込めた。
 
「……なにか……わたしに出来ないかな」
 
無理を承知で、なのはは呟いた。
したいと思ったところで、なにができる。それはなによりまだ満足に動かない身体を持つ自分が一番に、わかっていること。
魔力も未だ完全な制御にはほど遠く、ディバインシューター一個を扱うのですら精一杯だというのに。
 
立って彼女の背中を追いかけることさえ、不可能なのだ。話を聞くくらいしか、今の自分には出来ない。
聞いたところで、解決策を提示することもできないというのに。
話を聞くだけなら自分などよりもよほどフェイトにとって有意義な言葉をかけてやれる人間がいくらでも周囲にはいるはずだ。
それに今まで殆ど互い、隠し事なんてしたことはなかったのだ。しかしフェイトは黙っていた。そんなことについて一体どうやって切り出せばいい?
彼女が自分の意志で「言わないことを選んだ」ものを。
 
(……そっか。隠し事を先にしてたのは、わたしなんだね)
 
そこまで考えて、なのははどちらが先であったのかということに思い至る。
言わずにいたのは、自分のほうが先。体調の不良を彼女やヴィータたちに隠して、無茶をして。
 
……それでフェイトの夢を、躓かせてしまった。そして躓かせた彼女にも気付かず、自分はまた歩き出そうとしている。
 
今更自分がやれることが、仮に身体が動いたとしてもどれほどあるのだろう。
自分とともにあってくれた彼女に、なにかしてやりたいとは思ってはいても。
クロノがフェイトのしてくれたことを彼女自身の意志によるものと切り捨てたように、なのはがそうしたいと願うのもフェイトの意志の介在しない、自分自身の我が儘に過ぎないのだ。
 
「きみはリハビリに専念していればいい。あの子の問題なんだから、これは」
「そうかもしれないけど、だけど……」
「ごめんなさい!! ちょっと回診に手間取ってしまって……」
「わっ」
 
会話に集中していた一同は、白衣を翻らせてリハビリ室にかけこんできた女性の姿にびくりと反応し、俯き気味だった顔を揃って上げる。
 
「んだよ、シャマル……びびらせんなよ」
「っていうか、仮にも医者が病院の廊下を走るな。評定に響くし、問題だぞ」
 
不意討ち過ぎる闖入者に、沈んでいた空気が一変する。
ヴィータとクロノがぼやき、彼らの呆れ顔を尻目に、シャマルは抱えてきた分厚いファイルをどさりと音を立てなのはの座るベッド上に置く。
 
「あれ、なんか今日凄いですね。書類の量とか」
「うふふ、吉報よー」
「吉報だぁ?こっちは今それどころじゃ……」
 
ぽかんとする一同の中で唯一笑顔のシャマルは、なのはの目の前に人差し指を突き出して、自信満々に言ったのだ。
 
「おめでとう、なのはちゃん。昨日の検査の結果で、両足に魔力を通して歩いてもいいって許可がさっき降りました」
「え?」
「魔力の流れ方がほぼ正常に戻ってるって。これで少しはリハビリが楽になると思うわ。あ、もちろん頼りすぎは厳禁だけれど」
 
彼女はきっと、喜び飛びつくなのはを想像してその報せを持ってきたのだろう。
確かにそれはリハビリに明け暮れるなのはにとっては喜ぶべき前進であった。けれど。
 
シャマルの期待したものとは別の意味で、その言葉はなのはの胸の奥深くに響いていた。
 
「魔力……魔法……」
「術式は神経に負担の少ないものをこっちで構築してるから。このストレージで……」
 
取り出したのは、ごく一般的に医療用として用いられている簡易な腕輪型のストレージ。
なのはの場合ならば胸のレイジングハートが制御を直結させて、より扱いやすくしてくれるはずだ。
左手を出して──とシャマルが言う前に、なのははひったくるようにして彼女の手からそれをもぎとる。
 
「なのはちゃん?」
 
これまでのリハビリの間で一番早く、左手が動いた瞬間だったかもしれない。
かちりと、接続音をさせてなのははストレージを身につけた。
 
「……クロノくん、次の空戦Sランクの昇級試験、いつだったかわかる?」
「何?」
 
自分は、怪我という形で躓いた。
フェイトはそんな自分のもとに立ち止まり、歩き始めるまで待っていてくれた。
立ち上がるのを皆と共に支えてくれていた。
 
彼女が躓いたのならば、自分もそうしよう。
ただ自分には支えることは出来ない。肉体がそれを許してくれない。
だから目指すべきところへと一緒に、歩いていこう。膝の土を払い、同じ歩幅で。
行き先が違っても、手を取り合って進んでいくことは出来る。
今はまだ、スタートラインにすら立つことのできぬ身体であっても。
 
半年。それだけあれば十分だ。一緒にゴールを目指そう。
 
「半年後……たしか、執務官試験の少し前くらいだったよね?」
 
(つづく)
 
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羽根の光、更新久々すぎて申し訳ない。つWeb拍手