また別のことで凹んでますが。

拍手やコメントいただき、ありがとうございました。
レスはWeb拍手レスを明日やるのでそのときに・・・。
もう感謝以外の言葉が見つからんですよ。
 
とりあえず、今日は喪失辞書とWeb拍手お礼ssの更新を。
喪失辞書は26話+エピローグの全27話になりそうです。
なので今回除いてあと二話。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
白い、涼やかな夢を見ていた気がする。
 
「リイン。……リイン」
 
主の声と別に、もうひとつ誰かの声を子守唄がわりに、自分はきっと眠っていた。
けれど今何処からか自分を呼んでいるのは、主からの呼び声ただひとつ。
 
目覚めたそこは、落ちた眠りの前と変わらぬ、漆黒の世界。
 
「ふぇ……はやてちゃん……目、覚めたですか……?」
「まぁ、つい今しがた、な。それよりいくで、もっかいユニゾンいけるな?」
 
雪も、湖も。銀髪の女性も。擦る視界には一切捉えられることはない。
はやての問いにリインは頷き、自分を抱いていた彼女の掌から飛翔する。
 
──銀髪の女性?
 
「……あれ?」
「ん、どしたリイン」
「あわわ、なんでもないです」
 
今は、余計なことを考えている場合ではない。
ぶんぶん頭を振って雑念を振り払い、融合の態勢に入るべく深く息をつく。
 
「……“リインフォース”」
 
主とひとつになる瞬間、呟きが聞こえた。自分の名前なのに、まるで別の誰かが呼ばれているように聞こえる。
そして誰かが、自分の肩を優しく叩いたように思えた。
がんばれ、とか。頼むぞ、とか。そんな声が聞こえてきそうなぬくもりをいつもと同じはずのユニゾンで、リインは感じていた。
 
やろな、三人で。私とリインと、あなたの遺してくれた気持ちと。
きっと叶える。止めてみせるから。あなたや守護騎士のみんなのお父さんを、きっと。
 
「ユニゾン、イン」
 
そうやって流れ込んできた主の思念も、いつになくあたたかく──熱いほどだった。
 
その熱ささえあれば、どこへだっていける。なんだってできる。
ひとりでも、ふたりでもない。三人がひとつになったなら、絶対に。
 
彼女は、主の頬に残った涙のあとに気付いてなどいない。
主ともう一人の自分が交わした言葉も、なにひとつ知りはしない。
 
なのに一分の揺らぎもなく、そう思えた。

 
魔法少女リリカルなのは 〜the lost encyclopedia〜
 
第二十五話 それぞれの二人
 
 
炎の赤をそのまま身に映した巨怪鳥たちも、もはや大した障害にもならない。
相変わらず数だけはいるが、それだけのこと。
なのはとフェイトがはやての下へと向かい、幾許かの時間が経ち。
ある一時を境に明確に、その大群から統制が失われたということも大きいが。
 
「──?」
 
しかしなによりも大きかったのはやはり、信頼すべき将の戦線への復活。
今ここに、いるかいないかではない。
夜天の守護騎士、その柱たる彼女が再び剣を手にとり立ち上がったということ。
 
ヴォルケンリッター・烈火の将の復帰こそ、なにものにも代えがたい最大の援軍であった。
 
「ザフィーラ、感じてっか」
「ああ……喜ばしい感覚ではないな。我らの身体を探っている」
 
故に冷静、故に一騎当千。故に無敵。
遠くからの微細な感覚の変化にも、一を聞いて十を彼らは通じ合う。
 
「またハッキングか……けど、もう無駄だっ!!」
 
その程度、足枷程度にもなりはしない。個々の意志の面における強靭さもさることながら──とうの昔に対策済みだ。
一度、肉体を奪われた。二度同じ轍は踏まない。
 
ヴィータにも、ザフィーラにも。艦内で待機するシャマルにも、それぞれ。
管理局技術部特製、対ハッキングプログラムが各個のデバイス、あるいは装備の内へと搭載され騎士たちの身を守っているのだ。
物理的にではなく、概念的な攻撃からの盾として。
 
「とっととブチ抜いて!! なのは達追いかけっぞ!!」
 
ラケーテンから、ギガントへ。可変した極大のハンマーヘッドが横薙ぎに鳳凰の群を巻き込んでいく。
趨勢の変化を感じない者は、もはやその場にはいなかった。
 
『シグナムと交戦中の敵騎士の魔力反応、ほぼ消失!!』
「やったのか!? シグナムのやつ、勝ったのか!?」
 
そして、もたらされる吉報。……いや、果たしてそれが完全無欠の吉報と呼べるかどうかは定かではないが。
自分たちの見えぬ場所、信じて送り出した将の繰り広げていたひとつの戦いが終わったことを、そのエイミィの言葉は意味している。
 
『まだ……わからない!!けど、シグナムの魔力も殆どゼロに近いレベルにまで低下!!』
シャマル!!行ってやれっ!!」
 
烈火と、劫火。明らかなのはその激突のダメージが、けっして片方のみに残るような生半可なものではないということだ。
将のもとへと向かう癒し手の返事を耳に、ヴィータは、ザフィーラは。彼女らのサポートに回っていたアルフは、各々に戦場を駆ける。
 
シャマルは、シグナムのもとへ。
自分たちは前へ──ただまっすぐ前を向いて──はやて達のところへ、進むのだ。
 
*   *   *
 
『Riot Form』
 
それは一見すれば、閃光の戦斧・第四の形態として期待の眼差しを向けるには些か落胆を覚えるものであったかもしれない。
 
「それが……ライオットフォーム……?」
 
ハーケンのようなリーチもなければ、ザンバーの大剣としての圧倒的な威圧感もない。
可変を終えたバルディッシュがフェイトの掌中に示したその形は、魔力刃の単なる片刃剣。
 
拍子抜けするほどその変形は味気なく、また凄味を感じさせるものもない。
しかし。
 
「なるほど……ね。これは確かに……長時間の使用は厳しいかな」
 
呟いたフェイトの手の内で、黄金色の片刃がザンバー以上の輝きを放っている。
彼女の額に流れた脂汗を、なのはは見逃さなかった。
 
フェイトは愛機を右手持ちから両手へと持ち替え──そして左右に分かったのである。
ザンバー以上の魔力量を、はるかに面積の狭い魔力刃に凝縮した二刀流。
それこそがバルディッシュの新たな切り札・ライオットフォームの正体。
 
バルディッシュ。バリアジャケット、ライトニングフォーム」
 
明確に高速機動戦闘を意識したその形態に、使用者の汎用性など必要最低限以外不要。
白マントが、濃紺と黒のジャケットが砕け、黒マントが翻る。
 
「いくよ、なのは」
 
次には、数多蠢いていた無数の触手たちの過半数が、通過した黄金の閃光によって中ほどから断ち切られていた。
疾さも鋭さも、求める性能の方向性による違いを加味したとしてもザンバーを凌駕している。
 
返事は、聞くまでもないことだから。だからなのはも答えるではなく、撃ち放った。
 
エクセリオンバスターの光芒が、触手を。真に黒き闇の化身の外装を、焼き払っていく。
 
邪魔するものがなくなれば、あとは──……。
 
「……レイジングハート。『あの』システム、使うよ。リミット1まで解除、スターライトブレーカー」
『all right』
 
全力全開の一撃を、叩き込むまで。
 
*   *   *
 
「──ッ、く……」
 
四肢がまるで、麻痺してしまったかのようだった。
高空からの落下の体勢をなんとか立て直すのがやっと、それから先は全く肉体が言うことを聞いてくれない。
 
「っか、は……ぁっ」
 
力の入らぬ両手両足を投げ出して大地にただ横たわり、空を見上げるばかり。
ほどけた緋色の長髪が、地面に無造作に散らばる。
口の中の血が気管に入り、紅い飛沫を散らしつつ、シグナムはせき込んだ。
 
──自分は、やったのか。あの人を……乗り越えることは出来たのだろうか。
 
「……やるように……なった、わね」
「!!」
 
自問に応えるが如く、伸びた影法師が彼女の顔に黒い帯を落とす。
 
大きな傷が、肉の紅色を露にしたその口を広げていた。
腰元から、肩口にかけて斜め一文字に走るそれは、けっして血を噴き出すことなく。
わずかなくすぶる煙とともに、シグナムの鈍った感覚にも鼻腔を通して嫌な肉の焼ける匂いを送り込む。
 
大きい、あまりに大きい。人間一人が一太刀によって受ける傷としては、あまりにも。
 
だがそれでも、彼女は立っていた。
刃を振るったシグナムが身動きひとつ取れぬほど力使い果たし、倒れるのと対照的に。
傷口を押さえることすらせず、二本の足をけっして引き摺ることもなく烈火の将の頭上から見下ろしている。
 
「あ……っ」
 
右手には、大型の弓の形状をしたデバイスを保持したままだった。
自分の全霊を込めた一撃では、倒しきるに至らなかった──。悟ったシグナムは、息を呑む。
こちらはもう既に、起き上がることすらままならないというのに。
己に出来ることはもう、なにもない。出来る限りのことをやったのだ。
これ以上──打てる手段は、シグナムには残されていない。
 
炎によってからからに乾いた皮膚を、冷たい汗が一筋流れ落ちる。
 
自分の、負けだ。師を超え、打ち倒すことはかなわなかった。
首をほんのニ、三度見下ろす姉のほうへ向けただけで、筋肉が軋む。
いくら念じようと、身体は動かない。力が入らない。こんな状態で一体、何が出来るというのだ。
 
「……もっと、いい顔しなさい。せっかく私から一本とったっていうのに。そんな顔されちゃ、こっちがやられ損だわ」
「え?」
 
彼女の手にある弓が、刃へと形を変え。ひとたび振り下ろされたならば、そこで戦いは終わる。
シグナムの、この世からの完全な消失という形を以って、決着するのだ。
はやてのもとに、自分はもう行けない。
 
「まったく。後先考えずに全力出し切るんだから。これじゃあどっちが勝者かわかんないわね、まったく」
 
しかし、シグナムの凍りついた表情とは裏腹に。
見下ろす騎士は刃を振るうこともなく、微笑み混じりの言葉を彼女に向けるだけ。
そして──左腕に保持していた『何か』を、横たわる弟子へと軽く投げ落とす。
 
「それにその子は、私が授けたあなたの相棒でしょう。騎士なら自分の得物は自分で拾うくらいしなさい」
「レヴァン……ティン……っ?」
 
やれやれと溜息をつく仕草は、命のやりとりをする相手に向けるそれではない。
刃砕け半分ほどの短さとなった愛機が胸の上へと転がり、姉の行動にシグナムは軽く声を上げていた。
 
応えることなく、女騎士は踵を返し、妹へと背中を向け。
足を踏み出すと同時、ぽつりと独り言のように呟く。
 
あなたの勝ちよ、シグナム。──と。
 
「レクサス……レクサス姉さまっ!!」
 
遠ざかる背中に、掠れがちの声を精一杯に張り上げシグナムは叫ぶ。
なにが自分の勝ちなものか。こちらは一撃入れただけでもう立ち上がれもしないほどに消耗しきっている。
何故彼女は決着をつけようともせずに立ち去っていく。
 
「人の立場には、それぞれ本懐というものがある。私は、そう思っている」
 
けれどシグナムのその疑問を、視覚が明らかにしてくれる。
 
「妹の成長を肌で感じること。それが私の姉としての本懐」
 
光が。光の粒子が舞い落ちていた。
歩き去っていく、レクサスの肉体から。
一歩ごとの軌跡のあとにも、肩口からも、シグナムと同じ長い緋色の髪からも、さらさらと。
 
「壁となり立ちはだかり、やがて超えられていく。弟子をもった騎士にとって、弟子が自分を超えることほど嬉しいことはない。そして」
 
彼女の肉体は少しずつ、崩壊をはじめている。
紫電一閃のダメージによるものか、魔導書による自己修復機能が働いていないのか。
 
プログラムの受けた損傷に対し、まったく回復が追いついていない。
これが彼女が、勝敗を判断した理由。魔力を、肉体を失って──彼女は遠からずこの世から消滅する。
 
「主のために戦い、敵と刃を交わす。それが騎士としての本懐だった。幸い私は、すべてを成し遂げることが出来た。あとは」
 
彼女が振り返ることは、なかった。
魔力の粒子と、己の身体を構成するプログラムそれそのものの粒子を風に舞わせながら、騎士の足元に三角形の魔法陣が出現する。
 
「愛した男と、添い遂げる。彼の最期を見届ける。その女としての本懐を……やり通すだけよ」
 
彼女が消えた後に残った光の粒は、魔力と血肉。果たしてどちらであったのだろうか。
 
(つづく)
 
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