うん、普通に更新。

 
ごめんよ、クリスマスss書こうかとも思ったけど流石に今年は無理・・・。
面目ない。
 
普通に喪失辞書26話です。
今回で最終決戦おわり。次回エピローグ等でラストです。
 
− − − −
 
てわけでどうぞー。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
 
「シグナム?」
 
──追わなければ。ただそれだけの思いが、力使い果たし抱き起こされた烈火の将を動かす。
 
とうに涸れ果てたはずの活力だった。けれどじっとしているということを自分自身が己に対して許せるはずもなかった。

愛する男と、添い遂げる。
 
そう言って転移していった姉が向かう先といえば考えられるのはひとつしかない。
そしてそこに深手を負った彼女が向かったのならば、告げられた理由から導き出される目的もまた同様にひとつ。
 
「シャマ、ル。私を……主、はやての下に……っ」
「ちょ、ちょっと。シグナム? じっとしてて、あなたこの傷で……魔力だって殆ど……」
 
悠長に手当てなど、受けてはいられない。救援にかけつけた湖の騎士の、治癒魔法の淡い光を帯びた掌を振り払い胸元を掴む。
ぐいと引き寄せた翡翠色の甲冑の騎士に、彼女は懇願する。今必要なのは、治療ではない。先に行った者を、追いかけること。
 
「頼む……っ、シャマル……!!」
 
追って、何が変わるというのだろう。きっと何も変わらない。リインフォースが大空へと還ったときと同じだ。自分にやれるのは看取ることだけ。
 
だが、それでもいい。動かなくては。見送るだけであってもかまわない。
見届けることしかできずとも。今動き出さねば、自分は後悔する。


魔法少女リリカルなのは 〜the lost encyclopedia〜

第二十六話 空に還る者、空を背負う者

 
かつて、なのはは自らの人生そのものを歪めてしまうかもしれなかったほどの、重傷をとあるトラブルにより負った。
過度の無茶と、それを誤魔化し続けたこと。デバイスを無茶につき合わせ互いを『信じすぎて』しまったこと。
慙愧は、いくらしても未だ絶えない。
 
「ブラスターシステム、起動!!スターライトブレイカー、スタンバイ!!」
『all right. Blaster Mode ,limit 1st .』
 
その遠因となったエクセリオンモードは、自らの限界水準を超えて強大な魔力・破壊力を生み出す諸刃の剣だった。
 
「ぐ……うぅぅっ!!」
 
だとすれば、レイジングハートの新たな姿・エクシードモードに搭載された『このシステム』は諸刃どころか。
柄まで鋭利な刃によって造りこまれた、自らをも切り裂き絶えず傷つけ続ける魔刀だ。
 
自己ブーストによるリミットブレイクモード──ブラスターモード。
マリーはレイジングハートの一存に従ってエクシードへとそれを搭載したことを、詫びていた。
エクセリオンと違い、エクシードの性能はリミットオーバーではなくリミットラインぎりぎり。
その差を補うためには、搭載せざるをえなかったと。そして伝えた。今の成長途中のなのはの身体には、最大限の無茶をしたとしてリミット1のリリースが限界であると。
 
──たとえリミット1でも、反動はエクセリオン以上だから気をつけて。
 
どこか、マリーのその言葉に半信半疑だった自分がいた。多少の無茶なら、人並み程度以上にはこなしてきている。
あまりしたくはない自負が、なのはにもあった。
 
だが──これは、予想以上に。
 
「く……ブラスターシステム……っ!!稼動……確認っ!!」
 
無茶を通り越した、大無茶だ。起動しただけで一瞬、気が遠くなるなんて。
エクシードモード後方の排気口からの熱い魔力煙のおかげで、どうにかもっていかれずに済んだ。
 
大無茶。上等ではないか。無茶をしているのは生憎、現段階においては自分ひとりではない。このくらいの無茶もしなければ、釣り合わない。
 
「アクセルシューター射出後、チャージ開始!!」
『all right』
 
前方で光の二刀を手に触手の群れを斬り裂いていくフェイトの姿が見える。
彼女だって膨大な魔力消費に、相当の無茶をしているはずだ。あの光刃の魔力密度はおそらく、数秒間保持するだけでAランク魔導師程度なら数人分にもなるだろう。
防御度外視の超軽装甲・ソニックフォームの考案といい、やることが極端だ、彼女もバルディッシュも。
 
「まぁ……わたしたちも人のこと言えないか。アクセルッ!!」
 
グローブの下の掌に脂汗を滲ませているのはこちらも同じ。人のことは笑えないし、笑ってなどいられない。
いくらフェイトといえど触手の数が多すぎるし、死角をつかれれば一人ではもたない。
 
──だが、一人ではない。自分も、彼女も。任せきりになんて、しない。ブラスターを起動した今なら、それができる。
 
フェイトの後方から迫っていた触手たちを、アクセルシューターが弾き軌道を逸らす。
その一瞬さえあれば彼女の神速の動きには十分。行き先を見失った肉紐を、ライオットブレードが斬り捨てる。
 
ソニック!!」
 
インパルスフォームから変化していたライトニングフォームのバリアジャケットが、更に光となって飛び散る。
輝きが焼けついたように黒く染まったそこに現れるのは、もう一段装甲を削り取ったフェイト最速の姿。
 
ないに等しい装甲──ソニックフォームで、空を翔る。ちらと目を向けた彼女の口元は、笑っていた。
なのはも、唇の端をわずかに持ち上げて、笑った。お互い、ほんとうによく無茶をする。
スターライトブレイカーの術式構築は完了、あとは起動しチャージを完了するのみ。準備は整った。あとは発射できる状況に持ち込むだけ。そのためにも──。
 
「久々にアレ、いこうかっ!!」
 
障害を、減らしておく必要性がある。バレルフィールド展開、対象……夜天の闇・及びその周囲の触手たち全て。
フェイトが、ライオットブレードを投げる。なのはの設定したバレルフィールドの内周ぎりぎりに。巨大すぎる異形を、左右から挟むようにして光の刃が大地を穿つ。
 
握る彼女の右腕と魔力の鎖で繋がったそれらめがけ、なのはは砲撃を撃ちはなった。
破壊するためではない。力を。自分の魔力を、剣へと分け与えるために。
 
「疾風!!迅雷!!」
 
手元に残り、そして伸びた鎖によって、繋がる双剣が引き抜かれる。
同時に雷を閃光をフィールド内に満たしていきながら、刃はその質量を極限まで増大し、導かれるように互いの間にある距離を狭めていく。
それはまるで、異形という対象を左右から両断していく、極大の鋏。
主の意志どおり近付く二刀はその丁度中間点に存する、異形の巨体に横一文字のラインを刻み。
それらがひとつに結合し、一本の閃光剣に姿を変え巨体の中心部に迸る雷鳴を最大限に解き放ったとき、大剣の生まれ出でたそこは刃とは対照的に上下二つへと分かたれていた。
巨大すぎる異形の身体を、やはり巨大すぎる雷の刃が泣き分かれに二つに断ち切る。切断面を雷光と爆発が包み込む。
 
少女一人の身の丈など、比べ物にもならない。掌へと、鎖を通じフェイトは己が得物たる巨大剣を斬り裂いた暗黒の化身のもとより引き寄せる。
この時点で光刃の維持に使い切り既に魔力はほぼ空。リボルバー式の弾倉に残っていたカートリッジをフルロード、構えは斬撃ではなく砲撃へと移行していた。
 
「全力!!全開っ!!」
 
タイミングは、ぴたり同時。魔法陣が二つ、桜と黄金に輝きを放つ。
 
エクセリオンバスターに、トライデントスマッシャー。フィールド空間内を一掃し殲滅すべく編み出された、親友二人による必殺のコンビネーション。
 
「ブラスト!!」
「カラミティ!!」
 
三叉に伸びた黄金の光が、渦となった桜色の噴流へと複雑に絡まり、溶け合い。
そして維持される限定空間内を、鬩ぎあうふたつの魔力が、ただ白の眩さに染め上げた。
 
*   *   *
 
空になったマガジンを、薬莢を各々のデバイスが排除する。即座に補充、第二撃に備え魔法陣を構築。
 
『starlight breaker, stand-by』
『Plasma Zamber,get set』
 
なのはもフェイトも、両肩で息をしていた。
今のコンビネーションで撃破できたというのならば、それ以上の僥倖はない。
だが油断するわけにはいかない。相手は夜天の闇、再生を続け何度でも──……。
 
「!?」
 
しかし、彼女たちの警戒に反し。眼下へと残っていたのは、異形であった『抜け殻』。
そうとしか形容することの出来ない、空間攻撃に砕けひび割れ、大穴を穿たれた身動きひとつせぬ骸のような巨体のみ。
 
撃破した?そんなはずはない。いや、やった?再生プログラムがすでに破損していた?
 
彼女たちに一瞬の隙が生まれたのは、拍子抜けとか、安心とか。そういった類のものではない。
あまりに、あっけない。故にまた、あまりに考えざるを得ないケースが多すぎたために。
 
また、考えていたが故。彼女はその思考に含まれていた危惧のひとつ──迷彩からの奇襲への反応が遅れる。
 
「フェイトちゃん!!」
「!!」
 
異形の外殻に大きく口を開けた破損孔より飛び出してきたのは、ぼろぼろに焼け焦げた白衣──魔導書の意志たる、男。
文節も単語もなにもない獣性のみに支配された雄叫びが、空気を切り裂く。
ソニックの薄い装甲めがけ突き出される拳は、分割状態ならばともかく大剣のライオットザンバーとなったバルディッシュの、長すぎるリーチの近接迎撃可能な限界距離をとうに踏み越えていた。
 
「やめなさい、もう」
 
故に、受け止めたのはフェイトでも、その防御魔法でもない。
銀色に光る、鋼の弓。頑健なその機体が、男の拳からフェイトを守り、そして防いでいた。
 
「シグナム!!」
 
焼け焦げすすけた緋色の騎士甲冑。緋色の髪。弓のデバイスに、自らを守ったその行動。
フェイトはとっさに、そう呼んだ。信じていた勝利を手に、烈火の将が自分たちのもとへと駆けつけたのだと。
 
だが直後、息を呑むことになる。
瞬時に間合いを外し、ライオットを一撃必殺のザンバーから近接格闘に備え二刀のブレードへと分離させて。
男の拳を弾きこちらを向いたその顔は瓜二つであっても、けっしてシグナムのものではない。
 
「悪かったわね。きたのがシグナムじゃなく、私で」
「レクサス……劫火の将……!!」
 
かつて自分が斬り伏せられ、烈火の将とともに戦列を離れることとなった元凶に、フェイトは本能的に身構える。
 
「……その、傷は……っ。シグナムは!!」
「安心なさい。あの子は無事。立派に……私を超えていってくれた」
 
劫火の将がこの場にいるならば、シグナムは。案じ声を荒げるフェイトとは対照的に、緋色の騎士静かな口調だった。そして、手にした弓へ一矢を番える。

『Sturmvogel』
 
引き絞った弓から炎の鳥が解き放たれた瞬間、フェイトにもなのはにも、見えている騎士の姿にあった存在感が薄まったような気がした。
色素が、魔力が。すべてがひとまわり希薄化したように、その場にあるという存在感が後退して見える。
 
二人の間を、火炎を纏った矢は貫いていった。その先にある何もない空間を切り裂き、駆け抜けて──射抜く的は漆黒。夜天の王囚われし、黒き闇の空間を顕現した球体へと突き刺さる。
矢の射止めたその箇所から蜘蛛の巣状に細かく、急速に亀裂が走り、暗黒空間は崩壊していく。ひびわれた空間に生じた破損孔より聞こえてくるは、友の声。
 
「……なんや。自分で出よ思たけど、手間省けたなぁ」
 
*   *   *
 
祝福の風が──消えていったリインフォースが、すべてを伝えてくれた。
頭上に広がる大空のもと、自分が戒めに等しい空間から無事離脱したことを認識しつつはやては状況を俯瞰する。
 
「はやてちゃん!!」
「結界破壊、してくれたんはなのはちゃん?それともフェイトちゃんか?」
 
なのはもフェイトも、消耗してはいるが無事だ。守護騎士の皆もシグナムの反応が微弱である以外は異状はない。シャマルの反応が近い──彼女が一緒ならば心配はないだろう。
 
「私よ」
 
応えたのはしかし、二人の親友ではなかった。胸元から肩口にかけて大きな傷を刻んだ緋色の騎士。
一見すれば烈火の将と見紛うほどに瓜二つの彼女のその口が、はやての問いに対し言葉を返したのだ。
当然、その返答に対し向ける視線にはいくらかの疑念が加わったものとなる。それすら自覚しているかのように、騎士は言を続ける。
 
「夜天の、王よ」
 
騎士は、迫る魔導書の創造主『であった』男の振り上げた拳に振り返りもしなかった。
それはもはや誰が敵で誰が味方かも認識できていない、薄汚れた白衣を振り乱し開きっぱなしの口元から唾液を撒き散らし闇雲に付近の存在へと襲い掛かるだけに成り下がった、哀れな欠陥プログラムと化した過去の人間だった。
 
振り向かず、デバイスを差し出す。主同士が血を分けているのと同じく姉妹機・レヴァンティンと瓜二つのその鋼の弓は、だが役目を終えた、力尽きたかのようにあっけないほど容易く脆く、拳によって粉砕されていく。
 
「最後の主たるあなたに、願う」
 
劫火の将は──いや。緋色の髪の女は、乞うた。そして己が愛機を砕き散らした狂人の手をとり、抱いた。暴れもがくその男を、けっして放さぬよう。
 
騎士が主に向ける親愛ではなく、女が男に対して捧げる、思慕の愛を一杯にこめて。
見ている者全てがそう認識してしまえるほど、きつく、つよく。
 
「終幕を。我らを空に、お送りください。夜天に集いし者たちすべての業とその身にかかる悠久の災禍に、憐れみを感じるのならばどうか」
 
災禍。そのように彼女が表現したのは、紛れもなく彼女とその腕の中で吼え、振りほどかんと暴れる男のこと。
彼女の願いは即ち、祝福の風がはやてへと託した願いと同じ。
 
汗が頬を伝い、シュベルトクロイツを握る指先が震える。
自分のすべきは、夜天の創造主を妄執の残り火から解き放つこと、彼らを業より解放するということ。
そのことがどういうことを意味するかは消えゆくリインフォースに託されたときから、理解はしていた。
 
だが、急すぎる。目の前に突然、二人の男女を差し出されて。
“解放”、そう。いくら言葉を取り繕ったとしても、彼女らがプログラムに過ぎないにしても。
それはつまるところ、レクサスと創造主たる彼、二人の命を──……。
 
「はやてちゃん」
「はやて」
 
構えのうちにあっても震える指先を、ふたつの掌が包み込んでいた。
二重の言葉が、はやての耳を打つ。
 
「「わたしたちが、ついてる」」
 
暖かなぬくもりが、震えを押さえ込んでいく。両脇から親友たちが差し出した掌が、共に剣十字の杖を支えている。
 
「──なのはちゃん、フェイトちゃん」
 
かつてリインフォースを空に送った二人が、頷いた。それだけではない。
 
“──はやてちゃん。リインもついてます。だから”
 
自らのうちにいる幼子もまた、共に受け止めようとしてくれている。
祝福の風を受け継ぐ彼女が、未成熟な心と身体を、精一杯に捧げて。
 
「わかった」
 
なのはとフェイトがデバイスを向け、桜色と金色のバインドが一組の男女を拘束していく。
二度と二人が、離れることがないよう。彼女が彼のことを、抱きしめる以外のことをこれから、やっていけるよう。
 
レクサスは頷く。背中越しに、すべてを納得し受け入れるが如く、静かに。
頷いた髪や背中から、粒子となり消えゆく彼女そのものの光が舞う。
 
「終焉の、笛……っ。ラグ、ナロク……っ」
 
両手を包み込む友の掌にも、力がこもっていた。
目を閉じてはいけないと、はやては思った。
友や、リインが分けあってくれようとしている。目を背けたり、瞑ったりしてはいけない。
最後の主として、彼らのことも背負わなくては。
 
ラグナロク。自分の魔法は、果たしてこんなに眩しく、熱かっただろうか。
昔からそうだったかもしれないし、今がそう感じられるだけなのかもしれない。
 
なんにせよ、今の自分にそれを冷静に判断するのはとても無理なことだ。
引き金を、引く。ただその瞬間を白い眩しさが周囲を包んでくれたことを、はやては感謝した。
自分の視界も。皆の視界も。輝きが全て、覆いつくしてしまってくれたから。
 
光に消えた、彼らの視界さえも。
 
そのことに安心を覚えるのはきっと、自分の弱さなのだろう。
見届けていられるほど、強くなんていられない。
目を背けないこと。歯を食いしばること。それがはやてにとっての精一杯。
それが精一杯なのかまだやれるのか、考えることも出来ないほど。
 
はやては必死に光の白に埋め尽くされる視界の先を見続けていた。
掌と、胸と。三人分──いや、四人分の暖かみに、支えられながら。
 
(つづく)
 
− − − −
 
次回でラストです。SLB使わずじまいかよとかつっこみあればどぞー。つWeb拍手