というかエピローグにあたる部分。

 
sts設定色々と折り合いをつけつつひとまず形になりました。
あくまで二次創作は本編あっての二次創作ですしね。
フェイトさん壊れるの巻、と申しますか。
うちの最終話としてはわりとあっさり目。ある意味ではすっきりしない終わり方かもしれません。
 
拍手レスは本日分までと併せて明日にー。
 
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今にも撃ち放たれんとする白き光は、けっしてとどまるところを知らないかのようにどこまでも大きく、そして眩しく膨れ上がっていく。
三人の少女に、支えられ。発射のときを待つそれを、シグナムの見た二人はひたすらに待っているようにすら思えた。
 
「姉さまっ!!」
 
その印象は、少なくとも男を抱き寄せる、緋色の女騎士の背中については間違っていなかったはずだ。
必要最低限の止血と手当てのみでシャマルの肩を借り、シグナムは駆けつけた。自分の発した声が、傷ついた身体に重く響く。
 
支えられて立っているのがやっとだった。急ぎ馳せ参じようと、結局なにも出来はしない。
伸ばした指先も、届かない。届くほどの距離まで飛んでいけるほどの力すら、今のシグナムにはない。
 
『……シグナム?』
 
呼びかけに対する返事は、肉声によるものではなく。心のうちに届く魔力を媒介とした姉の言葉に、シグナムは思わずハッとする。
 
魔力を、使わせてしまった。傷が。修復機能の働かぬプログラムが崩壊を続け、魔力など碌に残ってもおらず使えば己が身を削るしかない、最期の時を待つ彼女に、だ。
 
『来たのね。大人しく寝てればいいものを……そのくらいの手傷ではあったはずよ?』
「それ、は」
『済まなかったわね。あれもやりたい、これもやりたいばっかりで主共々、好き勝手ばかりやってしまって』
 
念話はおそらく、シャマルにも聞こえている。言葉を乗せるべき魔力がシグナム一人に志向性を安定させきれていないのか、幾重にも声が残響する。
シグナムの間近にいる彼女の耳にも大した苦もなく聞き取れ、漏れ聞こえてきているはずだ。
 
「私、こそ。謝らねばなりません。全霊の一撃……互いの一矢を向け合うべき戦いから、自分は逃げました。真っ向勝負より、勝利を優先しました。私は……あなたに結局勝てなかった」
『何、言ってるのよ。相変わらず頭の固い子ね』
 
愉快そうな、殺しきれなかった失笑。
死地に在る人間の声とは、思えなかった。気安い、軽い嗤いがシグナムの耳を衝く。
 
『勝利のため、最善と判断した戦法をあなたがとっただけのこと。騎士として何を恥じることがあるというの。それを読みきれなかった私が弱かっただけよ。誇りなさい。あなたは師を超えたのだから。ベルカの騎士として、それは最上の名誉であるはず』
 
終焉の笛、そう呼ばれる魔力の光の輝きが、瞳を灼く。細めた瞼の裏に、グリーンにも赤色にも見える閃光の残滓が瞬いていく。
 
『本当、武人ってのは不便で、不器用な存在よね』
「レクサス……」
 
もうすぐ、完全に見えなくなる。肉体の反射が眩さに閉じきってしまいそうになる瞼を、シグナムは必死に開き続ける。
 
『同じ血を分けたに等しい……妹に対してさえ、刃を交えることでしか意志を交わせないんだから』
 
魔力が、動く。姉の言葉を鼓膜に受けながら向けた視線は、十分すぎるほどのチャージが完了した極大の砲撃魔法をその先に捉え、くるべきときがきたと理解する。
 
だが、あと少し。ほんの少し。もう少しだけ。
その思いは、光に消えゆく彼女も同じであったはず。
 
『武人だから不器用なのか。不器用だから武人なのか。それはわからないけれど、シグナム』
「は、いっ……」
『同じ武人として、最後にああやって全霊をもってあなたが挑んできてくれたことを、私は嬉しく思う』
 
白が、緋色を溶かしていく。きっとその冷酷なほどに穢れのない色が再び晴れたとき、そこにもう騎士の姿はない。
 
『……健勝であらんことを。我が、妹よ。騎士として強く──そして誇り高く』
 
次に会うのは、何十年後か。遥かな大空の上、その彼方で。
シグナムの持つ肉体が彼女と同じ、光の粒子となり溶けて。
夜天と呼ばれる者たちに完全なる終焉が訪れたそのとき、久闊のときは再び訪れる。
 
それまでの──長い、長い別れ。
 
 
魔法少女リリカルなのは 〜the lost encyclopedia〜
 
第二十七話 road to strikers
 
 
泣いてなど、いないだろうか。今更ながらに自らのうちに芽生えた姉としての老婆心に、劫火の将は自嘲する。
 
あの子は、強い。信念をぶつけあった命のやりとりで、自分を超えていった。何を心配する必要がある。
自分と再会したというそのこと自体がそもそもイレギュラーな事態なのだ。これまでと同じように──いや、これまで以上に。
これから彼女はヴォルケンリッターを統べる烈火の将としてその刃を遺憾なく振るい闘っていくことだろう。
 
なによりそんな繊細な感覚の持ち主ならば、遥かな年月を越えてあのような堅物のままであるはずがない。
男の一人でもつくっていることだろう。
その点においてはあの子もまだまだだ──僅かな女としての勝利の感覚とともに、レクサスは小さく頷く。
 
「──ああ。しまったな」
 
腕の中の主は、もう動かなかった。桜色と金色、ふたつのバインドがあったことには感謝せねばなるまい。
でなければ自分ひとりに残された力で暴れる主をここまで抑え込み、シグナムと会話を交わすことなど叶わなかったであろうから。
 
こと切れた──いや。プログラムにその表現は不適切だ──機能を停止した男の胸に、そっと頭を預ける。
妹に伝え忘れたこと、聞きそびれたことが同時、穏やかな最期の心に訪れて。
下半身にもはや肉体そのものが「ある」という感覚のない騎士は、ひとりごちる。
 
「『あの子』のこと。もし出会うことがあれば──なんて。頼める立場じゃないか」
 
自分たちのことすら、記憶から失っていたのだ。かいつまんで話したとして、思い出すこともあるまい。
 
ひとり魔導書を守る自分へと、ふたりの創造主がかつて贈った融合機。
彼女まで自分と主とが選んだ蛇の道に付き合わせることはないと別れ手放した愛機は今頃、どこで何をしているだろう。
きちんとした主のもと、十分な調整は受けられているだろうか。それとも悠久の時の中で既にこの世から失われ、風化してしまっているのだろうか。
 
──そういえばシグナムの「烈火の将」の二つ名も、あの子をいつか受け継いでほしいと私がつけたんだったっけ。
 
これから行く先で探せば分かることと、レクサスはひとり納得した。空の向こうにいなければいつか、二つの烈火が出会うこともあるということだ。
 
「もうファフニールの二刀はあの子の隣には必要ない。今はあの子のすぐ側には、雷のニ刃があるんだもの」
 
ほとほと、自分の過保護ぶりに苦笑が止まらない。これから先彼女がどうなるかを自分が考えたとて、無意味だというのに。
自らを戒めるバインドの主──閃光に煌く二刃を操る金髪の少女の顔を思い、やがてその苦笑は満足の笑顔に変わる。
 
シグナムの弟子か、それとも戦友か。少々まだ若いが、十分にまだあの子は伸びていくだろう。もっと強く、もっと疾く。
太刀筋のまっすぐさが、ほんとうによくシグナムと似ていた。今はまだ、シグナムのほうがリーチや経験の差でほんの僅か上だろうが。
いつか遠くないうち、不肖の妹はうかうかしていられなくなるだろう。
 
「さあ、主。行きましょう」
 
そんなところか。抜け殻となった主の肉体を、彼女は強く抱きなおす。
 
傷にも受ける魔力の熱さにも、痛みはない。もはやそんな感覚もとうに失われている。ゆっくりとこの優しい、白い光に溶けていくだけ。
 
自分たちが溶ければ、夜天を覆った異質の闇は晴れる。闇が晴れれば、そこには青空がある。夜の闇は十分すぎるほど、長く続いた。
閉じた目を開くと、銀髪の女が笑っていた。レクサスも、笑った。
今から自分たちもそこに行く。早すぎる出迎えに、感謝しながら。自分たちが彼女へとした仕打ちを知ってなお迎えに現れた彼女の実直さに呆れて。
 
「わが、愛しき人よ」
 
主と二人、夜天に抱かれ。騎士は光の粒へとその身体を霧散させていった。
 
*   *   *
 
「上をな、目指そう思うんよ」
 
冬の日は、もうすぐそこに新たな歳を迎えようとしていた。
此度の事件の事後処理も自分たちが向き合った困難から考えれば、あまりにあっけなさすぎるほど迅速かつ簡潔に、年内での完了を目処に作業の終結へと辿り着きつつある。
この間、僅かに三週間と少し。改めて時空管理局という組織の巨大さを、所属している我が身へと感じさせられる。
 
新装備──ブラスターシステムの反動で帰還後短期間の入院、そして退院後も通院を余儀なくされたなのはと、本日が退院のシグナムとの見舞いに二人は向かう。
はやてとの合流前にフェイトは開発部に寄って、陸上本部から自らの主導していた新型デバイス開発計画の凍結が通達された旨、伝えられていた。
先立っての事件において試作機が大破、及び残存パーツもフェイトのバルディッシュそのものに組み込まれたあととあっては従わざるを得なかった。
 
はやての話に耳を傾けつつも、残念であるという感情は隠しようがなかった。
データは残り、これからのデバイス開発や改良に生かされるといったマリーの言葉だけが救いである。
 
「今回の事件でもそうやったけど、局はどうしたって後手後手に回る。事後処理だけ迅速やっても意味がない。誰かが上に行って変えんとあかん。クロノくんやリンディ提督、レティ提督だけじゃ手が足りひん」
「……それを、はやてが?」
 
熱のこもった、しかしそれでいて静かな口調のはやてと並びフェイトは歩く。異例の二階級もの昇進を果たし、一等陸尉となった親友とともに。
一方で階級に縛られることのない、執務官という一種独立した立場にある彼女は足を止め、はやての言葉に対し考える表情になる。
 
「じゃあ、クロノに指揮官研修のこと聞いてたっていうのは」
 
細い廊下で、少女たちは向き合う。髪の短い影が、こくりと頷いた。
 
「皆が動きたい思たとき、動けるように。そんな組織に変えていきたい思てるから」
「……それは、今回の事件があったから?上の対応があんなだったから?」
 
今回、事件の事後処理において、はやての具申した魔導書に関する様々な情報・意見は殆どが無視されたままに終わった。
それはおそらく、邪推になってしまうが──はやてが『夜天の王』であり、今回の事件が多かれ少なかれ夜天の書にまつわる事象を含んでいたが故に。
事後処理の主導が保守的な陸上本部であったこともあるのだろう、深い調査もなされず、返ってきたのは褒賞さえ与えればいいだろうといわんばかりの、ただ昇進を告げる辞令の薄い書類のみ。
なのはがニ尉へ、ヴィータが准尉へ。シグナムが三尉へと位を持ち上げられ、しつこく食い下がったはやてがあてつけのような二階級の昇進辞令。
 
もらえるものはもらっておけと溜息混じりに吐き捨てたクロノの納得していない表情が、全てを物語っていた。
 
「それもないとは言わん。けど今回のことで思ったんはもっと違うことや」
「……」
 
その処遇に憤ってのことだとすれば、短絡で感情的過ぎる。気持ちはフェイトとてわからなくもないが、事を急ぎすぎだ。
しかし、当のはやてを頭を横に振る。フェイトの心配を、真っ向から否定するが如く。
 
「シグナムから聞いた、レクサスのことや。ユーノくんの翻訳してくれたあの人の日記にしてもそうや。色んなことを見て、聞いて思った。みんな考えていることも違えば、叶えたい願いも違う。せやったら私はみんながその願いに向かってけるような力になりたい。そのためにも、力になれるような場所に行きたいから」
 
躊躇うことなく、はやてはそのように口にする。
 
「この命も。夜天の王としての力も。みんなの思いがあったから今ここにあって、私のところにやってきたようなものやから」
「……そう、わかった。勢いや感情で言ってるんじゃないなら、いい」
 
フェイトが肩の力を抜いて言うと、はやても気を張っていたような表情を緩め、微笑む。
 
「もちろん、私個人としての夢だってあるよ。みんなのため以外のところで、別に」
「夢?」
「そ。……いつかやけどな、自分の指揮できる部隊が欲しいなって」
 
頬を恥ずかしげに染めて言うはやての言葉に、今度はフェイトも深刻さもなく目を丸くした。……と同時に、その未来を想像して意外なほどしっくりくるビジョンが脳裏に浮かぶのに思わず口元を綻ばせる。
 
なぜだかその部隊には、自分もなのはもいて。彼女の指揮のもと、捜査や出動に向かっていくのだ。
みんな所属も、立場も現段階ですらまったく違うというのに。自分やなのはを使うはやてと、はやてに使われる自分という光景をごく自然にフェイトはイメージした。
夢のような部隊──そんなものがあればいいなという、願望も漠然と込めて。
はやても突拍子もないけれど、フェイト自身も十分突拍子もない。そういう風に自分で自分をつついてしまいたくなるような、そんな夢想的すぎる想像だった。
 
「……私、納得いかん命令や上司にはいそーですか言うて従うの、どうも性に合わんみたいやねん」
「ぷっ」
 
そして次のはやての言葉に堪えきれず、吹き出した。
 
だから、か。納得のいかない命令に従うより、自分が納得できるまでじっくり考えてその命令を部下に伝え実行に移すほうがいい。
ヴォルケンリッターたちを率い共に暮らし、戦い考えてきた一家の長のはやてらしい結論だ。
しかしなんだ、それに比べ自分の思考の突拍子のなさは。
 
「なる、ほど……っ。それは、ふふっ」
「あー、もう。笑わんといてよー」
「いや……あ、ははっ。そうじゃなくって……ふふっ」
 
もじもじとしたはやての仕草が妙におかしく思えて、笑いが止まらない。
彼女の恥ずかしがりようと、自分の妄想の突拍子のなさとが無意味に調和してしまったようだ。
ごめんごめん、と謝るものの、腹部を押さえてひとしきり笑ってしまう。駄目だ、どうにもツボに入ってしまったらしい。
 
「はやてちゃーん、フェイトちゃーん」
 
彼女が想像したその光景が現実になるのは、これから更に数年後のこと。この段階においては、それが実現されるとは到底誰も思っていない。
 
想像したフェイトも、自分の部隊が欲しいと夢を語ったはやても。書類片手にシグナムを伴い合流した、なのはにしてもだ。
 
「何々?フェイトちゃん、どうしたの?」
「うー……なのはちゃーん、聞いてやー」
「「??」」
 
しなをつくってもたれかかってくるはやてに、なのはも首をかしげている。
左手に後遺症もなく、茶封筒の中身は調子を取り戻したエースを彼女の夢見た場所へと誘うことだろう。
フェイトは知っているし、はやても知っている。彼女の手にあるのは戦技教導隊──なのはの目指していたその部隊への推薦状と、入隊審査のための必要書類。
また、シグナムもなのは同様に、怪訝そうな表情で笑い転げるフェイトと自らの主とを見比べていた。
 
見れば見るほど、不思議な光景であろう。なにしろフェイト自身ここまで腹を抱えて笑ったことなどついぞ記憶にない。
故にそこに更に二人、加わったとしても状況はさほど変わらない。
 
「うーす。なのはー、教導隊入隊審査の書類もらえたかー……って、お?」
「シグナムもシャマルのお小言タイム、終わったですかー?」
 
祝福の風と、紅の鉄騎と。彼女たちを含めた、この場に集まった六人。
後に六人が中心となり、部隊長、あるいは隊長などと呼ばれる部隊──その名は『機動六課』。
 
生憎その存在は、名前さえもまだ、この世には影も形もない。
明確な形を持ち始めるには、些か彼女たちは若く、幼く。
 
また、時も早すぎた。
まだまだ彼女たちにはするべきことも、行くべき場所も。
道の途中に、数多くあったのだから。
 
 
 
──end. and six years later, they will go to "Magical girl lyrical Nanoha StrikerS".
 
 
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完結しましたー。製本版は三月のリリカルユニオンで最終巻出す予定です。
二巻の再販は年明けにかける予定、三巻は冬コミにて委託しておりますのでそちらでどぞー。
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