あとは校正かけて入稿。

 
てわけで連載更新せにゃねー、と書いてたらこれまたひたすら縦書きだったコミトレ原稿がいい感じに脳内で化学反応起こしてくれて筆が進む進む。
 
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てわけで羽根の光更新ですばい。
これ除いてあと一話ー。
 
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自分たちの出会いは、争いからはじまった。
互いの譲れぬもの。互いの願うところを賭けて、ぶつかりあうところからはじまったのだ。
 
けれどそれももう今は昔のこと。三年以上も前のことだ。
彼女と自分の間にあるものは、絆。二人が争い競い合うことなどもう二度とこない。くるはずがない。そう思っていた。
 
「勝負しよう。もう一度だけ、全力全開。私がSランク資格をとるのが先か、フェイトちゃんが執務官になるのが先か」
 
だからその提案は、あまりにも唐突過ぎて。
なのはが言っていることも、自分が何を返しているのかも頭が混乱して、よくわからない。
 
「それまではもう、お見舞いにもこないで」
「勝負って……そんな!!なのは、まだ身体だって……」
「間に合わせる。勝負が終わるまで、馴れ合うつもりはないから。学校でも、局でも」
 
車椅子の車輪を押して、彼女はゆっくりとこちらに前進をしてくる。
そして真横へと並び、止まることなく視界の外──後方へと消えていく。
すれ違いざま投げかけられた視線は、親友としてのぬくもりに溢れたものではなく、射抜くようなエースの眼光。
 
同じく幾度もの修羅場をくぐった魔導師として無意識に警戒へと筋肉を強張らせる自分の肉体を、フェイトは感じとっていた。
 
「わたしはフェイトちゃんみたいに、足踏みし続けてる趣味はないもの。目障りだしさっさと追い抜いて、違いを教えてあげる」
 
フェイトの内側にあった心情を表すとすれば、困惑や戸惑いといった言葉が正に相応しい。
 
明らかな挑発の言葉にも、怒りだとか、血が沸騰するだとか。
そんな類の感情は一切湧いてこなかった。
わからない。──わからない。本心からの言葉であるとしたらなのはは一体、どうしてしまったのだろう。
 
「……一介の執務官候補生と、空のエースの格の違いをね。どうせ三度目も受かりっこないでしょ?『あなた』は」
 
吐き捨てた声には、一種の凄みさえ感じられた。
フェイトは、振り向くことが出来なかった。
 
「悔しい? だったら見せてよ。フェイトちゃんの、フェイトちゃん自身のための『本気』を」
 
怖かったのだ。なのはがではなく、なのはが一体、どんな表情をしてそれらの言葉を吐いているのか。
通り過ぎていく車椅子の車輪音に振り向いてもし彼女もまた振り向いていて、顔をあわせたとしたら。
そこにあった表情が言葉通りのものであったとしたら自分はどうすればいいのだろう。
名前ではなく代名詞で自分が呼ばれたというその事実そのものが、怖くて仕方なかった。
触れた先に導き出さねばならない解答がわからない、見つからない。
わからないから、蓋をした。恐怖を、フェイトは本能的にやりすごしたのである。
 
車椅子が曲がり角の向こうに消えた頃、ふらふらとフェイトは壁の手すりに身を預けた。
世界が瞬いて、ぐるぐる回っている。嘔吐感も胃の内腑にこみあげてきた。
 
緊張とショックとが貧血となって、鼓動を耳の奥に大きく響かせていた。
 
「どうして……?」
 
血の気が失せた掌を、呆然とフェイトは見つめていた。
世界が急激に動き、回りはじめたのは生憎、貧血のせいだけではなかった。
彼女の周囲が動き始めた、証でもあった。
 
 
魔法少女リリカルなのはStrikers another9th −羽根の光−
 
第十二話 reborn
 
 
“──なのはとフェイトが、しゃべらなくなった。
 
昨日今日だけのことじゃない。先週からずっと、喧嘩でもしたのかこのニ週間、口を聞いているところを見たことがない。
一学期の最後──終業式だっていうのに、今日もそうだった。
 
突き放しているのはどちらかといえば、なのはのほうであるように思える。
ようやく車椅子から短時間、立って歩けるようになったかと思ったあの子はあたしたちともあまり話さなくなった。
ただあたしたちとまで仲が悪くなったってわけじゃない。話しかければ返してくれるし、毎朝の挨拶くらいはする。
 
……なんというか、必死なのだ。
休み時間はただひたすら目を瞑って、なにかを──はやてが言うところによれば、空中戦のイメージトレーニング、とのことだけど──。
なんでも冬に受けるSランク試験に向けて、カンを戻すのに必要なことだとかで。
 
昼休みははやてに車椅子を押されて、どこかに行ってしまう。
だからあたしたちはフェイトと一緒に教室に残される。つまり一緒にいるだけの時間がさほどないというのが実情というわけだ。
あたしと、すずかに限っては。フェイトに関してはそうとは言い切れない。
明らかになのははフェイトのことを見ようともしなくなったし、おはようもさよならも言わなくなった。
おかしい。あんなに仲がよかったのに一体、なにがあったんだろう。
 
なのはが教室を出て行くときは、あの子とはやての後ろ姿をいつも、フェイトは何か言いたそうな、縋るような目で見つめていて。
あたしたちとしゃべっていてもそこで絶対に一度会話が中断する。
出て行くなのはがしゃべらなくなったというなら、残されるフェイトは笑わなくなった。
 
それに、はやてもなのはも、なにか隠してる。試験で必死っていうだけであんな絶交状態、なるわけない。
 
訊いてもフェイトは「私が呆れられちゃっただけだから」って無理に笑うだけだし。
なのはには訊けるような雰囲気じゃない。
かといってワケ知り顔のはやても「心配ない」「二人に必要なことやから」で誤魔化してばっかり。
 
必要って、あの状態が? そんな大事なことがあるの?
フェイトにとっても、なのはにとっても?
 
おもいきって三人まとめて、問いただしてやりたい。でもすずかはそういうのはよくないって止めるし。
仕方ないから、待つしかない。
幸運にも(きっとあたしがしつこく訊きまくったせいなんだと思う)はやては、夏休み中には話すからと約束だけはしてくれた。
時間がある、なのはがひとりでも大丈夫なときに。
 
それが言い逃れだったとは思いたくない、けど。
管理局のことは話に聞くだけでよくわかってないから、ひょっとするとまた誤魔化されるのかもしれない。
でも、なにも言ってもらえないよりはましだと思う。
多分その中には1ミリくらいは本当のことが、含まれてるだろうから。
それが2ミリかもしれないし、3ミリかもしれない。ひょっとすると全部本当のことかもしれない。
 
こういうのを、疑心暗鬼っていうのかな。ちょっと、違う気もするけど。
 
なんにせよ、はやてに会って話を聞けばわかること。
あの子、小ざかしいから嘘は上手だけど肝心なとこはばれやすいから。
あたしにもわかるし、すずかはきっと声を聞かなくてもあの子のことなら目を見ただけで嘘かほんとかわかると思う。
 
決戦(っていうのかな?)は、明後日。日曜日──……。”
 
 
「さて、と」
 
こんなとこかな。アリサは日記帳に走らせていたシャープペンシルを置くと、キャスターつきの椅子の背もたれによりかかって、うーんとひとつ伸びをした。
時計はもう、いつもの就寝時間まで五分とない。
開きっぱなしで明かりの消えた携帯に指を走らせて、液晶を復活させ日記に向かうまで目を通していたメールの文面を呼び出す。
 
日曜日の待ち合わせ時間を指定してきた、はやてからのごく短い文章。
その末尾にはすまなく思う意思を表す顔の絵文字が添えられている。
 
やれやれ、という表情で肩を竦め、アリサは携帯を閉じる。
この分なら多分、ほんとのことを言ってくれるんじゃないかな。そんな風に考えながら。
机の上のスタンドの電源を落とし、蛍光灯のスイッチにも手を伸ばす。
 
明後日、すずかの家に三人で集合。なのはもフェイトも抜きの、第三者だけの集まりだ。
蛍光灯の明度を調整しブラウンに染まった白い天井のもと、アリサはベッドにもぐりこむ。
 
「おやすみ、なさい」
 
誰に対してでもなく、呟いて。
それから今自分は誰に向って言ったかな、と閉じた瞳の裏に想像してみる。
 
そこには、なのはとフェイトがいた。
仲良く手を繋いでいつものように笑いあう、二人が。
 
*   *   *
 
そして、季節は流れて。
秋も次第に深まって、風も随分と冷たいものとなってきていた。
 
「……」
 
カードリングでひとつにまとめられた手作りの暗記カードの内容も、碌に頭に入ってこなかった。
次の執務官試験はこちらの世界で言う十二月の半ば。あと一ヶ月と少ししかない。
 
夏休みの間はよかった。学校もなかったし、自分のことと局の仕事とに没頭していられた。
試験に向けての勉強にひたすら打ち込むことで、他のことを忘れていられた。
 
でも、九月に入って、学校が始まって。それからは別だ。
否が応でも、学校にくればなのはと顔をあわせることになる。
彼女と自分の間に生まれてしまった溝がどうしたって、現実のものとしてつきつけられる。
ほとぼりも冷めただろうかと意を決して始業式の日に声をかけてみたものの、冷めていたのはむしろ彼女から自分に対しての対応でしかなかった。
返ってきた「おはよう」の四文字はひどく空虚で、感情などひとかけらもこもっていない形だけのものだった。
それからは一学期の頃から変わらぬ、断絶した関係性が彼女との間には続いている。
 
勉強に集中しよう集中しようとするほどに、集中できなくなっていく自分がいる。
この秋に入って伸び悩んでいる試験勉強のことでまた、何度クロノと衝突しただろうか。
 
「フェイト」
 
だめだ。諦めて、カードをしまおうとした。
そのとき、声をかけられた。
 
「アリサ。すずか」
 
声をかけてきた彼女も、その隣に立つ彼女も表情は優れなかった。
前者は怒ったように、後者は困ったように。
 
原因はわかっている。自分たちだ。──いや、なのはに呆れられ見切りをつけられてしまった自分だ。
二人の手にした弁当箱の巾着と風呂敷を見て、昼食の誘いだとフェイトは悟る。
手ではなく、口が動いた。
 
「……ごめん。食欲、ないんだ」
 
直後、教室中からの視線がフェイトの机に注がれた。
 
鼓膜が、きんきんと鳴っていた。
乱暴に。耳障りな音を立てて机上へと叩きつけるように置かれたアリサの弁当箱が、その理由。
右手を自由にしたアリサはその腕で、ひっこめられていたフェイトの手を掴み無理矢理立ち上がらせる。
 
ぴくりと、すずかの指先が彼女を止めそうになったのか、動きかけた。
 
「一緒にきなさい。あんたにいいもん見せてあげる」
「え、アリサ? 痛……アリサってば」
 
反論や拒否の権利はなかった。
強く手を引かれ、教室を後にする以外の選択肢は提示されずじまい。
 
「アリサ……ちょっと」
「いいかげんうじうじすんのやめなさいよ。でなきゃなのはのやってること、何の意味もないじゃない」
 
言う意味もわからぬまま、フェイトはアリサのあとに続く。後ろには、すずかもついてきていた。
彼女がフェイトを連れて歩みゆく先には、階段。
 
冬も近く寒風も厳しいこの時期、外で昼食を摂る者もいない屋上へと続く、校舎の中心を走る最上階への階段だった。
 
「声とか、気配とか。魔法で消せる?」
「え……」
「どうなの」
 
更に彼女の質問が、困惑を加速させる。
 
「できる、けど。ただ姿を消すところまで行くと幻術の分野だから私には無理だけど……」
「じゃあそれ、三人分。今すぐ」
 
*   *   *
 
寒空の下、屋上には誰もいるわけがない。いるはずがない。
そう思っていた。一体そんなところに連れ出して、アリサは自分に何を見せようとしているのだろうかと。
疑問に思っていたし、戸惑ってもいた。
 
けれど予想に反して、屋上には動く者があった。
引き戸に設けられたガラス窓の向こうには確かに、たった四つだけの影が見てとれる。
 
「そんな、どうして」
 
搾り出してやっとそう言った声は、自分でも分かるくらいに震えていた。
 
「どうして、ユーノや、ヴィータが。それに制服まで着て──学校に」
 
高い屋上を、桜色の光が照らし出す。──覗き窓から見つめる、フェイトたちの頬をさえも。
肌に感じるぬくもりに、無意識にフェイトは自分の頬を撫でていた。
 
「なのは……どうして、あんな」
 
そこは、熱かった。熱くて──……濡れていた。
どうしてなんだろう。いくらこのところ目にしていたのが、冷め切った態度の彼女ばかりだったとしても。
彼女の魔力をこんなに近く感じて。こんなに必死な様を見るだけで、どうしてこれほど瞳が熱くなる。
 
「!!」
 
ぐらりとよろめいた身体が車椅子へとへたりこむと同時に、桜色の光も消える。
離れたところで見守っていた三つの白い制服が、駆け寄っていく。
 
「ずっとここであの子、はやてたちの力借りてリハビリやってたのよ。夏の頃からずっと、昼休みの時間が惜しいからって。病院の時間まで、放課後もそう」
「そんな……どうして、そんな無茶を」
 
リハビリのメニューは、病院で厳しく決められ管理されているはずだ。
昼休みといっても一日あたりたっぷり40分はある。放課後もあわせれば一時間は確実に越える。
なのはの要望に応えて限界ぎりぎりのハードなリハビリメニューが組まれている上にこれでは、明らかなオーバーワークだ。
 
「『これ以上フェイトちゃんに頼って、迷惑はかけられない。わたしが頑張らないと、フェイトちゃんが自分のことに集中できないから』って」
 
理由を答えたのは、背後に控えていたすずかだった。そして同時に、なのはとヴィータ、はやてたちとのやりとりが微かに耳に入ってくる。
減衰したか細いそれに、思わずフェイトは聞き入っていた。
 
“──馬鹿。毎度毎度お前はやりすぎだ。あとは病院でのメニューまで……”
“ううん、まだ。もう一回”
“でもなのは、これ以上は──”
“やるよ。フェイトちゃんだって執務官試験に向けて、頑張ってるんだもん。負けてられない”
 
あとは、聴いていられなかった。見ているのも無理だった。
きつく瞼を閉じても、隙間から流れ出る涙を止められはしない。
 
“受ける試験は違っても、一緒に合格したいから──”
 
なのはは私に、呆れてたんじゃないの? なのはは私に、失望したんじゃないの?
今となってはもう答えがNOとわかりきっている質問が、両の瞳から零れ落ちる涙が、どこまでもとめどなく溢れ出してくる。
 
不本意な絶交が辛いのはあんただけじゃないってこと。ほら、泣くんじゃないの」
 
魔法でこちらからの音は遮断しているから、聞こえるはずはなかった。
でも嗚咽が漏れていかないよう、アリサはフェイトを胸の中に迎え入れてくれた。
 
「なのはは、がんばってるわよ。あんたはどうするの」
 
大丈夫。わかってる。
アリサの胸に埋めた顔を、フェイトはただ激しく上下に振った。
もしかすると涙でアリサの制服を汚すだけの迷惑な行為であったかもしれないけれど、そこに込めた意志はもうゆるぎなかった。
 
そうだ──もう、足踏みなんかしていられない。
自分も、負けていられない。なのはの頑張りに、自分も応えなくてはいけない。
二度目の、全力全開の勝負。今こそはっきりと、なのはから持ちかけられたそれを自分は受けて立とう。
 
その勝負の結末は、どちらも敗者にはならない。二人とも勝利で迎えるのだ。
再び彼女の名前を呼ぶときは──今度は一介の候補生ではなく、空のエースの親友に恥じない、執務官として。
 
(つづく)
 
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