ssサイトなんだから。

 
置いてるのはssじゃん当たり前じゃんってことで「ss」カテゴリーを撤去。
これから短編は「短編etc」カテゴリーに登録しますんで。
まとめ系カテゴリーも整理して少しはみやすくなったかな?
 
拍手数が恐ろしいことになっててお茶吹きましたが、今日はカーテンコール五話。
切る場所の都合上今回は容量少なめ。
 
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肉眼で、辛うじて確認できる距離。遠く、遠く。豆粒のような大きさに、その標的は捉えられている。
正確な距離の数値や、予想される外殻強度。脇の情報モニターを横目で確認しながら、少女は時を待つ。
 
「ディエチ」
 
共に艦上部、甲板上に立ち並ぶ白亜の法衣の女性に促され、彼女は小さく頷く。
続け、愛機の起動。彼女自身の身長ほどもあろうかというサイズの大砲が右手の内へと顕現し、ごとりと艦の装甲へと降ろされる。
開発コード名『RHE−T2R・イノーメスカノン改二式試製』、通称“ディバインカノン”。
数年来の彼女の愛機を魔力運用が可能な仕様へと改修したその機体は、砲を示すカノンの名が。そして彼女の師にして上官である女性の代名詞とも呼べる主砲の名、神聖の呼び名がその姿を言い表しているように、砲撃戦・射撃戦に特化した調整を施されていた。
 
少女の目の色が、黄金へと変わった。瞳の中には標的を拡大し照準に収める、サイトスコープが点滅を開始する。
 
白い魔導師の操作に従い、艦の一部装甲が開きコネクタが露出する。
呼応するように長大な砲塔の後部から魔力で編まれた青白いエネルギーケーブルが伸び、その端子へと接続された。
 
「ランバルト動力部、接続に異常なし」
 
これで、よし。これで一機のデバイスと、この艦の動力部は一本にバイパスされ結合した。
 
「チャージカウント、20から。……15、……10」
 
女性の足元に、円形のミッドチルダ式魔法陣が。
少女の足元に独特の形をした魔法陣が煌く。
 
さすがにこのエネルギー量、この破壊力を負担なしにひとりで扱うのは不可能だ。
発射後のことを見据えるなら、制御と調整、収束と発射。二人にそれぞれの負担を分けるのが得策。
あとにまだすべきことが残っている以上、撃ってそこで現場を離脱するわけにはいかない。
 
「……ゼロ!!」
 
なのはとディエチも、そのセオリーに従ったということだ。
照準の中心に捕捉した標的に向かい、なのはの声とともにディエチは引き金を引き絞る。
 
同時に二人、展開されるであろう熱量に備え前面にシールドを張り身構える。
 
狙いは寸分の、狂いもなく正確だった。
艦の駆動炉から直接伝達された炎のごとき深紅のエネルギーの噴流は、その内側に二人の力そのものの二色を混じり合わせ。
標的のもっとも脆弱な部分へと、一矢となり吸い込まれていった。
 
その一矢が巻き込み撃破したガジェットドローンの数は、10や20ではすまない。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第五話 shooting star
 
 
──違和感が、ある。そしてどうやらそれを感じているのは、自分ひとりではない。
 
ヴィヴィオは気付いてはいないようだ。広げた画用紙へと、楽しそうに歌を口ずさみながらお絵かきを続けている。
射抜くような視線で、アルフがこちらを見ていた。視線を移せば、チンクも同様。
戦闘経験豊富な彼女たちも認識しているとあらば、残念ながらやはり自分の感覚は間違っていなかったようだ。
 
(……チンク。アルフ)
(ああ、わかっている。……あるな)
(ちっ。またかい)
 
胸元から財布を取り出し、適当にコインを摘む。
投げると、チンクは手首の動きだけでそれを受け取った。
 
「なんか、喉が渇いたな。ちょっと買ってきてくれるかい?」
「……ああ。何がいい?」
「いつものコーヒー。ああ、それと──……」
 
すぐ傍の本棚に、目を遣る。そこにはさも、最初から置いてあったといった風に二冊、同じ本が並んでいて。
迷うことなくユーノはその片方を手にとり、これもまた彼女へと受け渡す。
 
「これを、“八神二佐に”。けっこう重要な資料だから、“誰にも中身を読まれたり、聞かれないように”、ね」
「了解だ、肝に銘じよう」
 
もちろん、その会話は方便だ。
アルフの、チンクの。ユーノの視線の焦点は、他愛のないやりとりの間もずっと、その一冊の本にあった。
肩の上で本をとんとんと鳴らし、チンクは踵を返す。
 
そのもう一方の指先が、銀色をした硬貨を、弄んでいた。
金属音の、リズムを刻んでいた。
 
*   *   *
 
『こちら、制圧隊01。A−07区画を確保しました。敵には少数ですが魔導師もいるようです、こちらで数人取り押さえました』
「了解。急ぐ必要はないよ、確実に艦内の掌握を続けて」
 
それぞれのデバイスを通じ、ギンガからの通信が耳に入る。
──いくぶんのノイズ。だがまだ、この位置ならば大丈夫だ。多少のAMFはあれ、十分に聞き取れる。
 
制空と、制圧。そして動力炉攻略。突入に際し三つに分けた部隊は、どうやらうまくいっているようだ。
燕尾のような、アグレッサーモードのアウタースカートを翻し飛翔するなのはと、そのあとを追うインラインローラーのふたつの軌跡、スバルにノーヴェ。
三つの影は戦艦を無力化すべく、少数精鋭の攻略部隊として力の源たる動力部へと一路、駆け抜ける。
 
(ディエチ。そっちは?)
(……異常なし。戦線も、セドリック准尉も特に目を引くような動きは見られない)
 
二言三言の念話を交わしている最中に、前方へと敵が躍り出る。ガジェット4型。
 
「いくよっ!!マッハキャリバー!!」
『OK, buddy』
 
迎え撃つは──並立し伸びる、青色の天翔る道。
二本の青は時折交差し、あるいはひとつに重なり。また分かれては、敵機たちの射撃の軸をことごとくにずらしていく。
 
「っだああありゃああああぁっ!!」
 
鉢巻を舞わせながら多脚の昆虫を思わせる機体へと一直線に突撃するスバル。
リボルバーナックルのカートリッジをロード、ウイングロードを殴りつけ高々と宙へ舞い上がる。
 
「しっかり走れよ!!サイクロンキャリバー!!」
『It is not necessary to be said by you.(あなたに言われるまでもなく)』
「やかましい!!」
 
そのすぐ後ろには、ノーヴェが控えていた。
ウイングロードから舞った、高空のマッハキャリバーが──……“魔力で組まれた”エアライナーのブルー上を疾駆するその姉妹機・サイクロンキャリバーが。それぞれにギアを咆哮させる。
スバルの高い跳躍に敵機が気をとられた隙を逃さず、改良型ガンナックルの銃口が火を噴く。
 
狙いすましたコンビプレイだった。
誘導弾を扱える素質は近接格闘型のノーヴェにはない、ゆえにあくまでも軌道は直線。
しかし自身の愛機に毒づく彼女の射撃は的確に、細く脆弱なガジェットたちの手足をそれは狙い撃ち、もぎとっていく。
 
「ディバイィィンンッ!!」
 
防衛兵器たちの直上には、スバルがいる。彼女のほうの準備も、すでに万端だ。
右手の鋼の拳に握ったスフィアが煌き、殆ど咆哮に等しい叫びと共に、魔力の噴流となって撃ち出される。
 
「バスタアァァァァ────ッ!!」
 
発射と同時に、その瞳が金色に染まる。
撃ち放たれた青白い魔力光の柱は伸びきる前に付加された振動の威力によって砕け、飛び散り。
それぞれが避け難い流星弾となって、ガジェットの装甲を撃ち貫きそれらをスクラップに変える。
 
──悪くない連携だ。バスターにも振動拳を応用している。散弾として、範囲攻撃に使うとは。
 
救助隊に移ってからも鍛錬と創意工夫は欠かさなかったらしい。感心、感心。
敵機の群れへと一足先に躍りかかり、なぎ払ったかつての教え子とその妹の戦いぶりを、なのははそう心中で密かに評した。
 
「──ただ」
 
突き進む少女たちは、前しか見ていなかった。
彼女たちと自分の間、ぽっかりと空いたスペースがゆらりと揺れたのを、なのはは見逃さない。
 
アクセルシューターの桜色が、瞬時に散開する。
三つの不可視の標的をコンマ一秒の誤差もなく、同時に降り注ぐ光球たちは仕留めた。
機能を停止するとともに、残骸となったその機体の光学迷彩が解除され姿形が顕現する。
 
「むやみやたらにつっこみすぎ。背中がお留守だよ、二人とも」
 
まだまだ、甘い。
 
両足の翼が羽ばたき、なのはが駆け抜けた直後、それら残骸は閃光を伴って爆散する。
後方からのその明かりが、たった三人の動力炉攻略隊を背中から照らし、表情を影に黒く染めた。
 
「そういえばなのはさん、エクシードモードは使わないんですか?」
「……ん?」
 
一時の脅威が去ったとて、三人が歩みを止めることはない。
前へ、前へ。燻る残骸を残し、進み続ける。目的の場所は、まだ先だ。
 
「ああ、これ。……今回は一応、指揮官としての参加だし。あんまり指揮官が全力全開、自分のことばっかりってわけにもいかないしね」
 
彼女に伝えるべき答えとしては、そんなところだろう。
なのはは軽く身を捻り、相棒とともにひた走るスバルに近づく。
 
「ま、期待してるよ。この一年半、どういう風にスバルが成長してきたか。怠けてなかったか。……ノーヴェにどういうこと教えてきたかも含めて、ね」
「ええっ? ……後者については少し、自信ないなぁ」
「ふふっ。さ、雑談はこのくらいにして。わたしたちは早いに越したことはない、先を急ぐよ」
 
いたずらっぽく笑ったあと、彼女の表情は前を向き切り替わる。
ぽんと、スバルの背中をひとつ叩いて。
 
再び姿を見せた前方の敵の群れを、抜き打ちのショートバスターが左右に割って一筋に伸びていった。
敵が割れれば、道ができる。
 
道がある限り、疾走者が止まることはなくまた、止められる者もいない。
少女が我先にと前に出、妹がそれに続き。師が、彼女らのあとに飛翔し二人を追う。
 
*   *   *
 
ランブルデトネイター。それは元来、圧倒的な破壊力、爆発力を以って敵を殲滅する戦のための能力。
戦闘機人としてのチンクの拠り所となるべき、戦いの要でありまた、その性能に己が見合うよう調整にあわせて使いこなすべく磨き上げた技でもある。
触れた金属へのエネルギー伝達も。その起爆に至るまでのタイミング、行程も。チンクにとっては呼吸するのと同じように慣れきった作業だ。
たとえそれがどんな素材であろうと──コインのような、ごくありふれた純度の低いものであろうとも。
金属である限りチンクはその能力を行使できる。
 
「──やれやれ」
 
無論、今の自分にありし日の性能でこの力を発揮することなど、望むべくもないが。
 
ぱちり、と指を鳴らす。
机上に置かれた金属製の灰皿の、更にその上。一冊の資料本に載せられた、数枚のコイン。
それらは集約されたエネルギーの増大によって、光の反射とは異質の、内部からの閃光を微かに迸らせ──やがて、炎となって炎上をはじめる。
当然、その下に置かれた書は熱量をもらい受け、黒い焦げという名の変色を伴い、灰となってその存在を崩れさせていく。
 
今のチンクには、これが精一杯。更正施設からの出所、非戦闘員としての部署への配置が決定した際施された戦闘機人としての能力限定により、大規模爆発など夢のまた夢。
妹たちをはやく自由にするための止むを得ない選択ではあったけれど、こうして実際に目の当たりにするたび、発火がやっとの今の能力に一抹の寂しさを拭えないのも事実だ。
 
「なるほど、な。こら確かに、ベルカ式の盗聴魔法やね」
 
だが限定つきとはいえ自分が多少なりとアイデンティティのひとつともいえるこの能力を封印されず今でも行使できるのは、声を発した彼女のおかげだ。
彼女が渋る上層部を説得してくれたからこそ、自分は力を捨てずにいることができる。制限つきでも、使うことができる。
そのことについては深く、感謝をせねばならない。
 
「これで今月にはいってから三度目だ。どう見る、八神二佐」
 
紙でできたただの資料本が、炎に燃え尽きるのははやい。
気付かれぬことを第一条件とし希薄に張り巡らされたその術式も、拠り代たる書が失われればあっという間に消えてしまう。
灰皿の上の燃え屑からまるで本の断末魔のように微かに立ち上った異質の魔力に眉を顰め、チンクは部屋の主たるはやてへと意見を求める。
脇に控えた少年も、二機の融合騎たちも一様に、似通った難しい表情で彼女の発言を待っていた。
 
「──正直、局内部の人間の仕業とはしたくないんやけどなぁ。ま、そういうわけにもいかんか。……狙いは十中八九、ヴィヴィオやろうね」
 
両手で組んだ櫓に額を預け、うー、だか、あー、だか呻るはやて。
 
「ったく、次から次へと……。わかった、放ってはおけんしな。リイン、しばらく無限書庫のほう手伝ってくれるか?」
「はいです」
 
くるりと身を翻し、小さな手乗りサイズの銀髪少女が、チンクの同じ銀髪の横に並ぶ。
その間にもはやては頭をがしがしと掻いて手元のパネルを操作し、端末の向こうを通信で呼び出す。
モニターに現れた人間の姿に、はやての口から出たカリム・グラシアの名前といい。相手はおそらく聖王教会だろう。
ヴィヴィオが関わる問題ならば、あちらとも話をつけねばならない。
 
「オットー。フェイト執務官たちの安否について、あれからなにか連絡は?」
「……まだ、なにも」
「さよか」
 
ディードのことが心配なのだろう、俯いたオットーの背中を撫でてやる。
頭を……といいたいところではあったが、如何せんチンクでは身長が足りない。
 
「最近、ロッサやシャッハからたまに聞かされるんよ。ヴィヴィオのこと。聖王として迎え入れるべきやないかって声がちらほら、教会内にあるって話」
「八神二佐」
「どこもかしこも、問題ばっかりや。ほんま」
 
その対応に追われている自分を嗤っているのであろうはやてが、嫌気に口元を歪めたとき。
色味の濃い金髪が、モニターの向こうに姿を見せた。
 
失礼する、と暇を乞うて、チンクは足をドアへと向けた。
予言の騎士との対話をはじめたはやての、挨拶代わりの右手に軽く手を挙げて応じながら。
 
大小、ふたつの銀髪が部屋をあとにする。
 
 
(つづく)
 
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数の子たちほんと動いてくれておっちゃん好きよ。つweb拍手