ごめん、すっげ久々だわ。

 
けっこうな期間放置してた数の子短編の第三話を更新ー。
拍手のレスは数件コメントありましたんで次回にまとめて。
 
前回までの数の子話はこちら
今回の当番はセインとディードー。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
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黒い長髪が身のこなしにあわせ右へ、左へ揺れる。
しなやかに、そして軽く。その持ち主の、疾い動きとともに。
突き出される木刀も、振り下ろされる一撃も。彼女へと指導をするギンガとの組み手の面影が重なる。
 
やりあっていて、快い。前髪を撫でていく剣風が、受けていて気持ちのよいものに感じられる。
 
でも──まだ、まだだ。戦闘機人としてではなく、一人の純然たる格闘者としては。
このくらいでは、一本くれてやるわけにはいかない。そこは、まだ譲ってやれない。
 
「あっ」
 
急激に屈身運動から沈み込ませた身体の足払いが、攻めの一手であった少女の下半身を刈る。
シールドも、防護服もない。生身による純粋の、一対一の組み手。
反応し切れなかった彼女はバランスを崩し、攻撃の中にタイムラグが生まれる。
 
そこが、スバルにとっての必殺のタイミング。相手が体勢を立て直すのには、ごく僅かながらも時を必要とする。
 
両足のバネで、アッパーのモーションに右拳を振り上げる。両手の木刀──右をその進路に合わせて防いでくることも予測済みだ。
ヒットさせるのは、肘。木刀に直撃させただけでは、それをあちらから奪うことは出来ない。
故に軌道をずらすと同時に肘を跳ね上げ、相手の手首を狙う。
 
人も、戦闘機人も。そのおおまかな骨格構造は変わらない。動きの激しい、フレキシブルさを要求される関節部は等しく衝撃に弱い。
めり込んだ感触が、あった。からんと床を鳴らした木刀の落下音など、スバルはもう聞いてはいない。
妹分のポーカーフェイスが右手全体を駆け巡った痺れに一瞬、歪んだのが見えた。だがそれも、それだけのこと。
バイスを装備していない両足が、硬質な素材の床を踏みしめる。踏み切ったのは、右足。
 
迷うことなく、ターン。相手の右側は完全にがら空きだ。遠心力に、自らの体重を乗せる。
全霊を込めたバックブローが狙い撃つのは、そのこめかみだ。
 
「……てええっ!!」
 
あちらも黙ってやられはしない。左手に保持したもう一方の木刀。
その柄を、持ち替えていては間に合わないのならばと、裏拳の体勢によって目の前に露わとなったスバルの後頭部に向かいそのままに振り下ろす。
 
「そこまでっ!!」
 
よく通る声が二人の間にあった空気を引き裂いていった。
まったく同じ瞬間に、二人は相手へと剥いた牙……剣と拳をそれぞれ、自らの意思で停止させた。
 
拳の先が、柔らかな黒い髪を微かに撫でた。触れていた。
硬い木の柄が、頭上の僅か上に浮いていた。そう、浮いていた。毛筋ほどの隙間が、そこには開いていた。触れてはいなかった。
 
 
Numbers 〜生き方に、地図なんかないけど〜
 
case.C 6 and 12
 
 
「……参りました」
 
身体から力を抜いたディードは、そういって片腕に残った木刀を静かに下ろした。
殆ど、同じタイミングだった。けれどほんの一瞬、スバルのほうがはやかった。
タオルを手に近づいてくるギンガが止めたけれど、あのまま続けていたならば直撃を受けていたのはディードのほうであったろう。
ディードの一撃がスバルにヒットするということは、おそらくなかったに違いない。
スバルの、勝利。ディードの、敗北。
 
負けを認めたほうも。認められた側も。各々の勝敗をよく理解していた。
ギンガに続き、見守っていた姉妹たちもそれぞれ歩み寄ってくる。
 
「ま、これでも一応お姉ちゃんだし。そうそう一番の得意分野で一本とられるわけにはいかないって」
 
くそっ、あと一歩だったのに。顔の汗を拭うスバルは本人以上に悔しそうに呟いたノーヴェに気付き、口元に勝ち誇った微笑を浮かべる。
 
「でも実際、けっこう危なかったかなーって」
「いえ、そんな。まだまだです。……どれだけ自分がISの性能や戦闘機人としての身体能力に頼って戦っていたのか痛感させられます」
 
一方、当のディードはといえばあくまで謙虚そのもの。
自分を買いかぶらなすぎるのはいいことではないが──他の姉妹とともに正規の訓練をギンガから仕込まれはじめてはや数ヶ月、彼女の成長は十分に著しいものだと思う。
間違いなく。拳を合わせた実感として、心からスバルはそう言うことができる。
 
「ティアナ姉さまやフェイト姉さまのところに行っても足をひっぱらないように、もっと根本的な腕を上げないと」
 
この施設を出れば、彼女はスバルのかつての同僚と上司の待つ場所に向かう。
そこできっと彼女の双剣は幻惑を操る双銃とともに敵を討ち、雷光を帯びた強き疾きもうひとつの双剣とともに戦場を駆けることだろう。
そのために彼女は今土台を。自分の剣を一層高めるべく基礎をより強固なものとするためにその腕を磨いている。
 
まだ些か、剣に頼りすぎるきらいはあるけれど。
それでも十分に高いその戦闘力をもってなお、彼女の自らの向上を願う心は止んではいない。
 
「ディード。怪我とか、してない?」
「大丈夫よ、オットー」
 
ドリンクのボトルを差し出したオットーが、心配げに。だが相変わらず微かに、眉を寄せて言った。
浴場での一件があったとはいえそこは双子の絆、やはりスバルよりもディードのほうが心配のようで。
 
──ほんの少しだけ、ディードのほうがお姉ちゃんだね。きっと。
 
見ていてなんだか、微笑ましい。
酸味のある冷たいドリンクと、そのやりとりの見せるあたたかみが同時に心身を潤していく。
 
「ツインブレイズの改良案はもうシャーリーさんに?」
「はい。おおまかな希望は伝えてあります」
「そっか」
 
汗を拭いたタオルを、頭から被る。二度目になるけれど、シャワーを浴びてこようか、どうしようか。
手間と気持ちの悪さとを天秤にかけて、逡巡する。
ディードのほうを見るとどうやら、彼女のほうも同じ悩みを今思考していたようだった。
 
まあ、行こうか。言葉にせず、アイコンタクトを交わし頷いた。
一人なら面倒だけれども、二人なら。
 
「はい、ナカジマです」
 
ちょうど、ギンガはブリッツがコールを告げたらしく一同に背中を向けて回線を開いていた。
 
シャワーを浴びてくると言って、ディードと二人訓練場をあとにする。
オットーもどう? なんて純情な下の子をからかいながら。
 
「……は? 今からですか? いえ、かまいませんけど……」
 
鼓膜の片隅に、姉が回線の向こう側に投げた言葉が掠っていった。
なにやら慌てているような、驚いているような。そんな様子だと、小耳に挟んでいて思えた。
 
*   *   *
 
姉がそのようなリアクションをとっていた理由が、シャワールームからでてきてようやく理解できた。
 
単純に、そこにいたから。
蒼い毛並みをした一匹の犬……もとい、狼が。
 
「待っていたぞ」
「ザフィーラ!! ……なんでここに?」
 
遅かったな、と。さも言わんばかりにどっしりとその蒼い姿は構えていた。
さっぱり、ほっこり。湯上りの上気した顔のスバルたちを確認し、腰を上げて二人の歩みが自分のもとへ到達するのを待つ。
 
「主がこちらにくるというのでな。護衛と共を兼ねて、ついてきた」
 
なんでも、ナンバーズたちの進路希望について二点三点、話があると。
ザフィーラは自分と己が主の来訪の理由を二人に告げた。
 
スバルも何度もここには足を運んでいるけれど、この盾の守護獣といっしょになったことはない。
目の前の狼自身、ここにくるのはアギトを迎えに来た際外のヘリポートに降りただけで、中に入ったのははじめてだと言っている。
 
そっちのナンバーズとは、事件以来会うのははじめてだったな。挨拶のつもりか、ザフィーラはその長くふさふさとした尻尾を軽く揺らした。
 
彼とその主との来訪に、なにか問題でもあったのかと、一瞬スバルは不安になる。なにしろ妹たちの置かれている立場が立場なだけに。
どんな部署からどんな物言いがついて社会への解放の道筋が頓挫したとしてもおかしくはないのだ。
だが、ザフィーラの表情や雰囲気からは、そういったマイナス方向の物事を伝えに来たというものは感じられなかった。
 
「心配するな。悪い報せではない」
 
純粋な、書類についての打ち合わせだ。
 
その彼がそう言うのであれば、信用できる。ぽんぽん、と背中を毛並みに沿って撫でてやって、スバルは応える代わりに同意を示した。
 
ついてこい、主が待っている。ギンガたちとともに先に行った。
先頭に立って、蒼い狼が歩き出す。つられてスバルも足を前に出す。
 
出してから──……一歩退いたところで、浴場から一緒に出てきた少女がもじもじとなにやら言いたげに立ち止まっていることに気付く。
その無表情な顔に、彼女と接してきた者ならばわかる微細ながらも当人としては精一杯の感情表現としての躊躇を浮かべて。
なにかを、言おうか言うまいか。一人と一匹の振り向いた先で、少女は迷っていた。
 
「ディード?」
「あ……」
 
どうしたの、とスバルに問われ。ディードは目を落とした。
そして姉同様自分を見やっている蒼き狼と地面との間を交互に、視線を彷徨わせる。
 
「その、怪我」
「怪我?」
 
戸惑いがちに、言葉がこぼれた。
 
「あのときの、怪我。……ごめんなさい」
「……へ?」
 
今度は、スバルが彼女とザフィーラを見比べる番だった。
ぺこりと頭を下げた少女。無言にそれを見据える一匹の狼。
最初からそこに共にいたはずなのに、状況が飲み込めない。
 
「ああ。そういうことか」
 
……ごめん、どういうこと? ひとり置いてけぼりを食らっては、そう言いたくもなる。
 
けれど、次のザフィーラの言葉に思わず、息を呑んだ。
 
「あの六課襲撃の際、俺を墜としたのはお前だったな」
「……はい」
 
空気が、ぴんと張り詰めたのを感じる。それは一方的に、蒼き狼のほうから。
鋭い殺気を帯びた眼光となって、力のない慙愧の表情を浮かべるディードに向けられている。
今はその一線を離れて救助隊にいるとはいえ、スバルだって『戦闘』魔導師のはしくれだ。
 
気まずい、険悪な空気くらい。戦闘態勢に移った雰囲気くらいは察することはできる。
 
「気にするな。あのときはどちらも敵だった」
「って……ありゃ」
 
が。察した直後にそれは崩された。穏やかな声によって。
殺気も雰囲気も、ごくごく一瞬のこと。
 
「でも……私はあなたに」
「怪我の原因など、決まっている。敵の数の多さに自身の力の温存を誤った。そこをお前が確実に衝いた。それだけのことだ」
 
ザフィーラは四本足の踵を返し、彼女のもとへ寄る。
白いズボンの裾を、そっと銜えて。行くぞ、と示す。
 
蒼い毛並みが触れた瞬間、ディードは一瞬その身を強張らせた。
スバルへと、縋るような、困惑の視線が向けられる。
こういうときにどうすればいいかまではさすがにプログラムでは、教わってはいないのだろう。
 
応えは、言葉ではなく。スバルはただ、笑った。──撫でてあげればいいんだよ。一緒に歩けばいいんだよ。そう、表情に込めて。
 
恐る恐る、といった様子に少女の掌が狼の毛並みの中へ埋もれていく。
そっと、前後に動く。ザフィーラが、目を細める。
 
一度動けば、その感触を確かめるように。柔らかい毛並みに彼女の表情は一瞬驚いて、そして綻んで右手を何度も何度も埋めていく。
 
ほんとうに、何度も、何度も。飽くことなく。
 
*   *   *
 
「それは、ちょっと遠慮させてほしいかなー……って。思うんですけど。ダメですかね?」
 
一方の、来客用応接室。外に他の姉妹を待たせて、ギンガとともにそこへ呼び入れられたセインは頬を掻きながら苦く笑った。
 
革張りのソファに、二人並ぶ。向かい側には、同じく二人。
小柄な女性と──小柄というには小柄すぎる、小さな銀髪の少女が腰掛ける。
 
「ええよ。あくまでシスター・シャッハからの個人的なお誘いやしね。でもそーか、セインもシャッハが苦手なクチかあ」
 
どこぞの不良査察官と気が合いそうやね、と。はやては微笑む。
 
彼女の持ってきた報せは、二つ。
ひとつには、この施設にいるナンバーズの少女たち全員に関わること。
仮決定であった出所の日取りが、正式に本局へと受理されそれで決定事項となったという吉報と。
 
もうひとつは今この場にひとり呼ばれたセインへの、教会騎士団からの誘い。
ここには教練と称して幾度か訪れている聖王教会修道女にして所属騎士、シャッハ・ヌエラによる彼女への自分の下で色々学ばないかという提案であった。
 
「いや、そうじゃないんですけど……。ただもともと、そんな聖職者なんてガラじゃあたしはないし。それに厳しいんですよー、あの人の躾」
「ふふっ、そうやろうね。シャッハのスパルタっぷりはよう知っとるよ」
 
JS事件の頃からの縁ゆえか、シャッハはなにかにつけてセインに目をかけてくれている。
もちろん悪い気はしないとセインはギンガに言っていたし、事実シスターという貞淑な肩書きに反して意外に押しの強い性格のシャッハにたじろぐことはままあっても、二人の関係性は導こうとする側、教わる側としてけっして煮詰まったものではない。
 
三者である、ギンガから見ても。
 
「あと、技能的にもどっちかっていうと騎士団なんてのには向いてないかな、と」
「ディープダイバー?」
「はい」
 
直接、正面からガチンコでやりあうタイプじゃないんで。これまたセインは苦笑いを顔に出す。
たしか彼女がギンガへと手渡した進路要望書はウェンディと同じ陸上本部だったはずだ。
隠密移動能力に長けたそのスキルを生かして、情報収集や斥候を主な任務とする諜報部に行きたいと。
 
鍛えてくれるというのはありがたいけれど、そちらのほうが自分の特性を発揮することが出来ると思う。
確かに、と。セインの正直な意見に室内の三人も頷きあう。
 
「声をそうやってかけてもらえるのは、ありがたいと思うんですけどね」
「いや。せっかく独り立ちが許されたんやから、好きにするとええよ」
 
第一陣での出所は、四人。双子と、ウェンディと。それにノーヴェ。
セインたち三人はそれから二ヶ月ほど時を置いての二陣での出所となる。
 
「でも、こんなにはやく外に出られるなんて思わなかったなぁ……」
「そりゃ、もう。色々苦労したんやで? 頭の固い上層部の連中を納得させる条件捻り出すのに」
「ほんと、感謝してます」
 
できたら上の姉たちや、セッテにもこっちにきてほしかったくらいに。
 
ぽつりと呟いたセインの言葉は嘆きでも、惜しむ気持ちでもなく。
その場にいる全員──ギンガにも、はやてにも、リインにとっても等しく、厳然たる事実を言い表していた。
 
「今からだって……遅くはないと思うのに。勝手なのかな、こういうこと言うのって」
 
*   *   *
 
話し中ならば応接室か、と予測をつけて足を向けると、やはり人待ち顔の姉妹たちがそこにはいた。
いないのは、セインとギンガ。缶ジュース片手にそれぞれ、残された面々なりに時間を潰している。
 
「お待たせー」
 
気付いたチンクが、片手を挙げて応じる。ウェンディが、買っておいたのであろう二人分のオレンジジュースをコントロールよく投げ渡す。
 
「セインは? 中?」
「ああ。ギンガ陸曹と二人で呼ばれてな」
 
そういって、チンクは缶コーヒーをすする。
一番上の威厳たっぷりに……とは生憎いっていない。
牛乳たっぷり、と書かれた白っぽい缶の中身はカフェオレだし、口をつける度に眉根に苦味の皺が寄っているのが見てとれる。
 
無理、しているだろう。絶対。
 
「換えようか?」
「……なんのことだ?」
 
姉の貫禄を下の妹たちに見せておきたい時期なのか、スバルの申し出をなんのことやらといった風情にチンクはしらばっくれた。
また、皺。しかもちょっと一口の量が多かったのか、咳き込んでいる。
なにもこんなところで意地を張らずとも、とスバルは思った。
 
だってみんな、気付いているもの。
ノーヴェも、ディエチも。オットーもディードも交換を申し出るべきかどうか明らかにチンクのほうを見て悩んでいるし。
ウェンディだって顔を顰める姉の姿に不思議そうに首を傾げているものの、やっぱり気付くことには気付いている。
 
「どうした、お前たち。姉の顔になにかついているか?」
 
いや、ついてるっていうか。とりあえず一口ごとに眉間には皺が張り付いているけれど。
姉妹たちはチンクからスバルに、ザフィーラに。第三者である二人に目を向ける。
二人は二人でナンバーズたちからの視線ゆえに顔を見合わせて──首を振る。横に軽く。
 
好きにさせておこう、と。直後、応接室の扉が開く。
 
「みんな、お待たせ。話、終わったわよ」
 
ザフィーラが、出てきた影のひとつに歩み寄っていった。
入れ替わりに、ふたつが前に進んでくる。
 
「ありゃ。みんなでティータイム? 仲間はずれはずっこいぞー」
「心配しなくてもセインの分もあるっスよ。……つっても売れ残りっスけどねー。ほれ」
 
スバルたちにそうしたように、ウェンディがまたふたつ缶を投げ渡す。
ギンガに、ミルクティー(おそらくはこれがもともとチンクのものになる予定だったのだろう)。
残った最後のひとつは、セインが受け取った無糖のブラックコーヒーだ。
 
ぱきゅ、と小気味のいい解放音を鳴らしてプルトップを開き、二人は一気にそれを流し込む。
話し合いを終えてひと仕事やり遂げた気分が勢いをつけてそうさせるのか、糖分ゼロの混ぜものなし、純度100パーセントの苦い液体をこともなげにセインは飲み干した。
 
「ふいー……ん? どしたのチンク姉」
「……いや。なんでも、ない」
 
顔色一つ変えず、さも旨そうにその行為を成し遂げた妹を、チンクが奇異なものでも見るかのようにまじまじと眺めていて。
問われた言葉に返した彼女の声はなんだかすごく、姉としての敗北感に満ちていて哀愁を誘った。
 
……うん。あれはそっとしておこう。事情を知る他の姉妹たちは念話も通信も、アイコンタクトさえ必要とせず心をひとつにして同時に頷いた。
 
「ギン姉」
「スバル。さっぱりした?」
 
そのまま、セインは姉妹たちと話し出す。ディードは膝を曲げて、はやてを先導してきたザフィーラと。
彼女たちの脇を抜けてスバルは姉の隣に動いた。
 
「八神二佐の話って、なんだったの?」
「ちょっと。セインの進路について色々選択肢を、ね」
「セインの?」
「そう。ま、もとの希望から結局変更はなかったんだけど」
「へえー……。ちょっと意外」
「こーら。妹相手とはいえそういうこと言わないの」
 
淀みなく、言葉の応酬が流れた。
スバルも、セインも。等しく妹である姉は缶の底で軽く、彼女の額を小突く。
 
「進路のことに関しては下の子たちの中で、一番あの子がしっかり自分の考えをもってるのかもしれない」
 
そう、呟きながら。ギンガは空になりかけた缶の中身を最後まで干す。
その、呟きを聞きながら。スバルもまた自分のオレンジジュースを呷る。
 
なくなったのも、ほぼ同時。目と目の向いた先が、双方の隣と繋がっていた。
乾杯をするように、タイプゼロの姉妹は空の缶同士を軽く打ち合わせた。
 
 
− next case, No.9 and ……?−
 
 
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