雰囲気は好み。

なんで来年は応募しようかしらね。
ただ今回みたいに本出さずに人の手伝いで気楽にのんびり参加するってのも悪くないなあ。
最初の入場の開幕ダッシュにはびっくりしましたけど。スタッフが誘導しきれなかったんだろうか?でもさんざん走らないでーを連呼してたしなあ。
 
 
さて、んじゃまあ前回言ったとおり帰ってきたのでカーテンコールを更新しますよっと。
今回で第一部終了とか、そんな感じの回。
次回から第二部突入とか、そんな感じの話。
今回も某クロフェのえらくてエロい人のとこからちょこっとひっそりとゲストキャラ拝借してたり。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
 
− − − −
 
 
 
抵抗を続けていた魔導師が沈黙し、両脇を隊員たちに抱えられて艦の外へと搬送されるのはこれで十数人目。
急ぐ必要はない、確実に、と目指す先に分かれた指揮官は言っていたけれど。
自分たち制圧部隊がいるのはまだ、この広い艦内の外周から少し入った部分にすぎない。
 
予想以上にガジェットの数は多くそれを指揮する相手側魔導師の錬度も高い。それが、こちらの行く手を阻む。
進捗状況としては十分に順調と呼べる範囲ではあるものの──もう少し。それさえなければもっと、迅速に前進できていてもいいはずだった。
 
そのように感じてしまうのははじめて任された副隊長、一次預かりとはいえ指揮官の大任に対し自分の力量が見合っているかどうかの不安を打ち消せずにいるからだろうか。
自身の拳が砕き散らしたガジェットの残骸を見下ろしながら、ギンガは思う。
みんなは、よく動いてくれている。頑張ってくれている。自分が不慣れで、未熟だから。そんな思いを、自分自身否定できない。
上に立つというのはなんとも、気疲れするものだ。
 
「ナカジマよ、こっちは異常なしだ。次いけっぞ」
 
それなりの激戦、そこそこの苦戦。その割に部隊内に負傷者は殆どいない。
ぐるりと見回しても、そう声をかけてきた突撃槍の陸戦魔導師──先陣を切った際受けた集中砲火の被弾によるものだが──が、額に包帯をあてがい巻きつけている程度だ。
 
あのエースオブエースとして名高いなのはと旧知というだけのことはあり、この槍使いの実力は確かだった。
腕は立つし、度胸の塊。場数も十分。いざってときは彼を頼りなさい。出撃前言い残されたそんな彼女の言葉も、納得して頷ける。
ミッド式魔導師でありながら近接一辺倒という特異なスタイルは、その独特の一芸にもベルカの使い手とも遜色ない。
 
「わかりました。それじゃあ──……」
 
きちんと、自分が不慣れであっても指揮を完遂できるよう環境は十分に組み上げられている。
様々な状況を考慮し、対応できるよう人材をそろえて。その上であの人は自分にこの場を任せ分かれたのだ。
ならば今は不安に心を揺らがせるより、やり遂げることを考えよう。自分の不安は、他の隊員にも伝播しかねない。
 
そう、気持ちを切り替えて報告に応じたとき、足元と天井と。両方が揺れた。
 
「これは……?」
 
バランスを崩しそうになって、壁に手をつく。
敵の襲撃とか、そういったものは一時的にではあるが完全に止んで、沈黙している。それとはまったく違う、別のものだ。
そのかわり、というわけでもないだろうが、自分たちのいるこのゆりかごの、その艦自体が揺れている。
 
「こいつは……転移しようとしてやがる」
「転移、ですって?」
 
以前別の任務中に似たような状況になったことがある。悪いことは言わない、一旦退いたほうがいい。
外と、できれば動力炉の制圧隊の三人──なのは達とも連絡をとって艦内から離脱すべきだ。どことも知れない世界に船ごと吹っ飛ばされるぞ。
 
そう、埃を散らす天井を見上げながら突撃槍の魔導師はギンガに言った。
 
いや、両者の立場を考えるならば、具申したというべきか。
彼の提案にギンガもまた、小さく頷いた。足元のブリッツが即座に、回線を二つ、開きにかかる。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第八話 Missing Ace
 
 
艦の異変は、外からでもわかった。むしろ外周を完全に俯瞰できるぶん、よりわかりやすいといえるのかもしれない。
地鳴りが、それを発する大地そのものを揺らしている。振動が、埋もれかかった艦の周囲の岩を削り取っていく。
 
「転移、だって?」
 
モニターの回線は、艦内と繋がっていた。その相手──ギンガの言葉どおりの異変の影響か、映像にはノイズが走りひどく荒い。
 
たしかに言われてみれば、ゆりかごの発しているこの振動は以前なのはから引き際を見分ける目安のひとつとして教わった、艦船の転移に備えた予備動作の兆候に見える。
距離を詰めているメンバーは、下がらせたほうがいい。通信を送ってきたギンガたちが、一時の後退と脱出を判断したように。
 
「……なのはさんたちには?」
『多分、AMF濃度の高いところにいるんだと思う。通常回線じゃ繋がらない』
「わかった、じゃああたしがやる。ノーヴェになら、多分届く」
『お願い』
 
悠長に二人、話し込んでいる余裕はない。最低限の言葉だけを交わし、通信が途切れる。
周囲を、サーチ。部隊メンバーたちの位置関係を把握する。……大丈夫、問題ない。
こちらが陽動でもあったことが功を奏しているようだ。転移に巻き込まれるほどに近づきすぎている人間はいまのところ確認できない。
 
あとは、この場を任じられた指揮官に交代の打診を。それから、艦内中枢に向かっているはずの三人にも帰還の必要性を伝えれば。
 
「……?」
 
だが。その肝心の『指揮官』の反応が、どこにもなかった。
バイス、ディバインカノンのセンサーの捉える反応の中にも、きょろきょろと見回す視界のうちにも、どこにも。
 
「セドリック副隊長……?」
 
まさか、墜とされた?ディエチがそう思いたくなるのも、無理のないことだった。
見間違いや、見落としではない。艦のほうに確認しても、サーチをもう一度やりなおしても。
 
その場を指揮しエースオブエースの留守を任されているはずの魔導師の姿は、影も形も見当たらなかった。
 
*   *   *
 
妹の叫びが、聞こえたように思えた。普段はぶっきらぼうで、素直じゃない。同じ遺伝子を共有する妹。
こちらを姉扱いしてくれなくて。こちらが姉として振舞えば口を尖らせる。そんなところがまた弄り甲斐があるのだけれど。
 
自分はその妹の──ノーヴェの前で、ミスをやってしまった。
師にいいところを見せようと躍起になっていて、失敗をした。
視界が閃光で満ちていたのも、そのせいだ。
 
なのはさんに叱られて。頭の中が真っ白になって。その末に戦場で呆然と、隙だらけの姿を晒してしまった。
自業自得。なのはさんは間に入って庇ってくれたけれど、この事態は自分の招いたものだ。
 
「セカンドっ!!」
 
再び、ノーヴェの声が聞こえた。自分を抱きしめる、『誰か』の両腕の感触が、熱いほどに暖かかった。
 
「なの……は、さ、ん……?」
 
ああ、そうだ。師が。なのはさんが、守ってくれたんだ。
はじめて出会ったあのときと同じように──不出来な教え子である自分を。
防御を抜かれながらも、身を呈して庇ってくれた。
 
安堵が、あった。同時に自分のミスが、歯痒かった。
 
「ごめんな、さ──」
 
──師の肩が、抱き返し触れた掌をぬるりと濡らし、そして滑らせた。
 
「っ……!?」
 
着弾した魔力の残滓である眩い白き霧が、次第に晴れていく。その中で。徐々に回復していく視界で、スバルは自分を抱いた師ではなく己の掌を見た。
黒い指ぬきグローブに包まれた、左手。それは黒である以上に、焼けつくような熱い深紅に染まっていて。
 
安堵が、怖気に変わる。他の何より熱いのは、その紅の水だ。
 
なのはさんっ!!」
 
それまで、気付かなかった師の荒い呼吸と、同じく赤に塗りつぶされた彼女の本来純白であるはずの衣とを開けた瞳は見つける。
スバルを抱きしめていた両腕から、糸がぷつりと切れるように力が失われだらりと垂れ下がる。
 
がらんと、金色をした穂先の槍が鮮血の滴る指先から離れ落ちていく。
 
「ごめ、ん……少し、生成……少し……間に合わな、かっ……た……っぐ」
なのはさん!? なのはさんっ!!」
 
完全に、体重がこちらへと預けられる。スバルの白衣もまた、彼女の流す赤に染まっていく。
 
エクシードモード──そう呼ばれる彼女の戦闘服はひどく破損していた。
左肩から、背中にかけて。大きく引き裂かれ、破けて。守りきれなかった彼女自身の肉体から溢れ出す生命の紅い水に、どす黒く変色していく。
生成が、間に合わなかった。当初のアグレッサーからの切り替えが、着弾より一瞬遅れてしまった。それゆえの、負傷。
強固な防護服は間一髪、その着用の主のもとに発揮することを間に合わせることができなかった。
 
「大丈夫……大丈夫、だか、ら……」
 
彼女から身を離し、スバルは再び思考力が真っ白になってしまった頭を忙しなく振りたくりながら呼びかける。
師に、意識はあった。額に脂汗を無数に浮かべながら、苦く無理に笑ってみせる。
 
「特救が……こんな怪我、くらいで……慌てて……どう、するの……」
「でも、でもっ!!」
 
彼女が負傷したのは、自分が原因だ。自分が、呆けてなどいなければ。
自分を庇いさえ、しなければ。こんな怪我、しなかった。
エースオブエースを傷つけてしまったのは、他でもない自分だ。
 
「あたしが、あんなこと──……!!」
 
おろおろとするスバルも、無理な笑顔をつくるなのはも。その瞬間、等しく揺れた。
艦と艦内にあるもの、すべてとともに。
 
それは、ギンガたちが同様に体感し、ディエチたちが艦の外で確認した転移の兆候を告げる揺れと、まったく同じもの。
 
*   *   *
 
なのはさんが、負傷……?』
 
紅に濡れた二人の姿を煙の中に見つけて、ノーヴェは飛び出した。
左右のこめかみを拳に抱えて身を震わせるばかりのスバルは、怪我はないが今は使い物になる状態ではない。
 
せめて、止血だけでも。戦闘服に鮮血の染みをつくりながら、彼女の膝から負傷したエースの肉体を受け取る。
覚えたての、使えるというその点に関してはスバルよりも器用だとギンガから評されたたいした出力もない微弱な治癒魔法だけがノーヴェにこの状況下においてできること。
迅速であったのかどうかの自信はない。ただ、姉がなにもできず、指揮官が負傷している。意識せずとも必死になっていたことだけは間違いない。
 
『怪我の具合は? すぐに救援を──……』
「待って」
 
だからディエチからのコール──ドクターの下にいた頃から使用している、ナンバーズ十二人の間でのAMF環境下における直通回線だ──があったとて、まともな受け答えを果たす余裕などありはしなかった。
転移、脱出。それもわかる。だがそれよりも、手当てを。頼る者のいない切迫した状況に、ノーヴェもまた焦っていた。
 
けれど、治療のために翳された彼女の手を退けてディエチの言葉に応じたのは、他でもないその手当てを受けるべき対象たる、なのはであり。
各々のデバイスへとノーヴェのサイクロンキャリバーを通じバイパスされた回線に向かい、彼女は言葉を投げる。
 
「転移……間違い、ないんだね?」
なのはさん、傷は』
「いいから。こちらの質問に答えなさい」
 
紅く染まっていない、利き腕でない右の袖で頬の汗を拭いながら指揮官は部下へと命じる。
内部に突入したギンガたちからも間違いないだろうと、報告が入ってきている。
彼女の部下であり教え子でもあるノーヴェの姉は、戸惑いがちに視線をそらしつつ、そのように返事を返した。
 
「そう」
『だから、治療が終わり次第急いで脱出を。そこからだと突入口に戻るまでにかなりの距離があるはずです』
「わかってる」
 
そして、立つ。ノーヴェの手当てによって僅かばかり閉じかけた傷口が、再び開くのをものともせずに。
転がる黄金の長槍を拾い上げてよろめき、ふらついて。
それでも立ち上がり青と赤、二つの髪色を苦しげな表情の中に浮かべた微笑で見下ろす。
 
スバルへ、ノーヴェへ。最後には、保護したばかりの名も知らぬオッドアイの少女へと、視線を移す。
 
「ディエチ。ギンガに伝えて」
『え?』
「私が留守の間は、指揮系統はランバルトの艦長とあなたの二人に預ける。委譲するって」
 
その小さな少女に、震える掌でエースは手招きした。やさしく。我が子を見るがごとき慈愛に満ちた目で。
少女は、困ったようにスバルとノーヴェとを見た。
 
もちろん、二人がなのはの意図を彼女へと答えられるわけがない。一緒になってなのはのほうを、見ることしかできない。
 
再び、なのはは少女を手招いた。直後、念話が届いた。
 
この子は、わたしが守っておくから。
きっと、聖王の器。下手に刺激を与えて、なにがおこるとも知れない以上、そうするしかない。
全員で脱出するには──時間も、状況も。不十分すぎる。
 
「だから。……だから、スバル。ノーヴェ。死ぬ気で防ぎなさい」
 
恐る恐る足を踏み出す少女が自身のもとに到達したとき、そうなのはは言った。
 
「なのは、さん……?」
「マッハ。サイクロン。ご主人様たちのこと、しっかり守りなさい」
 
槍の穂先が、二人へと向けられる。現れる、小型の自立機動の補助デバイス──ブラスタービット。
視界が、歪む。半透明のガラスのような障壁が、二人を包んだからだ。
 
クリスタルケージ。二人がそこから動けないように、ピラミッド状の障壁が周囲を覆っていた。
 
なのはさんっ!?」
『『Protection』』
 
主たち二人よりも、それぞれのデバイスのほうが、状況を認識しているようだった。
ケージを叩くスバル。問答無用に防御魔法を周囲に展開した二機のデバイスを、ノーヴェは思わず見下ろした。
 
転移が近づいているのだろう、古代ベルカ語と思しき警告のアナウンスが、揺れが秒を追うごとに鼓膜へと溢れていく。
 
『Grip off』
 
マッハキャリバーのその一言に、なのはが頷いた。そして、構えた。
 
レイジングハート。ブラスター3」
『all right』
 
魔力が爆発したのは、その直後だ。抱き寄せた少女を自らの白いロングスカートへとしっかりと掴まらせて、エースは必殺の一撃の体勢に入る。
 
「ディバインバスター!?」
「そんな、どうしてっ!?」
 
答える代わりに、まばゆい桜色の輝きの向こうでエースは笑った。
信じなさい。さも、そう言っているかのように。
 
なにも、見えなくなった。桜色が、視界に溢れた。痛みと熱さとが、すべてを押し流していった。
 
閃光が、子の安らかな眠りなどおかまいなしに揺れるゆりかごを一筋に、貫いていった。
艦の巨躯を貫き、幾層もの装甲を打ち破り。赤と青の姉妹の身体を鋼の艦体の外へと押し出していく。
彼女らのもつ戦闘機人としての強靭な肉体さえも焼き尽くさんほどの猛烈な魔力の噴流の中、エースの命じた言葉通り、二機のデバイスは己が主たちの身を力の限りに守っていた。
 
三人は、二人になった。放り出されて。
三人は、一人になった。取り残されて。
 
二組に、分かたれた。
 
*   *   *
 
こうするしか、なかった。負傷した自分や、幼いこの少女を連れて。
エアライナーとウイングロードを持つ二人であったとしてもこの時間のない状況下で脱出路を艦外まで駆け抜けるということはおそらく、不可能に近い。
 
だから、脱出路を急ぐのではなく、造った。貫通・破壊は砲撃魔導師である自分にとっては最も得意とする分野だから。
艦内と外界とを隔てる障壁を撃ち抜きながら、二人の肉体ごと外にディバインバスターの勢いで押し出す。
失った、血と。激痛に揺らぐ頭とでは、これ以外に二人を脱出させる方法は思いつかなかった。
 
「っく……まいった、な」
 
少女を抱き寄せたまま、なのはは崩れ落ちる。揺れが最高潮に達しようとしている、ゆりかご内部の壁面にその背中を預けて。
 
負傷の傷口が開いたままのブラスター開放、しかも三段階目まで一気にというのはさすがに無茶であったらしい。
飛んで二人のあとを追いかけようにも、少し休まなければそれすら無理であるように感じられた。
 
「止められてたもんね……シャマルさんからも、使うなって」
 
でも、仕方ないよね。使うしか、なかったんだもん。
帰ればきっと大目玉を食らわされるであろうプラチナブロンドの女性の剣幕を想像し、なのはは苦笑を堪えられなかった。
脳内快楽物質が傷の痛みを抑えるために分泌されているせいだろうか。些細なことが、妙に可笑しい。
 
そんな風に血濡れで笑うなのはを、右手に抱いた少女の両目が奇異に見ていた。
頬が、汚れている。拭いてあげなきゃ。そう思って行動を起こせたのは幸いにして、右腕が血に染まっていないからこそ。
小さな顔についていた煤を指先で拭ってやると、ヴィヴィオにその目鼻立ちが本当にそっくりであることにようやく気付かされる。
 
──ああ、間違いない。この子もきっと、ヴィヴィオと同じなんだ。
 
スバルたちと一緒に送り出さずにいて、やはり正解だった。
万一聖王の鎧をディバインバスターが呼び起こしてしまっていたら……部下二人も、この状況に巻き込んでしまうところだった。
 
「わたしのところにもね、あなたと同じきれいな目の子がいるんだ」
 
なのはは、少女に語りかけた。
 
ヴィヴィオ、って言ってね。わたしの、とっても大切な女の子」
 
少女は、きょとんとしている。その頭を、くしゃくしゃと撫でた。
周囲が、光り輝いている。その中にいる人間は、おそらくなのはと彼女くらいのものだろう。
 
大丈夫だ。自分が、守りきる。この子も、そしてゆりかごも。
ギンガやスバルたちが見つけ位置を特定してくれるまでは、守りきってみせる。
 
「あなたの、お名前は?」
 
少女の口元が、なにかを紡いだように見えた。
けれど生憎、声は聞き取ることができなかった。
 
ゆりかごも、なのはも。『ノア』と短く言った、その少女も。
長距離転移の粒子に包み込まれ、肉体どころか声すらも、そこには残していかなかったのだから。
聞こえようもないではないか。
 
 
(つづく)
 
− − − −
 
さー次回から第二部(便宜上)だ。がんばるぞー つweb拍手