随分間が空いちゃったので。

 
web拍手に以前載せた八神家どうでしょうを加筆しまして第一夜から少しずつこっちにのっけていこうと思います。五月中には次の話(第四夜?)載せられるといいなあ。
 
てわけで八神家リターンズ(仮)、ナビゲーターはティアナ、きみだ。
水曜どうでしょう』がわかんない人は完全おいてけぼりな内容なので注意。
 
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 薄暗い廃墟のような壁には、二枚の写真が貼ってある。
 
一枚は、白衣に身を包み穏やかに微笑むプラチナブロンドの女性。
おそらくはいくつもの写真のうちから吟味したであろうそれは表情も、アングルも。
非常に被写体として写りのいいものとなっている。
 
もう一方は、対照的だった。
 
寝起きの、ぼさぼさ髪。
暖色の独特の色合いの長髪を背中に流したまま写った、意外に低血圧であることを窺わせる気の抜けた様子の一枚。
 
それぞれ、前者は湖の騎士・シャマル。後者は烈火の将・シグナムと呼ばれる女性たちの肖像である。
 
「こんばんは。八神家リターンズのお時間がやってまいりました」
 
ぬっ、と。その写真の前に立ちふさがるように一人の少女が現れる。
 
「今回犠牲者となるのは、この二人」
 
テロップは、ティアナ・ランスター。この企画の語り部として写真の二人の主たる女性から選出された人物。
内心、なぜ自分なのだろうか。あるいはなんでこんな企画やってるんだろうかとか、様々な疑問はあるけれど。
ひとまず、はやて曰くの『どうでしょうナビゲートねーちゃん』の役を引き受けている。
 
「特に我が機動六課ライトニング分隊が誇る副隊長──烈火の将・シグナムはよりにもよって旅先で自分が犠牲者となることを知らされるという、悲惨な状況に直面します」
 
スポットライトが、再び写真に。
 
「それもこれも、みな。この二人の女性の陰謀なのですが……」
 
シャマルと。その隣に、ティアナがはやての写真を差し出す。
被写体となっている当の本人たちは、フレーム外にてティアナのつつがない進行に親指を立てて能天気に見守ったりなんぞしている。
 
「……これ以上はやめておきましょう。それでは、VTRのほうをご覧ください」
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 短編
 
〜八神家どうでしょうリターンズ・ミッド北部横断1200キロカブの旅〜
 
第一夜 回るよ、回る
 
 
−機動六課本部隊舎前・パーキング−
 
「ほんじゃま、行ってくるなー」
 
見送りに出てきたなのはとフェイトに、運転席からはやてが顔を出す。同乗者は、五人。
大家族が一度に乗っても十分なスペースのある大型のレンタカーのハンドルを、彼女は握っていた。
 
「いってらっしゃい、はやてちゃん」
「こっちのことはグリフィスと私たちに任せて、のんびりしてきてくれていいから」
「ほんま、おおきになー。んじゃ、いってくるわ」
 
助手席で地図を広げるシャマル共々軽く手を振り、車は部隊をあとにする。
 
「……れ?」
 
そんな隊長たちのやりとりを、スバルはオフィスの窓から見下ろしていた。
 
「ねーねー、ティアー。八神部隊長たち、どこいくんだろー」
「あたしが知るわけないでしょーが。一週間ほど休暇って言われてたし、どこか旅行でもいくんじゃないの?」
「ふーん。いーなー、旅行かー」
 
彼女たちの間にそんな会話が交わされていたことなど、既に車上の人となった八神家一同が知る由もない。
 
というか帰ってきたときに知っていれば、ふざけんなとばかりに激怒していただろう。
特に、それこそ烈火の将がまさしく、烈火の如く。
いつぞやのティアナにお見舞いした一発などより遥かに腰の入った一発を思いっきり、能天気な(?)二人の部下に叩き込んでいたに違いない。
 
旅行、それは甘美な響き。そしてその実──腰や尻や体力をひたすらに消耗するばかりの地獄。

家族六人、知らぬは烈火の将のみ。すなわちそれは言ってみれば、六分の一。
まさに、ゴールも決まっていない六分の一の夢旅人。
 
*   *   *
 
時刻は、早朝。
腕時計で正確に測れば、午前は七時半を指している。
 
そんな朝も早い時間、八神家一同、六人家族は宿泊したホテルの駐車場にいた。
ちゅんちゅんと小鳥が囀り、朝もやがひんやりと周囲を包み込む。
 
「はーい、みんなおはよーさん♪」
「おはようございます」
「おー、おはよー」
「時間、ぴったりですねー」
 
唯一、リインが眠そうに目を擦っているがあとは皆、朝風呂のおかげもあってかすっきりとした顔でその場に臨んでいた。
よろしい、よろしい。はやても一同を見回し、満足げに頷く。
 
昨日からの滞在先であるこの宿は、十分に満足できる内容だった。
広く、種類も豊富な温泉。値段相応に豪華な食事。部屋もゆったりとくつろげる、上品な調度品が備えられた実に良いもの。
仮にもはやては時空管理局における佐官の位に就く人間である。こういうことに使えるくらいの給料は十分にもらっている。
一家全員の稼ぎも合わせれば相当のものだ。出し惜しみなど、するわけもない。
 
「これであとはずっとカメラが回っていなければ……」
「ま、それはしゃーないやん。陸上本部の今年の慰安旅行候補地の視察でもあるんやから」
 
そうでもなければ機動課の、おまけに責任者の立場にある人間を多く含むこの面子に対して陸上本部が一週間近い休みをくれるわけがない。
お互いの希望の利害が一致したということによるギブ&テイクでいいではないか。

シグナムのぼやきを、さらりと受け流すはやて。
そう、この旅にぼやきはすごく大事。そんな満足度100パーセントの心中の声を悟られないよう、注意しながら。
 
「ところであたしら、なんで外に出てきてんだ?」
「おお、ええとこに気がついたね、ヴィータ
 
そして彼女の問いも、もっともなもの。なにしろ家族一同、まだ朝食も摂っていないのだ。
朝起床するなりはやてに連れ出され、人気もなく停められた車も少ない、ひっそりとしたこの場所に揃って佇んでいるのだから。
 
──ただし。
 
「実はなー、プレゼントがあるんよ。みんなに」
「は?」
「プレゼント……ですか?」
 
尋ねたヴィータも、鸚鵡返しに聞き返したシャマルも。実のところ、自分たちがこの場に呼び出された理由を知っている。
ばれるんじゃないかと冷や冷やしながらそっぽを向いているザフィーラも、その頭の上に乗っかるリインも無論のこと。
 
積極的にやる気になっているか、空気を読んで見て見ぬふりを決め込みつつ主の方針に従っているかの違いはあれど、皆共犯である。
 
「いっつもみんなには六課の業務で苦労かけっぱなしやし。部隊長として、一家の主としてのささやかな贈り物や」
 
即ち状況を知らぬ、知らされていないのは──……哀れにもシグナム、ただ一人。
 
「まぁ、みんなゆーてもヴィータやリイン、ザフィーラには帰ってからな。やからこの場ではシグナムとシャマルにだけや」
「私たちに?」
「えー。あたしも今欲しい」
 
裏側をわかっている人間から見れば白々しい演技も、不器用かつ事情を知らない烈火の将が相手であるが故に気付かれることはない。
純粋に一体なんだろうと首を傾げる烈火の将に、他の女性陣全員が心の中で密かにガッツポーズをしていた。
 
「だーめ。それに今渡したところでヴィータには使えんよ」
「……使う?」
「あっ」
 
これまた、わざとらしい。
何かに気がついたように、シャマルが口元を押さえ声を上げる。
念話など使わずとも、主と癒し手の呼吸はばっちり、ひとつ。
権謀術数を駆使する、海千山千の参謀格と狸のコンビである。まっすぐな将ひとり手玉に取るなどいともたやすい。
 
完璧なタイミングでシャマルの声にあわせ、はやても大きく頷いた。
相変わらずシグナムはというと二人の顔を交互に見比べ、状況がわかっていない。
 
「はやてちゃん、ひょっとして……!!」
「そや、シャマルの予想通り。みんな、悪いけど後ろ向いてくれるか?」
 
また、彼女は知らないのだ。
先日の出張任務で海鳴に戻った際、食事前の待ち時間にはやてが見ていた、DVDの内容を。
すずかが録画したというそのDVDを、はやてがシャマルとともに腹を抱えて笑いながら見ていたことを。
 
「……は?」
 
当然振り向いた向こう側にあるものに、目が点になる。
そこには、二台のとある真新しい、二輪の小型車両が綺麗に並んで、パーキングのスペースを乗用車一台分占拠していた。
 
*   *   *
 
「これは……バイク? ですか?」
「正確には原動機付き自転車。いわゆる原チャリ、カブってやつやね」
 
はやてに促され一家一同周囲に群がった二輪車は、随分とレトロなデザインをしていた。
まったく同じ、車高の低いデザインが二つ。
ご丁寧にシートの上には、フルフェイスタイプのヘルメットまで載せられている。
 
ヘルメットはともかくこのような形状のバイクは、ミッドでは見たことがない。
となるとやはり、海鳴から取り寄せたものなのだろうか。
 
「すずかちゃんに頼んで。それでレティ提督経由のクラウディア委託での輸送で今朝届くよう手配してもろたんよ」
 
さらっと、使えるコネを使い倒したことを白状するはやて。
次元航行艦を私物の運搬に利用する部隊長というのもいろいろと問題だと思う。
 
「普段からシャマルもシグナムも自分用の足が欲しい言うとったし、日頃のお礼も兼ねて選ばせていただきました☆」
 
ちなみに、エンジンのほうは本局に届いた段階で無公害のエンジン&バッテリー式に交換済み。
不相応なくらいに高性能な最新型を搭載したから外見に反して出力も十分。
 
「なーるほど。こりゃたしかにあたしやリインにゃ無理だな。足届かねーし」
「ですぅ」
「ですが、結構な出費だったのではないですか?六課の運営費用からまさか」
「あー、気にせんでええ。完全にわたしのポケットマネーからやから、陸上本部や監査部からのクレームはない」
 
(注)シグナム以外の五人は皆、はやての意図を知っています。
 
はやての、ポケットマネー。
せめてもう少しシグナムの性格が俗物であったならば、その一言でおかしいと疑念を抱けたであろうに。
 
機動六課隊舎に生活の場を移したとはいえ一家の家計を握っているのは、他でもないシャマルなのである。
そこから出費があれば彼女が気付かないわけもなく、このような内緒のプレゼントなどというものも成立しないはずなのに。
 
実直な剣の騎士は、全く気付く様子もない。
 
「わたしから、二人への気持ちや。どやろ、もろてくれへんか?」
「はやてちゃん……」
「主……」
 
更にまた、隣の藪医者が無駄に演技の上手いこと上手いこと。
伊達に海鳴で暮らしていた時代、昼ドラ漬けの毎日を送っていないというべきか。
すべて知っている上で感動したように瞳を潤ませる技術など、一体どこで身につけたのだろう。
 
導かれるとおりの道をとおり、烈火の将は自覚せぬまま周到に用意された罠の真ん中へと、一歩一歩近付いていく。
 
「……わかりました。ありがたく頂戴いたします、主はやて」
「大切にしますね」
 
そして、言ってしまった。遂に、致命的な一言を。
 
「受け取る」、それは言ってはならない最後の禁断のワード。
この瞬間、すべてが終わった。……いや、はじまった?
 
捕獲、完了。
自分のものとなった単車の点検をはじめた彼女の後ろで、夜天の王と風の癒し手が黒い笑顔を浮かべアイコンタクトを交わす。
 
「それにしても、どうやって持って帰るつもりで? また輸送してもらうのですか?」
「よーし、ほんなら朝ごはん食べたら二人はお着替えや。きちっと準備せんとな」
「はーい☆」
「?」

着替え? 何の? と。答えの代わりに返ってきた返事が、きっかけだった。
 
ようやくにしてここで、シグナムは主の言い回しの奇妙さに気付く。
もう風呂にも入ったし、着替えなどとうに済ませている。一体、何に着替える必要があるのだ?
 
「これに着替えて、あと5日間がんばろなー、シグナム」
「は?」
 
主の両手にあったのは、緑と緋色がそれぞれ一枚ずつ。
自分とシャマルのパーソナルカラーに染め上げられた、二枚のつなぎであった。
 
「……はい?」
「乗って帰るんや」
「……?」
 
だから、そのカブに。シグナムと、シャマルが。
このつなぎを着て、あと五日間で。

カブと、本人と二輪車とを、大袈裟な身振りで指差しながら交互にはやてが指し示す。
そしてびしりと、サムズアップ。
 
「なーに、ほんの1000キロちょっとや♪」
「はあ!?」
 
そりゃあ、叫びたくもなるさ。
信じられない、耳を疑うようなことを平然と言ってのけるんだもの。
 
「あ、五日でもし辿り着けへんかったら罰として聖王教会の巡礼所、99ヶ所巡ってもらうから」
 
こうして、一家のやすらぎとしての旅行は終わりを告げた。
少なくともシグナムにとっては、終わったのである。
 
主の目は、本気だった。
本気で言って困らせて、楽しんでいる目であった。
その目で、一切の妥協も拒否権もシグナムに対して許すことなく、つなぎを差し出した。
 
(第二夜につづく)
 
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