完全に趣味に走った話。

 
主要登場人物がティアナとディード、おまけに大人アリサ&すずかにハラオウン家のみなさんって一体どういう話さぁ(汗
メインに二人をすえたオムニバスな感じで数回ごとに区切ってく不定期更新。……少なくとも前半は。
設定関係がわかりにくいかもなのでこちらを事前に読んだ上で読まれたほうがわかりやすいかもです。
 
てわけでどうぞー。タイトルは
 
『双銃の弾道・双剣の軌跡〜ある執務官補佐の日誌から〜』
 
です。
 
↓↓↓↓
 
 
 
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フェイトさんの育った世界……地球では、『絆』という言葉は糸を半分、それぞれが持っているという意味合いの文字で表すそうだ。
 
絆を結ぶ、お互いが。結ぶべき糸の片割れを持っている。それを相手から差し出されたもう一方の糸と繋げて、人と人の絆とは作られていく。執務官補佐への誘いを最初に受けたとき、そうやって口説かれたのを今でもよく覚えている。
 
また、人が持っている絆の糸はけっして一本ではない。執務官と、補佐官。彼女と、自分。
コンビであった二人へと、あらたに朱に染まった赤毛の後輩が二番目の執務官補佐として加わるようになって。
三人の間にコンビからトリオへと変化するための同じ糸が結び付けられたのはけっしてそう遠い過去のことではなかった。
 
そして、つい先日新たな後輩が一人また、そこに合流した。三人は、四人になった。
 
かつては、ティアナとも刃を交えた相手。フェイトさんと同じ、二刀剣術の使い手。
以前私たちと同じ部隊であったスバルや、彼女の姉・ギンガにとっては妹のような存在であり、彼女たちと同様に、戦闘機人という普通の人とはちょっとだけ異なる事情をその肉体に宿した長い黒髪の少女だ。
 
「あの子の戦闘のスタイルや性格はきっと、誰かを傷つけることよりも、誰かを傷つけようとする相手を取り押さえるのに向いてるんじゃないかな」
 
ギンガとスバル、それに彼女たちに請われ指導を施した聖王教会のシスター・シャッハがそれぞれに一年半もの間みっちりと仕込んだという我流でない彼女の近接戦闘術を、同じ二刀流を扱う上司はそういって評した。
 
「剣の取り回しも、身のこなしも。さすがあの三人が教えただけのことはあるね。育て甲斐がありそうだ」
 
彼女がこれからそうやっていけるように、私たちがしっかり教えてあげないとね、とも。
艦の訓練室を、その内にてダミーターゲットに向かう少女の姿をモニタールームから望みながら、ティアナと私にそう言った。
 
私にとって直接・直属という意味では二人目の後輩ということになる捜査官見習いの少女は、ティアナにとってははじめての直属の後輩だった。
 
上司が、二刀を用い。後輩がやはり二本の剣を手に戦場を駆ける。
艦における実動戦力としては二人に挟まれる形となったそんな彼女の所持するデバイスは、奇しくも二人の刃と同じく左右の手に握る二丁拳銃の形態をとっている。
双剣と、双銃。フェイトさんを支える二人を、これからは私もしっかりと支えていかねばならない。無論、自分にとって第一に補佐する対象である、フェイトさんともども。
 
ディードと、ティアナ。ティアナと、ディード。
後輩二人について、多分これからもこの場で触れていくことは多くなるのではないだろうか。
 
見守る側として、フォローする側として。私もいまから、楽しみだ。
 
 
─とある、春の日の日付にて。S・F補佐官記述の航海日誌より抜粋─
 
 
 
『双銃の弾道・双剣の軌跡〜ある執務官補佐の日誌から〜』
 
 SideA. Chapter1 海鳴の日(1)

 
 
 
できることなら、拒否したいって顔してるね。
ゆったりと自分のデスクに腰掛けて両肘をついた上司は、そういって微笑とともに、ティアナが思わずその表情へと露わにしていた思考をよく読み取った言葉を投げかけてきた。
 
「そりゃ、そうですよ」
 
ティアナは、図星を隠したりはしない。そこまで気付かれているというのに、隠す必要性もなにもあったものではないから。
隣に立った後輩捜査官からの視線を感じつつ肩を落としてため息混じりに肯定の意を言って返す。
 
横からの目は、非難とか窘めるとか、そのような類のものではない。
ただ、それを向けている少女の物静かな性格に等しく無表情に、だが同時に状況や言葉が飲み込めていないかのごとくきょとんとティアナとフェイトの間を数度に渡り行き来して。二人のやりとりの中にあるものを把握しようとつとめている。
 
「今更、学校なんて歳でもないですし」
 
そのことに気付きながらも、ひとまず無駄とわかっている抗議にティアナは意識を傾ける。
優しいようでいてこの目の前の女性、流石は海千山千の交渉を経験してきた執務官だけのことはある、少なくとも任務については最終的に納得させられ、丸め込まれ首を縦に振らされるのが常なのだ。
 
「そんなことないよ。まあ、私は行ってなかったけどね。地球……日本では十八歳までは学校に通うっていう人の比率がすごく多いんだから」
「あの、あたしもうすぐ十九なんですけど……」
「でも、十八歳でしょ? ほら、ぴったり高校三年生」
 
ね、と。あちらで頷かれても困る。
 
……今回、彼女たちクラウディアの捜査班一行へと持ち込まれた任務は一種の潜入捜査である。
現場となるのはどういった偶然か──ティアナも一度訪れた経験を持つ、高名な執務官たる上司・フェイトにとって非常に縁深き場所・第97管理外世界、地球。その遠見と呼ばれる、小さな都市だった。
 
「それに、学校っていうのは人がたくさん集まる場所なんだ。レーダーやサーチャーの集めるものも情報としては大事だけど、自分の足で、耳で稼ぐのも必要なことだよ」
「……まあ、確かにそうかもしれませんが」
 
遺跡から、ロストロギアを無届出に盗掘していた数人の集団が逃亡した末に姿を眩ました先というのが、そこだった。中にはそこそこランクの高い魔導師も含まれているという。
 
はやてから、クロノに話が通り。艦の捜査責任者のフェイトが追う対象の危険度などを考慮した結果出された判断が、現場での捜査指揮の経験をそろそろ積む時期にきていたティアナと、配属二ヶ月目で環境にも慣れてきたディードを捜査員たちとともに現地に向かわせ一任するというものだった。
またこの判断には、ちょうどフェイトに複数種類の捜査任務が重なっていたという執務官ゆえの切実かつ多忙なスケジュールが生んだ理由も関係している。
 
「ディードは、どう? 学校、通ってみるの嫌かな?」
 
ただ、問題は。そこに更正プログラムである程度の進展は見られたとはいえ、やはりまだ未成熟な情緒をもつディードの情操教育も絡めてしまおう、一石二鳥を狙おうという魂胆が金髪の上司と先輩補佐官のシャーリーとの間で持たれた話し合いの末に含まれたことをティアナも知っているということだ。
かの地には、上司の旧知の人々や家族たちがいる。そこに二人を逗留させるべく、昨夜連絡を取り合っていたということも確認済みだ。
 
物静かだけれど、感情表現に乏しい新米にして妹分。そりゃあティアナだって二人が彼女について画策した意図だってわかるし、人として彼女が生きていくのにそれが大事なことだとは理解できるけれど、だからといって任務の片手間に学校に通うというのもいかがなものだろうか。

もちろん学業と局員の業務をフェイトが昔、長く両立させていたことは話として知ってはいるけれども、それはそれ、これはこれである。
あちらは制度に基づいてのパートタイマーに近い勤務体系によることであり、あくまでこちらは正規のフルタイムに拘束される任務のついでに学校に通ってしまおうということなのだから。そんな話の前例、少なくともティアナはいままで聞いたこともない。
……嘱託時代にそれをやっていたという実例そのものが目の前にいることを、状況の把握度合いとは反比例してティアナは知らない。
 
大体、今更管理外世界の学校に通ったとしてたいして有益なものを得られるとも思えない。交友関係は間に合っているし、出身などの正体を明かすわけにもいかない。現地の文字の読み書きも覚えなくてはいけないし、面倒なことこの上ないというのが本音である。そういったことに使う脳の容量があるなら、執務官試験への勉強にまわしたいところだ。
あとは、単純に人当たりがあまりいいほうではないということをティアナが自覚しているということもある。作り笑いや愛想笑いは面倒だし、苦手だ。
 
そんなわけで、潜伏した犯人たちを追いながら海鳴の学校に通うという選択肢は、正直言って遠慮したいところだった。
 
「あ……はい。その……」
 
ただ、それはもちろんティアナ個人としての都合であり。気が差したようにちらちらと口元を押さえつつこちらに目を向けてくる隣の黒髪の少女については話が別であった。
どういう答えを返すべきか、どう返すのが正しいのか。こちらを見ては彼女は考えている。やや、上目遣いに。気を遣っているというのがありありとわかる。
 
「ティアナ」
 
そこに、フェイトからのほんの少しだけ叱るような色の加えられた言葉を重ねられては、もう負けたも同然である。
 
あなたのほうが、先輩なんだから。後輩に気を遣わせちゃ駄目だよ。……彼女の言いたいことはつまりそういうことだ。
 
観念するよりなかった。鼻から、大きく息を排出する。力なく肩を落として、それでも言う。
 
「……いいわよ、ディード。あなたの好きにしなさい、あわせるから」
 
ぱっと、感情表現の乏しい少女の顔がその言葉に、一瞬明るさを帯びさせたのがわかる。
 
ティアナとて一応これでも、人の我侭に付き合うのは慣れっこである。なにしろ数年間、ティアナの隣にいたのはナチュラルに自分の無茶を他人に納得させるのが特技の、我侭魔人ともいうべき相手であったのだから。
こんな、上司たちや後輩の要請・願望くらいまだまだかわいいものである。
 
「えっと。それじゃあ……」
 
結局、ティアナの心境を満たしていたのは状況を受け入れるという諦めにも似た感情であった。
 
行って、みたいです。隣の少女の吐いた、ワンクッション置く言葉の後に続いた遠慮がちな声も、その思考の内側には折込済みだった。
 
*   *   *
 
そんなわけで。今、ティアナはディードとともに海鳴にいる。
 
「なぁに、心底疲れたって顔してんの。景気悪いわねぇ」
「はあ……すいません」
 
白い、飾り気のない長袖のYシャツ。細いリボンタイと腰ボタン留めのベストはともにブラウンだった。
チェックのスカートの下からは特に指定のないおかげかいつもの白いオーバーニーソックスを普段着や局の制服にそうしているのと同じ要領でそのまま身に着けている。
いわゆる、学生服。現在ティアナの身体を包んでいるのは、そういう代物だ。
 
そして、歩み行く先に見えてくる正門前に待つ相手も同様の服装を身につけている。
差異としては髪型と顔、あとは足元が濃茶色のハイソックスという程度の相似な格好。
 
「ディード」
 
服装が同じなら、人数も同じ。それぞれに人を連れての合流だ。
ティアナのほうは、薄手のYシャツにスラックスの短いブロンド髪の女性。一方の待ち人ペアのほうはといえば白いカチューシャをつけた、リクルートスーツに長いウェーブがかった髪の人物。
 
「ティアナ姉さま。……えっと、そちらがフェイト姉さまの?」
「ああ。アリサよ。アリサ・バニングス。そっちのすずかとおなじく教育実習中の、フェイトの親友でーす」
 
サイドのふた房だけ肩ほどに伸ばした独特の髪形で、からからと女性は笑った。
ティアナのほうもすずかと簡単に会釈と言葉を交わしあう。こちらは以前に面識がある分、説明などといったものが不要で楽だった。
 
「どうだった、すずか。そっちは」
「全然、問題なし。とってもいい子だから、ディードちゃん」
 
月村すずか。彼女の言い回しに、ディードが戸惑っている。
というより、やはりどういったリアクションをとればいいのかが掴めないようだ。
 
「小学校のときのフェイトちゃんみたいだったよ。ほんと、編入初日から大人気」
 
そうなの?と顔を見やると自信なさげに黒髪少女は首を傾げる。
 
「なんだか、たくさんの方たちに囲まれて。色々質問はされましたけど……」
 
ディードの言い様に、なんとなくティアナはその光景の想像がついた。
 
口数の少ない、よくいえば物静かな、悪く言えば無口な性格を彼女はしている。
もちろんそれは彼女本来の性分と、成熟しきっていない情緒面とが合わさっての結果に生まれたものではあるけれど、今日はじめて会ったような、なにも知らない異世界の学生たちにはそういった込み入った事情などわかるはずもない。
加えて、けっして冷たく無愛想ということもなく。人当たりもけっして悪いほうではない。顔もティアナから見て、普通に平均より上のレベルのつくりをしている。
 
まあ、新入りに対する物珍しさも手伝って、そりゃあ人が寄ってくるのも当然だわな。
ティアナの納得した頷きに、再度ディードは首を傾げた。
 
「よく、わからないです。……その、帰りに一緒に“からおけ”に行かないかと何人かから誘われたのですが……断っては、いけなかったんでしょうか?」
「ありゃ、それはもったいない。行ってくればよかったのに」
「ダメですって。一応、任務中なんですからあたしもディードも。変なこといってそそのかさないでくださいよ、アリサさん。戻ってサーチャーのチェックしないと」
 
暢気に言ったアリサに、ティアナはため息交じりのつっこみを入れた。
 
この人、ほんとうに大会社社長の令嬢なんだろうか。いや、立ち居振る舞いの端々に見え隠れする動作の細部には、たしかに一般人に比べれば流れるような整った動きが加わっているのは確かなのだけれど。
仮にも求職の一環である教師としての実地研修──彼女ら曰くの教育実習に、ジーンズにサンダルという格好はいささかラフすぎやしないだろうか。現に隣でにこにこ微笑んでいるすずかのほうはきちんとスーツに身を包んでいることだし。
言動もお嬢様というよりは、どこか気のいいお姉さんといった感じがしてそれらしくない。
気品や精緻さと同じくらいの割合に、大雑把さと近しさが彼女の持つ雰囲気の中には同居している。
 
「ま、こうしてずっと校門前を占拠し続けるのもなんだし、そろそろ行きますか」
 
そんな彼女、アリサ・バニングスと月村すずか。さしあたっては六課の時代と同じく彼女ら二人がこの世界での主だった民間協力者である。
ティアナが編入された先、三年生のクラスを受け持つのがアリサ。同様に一年生へと組み込まれたディードは、すずかのクラスに入ることでこの世界の一般常識への造詣の浅さをフォローしてもらうことになる。
 
「フェイトの家に泊まってるんだっけ」
「そうですね。フェイトさんが使ってた部屋と、空き部屋とをひとつづつお借りして」
 
逗留先となるハラオウン家のマンションは、ここからでもよく見える。衣類などの荷物は既に届けられているはずだし、捜査に必要な機材はもとから邸内に置かれているものを別チームが月村家に設置したものと併用していけばいい。
そこで集めた情報をもとにティアナはディードとともに捜査を進め、近隣の次元間空間内に待機しているクラウディアのフェイトやシャーリーへと報告していくことになる。それが、当面の任務。
 
同じ報告だけならばべつにクラウディアをここまで動かしてくる必要もなかったように思えるが、殆ど単身赴任状態で仕事にかまけ家に帰ろうとしない艦長を、少しでも家族に会わせるために彼の妹である執務官がそうなるよう画策したらしい。
……本人がそう言っていたんだから、多分間違いない。
 
「ほんじゃま、途中で桃子さんとこにでも寄ってケーキでも食べてこっか」
「え、だからあたしたち、任務が……」
「はーいはい。おねーさんが好きなの一品奢ったげるから、硬いこと言わない。黙って年上の好意についてくる」
「わ」
 
抗議の声も無視され、ディード共々背中を押され肩を抱かれて、強制的に歩みを開始させられる。
 
助けを求めて二人で見やった後方、そこに控えるすずかが、表情一つ変えることなく相変わらずにこにこしているということは、普段から彼女はこうなのだろう。
リーダーシップがあるというか、少々強引というか。
 
「ケーキ、好き?」
 
それもこれも、彼女からの問いへと小さくこくりと首を上下させる後輩の様子に、まあいいかと思えてしまう。
 
甘いものは、ティアナだって好きなのだから。
ごく一般的な同年代の女の子と、同程度に。ご相伴に預かれる、ご馳走してもらえるというのに、みすみす逃す手はない。
 
上司がディードをこの世界へと同行させたのは、こういった日常の中に彼女を置いてみたかったからなのかもしれない。
 
 
 
−つづく−
 
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大人アリサの髪型はA'sエピローグのほうに戻してる(という設定にしてます)つもりです。
いや、サウンドステージのあの髪型だとシャマルと被る……。