お約束になりつつありますな。

 
あと、記事のカテゴリに『一次創作』を追加。まだなーんにもありませんが、ちまちまこれものっけていく予定。自分でも友人でもない第三者の人の目に触れる環境をもっと増やそうかな、と。新人賞への投稿をするようになって思った次第。
 
んでもって今回の更新自体は24時間局ラジオの際へろへろ状態で無理やり仕上げた二本目の作品の改稿版。さすが思考回路まともに働いてない状態で全速力で仕上げたわねって感じの乱文悪文乱れうち状態だったんで自己に猛省促すべく細部の変更のみで載せてみる。
あ、もちろんこれはあまりに……って部分は直したけれども。
大筋の無理やりっぷりもそのままです。
 
てなわけでどぞー。
 
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『懺悔』
 
 
その人の来訪は、あまりにも突然だった。
 
会いたいと、会ってきちんと話をしてみたいと思ったことがないわけではない。むしろ彼女と正面から向き合うことそれ自体は、望むところ、願ってもない事態で。
自分も、あちらも双方とも落ち着いたら更生プログラムの担当教官であるギンガを通じ、面会を頼み込んでみるつもりをしていたくらいなのだから。
 
間違いなく、自分はそれを望んでいた。
 
それははじめて、正面から自分の砲撃を打ち破った人。それも大したチャージ時間もない、『抜き撃ち』のたった一発で。
そして一撃のもとに撃破した自分を、あっけないほど容易く捕らえていった相手。
 
彼女に自分が負けた理由を、いつしか折につけて考えるようになっていた。
 
それはその先に守るべき相手がいたから、助けるべき存在が待っていたからこそなのだろうか、と。
疑念のまま、守るべきものも曖昧なまま戦いに臨んだ自分と彼女との明暗を分けたのはひょっとすると、そんな必死さの差にあったのかもしれない、と。
 
考えてはおぼろげに、そんな風に結論付けていた。だから直接会って、彼女から見たほんとうのところを訊いてみたかった。言葉を交差させたかった。
 
具体的に、どこがどうとか、なにを言うべきかなどは単語にすらならないくらい、形を成してはいなかったけれど。会えばなにか言えるような気がしたのだ。
 
そんな、相手。そんな彼女は、まるでディエチにとっては予想だにしていなかった『連れ』を引き連れて、その手を引いて、現れた。
馴染みの深い旧友に会いにきたかのように、笑いかけてくれた。
 
その女性の名前は、高町なのはと言った。
 
*   *   *
 
海上に建設されたこの更正施設には、緑豊かな芝生の茂る、わりあいに広いスペースのレクリエーションルームがある。
そこは普段、ディエチたち施設内のナンバーズの憩いの場として、また更生プログラムを無理なく自然体の心身を以って学ぶことができるよう、青空の下の教室として開放されている場所だ。
 
いつものディエチは、他の姉妹たちとともにのんびりとそこにいる。けれど今は拭えぬ緊張に身を軽く強張らせながら、対照的にゆるりと腰を下ろした一人の女性と、向かい合って座っている。
 
「あれからどう? 更生プログラムのほうは順調?」
 
サイドポニーにまとめられた長い髪のすぐ下に、白い航空武装隊の制服が折り目正しく袖を通されていた。
そういえば戦闘服も、白だったっけ。記憶にある姿のイメージと、その清潔感の漂う色合いとが結びつく。
 
戸惑いがちに、ディエチは彼女の言葉に首肯した。
 
管理局、空のエース・オブ・エース。高町なのは
見間違えようのない、忘れるはずもない以前の敵が、そこにいる。
 
今もなお、あまり実感がわかない。目の前にいる女性が彼女の被保護者であるかつての聖王の器を連れて、わざわざ自分を訪ねてくるだなんて。
 
その聖王──ヴィヴィオ・高町は今、彼女たちの来訪を受けてディエチをここへと呼んだギンガが、他の姉妹たちとともに相手をしている。
以前攫った張本人である自分たちに怯えはしないかと心配したけれど、ギンガが一緒なのだしそこまで気にすることもないだろうと、むしろ母親であるなのはのほうが気楽に笑っていた。
保護者がそう言う以上は信じるよりないし、それ以上ディエチが口をはさむ要素もない。
 
案外ノリの軽いウェンディやセインが中心になって、簡単に打ち解けているかもしれないと実際に例を出されれば、それもそうかと思えてくるから不思議だ。
 
「あなたが会いたがってるって、ギンガに聞いたから。だからせっかくだからと思って、こっちから来たんだ」
「……ギン姉が」
 
女性のきちんとした服装に対し、こちらは施設内で支給されるいつものシャツ一枚。なんとなくその不釣合いさがはずかしくて、ズボンのほうへとシャツの裾をひっぱる。
もちろん、そんなことをしたところで何も変わらないけれど。居ずまいを正しておきたいと、そういった心境があったのは間違いのないことだった。
 
ただし、これも彼女にはお見通しであったらしい。
 
「いいよ。そんなの、気にしなくても。わたしも丁度訊きたかったり、話したかったりしたことは色々あったし、ね」
「あたしに……ですか?」
「うん──まあ、それは追い追いとして。まずはあなたの話を聞かせてほしいな」
 
口元を柔らかく歪めて、なのはは笑顔をディエチへと向けてくる。
 
「わたしに会いたがってたってことは、言いたいことがあったんでしょう? だったら直接、面と向かって聞こうかなって」
 
まっすぐに、瞳が瞳を見据えてくる。どきりとして視線を逸らしても泳がせるより他になく、視線のやり場がない。
ゆっくり、少しずつ、少しずつディエチはもとあった位置へと両目の向いていた方角を戻していく。
 
「……今更かもしれないです。それでも、いいですか」
 
自分が吐こうとしていることの正当性に、自信がなかった。
でも、これだけは言っておきたいと。そう思える一言が彼女に対しては明確にディエチの中に存在していた。
 
瞳が、瞳とあわさっていた位置に戻り、なのはが頷く。いいよ、と。
最後の心の準備に、ディエチはひとつ深呼吸を必要とした。
 
頭と身体を、前傾に彼女へと向ける。口から紡ぎ出すのは、心からの言葉だった。
まず、やっておかねばならないことだった。
 
「……ごめんなさい。いろんなことに、たくさん迷惑をかけて。あなたの大切な子に、いろんなひどいことをしてしまって」
 
その声を聞いた彼女は、一瞬面を食らったように目を軽く見開いて、息を呑んで。
 
なんだ、そんなことか、と。幼い子供の起こした些細な悪戯の、予想外の結果を見つめるように、すぐにくすりと笑っていた。
 
*   *   *
 
厳しい言葉をかけられることも、覚悟していた。怒りの込められた鉄拳が飛んでくることすら、自分のしたことを省みるならば十分にありえることだと思考の中には抱いていたのだ。
 
自分は眼前の女性からたった一人の愛娘を奪い、救出に急ぐ彼女の行く手を阻み。彼女と、砲火を交えた。そして──敗れた。
理由など、挙げていけばきりがない。
 
「いいんだよ、もう。気にしてないよ。わたしも、ヴィヴィオも」
 
その上での、言葉だった。けれど自分を打ち倒した女性はなんでもないことのようにただ、微笑むだけで。
持ち上げた拳が、ディエチの頬を打つことはなく。やさしくそっと、髪の上へと置かれるだけだった。
 
「でも……」
 
いいから、と言わんばかりにくしゃくしゃと乱雑に頭を撫でられる。そして耳を打つのは、しみじみとした声。
 
「……なんだか、似てるなあ」
「え?」
「いや、ね。ちょっとだけ似てる子が昔、いたから」
 
間違っているんじゃないかと思いながら、自分の行動を止めることができなかった。家族の過ちを、自分の誤りを省みて方向を転換することが最後までできなかった。
あなたが言葉をかけたいのはたぶん、わたしやヴィヴィオではなくて──そんな形で迷惑をかけたみんなと、止められなかった家族、みんなでしょう?
 
「その後悔についてきっと、罰や懺悔を求めてるんだ」
 
そういって彼女の吐いた言葉は、悉くが的を射ていて。ディエチは反論もできずいままで自覚していなかった、いや自覚しようとしていなかった図星に、どきりとした胸を押さえて黙りこむしかなく。
 
「わたしが知ってる子も昔、家族を止められなくて。家族のために生きていた自分を、止められなくて。それで、後悔していたから」
 
家族のためにと、懸命に働いて。でもそれは彼女には世間的・道義的に許されるような行為ではないと十二分にわかっていて。
 
結果、彼女は肉親を失った。止めるべきは自分だった、もっとはやく、あと少し自分が別の選択肢を選んでいることが出来たなら。手を伸ばせていたならばと、彼女は深く後悔をした。
自分でも気付かぬほどの、心の奥底に至るほどに。振り切ったつもりの意識の深層に、時折表へと顔を覗かせながらたしかに脈動を続けていた。
夢によって提示されたそれに対し彼女自身が自分なりの決着をつけるまで、心の奥底にずっとその後悔と羨望とは残っていたのだ。
 
誰とは言わないけど、ね。肩を竦めて彼女はディエチに苦笑を見せる。
 
「そのころの彼女……わたしにとってすごく、すごく大事な子と。今のあなたは、とってもよく似た目をしてる」
「あ……」
「これでいいのかな、って。ここにてもいいのかな、って。そんな、ちょっぴりの不安が自分でも知らないうちに、ふとした瞬間に目に映ってる」
 
にこりと、重ねて女性は微笑んだ。そして、大丈夫だよ、と静かに言った。その瞳には懐かしさの色が隠されることもなく浮かんでいる。
 
──なんとなく、自分が彼女に敵わなかった理由がわかったような気がした。
 
実力とか、決意の量とか。そんなもの以上にたぶん決定的な違いがあったのだと、その表情を見た瞬間に思った。
彼女は、同じものを既に知っていたのだから。見て、知って。その上で乗り越えてきた存在を間近に得ているのだ。
ナンバーズの姉妹たち、ただその世界しか知らない幼い自分が敵うことなど土台、ありはしなかったのだ。自分自身への卑下や自虐などではなく、おぼろげな自覚としてディエチは彼女と自分の間にあった差を認識した。
 
「過去は、やりなおせないから。その過去に恥じないように前に進むしか、ないんだよね」
「……高町一尉」
なのはさん、でいいよ。名前で呼んで」
「……なのは、さん」
 
はあい。戸惑いがちにおそるおそる彼女の名を呼んでみたディエチに悪戯っぽく、彼女は笑顔で応じる。
 
──ヴィヴィオに謝っても、いいですか。自分の口で、ちゃんと。
 
その上でもう一度、ディエチはなのはに問うた。いいよ、と。今日何度目かのその三文字をなのはは吐いた。
 
不意に、面積の広い採光量の大きなガラス窓へと、なのはが顔を向けた。ディエチもつられて、そちらを見る。
廊下を歩んでくる姉妹たちの姿が、あった。賑やかな喧騒が、もうすぐこのレクリエーションルームには持ち込まれる。
 
その先頭にいるのは赤毛をヘアゴムで持ち上げ束ねた元気のいい妹と、彼女の肩へと乗って肩車され、朗らに笑うブロンドの少女。
 
かつて攫った側と攫われた側であるはずなのに彼女たちは、旧来の友人同士であるかのように声を上げて元気に笑いあっていた。
 
そんなに難しく考える必要なんて、ないのかもしれない。なのはの掌が、彼女らの姿へと思ったディエチの背中を軽く押した。
 
その力に逆らうことなく、慣性に従って。
姉妹たちと少女とを迎え入れるべく、ディエチは立ち上がった。
 
*   *   *
 
──それから、ディエチにはひとつの目標ができた。
 
「飛行魔法を、学びたい?」
 
相談を持ちかけた陸戦魔導師である姉……教官は、うーんと首を傾げていた。
無茶な願いだと、わかっている。自由の遠い自分がそれを達成するのがどれほど先になるのかも、理解している。
 
けれど、目指すと決めたから。
 
あの人と同じ場所に行く。負けないくらい強くすべてを、撃ち抜けるようになってみせる。
 
スバルが彼女にあこがれたという理由も、今ならわかる。自分は──あの人のいる空を目指す。
 
彼女の大切な子が二度と母親から引き離されることのないように、あの人の側で力になる。強い彼女が、後顧の憂いなくすべてを撃ち貫けるように。
 
得意の砲撃でなら、きっとそのくらいのことは、できるから。
前に進むための目標としては、十分すぎるくらいだ。そして、いつか。
 
あのひとに負けないくらいのまっすぐな砲撃で、想いを貫けるようになること。
その砲撃で、ひたむきな想いを遂げようとしている人へと向かい合うのではなく、力になること。
 
過去に対する懺悔ではなくそれこそが、今のディエチの持つ、いつかくる未来に対しての願いだった。
 
 
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