某所の。

カブシグナム姐さんがフルカラーになってて吹きました。640です。
てわけでどうでしょう第三夜更新するよ!!
あ、今回はティアナはいません。
 
↓↓↓↓
 
 
 
 
−時空管理局陸上本部前・公園−
 
天気は快晴というほどでもなく、かといって曇りというほどに雲が多いわけでもなく。
本日も、撮影がはじまる。
 
「こんばんは、機動六課です」
 
いっちにー、いっちにー。小走りに駆けてくるのはふたつの白い影。
 
いやあ、白い。これでもかとばかりに、白い。スターズ分隊隊長のバリアジャケットどころのさわぎでなく、とにかく白一色。
真っ白な全身タイツ姿のシャマルとスバルが、芝生の上に敷かれた体操用マットの横に止まり、意図的に、あえてそれを無視した様子でカメラに向かいフェイトがしゃべる。
こちらはいつも通りの黒い執務官制服。黒と白、喋る側と動く側、色もやることも好対照である。
 
「八神家どうでしょう、ミッド北部横断1200キロカブの旅第三夜。今夜はシェフシャマルの料理が遂に炸裂します」
 
ホイッスルが一回。スバル、ひねりの加わったバック宙を難なく成功。着地も見事なY字を全身を使いアピールする。
さすがシューティングアーツ有段者というべきか、まったく危なげがない動きそのものだった。
 
そして今度はシャマル。スバルの笛がもう一回掠れた音で鳴り響く。
カメラを回し見守る一同と、ナビゲーター役を務めるフェイトとによーく見ておけといわんばかりに見得を切ったポーズで彼女はマットの前に立つ。
 
「更に今夜は機動六課のマスコットとして黄色い──いやいや、ピンク色の身体のスペシャルゲストが──……あ?」
 
大見得を切ったわりには、スバルに比べれば難度の低い側転。
 
でも失敗。なにしろ、日ごろ運動不足で昼ドラばかり見ているヒマ人の医務室担当ですから。
盛大にすっ転んでマットへと顔面からダイブする羽目にシャマルはなった──というか、オーバーなアクションがついているあたり無論、半分わざとである。
 
「あ、悔しがってる」
 
というわけでシェークスピアの悲劇を演じるかのような大げさな嘆きっぷりのシャマルは放っておいて。
VTR、どうぞ。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜八神家どうでしょう・ミッド北部横断1200キロカブの旅〜
 
第三夜 新しいこの朝が、いつものようにはじまる
 
 
とんとんとんとん、と、包丁の音が響く。
シャマル現在、調理中。もっとも、テンポが一定なのはそのリズムだけ。
細切りにされた野菜は厚みも大きさもばらばらだし、皮を剥かれたじゃがいもはサイズが本来の半分ほどに小さくなっている。
 
「……ってことで、本日のお品書きを……」
「いや、お前。調理開始からどのくらい経った?」
「野菜切ってるだけなのに……一時間」

けれど守護騎士一同、はやくもグロッキー気味であった。
何しろお昼時の一般的な食事に最適の時間帯に一時間も放置されているのだ。
だから空腹なの。空腹なんです。とりあえずさっさと作れ。
 
「それじゃ、お酒使って軽くフランベしまーす」
 
野菜をか。野菜をなのか。一斉に振り返るヴォルケンリッター面々を尻目に、フライパンにアルコールを注いでいくシャマル
 
──最後の一滴まで、きっちりと。
 
クラナガン市内の酒屋で購入すれば一本で車一台は買えるだろうかという有名かつ高級な銘柄の酒は、勿体無くもわずか一度きりで使い切られた。
まったくもってなにも必要のない、香りをつけて飛ばすべき臭みも殆ど存在しない、生野菜をフランベするために。
 
「って一瓶全部入れるのか!?」
「え?なにか問題でも……」
「あかん!! 伏せり!!」
 
ザフィーラの背後に隠れ、彼の展開した防御に身を潜めるシャマル以外の一同。
 
直後。
 
まるでシグナムの紫電一閃かと見紛うばかりの轟炎が、周囲を明々と照らした。
パーキングエリアに集まった休日の旅客たちが、立ち上った紅の炎と漂う高級アルコールの芳醇な香りとになんだなんだとことごとく顔を上げて彼女たちのいるほうに視線を注いでいた。
 
*   *   *

そして、遂に料理が完成する。遂に、というか、終に。ようやく。やっとこさ。
 
休憩所のテーブルにつくは、八神家五人。死刑執行を待つ死刑囚──とも言う。
その方法はまことに異なことに、『料理』という手段によるものである。
 
 
<一品目:夏野菜とハムのサラダ>
 
「……なんでサラダなのに野菜が焦げているんだ? しかも消し炭レベルに」
「フランベしたからでっす!!」
 
そこ、サムズアップするな。腹が立つから。
フォークでつついただけで風化してしまうものが大半の皿の中身を目の前につきだされ、その思いを抱いたのは五人全員。
 
口に入れてもただただひたすら苦くて焦げ臭い。切っただけのハムが一番うまいという、食した舌が真っ黒になるそんなサラダ。
 
「ちなみに今回のお野菜はどれも今朝とれたての農家から直送されてきたばかりの新鮮野菜をふんだんに使わせていただきました」
 
謝れ。お前は謝れ。農家の人と、酒屋の人に。もうそれこそ地に頭をこすり付けるどころか埋まるくらいの勢いで。
これもまた、渋々に渋い苦味の焦げ野菜を口へと運ぶ他の八神家五人全員の、一致した見解であった。
 
 
<二品目:魚介類のパスタ・シャマル風>
 
「えーと、ちょっとパスタの茹で時間を間違ってしまいまして」
 
皿の上では、パスタが何故か不自然なほどドーム状に盛り上がっている。
 
よく、機動六課の隊員食堂でスバルたちフォワードメンバーが訓練後に食べている山盛りの特大パスタ、あれと殆ど同じくらいの高さとボリューム。
それが、人数分の皿にそれぞれ載っている。五つの塔が、ドームが聳えている。そう表現すれば想像しやすいだろうか。
 
ただし、あちらは食堂のスタッフ──いうなればプロの仕事のなせる技。こんな茹で時間の計算ミスの産物などとは比べるのもおこがましい。
 
口の中に入れた瞬間、一同を襲うのはおよそパスタとは思えぬ食感。本来のコシも、はざわりの良い麺としての味わいもなにもあったものではない。
あっちこっち絡まりあってもごもごとし、とにかく食べにくいこと、この上ないといったらない。
 
一言で言えば、まずいということだ。それに尽きる。
 
「……うちの食堂スタッフ、腕よかったんだなぁ。下手糞が作るとドームパスタってこういう食感になるのか……」
「具も半生ですぅ……」
「モチだ、まさしくモチ」
 
まさに、シャマルに(料理を)おみまいされた形である。
ヴィータが、リインまでもが口々に風邪の癒し手の作った癒しのかけらもない料理に不満を漏らす。
 
「で、次は?」
「以上です」
「……は?」
「以上です」
 
いや、以上って。たったこの二品に──……。この時間は、ないだろう。そこに収束したやはり一家の思いはひとつ。
ひとつになった思いを声にする役目は当然にしてその性格と立場上、烈火の将のもの。
 
時計のほうは、もう殆ど夕方四時を指そうかというところ。
 
「たったこれだけに三時間か!?」
「やーん、シグナム怒らないでー」
「……リイン、ヴィータ。アイスでも買ってこよか」
 
正しくは、怒鳴るシグナムと対照的に、他は皆諦めムード。元からシャマルの料理に期待している者など居はしないのだ。
二人の繰り広げる軽い漫才のようなやりとりを無視して、他の面々は歩いていった。
名物のソフトクリームがあったはずだ。シャマルとの罵り合いは烈火の将に任せて、それで口直しでもしてこよう。
 
シグナムには、バナナでも買ってきてやればいい。なければ……それでいいや。
 
*   *   *
 
「さ!! ランチも終わったし今日はあと三時間くらい走ろか。ちょうどそんくらいでホテルに泊まるにいい時間やから」
『いや……時間的にあれを昼食と言っていいのかどうか……』
 
しかも大して旨くなかったし。せめてこれだけ大変な思いをしているのだから、食事くらいはいいものを……と思うのが人情というものである。
 
はやてたちが口直しのソフトクリームを堪能し終わり、シグナムが彼女たちからなぜか冷凍みかんを渡されて。
それを完全に胃の中に収めてから、再び一行は旅を再開していた。
 
『なによー、あんなに頑張って作ったのに……』

ぼやくシグナムに、むくれた声のシャマル。頑張ろうと時間をかけようと、まずいものはまずい。
 
ゆえに揉める。作った側と食べさせられた側で。食べ物の恨みというのは、基本的に長く尾を引くものだ。
 
「まあ、たしかに味はアレな感じだったよな」
『だろう。あんなものを出されてだ。料理だと言い張られて、だぞ? こちらも食わなければ身が持たないから食わざるを得ないからといって。果たして元々疑問のあるカブの旅なぞやる気が起きると思うか? 起きるわけないだろう』
ヴィータちゃんまで!? リインちゃんはおいしかったでしょ!? ね? ね!?』
「……ノーコメントです」

走行再開からこちら、ずっとこんな調子である。なんだかシグナムのぼやきぶりが当初に比べ堂に入ってきたようにすら思える。
普段はやての手料理や、六課隊舎のきちんと管理された食生活を送っている騎士たちは無駄に食に関してはうるさいのだ。
 
シャマルだってそのはずだからという思いが皆にあるからこそ、一層彼女のつくる料理が常にああいったメガトン級の破壊力を得てしまうのかという不思議に首を捻らざるを得ない。
疑問があり、納得と程遠いからこそぼやきとつっこみとが厳しいものとなる。

『はやてちゃぁん』
「あー、ホテルの夕飯は豪勢にするから、な?」
 
そして主の言葉も、フォローになっていない。
 
『いいわよぉ、明日はもっとすごいのをおみまいしてやるんだから』
『……やめろ、呪う気かお前は。死ぬぞ、我々が』
 
そんなことで主殺し、仲間殺しの騎士なんて言われるようになったら末代までの恥だぞ、多分。
 
*   *   *
 
ミッドチルダ新暦75年・六月六日 午前七時三十分─
 
「……はい。ここでVが一気に飛んで翌朝になってると思いますが──……原因は一言でぶっちゃけるとシグナムです」
「む」
 
二日目の、朝。例によってツナギ姿の二人が並ぶ。
 
「この駄目人間、ホテルつくなり「さっさと食事して風呂に入って寝る」とか言い出しやがりまして。そのせいでホテル到着後のVがないんですねー、最低ですねーこのニート侍」
「な、わ、私のせいなのか!?」
 
地味に言葉遣いの汚いシャマル。駄目人間とはあまりにもあんまりな言い草である。
一同から彼女の言葉に同意するようなジト目を向けられ、シグナムは慌てる。
 
大体そんなことを言えば、皆も等しく日中の疲れで入浴後すぐにダウンしていたというのに。そこには一切触れずスルー。
まさに理不尽。けれどそれこそがこの旅の本質である。理不尽でなければこの旅は意味がないのだ。
それがどうでしょう藩士たる夜天の王の望み。……主の願いのために、騎士は働くしかないんである。
 
んで。シャマルの手にはやてが画面外より地図の描かれたフリップを渡す。
 
「まあそれはあとでV回ってないときにでも散々いぢめるからいいとして。昨日の行程が大体6時間ちょっと走って320キロってとこですか」

よくないでしょうが、という声も当然拾ってはもらえない。
シグナムを完全に無視して、フリップ上の道筋につつつ、と指先を這わせる。
今日の行程も大体同じくらいが目安。概ね300キロを超えるのを目処にしている旨、カメラに向かいシャマルが説明していく。

「それで……どうやろかお二人さん。一日まず走ってみての感想は」
「え……いや、感想と言われましても」
 
二人、顔を見合わせて出てくる結論といえばせいぜいが決まっている。
 
「非常に厳しいですね」
「お尻がもう既に痛いです」
 
愚痴というか文句というか。実際この旅の辛さばかりしか思い浮かばない。

「やっぱ厳しいのか?」
「流石にこれほど長時間バイクにまたがり続けるということは今までなかったからな。こればかりは騎士といっても慣れん」
「ま、それもそーか」
 
股関節と、常にシートにこすれ続ける臀部のひりひりとした痛み。
そもそもが移動手段など古代ベルカでは自力飛行や転送ばかりだったのだし、現代において生活する中においても然り、それらや公共の交通機関の利用が生活の一部となっているのだから。
シグナムもシャマルも免許は持っていても時折車を運転する程度、殆どバイクなど乗る機会もなかったのだし、当然である。
 
「そかそか。なら、そんな二人のためにちょっとしたゲストを呼んであるんよ」
「は?」
 
そしてまた少々強引な振りである。カブと辛さとゲストを呼ぶことの必然性に、なんら整合が存在していない。
そして例によって、シグナム以外の一同は訳知り顔。すべて納得し認識している様子。
そしてお願いしますと、はやてがシャマルに言葉の引継ぎを促す。
 
「えー、実を言うとですね。シグナム」
「???」
「この旅、大変ですね? しんどいですね? やってられませんね? 投げ出してしまいたいですね?」
「いや、それはもちろんそうだが?」

ついでをいえばそこに馬鹿馬鹿しいとくだらない、あと冗談じゃないも付け加えたいところだが。
言い出せばまだまだ愚痴やぼやきが出てきそうなので、そこは我慢しておいた。
 
「そーんなわたし達を激励、鼓舞するために機動六課隊舎から、素敵なスペシャルゲストを読んであるんです」
「ゲスト? ……にしてもリアクションがわざとらしすぎて腹立たしいな、お前は」
「それでは登場していただきましょう……ピンクの身体のにくいあいつ!! ……nAnoちゃん(ナノちゃん)です!!」
 
そして、黄色い憎いやつ、いや白い悪魔──もとい、ピンクの球体が現れた。
 
平成の怪物が中に入っている黄色い本物と遜色ない、軽やかかつ俊敏な、流れるようなステップで。
シグナムやシャマルの姿が画面外に消えてしまうくらい邪魔かつ場所をとる大きな丸い図体で、ヴィータの構えるカメラへとフレームインしてきたのだった。
 
(つづく)
 
*   *   *
 
いっちにー、いっちにー。先ほどと同じく遠くからなにやら重なった掛け声の聞こえてくる六課隊舎前の公園。
 
やはり敷かれているのは白いマット、やはりやってくるのは白い全身タイツの面々。
ただしその人数は──……三人。
 
「はい、ゲストの本格的な参戦は次回までのお楽しみです。期待していた視聴者の皆さん、ごめんなさい」
 
気にも留めない様子でにこやかに流すのも、やはり執務官制服姿のフェイトだった。
 
「あ、増えたんですね」
 
ようやく、振り向いて彼女たちの様子を眺めるフェイト。とっくに気付いていただろうに、白々しくも。
やー。掛け声と共に三人組が形作るのは組体操の扇。
 
シャマルが中心、スバルが右。そして。
 
「お疲れ様です、シスターシャッハ」
 
左側を固めているのは、短髪赤毛の、暴力修道女でした。
表情からするとけっこう、ノリノリのようである。
 
(今度こそほんとにつづく)
 
− − − −