月曜のマリみてイベントで
出す本なぞ。
『花冠のあとに』 A5/300円か200円(たぶんその場のノリと勢いで最終決定)
20ページほどのぺらい本です。一応小話が2本入ってます。分不相応にヴィヴィオの偉い人に表紙頼みました……いろいろと忙しい中ご迷惑をおかけしましたマジすんません梶川さんorz
裏表紙はいつもの人こといつくさんが気合はいったロザリオのイラスト描いてくれますた入稿前日にマジすまんorz
あ、あとちなみにうちお得意の挿絵なしの本です、活字をがんばって読んでください(酷
……さあ、ここ見てる人のうち果たして何人がうちのサークルにマリみて期待してるんだろうなー♪
……してねえだろうなーorz(ぉ
閑話休題。(閑話かよ
んでもってティアナとディードの話放り投げて今日は更新終わりっ!!
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そこにいたのは、いまどき珍しいステレオタイプな二人組だった。
要はいわゆる、軟派な男たち。ドリンクを買いに行ったまま戻りの遅いディードを探しに出てみれば、ジュースをなみなみと湛えた紙コップを両手にした彼女の前に、茶髪にピアスというそういった男たちが立ちふさがって引き止めている。
「ディード」
「ティアナ姉さま」
男たちのかけてくるマシンガンのような口説き文句に、特に反応を見せるわけでもなくきょとんとしたままディードは立っていた。状況自体がよく、飲み込めていないという感じに。
無論、未だ俗世のことに疎い彼女だからしかたがない。だがこういう手合いは無視してとっとと立ち去るに限る。横から強引に割って入って、左右のうちから片手のカップをひったくるがごとく奪い取って、そのまま彼女のその手を引いていく。
「あの、ティアナ姉さま? いいんでしょうか。まだお話の途中のようでしたし……」
「いいのいいの、ああいう連中はほっとくのが一番」
ずかずかと、元来た道筋を大股気味に歩いていく。後方から聞こえてくる男たちの抗議の声なんて、気にしない。
まっすぐに見据える先に、同行者たち──二人にとってはごくわずかな期間とはいえクラスメイトとして接している少女たちと、世話になっている女性たち二人が密集している一角があった。
踏み出す一歩のたびに、肩からひっかけたパーカーの紐が揺れる。
歩みを繰り返すたびに、裸足の足裏がぺたぺたと濡れた床のタイルを叩く。
ティアナもディードも、身に着けているのは水着だった。
何の因果か、任務中のはずの二人は、プールにいた。
『双銃の弾道・双剣の軌跡〜ある執務官補佐の日誌から〜』
SideA. Chapter4 海鳴の日(4)
水面が、絶えず揺れている。──そこに、自分が映っている。
生まれて初めて着た、赤い水着姿の自分が。
上下が分割されたそれは、ビキニと呼ばれるものだそうだ。
「どうしたの? ディード」
「アリサさ……バニングス先生」
「似合ってるわよ、その赤い水着」
その隣に、短い金髪が映った。そしてそれは、像の本人が腰を下ろしプールへと沈めた両足の起こした波紋によって、水面に散る。
今日の主役は、横に座ってきた彼女と。プールサイドの白テーブルで椅子に腰掛け同行の女生徒たちと話し込んでいる白いカチューシャの女性。この二人が教育実習期間を終えるにあたってのお別れ会のようなもの。
市内のこのプールでの合同になったのは両者の担当クラスのクラス委員が姉妹であったという、そんなちょっとした偶然からである。……無論アリサとすずかが共に、担当した生徒たちからの人気が高く惜しまれつつの実習期間終了であったことが、この企画の発端として存在していることも忘れてはならないが。
水色と、青のツートンカラーの水着。跳ねて臍の上辺りに落ちた水滴を指先で払いながら、アリサは組んだ足の上下を入れ替える。
「任務だっけ? どう、順調?」
「……詳しいことは、ティアナ姉さまがまとめてますが。範囲は少しずつ絞られてきています」
「そっか。泳いだ?」
「……少し」
休日のプールは、温水完備のおかげかまだ春先にもかかわらず賑わっていた。どこに視界を移しても、人影の切れ間はない。
まるで、はじめて街中に出たときのようだとディードは思った。他の姉妹たちと同様、外の世界をまるでよく知らなかった自分とオットーもあのときは、驚かされ興味を惹かれることばかりだった。
「あとで、テラスのスペース借り切ってバーベキューやるらしいわよ。それまで、目いっぱい楽しんじゃいなさい」
「はい」
競争をしていた学友たちが、一息ついて水の上に顔をあげた。話しているこちらに気付いて、手を振ってくる。
二人、手を挙げて応じた。ディードは小さく、アリサは大きく。
ガラス張りの天窓から、快晴の日光が差していた。それが当たっている部分は、肌もタイルも暖かい。
一方で、水に沈めた両足には心地良い冷たさがプールの波打つたび、伝わってくる。
暖かさと冷たさ、どちらも素敵な実感であると、ディードには感じられた。
* * *
−同時刻・聖王教会、カリムの執務室にて−
二度、扉を叩いたノックの後に入室したヴェロッサの耳を打ったのは、切れ間なく続く経文のごとき、シャッハの小言の声だった。
「いいですか、セイン。あなたはたしかに今は社会勉強の一環として配置を希望した陸上本部に籍を置く身です。ですが本来はあくまでこの聖王教会の一員、すなわちもう少し自覚を──……」
『あー、はい。はい。わーかってます。わかってますって』
自分にもちょくちょく、向けられる矛先だ。モニターのむこうで辟易した顔を見せているセインの心境は、ヴェロッサにも嫌というほどわかる。
お小言。それは烈風一迅と並ぶ、シャッハの得意技。戦闘ではなく周囲に対して向けられる、受ける側としてはとってもはた迷惑な。
今は教会を離れているセインがこうやって通信の席で、後見人をつとめるシャッハからその弾幕を受けているという光景を見るのも、けっしてはじめてではない。
「なに? どうしたの、今日は」
モニター越しの喧々諤々のやりとりを横目に、彼女らの奥の執務机に座している姉・カリムへと耳打ちをするようにヴェロッサは訊ねる。
机上の書類へと目を通していた姉はヴェロッサに、肩を竦めてみせながら簡単に、かいつまんで状況を説明してくれた。
──曰く。
「いつものとおりよ。些細なことから傷口が広がって、その結果のシャッハのお説教タイム」
「なるほど」
納得、だ。
更生施設から出た後、セインとディード、そしてオットーの三人は聖王教会に身柄の保証を願い出た。
それぞれの道を、模索するに当たり。未来を、歩んでいくために。他の姉妹たちが、ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐の庇護を受けたように。
……尤も、余談ではあるがナカジマ三佐は彼女たち三人も含め全員を、自ら後見するつもりであったようだが。
さすがに、三等陸佐ひとりの権限では、未だ局上層部からの猜疑消えぬナンバーズたる彼女たち全員をひとところにまとめ置いておくのは不可能であったようだ。
ゆえに、セイン、オットー、ディード。三人が聖王教会の名のもとにカリムとシャッハによって庇護されることになる。
セインがシャッハに、残る二人がカリムの後見を受けて。
だがきちんと定期的に連絡を入れてくるオットーやディードと違い、不精しがちなセインは普段はあまりあちらから通信を送ってくることはない。
こちらを嫌っているとかそういうことではなく、わずかな期間ではあるが接してみた実感としては単に性分の問題だ。
当然、几帳面なシャッハとしては矯正したい部分であろう。
感覚的に近いものがあるヴェロッサとしては、セインの面倒がる気持ちもわからなくはないのだが。
生憎と、怖い怖い教育係に面と向かって言うとこちらになんやかやと飛び火しそうで恐ろしくてできるわけもない。
『あー、とにかく。こっちは順調だから。シスター・シャッハも騎士カリムも、んじゃね』
「あ、セイン!! まだわたしの話は……」
そして、こうやってうんざりしたセインが一方的に通信を切るというのもお約束。
──ヴェロッサ自身も、よく使う手だ。
「まったく……もう」
両手を腰に当て、大げさにシャッハはため息をついた。
この前は、ディードが通信を入れてきていたっけ。本局にてはやての仕事を手伝っているオットーといい、三人とも順調に、日常生活を送っているようだ。
喜ばしいことだと、ヴェロッサは思う。
思いながら、姉に書類を渡しとっとと退散することにした。
シャッハの矛先が、こちらに向く前に。
* * *
そして、日常といえば。
「……」
時空管理局の提督職、しかも艦船に座乗する立場ともなれば、とにかく忙しい。仕事に忙殺される日々というものが常である。
特に有能であれば、有能であるほどに。仕事をいくらさばこうともまた次のものを求められ、解決を要求される。それが相応の立場に立つ人間の苦労というものだ。
そう、それが当たり前なのだ。その点でいくと今の自分のこの状況は、こころなしか落ち着かない気分になってしまうというのも、おそらくは無理もないこと。
「フェイト執務官」
「なあに、『お兄ちゃん』」
「う」
音量を小さく絞った、テレビの前。ソファに腰を下ろした自分の左右の膝にはそれぞれ、己が血を分けた息子と娘が頭を預け寝息を聞かせている。
エイミィは、いない。クロノの母・リンディとともに人数の多い夕飯に備え買い物に出かけている。他にいるのは少し離れたテーブルで雑誌をぱらぱらとめくりながらお茶しているフェイトとシャーリーのみ。
二人とも、くつろいだ。ゆったりとした部屋着姿だ。昔のエイミィほどではないがシャーリーもよくこの家を利用しているから、備え置きの衣服には事欠かない。
「……執務官?」
「だから、なあに。『お・に・い・ちゃ・ん』」
そこにあるのは、提督としてのクロノの日常ではない。どちらかといえば、フェイトが強調して言うとおり、ハラオウン家におけるクロノの日常。……めったにない休日の、という限定符がつくけれど。
「そろそろ艦に戻って仕事をしたいんだが……」
「だーめ。たまにはエイミィや子供たちに家族サービスしてください、お兄ちゃんは」
その休日を、仕事を残してきたまま半強制的に謳歌させられているものだから落ち着かないったらない。
ティアナとディードが海鳴に任務でやってきているのをいいことに、クルーたちと共謀したフェイトやシャーリーに、完全にいっぱい食わされた形だ。
最低限、クラウディアはクルーを艦へと残し。かつてアースラがそうであったように、地球付近の次元空間内に待機している。
我が家のポートから直通で五分。これではいざというときに動けないなどといういいわけも通用しない。
「そうは言うがな……。大体フェイト、お前自身も捜査中じゃなかったのか」
「こっちも現地に滞在してる調査員の報告待ちだもん。なにか進展がない限りは手持ち無沙汰なんです」
「余った時間は有効に利用しないと、ですし。後輩を見守ったり、とか」
仕事中毒。要約すればばっさりとその一言でフェイトには切って捨てられる。
反論も女二人を相手では口の軽いほうでないクロノでは勝ち目はない。
「でもいままでの報告資料みるかぎりだと、二人ともよくやってくれてますよ」
「というわけで、私とシャーリーは二人が帰ってくるまでは」
のんびり、休憩中。いえーい。
右手と右手をそう言いながら、軽くハイタッチさせる妹とその副官の少女の肩の力の抜けようは、あまりにクロノとは対照的だった。
* * *
「ジャングル……プール……?」
この世界の文字は、もう殆ど──少なくとも、この地域で使われているものに関しては、愛機に組み込まれた翻訳装置よりの補助も交えれば不自由のない程度には把握している。
薄桃のパーカーに、オレンジと白のツートンカラーの水着のティアナも。隣でゲートの看板を見上げ、呟くように読み上げたディードも。
できたばかりの新設のアトラクションに行こう、と級友たちに誘われ。その入り口に二人、佇む。
目の前には欝蒼とした南国のごとき木々の群れ。おそらくはスピーカーから流しているのだろう、甲高い鳥たちの鳴き声まで聞こえてくる。
意外とよくできてるね、なんて言い合っている友人たちのあとについて、歩いていく。
きょろきょろと、興味深げに周囲を見回すディードとは対照的に、ティアナはいささかローテンションに。
「ずいぶん、興味津々なのね」
「あ……はい。つくりものの再現とはいえ……こういうところを見るのは、はじめてですし」
「それもそっか」
その差も、あったということか。
流れるプールを前に、ティアナは思う。
どうやらこのプールは空気の入ったゴム製のフロート板をボート代わりに、川下りの要領で森を抜けていくというものらしい。
さっさと、知人たちは先に乗っていってしまった。
このまま、無視して引き返してしまおうかとも思った。一応任務中の身であるティアナとしてはあまりこういう遊びごとにかまけていたくはない。
が。
「ティアナ姉さま?」
「──いや、なんでもない。行く……乗るんでしょ?」
はじめてだらけの体験に向けられ、自分へも時折移されてくるディードの純真そのものの視線が、痛い。眩しい。
はたして自分はこんなに年下・後輩に対して甘かっただろうかと、思えるほどに。強く出られないティアナ・ランスターがいまここにいる。
「はい」
この、無垢な微笑に弱い。無邪気というのは、咎めたり押しとどめたりが非常にやりづらいから困る。
係員の示したゴムボートの上に乗って、結局川下り開始。
落ちそうなくらいに縁から身を乗り出して、相変わらずオーバーなリアクションはないものの、ディードは上を、右を、左を、前後を見回しては周囲の光景に視線を注いでいる。
「……はぁ。クロスミラージュ、一応周囲の魔力探知だけは怠らないようにね」
『All right』
つくりもののワニが、草むらのなかからにょっきりと顔を出している。
その鼻面に一発、軽く拳を入れてやると、小気味よく樹脂製のワニはしなり上下に揺れた。
「あ……亀」
そうしていたから、ティアナはディードがそう呟いたとき、見ていなかった。
彼女の、見ていたものを。
すべてのものがつくりものであるはずの、周囲に生い茂る人工ジャングルの中に不意に現れた人間以外いるわけのない動く生き物。
のそりと現れ、機敏に水の中へと消えた一匹の亀を、ティアナは見逃した。
(つづく)
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