リリマジ6

 
スペース番号 ち−25 サークル『R-640』
にてお待ちしています。
 
新刊は
 
・the lostencyclopedia 〜blades of blaze〜下巻 216ページ・百五十部/800円
 
となっております。表紙はこちら。描いてもらったのはおなじみいつくさん。挿絵はまのせさんにお願いしました。
 

 
上巻についても20部程度残部数がありますので、その他既刊の残りとともに持っていこうかと。
一次もコピー本で小部数もってこうかなぁ、とか。
んで、新刊・上巻については購入者の方に
 

 
こちらのコウセさんにイラストを描いていただいたブックカバーをお付けします。
 
そんな感じでよろしくおねがいしますー。
一番現段階で問題なのは本人がリリマジにいけるかどうか微妙になってきたとこなんですが。
 
んだば続きからカーテンコール最新話でっす。
↓↓↓↓
 
 
 
 
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 もう、殆ど霞んでいて。碌に両目は映像なんて映し出してはくれやしなかったけれど。
 それでも、わかった。
 
 覗きこんでいるのが、誰なのか。いたわるように白い燕尾の腰布を、いつも皮肉ばかりを叩く愛機を、自分の胸にそっと載せてくれるそれが誰であるのか
 妹の両腕の中に落着した衝撃による、まったくの偶然。ごくひとときの覚醒とはいえ、彼女の金色の瞳は、はっきりと自身の知覚に認識をさせてくれた。
 
「遅…ん…だよ……の、バカ……っ」
 ああ。その相手は、笑っている。ノーヴェへと、笑いかけてくれている。
「うん──……ほんと、そうだね──」
 その言葉を吐く自分自身に、苦笑しているように。それでいて妹に対する慈愛に満ちた眼差しで、微笑んでいる。
「情けないお姉ちゃんで、ごめん」
 
 やっと、やる気出たかよ。そう言おうとした憎まれ口は、もう声にならなかった。
 心が。深い、深い深層の奥から──安堵しきっていったから。その心地よさに抗えるほど、今のノーヴェは万全の状態ではなかったから。
 
 もう、自分の役目は終わった。もう、自分が守る必要なんてない。そう、はっきりと理解して。
 意識を埋め尽くしていく、嫌なものでないその真っ暗闇を受け入れた彼女は、口を動かすより先に再び眠りにつく。
 
 妹の、腕の中。二人の姉が、見下ろす中。──つまり。
 
「もう、大丈夫だから」
 
 発声した、スバルと。彼女同様に佇むギンガと。
 そう。守ろうとしていた存在たちに、今度は自分が守られて。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第二十六話 道、分かれて
 
 
「そのまま、われわれとともに来い──ディード」
 その場にあって、姉と呼ぶべき存在は、左右に並び立つ二人と、腕の中の一人だけではなくて。
「オットーもいずれ合流させる。これが最後だ……来い」
「──トーレ姉さま」
 
 向かい合う、その最後のもう一人が右手を差し伸べる。
 あの、軌道拘置所の置かれたあの世界で。急襲による墜落の直後、そうしたときと同じように、ディードに対し姉はその掌を見せている。
 
「それは……できません」
 
 そうして提示された行動が同じであるならば、返す答えもまた然りだった。
 異なる点、それはただ──その理由を伝えること。自分の行けぬその根本を言葉にするということ、そこに集約される。
「わたしのかけがえのないものは、もう。オットーや姉さまがただけではないから」
 だから。
 
「だから……行けません。行くわけには、いきません」
 
 拒絶の言葉は、自分でも驚くほどまっすぐに、思惟の方向に向かい流れ出ていった。
 
 自分にとって大切なのはオットーだけでも、姉妹たちだけでもない。
 スバルやギンガといった新しい姉たちや。
 よくしてくれる、ティアナやフェイトといった年上の面々。
 身柄を保証することを望んでくれた騎士カリムをはじめとする、聖王教会の人々。
 今、姉が通そうとしている我は、自分が大切に思い自分をこれまで大切にしてくれてきたそれらをすべて、へし折っていくことだから。
 そのようなことは、できない。ディードの意志は、そう思えた。だからこそ、拒絶が生まれた。
 
「寧ろわたしは──トーレ姉さまたちを止めたい。そう、思います」
「……そうか」
 
 ディードの声が、姉の手を下げさせる。
 それが、選択。これが正しいのかどうかもわからない、自分の選択だけれど。多分、人と人との中で生きる道を選んだ他の姉妹たちも同じ結論を出すはずだろう。根拠もなく、理由もなく。そう意識できる自分もまた、そこにいる。
 
 なによりも三番目の姉と、自分。双方の立ち位置だけははっきりする。互いは、敵対するもの同士となった。それが、確定した。
 
「ならば、もうよそう」
 その、居場所の相違を、ではない。
「お前も、ノーヴェも。無論お前たちと意志をともにするほかの妹たちについても、だ。もう──姉妹として接しようとするのは、よそう」
「──っ……!!」
 同じたろうとする、その行為に見切りをつける。
 意を語にして紡いだ姉の声が表すものは、心の準備はあったとはいえ、たったいま拒絶した瞬間にある程度予測できたものとはいえやはり重くて。
「トーレ、姉さま……っ」
 
 しっかりと見返していた視線が、相手の姿にあわせていられなかった。
 もう一人、姉を拒んだ赤毛の姉の、腕の中に眠るその顔に両目の彷徨う先を落とす。
 選択の結果に生じる責任がどこまでも自分自身のものでしかないとわかっていながらも、助けを求めるように。
 
「そうね。もう、指一本触れさせない。ノーヴェにも、ディードにも。もちろん、他のみんなにも」
 
 そして、その助けは──すぐそばに、あった。
 
「む」
「ギンガ姉さま……スバル姉さま」
 並び立つ二人が、ディードとその腕の中のノーヴェを庇うように前に出ていた。
 タイプゼロの、姉妹。いや、ナカジマ家の長女と四女。ギンガと、スバルが。
「どうしてもって言うなら。そのときは、あたしたちが相手になる」
 
*   *   *
 
「私たちを、連れ去りにきたんでしょう? どうしますか? このまま、一戦交えてもこちらは一向にかまわないけれど」
 
 ギンガがそう言って投げるのは、挑発。
 落ち着いた彼女らしくもない、駆け引きでもなんでもなく実行に移されたそれは、憤りを覚えているからこその行為。妹を傷つけた、自分とは違う立場の『姉』に対して。
 感情は、スバルも同じく。その立場の差異こそあれ『姉』という同じ記号を持ちながらもノーヴェへと害なした眼前の相手へと、戦意に満ちた視線を向けていく。
 
 二人、等しく。同じ姉だからこそ、トーレと拳を交える気力は、溢れんばかりに漲っている。
 
「No.3──トーレ」
「!! ……聖王陛下」
 その意思を向けられた側は更に──己が主たるべき王の言葉によって挟まれる。
 臣下を制した王は言葉ののちに、一歩進み、二歩進み。やがて戦闘機人と並び、目線の先にナカジマ姉妹を収める。
「聖王……!!」
「ええ、ノア・セドリックと申します。継承にあたり、苗字は捨てましたが……ね」
 
 自分たちよりも遥かに小柄な、それこそヴィヴィオともさして変わらぬ程度の身長。そこに、威圧感を王は纏っている。
 ゆりかごが既に彼女の手によって動いているということは、その体内にはおそらくレリックが。それゆえのなせる業か──はたまた王の血脈自体の持つ威厳によるものか。
 それは、わからない。ただ、流れた冷や汗、緊張感による汗がトーレ一人と相対していたときには存在していなかったにもかかわらず肌に浮いたのは確かであり。
 
 少女王の言葉に、緊張は驚愕へと変わる。
 あの宣戦布告同然の、裏切りの魔導師が行った演説の中でノアの名は聞いていた。そして彼がその聖王たるノアを補佐すべき財団理事の家系であることも、捜査によって明らかにされている。しかし。
 
「セドリック……だって……?」
「はい。かつての兄がお世話になったようで。代わりにお礼を申し上げます」
 
 マイア・セドリック。
 ノア・セドリック。
 
 ──まさか、兄妹であったとは。
 
「だったら、これは……この事件はあなたのお兄さんが……?」
「いいえ。わたしの。王たる者の意志です」
 
 状況が、よく飲み込めない。スバルも、ギンガも。
 こんな小さな少女が自らの意志で、このような事態を引き起こしたというのか。
 自ら望んで。あのエースオブエースをその手にかけたのか。
 
 彼女を操作しようとする者──すなわち、真っ先に疑ったその兄の介在は真っ先に、少女自身の口から否定される。
 
「どうして、なんて問いは無意味です。これは聖王として、その血脈を代々守り復権を望んできた一族に生まれたわたしの、その宿縁とでもいうべきものなのですから」
「そんな……っ!!」
 彼女を動かすのは、聖王家の悲願。追放された者たちの、宿願。
「あなたたち二人が戦闘機人として生を受けたのも。すべては先代当主がその悲願に従ったがうえでのこと」
 自分の望みと一族の願いがイコールであると、彼女はアピールを続ける。
「そんな……あなたはそれでいいの……? 戦ったり、祀り上げられたり。そんなのとは違う普通の子のような生活がしたいとは、思わないの……?」
 それに対するギンガの言葉も、疑問も。生じて当然のもの。けれど。
「わたし一人と、一族の悠久なる月日の比較です。どちらが重いかなど、言うまでもないはずでは?」
 
 少女は揺らがない。
 あくまでも絶対の価値観を、貫き通す。それは強固で、ひびひとつ入らないようでいて。
 
「──ほんとう、に……?」
 それでいて同時に、スバルにはあまりにも生気のない、悲しいことを少女が行っているように思えた。
「ほんとうにそれは、ほんとうにあなたの意志なの……?」
 
 その行動や思考がほんとうに少女からの自発によるものであるとは、到底思えなかった。
 彼女の、『望み』ではなく。彼女の『我慢』の上に成り立つ……そういうものなのではないかと。ただ割り切ってしまっている。それだけなのではないかと、漠然と感じたのだ。
 
 その、感じた想いを乗せて。スバルは『彼女』へと向けていた両目をその『双眸』へとさらに注ぎ集中させる。
 逸らさず。離さず。射抜き見つめ、現代に生きる聖王、その少女に少しでも想いが届くように。
 
「スバル……」
「タイプ・ゼロセカンド。あなたは戦闘機人として──」
「ちがう。あたしは人間として生きてる。身体がたとえ、戦闘機人でも。妹たちだって、ギン姉たちだってそう。もう一人の聖王、ヴィヴィオも」
 タイプゼロ、ではない。自分は、『スバル』だ。その意は相手にゆるぎないものがあったように、スバルにとってのゆるぎのない認識。
 戦うために、そのためだけに創られ生まれても。今生きている自分は、人間だから。
 
「あなたは、どうなの。あたしたちを生み出した聖王──ううん、『ノア』」
「っ」
 
 一瞬。ほんの一瞬、少女の顔色がはじめて、変わったような気がした。
 
「わたしは──聖王です」
 
 声の色合いも、違っていた。だからひょっとすると、と思えた。
 多分、その横槍さえ、なければ。万が一という事態は、引き起こせたかもしれないのだ。
『はあい。盛り上がってるところ悪いけれど、聖王さまもトーレ姉さまも、お時間ですよぉ』
「「「「「!!」」」」」
『ガジェットちゃんたち、壊滅しちゃいましたぁ。作戦、しっぱいー。だ・か・ら。続きはまた、今度。エースさんの見ている目の前でやってあげたら、いかがですぅ?』
 
 ナンバーズが、No.4。クアットロの声が場の一同の耳を打つ。
 直後、直撃を狙ったものでない砲弾の雨がスバルたちと聖王の間の空間に降り注ぐ。
 立ち込める砂塵、白い煙。広がる、高濃度のジャミング。
 
「トーレ姉さまっ!!」
 
 ディードの呼び声は、その先に吸い込まれていくばかり。
 晴れるまでの時間は長く、それが戦闘機人と聖王の離脱がための支援として行われたことはあまりにも明白だった。
 結果としてその先に誰ももう──いなかったのだから。
 
「ディード」
 スバルは、屈めた自分の胸に抱き寄せた妹の……たとえ戸籍上も、血の繋がりもなくともそう認識する少女の黒髪をそっと押し当てる。
 鼓動を、直に聞かせるように。人としての、生の脈を。
 そして、立ち上がることを促す。皆が、待っている。彼女の腕の中で、ノーヴェが皆のもとでの治療を待っている。
「戻ろう」
 
 再び、戦えるように。
 自分たちの選択を、押し通せるように。
 彼女らを、止められるように。
 
 
(つづく)
 
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