一次のね。

なんでしばらく就活の息抜きもかねて二次中心になるとおもいます。
てなわけでカーテンコール更新ー。
低テンションで進みの遅い展開が続いてますがたぶん次回くらいまで。次々回くらいからまた戦闘に入っていくとおもいまふ。
 
てなわけでどうぞー。こちらが前回分。
 
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 手はずは、完璧だった。
 
 男はそれに従い、はやる足取りを押さえつつゆっくりと、目的の場へと歩を進めていく。
 時はきたれり。『財団』からそのように通達を受け、忍ぶ日々はこれで終わる。
 露見など、していないはず。ゆえにその歩みは確固としていてそれでいて、ゆるぎない。
 この教会──そう、男にとっては大層な名前など関係ない、それで十分──において、男はさして気に留める者もいない、一介の修道士にして騎士。その行動が事の推移を妨げるようなきっかけに、なるわけがないのだから。
 絶対の信頼は、うだつのあがらぬ一聖職者だった彼の前にさげられた餌ゆえに。そのかぐわしき魅力に彼は心奪われ、指示のとおりに動いていく。
 裏切り者。その彼の立場を正確に表現した烙印など、毛頭意識の範疇の外に置いて。
 聖王教会──そう名乗る、本来の彼の所属すべき組織が否認した、『聖王』の勢力の下へと、向かうのだ。
 決起するため。さすれば、地位が約束されているからこそ。同じように起つ者たちが集い待つその場までは、あと扉一枚を残すばかりだった。
 
 ──だから、その直後ということになる。
 
 彼と同じく見返りによってそうした者。あるいははじめから「あちら側」であり、狂信の徒、その一員ゆえの草として潜んでいた者。
 それらが「待っている場」ではなく、「待っているはずだった場」であることを、彼が思い知らされたのは。
 
「また、一人ですか」
 思い知らされて──彼の意識は、そこで終了した。再び目覚めたそこがおそらくは司法の手による牢獄の中であろうことも、想像する間もなく。
 彼から、ではなく。彼を誘った側。その一員から引き出された情報が、そうさせた。
「予想より、多い」
 男を打ち倒し昏倒させた煌きは、ふた筋。ヴィンデルシャフトのその輝きを左右の手に、シャッハ・ヌエラが息をついていた。
「けれど、烏合の衆。狂信者たちも、妄信ゆえに不測の事態には対応できないようです」
 男と同じ末路を辿った者たちは、その彼女の背後で。折り重なるようにして、意識を奪われ拘束されている。
「ロッサのレアスキルに──感謝せねばなりませんね」
 情報の漏洩ではなく、摘出。そこからの、操作。ゆえにその者たちは縮離の双刀騎士により一人一人、撃破され拘束されたのである。
 古代ベルカの騎士にも比肩するその二刀ならば、一対一の奇襲などいくら繰り返そうとも、敗北の二文字を迎える可能性があろうはずもない。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第二十九話 姉妹と、家族と。──自分と。
 
 
「ノーヴェっ」
 艦内の訓練場は、これから間もなくの任務を控えているためもあってか、寄りつく者もほとんどいなくて、がらんとしていて。
 考えをまとめるには、ちょうどいいと思った。
 
 だから、いたのだ。一人で。
 そんな風に気安く話しかけてくる姉が、肩をたたくまでは。
「……ティアナ、ディード。ウェンディも? それに」
「はーい、やさしくて美人なお姉ちゃんでーす」
「……あー、はいはい」
 叩いて、呼びかけて。そのまま馴れ馴れしく後ろから抱きついてくる。
「怪我はもう、いいのね?」
 いつものことなので、流す。代わりに、問いを投げかけてくるティアナへと目を向ける。
「ああ、こんなのなんでもねーよ」
「あんたと、ウェンディとディード。あたしと戦ったときと同じメンバーだけど、あたしのときなんかと同じように構えてたら……」
「わかってるよ。誰の姉貴だと思ってんだ、戦う相手のこと」
 それもそうね。肩を竦めるティアナ。実際、嫌というほど相手の強大さは理解している──ノーヴェも。理解しているだろう、無論ウェンディやディードだって。
 頬の絆創膏に手をやる。特にノーヴェの場合には今現在の彼我の実力差を、身を以って教え刻み込まれたのだから。
 
「ディードも、ウェンディも──いいんだな?」
「うッス」
「……姉さま方は、私たちが止めないと」
 下の姉妹たちに確認をとる自分の姿が、後ろからスバルに抱きすくめられたままというのがいささか締まらないのは自覚済みではあるけれど。
 答えに、関係はない。妹二人はそれぞれの言葉で、頷いた。
 その末妹の言葉が──背中からの、姉の言葉を誘発する。
 
「止める、か」
「あん? なんだよ」
「いや、ううん。なんでもない。そうだね、止めないと──、ね」
「?」
『目的座標に到達。別命あるまでランバルト、次元航行空間内部にて停止』
 
 ノーヴェには、言葉を濁し誤魔化した姉の思考が読み取れなかった。
 それはごく一瞬のことであったから、無理もなからぬこと。
 ゆりかごのことでもなく、囚われの身となった師のことでもなく。その一瞬、スバルの瞳が揺らいだそこにあった感情、それの向かった先。
 ごく僅か、おぼろげにでも読み取れたのは付き合いの長い、彼女自身やはりそれらどちらでもなく、兄の死にかかわりのあるといわれる男へと意識をひととき遊ばせていた、ティアナだけだったかもしれない。
 
 彼女の意識には、彼女自身の造物主ともいうべき相手──正確にはその先代である敵の首魁ではあるが──すなわち、少女の姿があった。
 よく知る幼子に似通った容姿の黒髪。きちんと相対したのはたった一度きりの、師を騙し討ちの罠にかけた、忌むべき敵であるはずの聖なる王。
 姉妹たちにも気付かれぬままに、スバルはなぜだろう、その姿を思い浮かべていたのだ。
 
 彼女を、止める。自分たちがやろうとしている、その行動を思い起こすとともに。
 
*   *   *
 
 本来ならば、男は少女にとって、兄であるはずだった。
 たしかに、血は繋がっている。間違いなく繋がっているはずなのだ。だが、今はもう兄と妹として接することはない。
 けっして。
 同じである血が、それでいて異なっていたがために二人の立場を違えたから。
「お戯れは、過ぎませぬように」
「……」
 
 聖王の、鎧。
 カイゼル・ファルベ。
 
 兄に、聖王分家の血は、それらの力を与えてくれなかった。彼にそれらはけっして発現することはなかった。だから──ノアが継いだ。家督を。
 いつかくる、奪還の時。それまでをまとめあげる、聖王の嫡子としての立場を。継げなかった兄は、彼女の臣下となり、時空管理局へとその身を潜めた。
 血の繋がりがありながら、自分たちはもはや遠く離れきってしまっている。
 兄妹として。家族として。
「ええ。わかっていますよ、『マイア』」
 たしかな血縁がありながら、こんなにも。
「決戦をすべき相手たちのことを頭に入れておいて、損はないでしょう?」
 彼女のとった行動は。兄であり臣下である男の手にあるプリンタ用紙の束は、そんな思いゆえのもので。
「タイプゼロの二体に、ジェイル・スカリエッティが生み出せしナンバーズが七体。それに──まがいものの、造られし聖王」
 すぐ脇に浮かぶモニターに目をやった彼女の、衝動がそうさせた。
 たった一度向き合った戦闘機人の、双眸の記憶が。
 自らが姦計のもとへと追い込んだエースオブエースの語った、もうひとりの聖王についての形容が。
「そうですか。ならば、それでいいでしょう」
 
 ──それらが、疑問を生んだのだ。
 
“何故彼女たちは血の繋がりもない、ただの人間ですらないにもかかわらず『姉妹』としていられるのか”
“何故血の繋がりもなく、聖王でありながら。ただの人間でありながら。ごく普通の家族たりえる者たちが、存在できるのだろう”
 
 そんな。折り重なった答えの出ぬ問いが、さらに衝動へと繋がり。そこから行動に発展した。
 データの検索も。それらを読み取ることも。彼女の立場と、年齢不相応なほどの理解能力からすれば容易だった。
 だが同時に、『家族』や『兄妹』としての経験が希薄な彼女にそれを完全に噛み砕くことは、まるきり容易ならざることでもあった。
 
 わからない。──ほんとうに、わからない。彼女らが、家族や姉妹でいられるその理由と、意味とが。
 
「そうそう、ひとつお伝えせねばならぬことがあります」
「……どうぞ」
「教会に潜入させていた『草』たちは──失敗したようです。いかがなさいますか? 陛下」
「……っ」
 沈黙はだから、予定に生じたわずかな狂いへの歯噛みではなく、男から自分へのその呼びかけに対してのもの。
 無論、その立場があるからこそ彼女は沈黙の間に踏みとどまってはいられない。紡ぐべき言葉を、次に喉の奥から用意しなくてはならない。
 追放されし聖王家、その積年の悲願がため。
 聖王たる、己のため。
 自らが存在したおかげで頭首たりえず、兄としての矜持すら与えられなかった、男のために。
「想定は、していたはずです。内からの掌握が無理ならば、当初の予定通りに事を運ぶだけのこと」
武力行使……よろしいですね?」
「……ええ。絡め手なしの正攻法。こちらの奇襲という点以外はある意味、戦の王道といえましょう」
「御意に」
 男は、去っていく。ノアは、玉座よりそれを見送る。
 このゆりかごを得て、いったい何度あった光景だろうか。遠く、遠く。物理的距離よりも遠く、両者の間にある幅は遠く。
 
 そこから目を逸らすように、少女は別のモニターを開き手元より操作する。
 彼女の目には、数時間前まで彼眼前に転がされていた相手が映る。
 高町なのは、と、少女はぽつりと呟いた。
 感慨が、あったわけではない。無造作に結界内へと捨て置かれていたそのエースが移送されたのは単純に、彼女と彼女が率いる軍勢にとって、必要であったからというだけのことに、他ならない。
 だが、ただ。彼女は不意に呟いてみた。
 機械に囲まれ、様々な計器へと接続され。引き裂かれた着衣もそのまま、ポッド内部に浮かされた、エースオブエースの姿に、だ。
 高町なのはを、その直上にある玉座の間より眺め、幼き聖王はまた幾許かの思索に耽る。
 二年前のジェイル・スカリエッティたちにはなかったその要素はノアの軍勢にとってひとつの切り札でもあり、同時に──少なくとも、王にゆらぎを生み出したという点において──不確定かつ不安の要素でもあった。
 
*   *   *
 
 戦端はまだ、開かれてはいない。異端者と、体制側の者たちの間において。
 けれど、戦っている。なのはは、戦っている。
 ひとりで。ほかの誰とでもなく──かつての。幾人もの、自分自身を相手として。武器も、抵抗の術も与えられぬまま。
 何故そうなっているのか、一体どうしてそうせねばならぬのかすら、わかることもなく。
 
「ディバインバスター」
 それは、九歳の「なのは」だった。
「ディバインバスター」
 十歳。
「ディバインバスター」
 教導隊入りしたばかりの、十四歳も同様。
「「ディバインバスター」」
 スバルを助けた十五歳。ヴィヴィオと戦ったそのとき、彼女の姿としてあった十九歳の「なのは」も無論、そこにいる。
 そして、それらすべての「なのは」を指揮し、なのはへと砲口を向けるのもまた──然り。
 
「ぐ……う……っ」
 チェーンバインドが。フープバインドが。レストリクトロックが、「なのは」の持ち得るすべての拘束魔法という拘束魔法の類が、狙い定められたなのはの全身を、傷だらけの地肌すら漏れ見えぬほどの数と量を以って締め縛り上げている。
「どう……して……っ」
 その状態で、なのはにできること。それは唯一、言葉を投げかけぶつけていくということだけ。
 彼女ら、すべての「なのは」を従え。彼女ら「なのは」自身をまさしく自分自身のごとく統率する、小柄なやはり「なのは」へと。ぎりぎりと音を立てんばかりに締め付けるバインドに、苦悶の表情を隠せず。辛うじて見開いた両目を、そちらに注ぐばかり。
 
「ディバインバスター」
 一体何機あるのだろう、バスターモードのレイジングハートの先端が輝く。
「わたしはあなたを。「わたし」を、許さない」
 言い放った「なのは」は、十一歳。
 他の「なのは」たちとは、違う。
 その、姿が。
 殺到する砲撃の中にあってなのはの瞳には、その傷ついた様相がただ、強く映し出される。
 痛みと熱さとが、感覚を押し流す。爆風が、桜色の砲撃が、なのはをありとあらゆる方向から包み、灼熱のうちに閉じ込め焼いていく。
 
 しかし『あの事故のときのなのは』は、それでもまだ、満足しない。表情を、変えようともしない。
 ただ、噴流の中に晒されるなのはを、見下ろし続ける。そして、痛めつけ続ける。
 
(つづく)
 
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