今回は

 
クリスマとカブトのライダーキック想像しながら読んでみたらおもしろいかもしれない。
あとうちの過去作読んでるとちょっと「おっ」となるかもしんない。
あと某チャティさんとこの子がカメオ出演してるかもしれない。
 
続きを読むからどうぞ。
 
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  着地する。──お互い、クリーンヒットではない。
 あちらの拳が掠めていったバリアジャケットの袖が解れ、素肌が露になる。それと同時に愛機の車輪が大地を踏みしめる。
リボルバー……っ!!」
 瞬間に、次の手を準備する。
 先の、先のための動きを講じる。戦闘におけるそれは鉄則。
 頭上には、追撃の踵落とし。詠唱は中断させず、術式は保持したまま。迎撃するのは右足。胴回しで身体ごと浴びせていく、縦回転の回し蹴りを垂直に落とされるその打点に重ね、交差させる。
 ──ここだ。互いが弾かれたそのタイミングの、毛筋ほどの隙。身体の上下が逆転しながら、スバルは撃ち放つ。
「シュートっ!!」
 相手の顎を狙いすまし。圧縮された気圧の弾丸を発射する。
レイジングハート!!」
『Braster1』
 それがまた、必殺のタイミングであれ撃ち落されることはある程度予測した上で。
 刹那、協力者として右腕に宿る師の愛機へ、合図する。即座に、彼女は応じる。
 全身に疲労感が襲い来るのは、神経細胞の感知できる最速において。遅れてやってくる、肉体の奥底からの爆発的な魔力の萌芽。それこそ、その力を与えられ内包する羽目となった機械の身体そのものが、悲鳴をあげるほどに。
向き合う相手の持つ『聖王の鎧』、そう呼ばれる防御機構により魔力弾は減衰し、いとも容易く手刀に弾き霧散される。だがおかげで──ガードが空いた。
 ……一発。まず、先制を一発、入れる。
 左腕一本での着地。さらにそのバネのみでの、跳躍。戦闘機人ゆえの頑丈さと、ブラスターシステムによって無理矢理高めた身体能力で、強引にそれを可能とする。──片腕で、スバルは上昇のための揚力を得る。
 ──ほんとうは、ノーヴェのために考えていたんだけれど。これ以上ない相手だ、ちょうどいい。試す。
 打ち出すのは、膝。破壊力を増すための円運動で、狙うのは顔面。
リボルバー……スパイクぅッ!!」
 固いニーガードに覆われたそこを、相手の顔にたたきこむ。
 入った──明確にそれとわかる手ごたえが、骨にまで響いてくる。
「う、おりゃあああああぁぁっ!!」
 振り切る。膝を。それを動かす腰から、全力を以って。
 敵が。聖王を名乗るその少女は吹っ飛んでいく。体勢を崩しながら、僅かな鮮血を散らしながら。
「っ」
 生憎、壁までは飛ばせなかったけれど。数メートルで踏みとどまったその顔に痣と、唇の端より流れ落ちる血を一筋、刻み込む。ダメージはなくとも、直撃を入れた。そこが重要。
 あの、『聖王』に、クリーンヒットを浴びせられた。それは自分だって、戦える。つまりはそのことの証左なのだから。
「──効いてないか」
「無論です」
 自分のためでない技ならば所詮、そんなもの。双方、構えなおす。
「少々、侮っていたようです」
「……だろうね」
 まだ、ここまでのところは。スバルも、戦えている。
 師が身を削ってまでの死闘を繰り広げたヴィヴィオと、同じ存在と。
 師を打ち倒し、手段はどうあれ虜囚としたその相手と。
 戦闘機人という強靭な肉体に、感謝せねばならない。おかげでその部分だけは、師を上回れる。第一段階であれば少なくとも、ブラスターのダメージを殆ど気にせず、自分は戦える。ペース配分、それだけでいい。
 かくなる、上は。
「これなら。『使っても』問題なさそうです」
「奇遇だね。あたしにもあるよ、そういうの」
 いわゆる、隠し玉。
「……戦闘機人モード。レイジングハート、マッハキャリバー。制御しにくくなるけど、気をつけて」
 視界が、微かな色を帯びていく。
 黄金色に染まった双眸でスバルは、そのうちに捉えた聖王・ノアをまっすぐに見据えていた。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第三十七話 不屈と、勇気と
 
 
 スコープの先に、深紅の輝きが燃え上がる。
 砲撃の最中、ディエチはそれを捉え、そして理解する──……その光が、妹のものであること。彼女の最後の、切り札であるということを。
「使ったのか……ノーヴェ」
 カノンの照準の向こう側に、見える。
 三番目の姉と対峙し、そうやって輝きを放つ妹の姿が。
 あれは、魔力の光。そして、エネルギーの煌き。
 事前に、その機能をサイクロンキャリバーに追加したと。起動と使用のタイミングには細心の注意を払うようノーヴェが告げられるその席に、ディエチもともにあったから。その正体がわかる。
「『クリムゾンビート』……体内魔力限定の自己ブースト、魔力圧縮技術……っ」
 見つめながらも、砲撃の手は休めない。見つめても、見とれない。
 アレをノーヴェが使ったということは、姉の力が彼女たちの限界を遥かに超えて強大であったということ。
 追い詰められている。──追い込まれている。その状況を、打開するために。
 そしてもうふたつ、影が立ち上がる。……ウェンディと、ディードと。二人の姿が、ふらつきながら。
「ごめんね、こんな遠いところから」
 砲撃しか出来ない。直接妹たちを助けてやれない、不甲斐ない姉で。
 ガジェットを薙ぎ払うだけ。間接的にしか、今のディエチに与えられた役目においては援護が出来ない。
「でも。……頼んだよ、三人とも」
 そんな自分にも、やはり切り札はある。それを効果的にするのは──まだ、先だ。
 
*   *   *
 
「はい、脱臼入った!! 治療終わり、次!! あとは痛み止めの治癒魔法でも自分でかけときなさい!!」
 ──無茶苦茶だなぁ。つい、そんな風にセインは思わずにはいられない。
 いや、だって。そりゃ関節はしっかり入って治ったかもしれないけれど。
 治療受けた隊員さん、のたうちまわってるよ? すっごくすっごく痛そうですよ? ……なんというか、相変わらず強引なことで。
「ほらそこ!! 手ぇ休めない!! あとつかえてるんだから!!」
「へーいへい。テンペストー、包帯」
『はいですー、セインねーさまー』
「あーもう、ナカジマ三佐とはやてちゃんの頼みだからってきてみたら……とてもじゃないけど、忙しいったらありゃしない!!」
 医療魔導師という、割合に珍しいカテゴリーの白衣の女性は、怪我人の並ぶ医務室をいったりきたり。その片隅で、車椅子のセインも打撲だとか火傷だとか、軽傷患者の手当てを小さなデバイス少女とともに手伝い、再び戦場に送り出す。
「あーほら、我慢する!! 男の子でしょーが!!」
 いや、だから。そりゃ消毒液を一瓶丸ごと傷口に直撃されちゃ誰だって悶えますって。でもなんだかんだで作業は的確。素早い。一時的に痛み苦しくとも、彼女の治療は結果的に隊員たちを立ち直らせている。その辺は、流石というか。あくまで素人の、猫の手でしかないセインの手当てとは質も速さも比べ物にならない。
『セインねーさま、次の方です』
「ああ、うん。どっち?」
 とと、いけない、いけない。悠長に今は、物思いに耽っている場合ではない。
 志願して自分は、ここにいるのだから。怪我をしていても、出来ることを。そう思い、望んだのだ。
「今行く」
 本来、妹の補助デバイスである赤毛の小さな少女を助手に。
 セインは次の患者に向かう。いざとなれば無論、怪我の身を押してでも──という思いは、心の奥底に、燻らせながら。
 今出来ることを、続ける。
 
*   *   *
 
 急激に消耗していく自分が、わかる。それは、代償。大きな力を得るための、支払いのようなもの。
「そりゃ、あんたには追いつけねえよっ!! アタシらの中で一番速かった、あんたのスピードには!! ……だけどなぁっ!!」
『Calibur storm』
 姉の攻撃を、捌ききるために。打ち返して、いくために。
 ノーヴェはそれを厭わない。
 愛機がそれを可能とするよう改造を施した張本人──マリーより、『簡易ブラスターである』と告げられた、その力を。
 使うか、どうするか。その判断は任せると云われ、ノーヴェは一も二もなく頷いていた。
 姉だって。スバルだって、使っているのだ。しかも本式の、正調として搭載されたそれを。
簡易版くらい、使えなくてどうする。自分はスバルの、妹なのだから。
強い敵対する姉に挑むには──そのくらいやれなくてはいけない。
「う、おりゃああああっ!!」
キャリバーショットの乱れ打ち──キャリバーストーム。その暴風は、光の刃をさばき、防ぎきるためのもの。
そこまでやってなお、これが精一杯。
「なるほどな、たしかに疾くなった!! だが──それでも私は超えられていないぞ、ノーヴェっ!!」
「るせえっ!!」
 魔力と。エネルギーと。体内の力の源が極限まで稼動しているのが自分自身、感じ取れる。
 すべての力を、圧縮し一気に搾り出す。脈動に乗せるように、全身にそれらを張り巡らせていき、爆発させる。『クリムゾン・ビート』、その名の由来はそこにある。
 ノーヴェの力。紅の魔力がゆえに。
 体内魔力のみであるがゆえ、けっして自分自身に無理をさせることはない。けれどそれは、確実に無茶ではある。
 呼吸を止めてどこまで走れるかという、一種のチキンレースにも似ているその威力は、けっして長時間持つものではない。
 だから。一分一秒無駄にしない。使い切る。
 与えられた任務は、ここを支えること。トーレを抑えること。けれど、それは叶わない。選んだ選択肢は守りではなく攻め、時間稼ぎでなく打ち倒すことだから。でなければ、待っているのは圧倒的なスピードによって放たれる強大な一撃一撃のいざなう、敗北の二文字しかないと悟ったから。
「うおおおおおぉぉっ!!」
 跳び蹴りと、ハイキックの交差──ノーヴェが上、トーレが下。
 クリムゾンビートにより上乗された破壊力が、双方の衝撃を互角にまで引き上げる。
 体勢を立て直すのは……足場のぶんだけトーレのほうが速い──……!!
「……っ!!」
 呼吸は、みっつ。大丈夫だ、これでいい──背面を向ける形で、不安定になった着地にも動じない。そのように自分に言い聞かせる。
 死神の鎌のごとく迫る、羽根刃の蹴撃を察知しながら。呼吸を、数える。
 ひとつめ。上昇することしきりの鼓動に、惑わされぬこと。
 一定の、たしかな挙動を外さぬこと。自分の力を、反撃の一打に淀みなくすべて、確実に伝えること。
「ディードっ!!」
「ノーヴェ……姉さまっ!!」
 ふたつめ。この、機会だ。この絶好のタイミングを、待っていたのだ。
 自分、ひとりのためでなく。三人の力で──姉を、打ち倒すために。
 だから、信じること。信じきり、任せなくてはいけない。
 割って入ってきた、長髪の妹を。彼女が交差させ必殺の一撃を受け止める、双剣の輝きを。
 彼女はきっと、耐え切る。そして。
「……っ!?」
 回避不能のその瞬間に、同じナカジマの姓を得た妹が軸足一本となった姉に、射撃を命中させることを。
「ウェン……ディ!! 貴様っ!!」
 こーでもしないと、当たらないッスからね。
 目を向けなくても、耳を傾けなくてもふらふらと彼女がそんな風に、勝ち誇った気がした。
 最後の──みっつめ。それは。
『Calibur slush』
 たたきこむ。そのひと言につきる。
「う……りゃあああああっ!!」
 ディード離脱と、ぴたり同じく。
 振り向きざまの回し蹴りを、クリーンヒットさせる。
 バランスを崩しガードもままならぬ、姉・トーレの顎へと。脳味噌を芯から揺さぶらんと、ただそれだけのために。
 かつて──ティアナが自分たちに勝利した際と、同じように。
 刃なんて、こちらには生えていない。
 足そのものをただ、刃とする。斬り裂く。
 ごきり、だろうか。もっと、生々しかっただろうか。たしかな感触が装備した愛機越しに、振り切った右足へと伝わってくる。
 まじまじと見ているひまなんてない。余裕なんてない。ただ──一瞬。焦点のあわぬ姉の瞳が、ちらと視界の隅に映っただけ。
 まだだ。まだこれでは──勝ったわけじゃない。ぐらつきながらもまだ、相手は立っている。
 あの日自分たちが負けたのと同じやり方で攻略できるほど、姉は甘くはないはずだ。
 ほぼ、一回転。たたきこんだ全力の回し蹴り、キャリバースラッシュは再びノーヴェの背中をトーレへと向けさせる。
「ウイング……ロードッ!!」
 彼女は、跳躍し。ゆりかごから再び、飛び立った。
「これで……終わりだ!! トーレ姉!!」
 そっくり、先刻投げられた言葉を返すように。
 喉の奥から声が自然溢れ出る。空に肉体を運ぶ道となった紅の魔力が、平面から形を変えていく。
 擬似ブラスターたるその力により、極限まで圧縮され、紅色を一層に濃く増しながら。螺旋を描いて。その先端は鋭い、切っ先と化して。
『Crimson break』
「う……らあああああぁぁっ!!」
 眼下に、蒼の髪持つ光速の姉が未だ、己が身体を支えていた。
 
*   *   *
 
「なにをそんなに驚いているのですか、タイプゼロ・セカンド」
 息をきっと、呑んでいた。
 他の誰でもなく、きっと自分は。
「使っても問題ない。そういった筈です。だから、使う」
 相対する、聖王が手に煌くその、黒い輝きに。
 吸い込まれそうな漆黒は、角一つない、球そのもの。淀みなく光を反射し──そこにある。
 まるで、それは。その色味だけを変えただけのように、瓜二つに。
 そうだ、まさしく。
 黒い。黒い──『レイジングハート』。
「ああ、そういえば。お前もそこにいるのでしたね、レイジングハート。記憶にありませんか? これを。似ていて、驚いているのですか?」
 聖王たる少女は、その漆黒石を指先に摘み持ち上げて見せる。
 そして。さも当然のように、言葉を重ねていく。
「当然でしょう。あなたは、これを元に開発されたのですから」
 それは、『彼女』の持ち主であるエースオブエース、スバルが師たる女性からすらも聞いたことのない事象のひとつひとつであるにもかかわらず。
 嘘偽りも、迷いもなにひとつ聞く側のスバルの耳にも感じられない。
「とある戦の褒章として。聖王家の庭師であった、スクライアの一族へと授けんがために」
 王は、宝石を握る。そして、発する。その起動コードとなるべき、一言一句を。
「──開発コード、“ダイム”。正式名称、『エバー・カレイジアス』。セット・アップ」
 黒い光が、輝いた。
 
 
(つづく)
 
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