最終話です。

 
 思えば随分長くなったものですが。
 第五十五話、最終話でございます。でわ、いってみよー……の前にweb拍手レス。
 
>次回で終わり。完結を喜ぶべきか惜しむべきか。嗚呼もどかしやもどかしや。
皆様のおかげでどうにか無事、完結することができました。感謝感謝。
 
>いつも楽しみに読ませてもらってます!最終話もがんばってください
ありがとうございますー。なのはさん、人生の一大イベントな最終話でございます。
 
>うーむ、ある意味予想通り、というかやはりディアボロ(ジョジョ第5部)のように現れよったか、マイアよ。ただ、この分じゃ、マイアが最後の最後にディアボロのように凄まじい目に会いかねん・・・
終わりのないのが終わり・・・ではないですが。最終話にたどりつきましたー。
 
 
 さて、それではいよいよ(ほんといよいよって感じに長かったですね、全55話って(汗))最終話、続きを読むからどうぞー。
 
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 わっと、泣き声があがった。──それが聞こえたのを彼女は耳にして、振り返った。
 視線を向けたそちらには、困り果て頬を掻く、数人ほどの小さな男の子たちと。
 その少年らに囲まれる、二、三人のやはり小さな、少女たち。
 泣き声が放たれているのは、その更に中心だった。
 一番、一番小さな女の子が、声を上げて泣いている。
 どうしたの、と保育士のひとりが寄っていった。少年少女たちは、中年女性のその保育士に、道を開けた。
 そこで泣いていたのは──一番、あとに入ってきた。ついこの間ここへとやってきたばかりの、長い黒髪の、小さな小さな、女の子だった。
 
 
魔法少女リリカルなのはstrikers 〜Curtain call〜
 
第五十五話 本当の笑顔、あふれる場所
 
 
 定期診断を受けた医務室から出ると、ノーヴェが、いた。
「おう」
「ノーヴェ?」
 少し、ぶっきらぼうに。
 あからさまに待っていたのがひと目で見てとれるにもかかわらず、こちらが首を傾げるとぷいとそっぽを向く。
 そして、先に立って歩き出す。
「……ふふっ」
 それがなんだか、ディエチには可笑しくて。
「なんだよ」
 こっちの台詞じゃない? それって。──余計、可笑しい。
 別に、と噛み殺しきれない苦笑を滲ませつつ、左右に首を振り。妹のあとについてディエチも歩き出す。
「……身体。どうだって?」
 そして不意に、前を向いたままノーヴェは言った。
「んー。もうほぼ、完治かな。検診も月イチでいいってさ。ま、あれからもう、半年近く経ってるし」
「そっか」
「どうしたのさ、今更」
 そう。──もう、半年前なのだ。あの、ゆりかごを巡る事件から。
 つまりディエチたち四人──ナカジマ家の姉妹四人がこの施設に戻されてからも、ほぼそのくらいということになる。
 ごめんなさい、と自分が悪いわけでもないのにしきりに謝っていたギンガの様子が、印象的だった。
「別に」
 仮出所状態だった自分たちが、こうやって施設の監視下へと戻されるのはある種、仕方のないことだと四人は四人とも、納得してはいた。
 二隻目のゆりかご、そして聖王教会におけるクーデター未遂。幸い阻止には成功したものの、またそこに自分たちが僅かばかりの助力ができたとはいえ──騒乱のその首謀グループにいたのは紛れもなく、ディエチたちの『姉』であったのだから。
 姉妹。そして、同じ戦闘機人。管理局上層部が四人を警戒するのも、無理のないことだと思う。
 乱に加わった三人の戦闘機人。独りは失われ、残る二人は再び監獄へと戻された。
「──あのさ」
「うん?」
 ふと、呼ばれディエチは我に返る。
 ノーヴェとディエチ。言うなればゆりかごを食い止める、その任務において四姉妹中で最も深いダメージを負った二人だった。
 お互い、あの闘いでは肉体をかなり酷使した。ディエチにいたっては戦闘機人としての骨格フレームから、限界を超えた出力の砲撃の反動で、修復が必要だったほどだ。
「今日。残念だったな、行けなくて」
「──え」
 両目の光学受像部も、やられて。両腕は固定されっぱなしだわ、光を直視せぬよう色眼鏡の着用は義務付けられるわで、不便極まりない数ヶ月を当初は送ったものだ。
 その意味では、この施設に戻されたこともあながち、ゆったりと療養するための期間としては悪くはなかったのかもしれない。
「せっかくのめでたい日なのにさ。たぶんアタシらの中では、ディエチが一番出席したかったはずだろ」
 ただ、少しだけ間に合わなかった。たしかにノーヴェの言葉の通りに、残念に思う気持ちもなくはない。
 だって、今日は。
「──そう、だね」
 一瞬、軽く驚いて。でも次には振り向かず歩き続けるノーヴェの後頭部に、笑みを向けて。
「でも、代わりにセインたちが出てくれてるから」
 姉を気遣えるくらいこの子も大人になったんだな、とむしろ、嬉しく思えた。
 きっとたった今ということじゃなく、あのゆりかごの中でもう、既に。
 ──あの、半年前。
 

 
 ノアの身体を、光が撃ち抜いていった。
 もう、戦えない。傷だらけだった、その小さな肉体を。
 血の繋がった他ならぬ兄が、それをやった。
 口角からぷつぷつと泡を漏らし、下卑た哂いを吐き出しながら。マイアという男は、やってのけたのだ。
「セドリック准尉……あんた……っ」
 ティアナが、銃口を向ける。なのはが這いより、血だまりをつくる少女を抱き上げる。
「さあ……そいつを、ノアを渡せェっ!! ……っ!?」
 そしてスバルは、睨みつけていた。
「……ひっ」
 ただその眼光で、男をたじろがせるほど、強く。
「あなたは……」
 睨みつけ、両膝に力を込める。
 飛び出したのは、その直後。
「あなたって、人はあああぁァっ!!」
 猛然と、突進する。
 黄金の輝きを瞳に、蒼き光を拳に宿らせて。怒りのまま、男へと向かっていく。ただ、そう。怒りに任せて。
 男は──マイアは、対抗などできようはずもなかった。
 足をもつれさせ転び、無様に地面を舐めて。
 ようやく立ち上がったところで、すぐそこにもう、スバルがあった。この人は。こいつだけは──……!!
「──やめとけよ。『姉貴』」
「っ!?」
 もう、拳が届くところにあった。あとは、振り下ろすだけ。そういったことすらきっとスバルは見境、なかったに違いない。
 師を陥れ。少女を問答無用に撃った男に対し。怒りのまま殴る、ただそれしかなかったはず。
「もったいねえよ。こんなのに、『おかーさん』の形見、汚すなんて」
 しかしそうなるよりはやく──男が、白目を剥いた。ぐらついた。
 倒れた男の、その向こう側には、支えあう赤毛が二つ。
「ノー、ヴェ? ……ウェンディ?」
 やっぱり、あちこちぼろぼろの妹たち。
 ウェンディが肩を貸し、彼女の肩を借りて。振り下ろされていたのは、ノーヴェの手刀。
「──だろ? 『スバル』」
 そのとき面と向かってはじめて、ノーヴェはスバルのことを名で、姉と呼んだのだった。
「とっとと、帰ろうぜ。こいつも、そこの子も連れて」
 人命救助。お前の拳は、そのためにあるんだろ?
 それが、事件の終焉。
 ゆっくりと高度を落としていくゆりかごは破壊されず。落着する。そこで起こっていたすべてはそうして、終わった。
 

 
 そして、今日。
 黒い制服が、ひた走っている。
 天気は快晴。その燦々と輝く太陽の下、階段を駆け上がっていく。
 彼女の手には、とるものも取り合えずといった様子に握られた書面と、封書と。
 向かう先には、尖塔を高く頂いた海辺の教会がもう、見えていた。
「時間……やばい、遅れた……っ!!」
 木材の深い茶をした重い扉を押し開き、彼女は駆け込んでいく。
 直後、鐘が鳴った。高く、遠く。
 祝福を、するために。
 二つ目の、やはり重い扉。それを力いっぱい、開く。──殆ど、転がり込むように、その中に飛び込んだ。
 そこにいる総ての人たちが、振り返っていた。
 大きくはない教会、その長椅子ひとつひとつを埋め尽くす、参列者のひとりひとりの視線が、開け放たれた扉へと向いていたのだ。
「……すいま、せん……っ!! 申し送りに色々、手間取っちゃって……っ」
 セインが。オットーが、ディードが、いる。三人は聖王教会代表、ナンバーズの皆の代理として。騎士カリムや、シスター・シャッハに付き添い、座っている。
 その前列には、ヴォルケンリッターの面々が八神司令とともに。きょとんと──いや、戦技教導官・ヴィータだけはやれやれと、苦笑を見せながら。
 海鳴の人々も。コラード校長やレティ提督、管理局関係の人々も、ぎっしりと座席を埋めている。
「ティアナ」
 そして最前列には、ほんの十数時間前までの上司が蒼いドレスに身を包み、兄夫婦とともに座していた。その膝に、こちらへと手を振るヴィヴィオを、載せて。
「やあ、いらっしゃい」
 そこまで、目を向けていって。視線の辿り着いた先で、新郎が歓迎の言葉を、ティアナに投げた。
「ユーノ先生」
 白い礼服──タキシードとはベタだけれど、でも柔らかい印象の青年にそれはよく、似合っていて。
 彼のすぐ隣で微笑する新婦の色でも、その色彩はあった。
なのはさん
 白は、彼女の色。けれど今、ティアナにとって師であるエースの身を包んでいるのは戦装束でなく、祝福の衣。そう──純白の。白一色のウェディングドレスに袖を通した高町なのはの手には、一杯に広がるブーケが、今はあった。
 おめでとうございます、とティアナは言った。
 ありがとう。なのはは、笑った。幸せを、一面に貼り付けた心からの笑顔で。
「執務官試験の結果、どうだった?」
 今日はそう、二人の、記念すべき日だから。ひょっとしなくてもきっと、自分の結果を言うのはこの場では、蛇足なのだろう。
 試験の結果通知と、めでたい日と。重なる、なんという偶然。
 大丈夫──もちろん、合格したとも。
 

 
「籍を、入れない?」
 潮風に、髪が攫われていく。
 教会から出てきたヴィヴィオと、新郎新婦とを出席者たちが囲む中、それをティアナは、はやてとフェイトとともに少し離れ、眺めている。
「うん、そう。私たちも今日、さっき聞いた。……驚いた」
「そりゃあ、まあ」
 誰だって、驚くし首を傾げると思う。
 今日は、結婚式。あの事件のあと──ゆりかごからの脱出のあと、予定通りこの日に行えるよう、間に合うように治療とリハビリと、準備とを進めてきたのは他の誰でもなく、なのはさんなのに。
 式は、やる。でも、籍は入れないだなんて。
「わがままはわかってる、でもだからこそ、ずっとわがままでいたいんだ、って」
 今回の、ゆりかごを巡る事件のように。
 万一のときにいろんなことに心残りをなくして、安心して伸ばした手を、離してしまわないように。
 例えばそれはヴィヴィオの『親』が第一義において自分以外に在するか否かであったり、愛する人とやり遂げきれていないことであったり。
 安心しきって、わがままにただ『生きたい』、やりたいことがあるという強い意思を失いたくはないから。
「まだ当分、空は飛び続けるつもりだから。帰ってくる場所、辿り着く場所は受動的に受け容れるより、自分で掴み取らなきゃならない、そうしておきたいんだ、って。言ってた」
 だから──わがままをする。なのはさんは。自分自身の願望と、愛する人に対して。
 もうしばらく、ただの「高町なのは」でいたいから。
「それで、ユーノ先生は」
「訊くまでもないやろ」
「ですよね」
 新郎新婦を──ユーノ・スクライア高町なのはを、出席者たちは代わる代わるに祝福していく。
 アリサ・バニングス。月村すずか。遠く管理外世界からやってきた人々や、あるいは、なのはの教え子たちであったり。
 ぼんやり、ティアナはその光景を見つめていた。
「そうそう、スバルもついさっきまで、きてたんだけどね」
「え? 来てたんですか──……っていうかむしろ、どこ行ったんですか、あの子」
 その中にない、ティアナがまだ言葉を今日交わしていない相手のことを、不意にフェイトが言った。
 そういえば、スバルがいない。──見ていない。
 きょろきょろと辺りを見回すティアナに、夜天の王とともに黄金の閃光は、くすり笑って。
「出動。ほんの十分くらい前に、ね」
 

 
「──……?」
 ティア、遅れるって言ってたけど。結局、入れ違いになっちゃったかな。
 救助隊の出動要請に呼び出され、そんな想いを胸に駆けながら──不意にその駆けていた両脚をスバルは、止めた。
『Buddy?』
 教会から、最寄のポートへと続く海沿いの道。
 そこより臨む蒼さの先にあるのはもう間もなく開園を予定される娯楽施設──そう、マリンガーデン。
『How did you do?』
「あ──ううん、なんでもない」
 誰かが、呼んだような気がした。
 女の子の、声が。気のせいだろうか? 思いつつ、一度は止めた足を再び、スバルは前に出す。
 自分が今いるべき場所、すべきことを、成すため。そこに、行くために。
 今はまだ、マリンガーデンから離れていく。
「ねえ、マッハキャリバー」
 眠り姫はまだ、目覚めていないのだから。
 それとは別の、小さな小さなお姫様に、想いを、馳せる。
「あの子は、元気かな?」
 イクスの名はまだスバルは知らず。空は、蒼く。
 

 
 ああ、そうそう。はやてが思い出したように、両手をぽんと軽く、打ち鳴らした。
 ティアナのあとから並び、フェイトとはやては新郎新婦を囲む一団を目指す。
「カリムからな、聞いたんよ。なのはちゃんとヴィヴィオにも教えたらんと」
「何を?」
 それは、担ぎ込まれた少女のこと。
 兄の裁判がはじまったことも知らず、自分が王であったことすら忘れてしまった、ひとりの女の子について。
 失ったものはきっと数え切れない。他ならぬ兄の凶弾により奪われたそれらを取り戻すかのように、これから記憶を紡いでいく少女の、今の居場所を。
 ほんとうに、心から。
 泣いて。笑って。
 君臨するはずだったかもしれない。その地位から比べればずっと片隅の、もっと小さな管理外世界の、片隅で。そこにある小さな小さな、子供たちの集まる、施設にて。
「ちょうど、すぐ近くの次元やろ。ルーテシアとメガーヌさんがな、自分で色んなことを選べる歳になったら、色々を受け止められるようになったら。うちの子にならないか、って誘ってみたい、って」
 聖王でもなく。
 傀儡でもなく。
 少女は少女として、生きている。
「そっか」
 なのはとユーノの間に手を繋いだヴィヴィオが、ただヴィヴィオであるように。その少女もまた。
 フェイトママ、とヴィヴィオが呼んだ。フェイトが小さく、手を振った。
 ヴィヴィオが、駆け出す。
 遠く続く空の向こうの、ずっと先には同じくらい元気いっぱいに、子供たちが駆け回っている孤児院があって。
 黒髪の少女も、時には怒り、時には泣いて。それでも笑顔あふれさせながらそこに、いる。
 
 
−Fin−
 
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これにてカーテンコール、無事に完結です。
夏コミ発行予定の同人誌版上巻をお楽しみに。がんがります、はい。
 
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