新年ん
昨日のうちに更新するはずがべろんべろんに酔って帰宅したので年明け更新となりました。あけましておめでとうございます。
さ、なにぶん明日から平常営業の飲食勤務の人間なのでちゃっちゃと更新しますよー。新連載第二話。
まずはweb拍手のお返事から。
>双子って凄く甘美な響きだと思うのですよはい。続き待ってます
いやあ・・・ここ最近のvividは双子好きの640的にとっても俺得ですよう。うまうま。
>凄く面白かったです 続きがきになります
オーケー、というわけで続きできました。
さて、んでわ続きを読むから新連載第二話です。どうぞー。
↓↓↓↓
− − − −
イクスの眠るベッドのシーツ換えは、週に一度。
「あーほら。そっち、しっかり伸ばさないと」
はじめてそれを、やらせてもらっている。
普段は双子が──時々はセインも混じって、二人組のペアでその作業をやっていたから。
「こう?」
大雑把で、適当であることを自覚するシャンテだ。言われたとおりにやっているつもりでは、あるのだけれど。
「反対、反対。そう、そーやって」
イクスを背負ったセインからの指示が逐一飛ぶ。
もっと、簡単だと思ったんだけどなぁ。……そういえば部屋のベッドも基本、シーツ替えやら布団干しやら、ついでだからとやってくれるセインに任せきりだったっけ。あとはたまに、双子が気付いていつの間にか、やってくれていたり。
「そういえばさ、セイン」
「うん?」
──双子といえば。
「オットーって、ディードのこと妹としか見てないのかな?」
「……は?」
「いや、だってさ」
同期で、年上で。やはり年上の、双子の姉であるシスターに、シャンテは問い訊ねてみる。
「双子ってそういうもんなのかな、とも思うけど。ただ兄貴が妹に対するって感じとは違うように思うんだよね、オットーの場合」
「あー……」
張り終わったシーツの上。イクスを背負ったまま、セインは頬を掻く。どう説明したものか。そう、考えているかのように。
「まず、根本的なとこから言うとだね」
そういえば、シャンテには言ってなかったっけ。
……何がさ?
「オットーは、ディードの『姉』。一応ね。まずそこから」
ちょっと特別で、他とは変わっているけれど。
遺伝学上は間違いなく、あの子はディードのお姉さん。──セインの言い回しはそんな、どこかぎこちなくて、歯切れの悪いものだった。
魔法少女リリカルなのはVivid+ 〜We will make it better〜
第二話 兄でなく、姉である 1
机上には、いくつものプリンタ用紙の束と、何冊もの分厚い古びた書物たちが高く、高く積み上げられてその周囲を覆っている。
──それでも、作業のための最低限必要なスペースが保たれているのはその紙の山を構築した張本人がそういった作業に慣れっこでありまた、得意としているからに他ならない。
「第四十九管理外世界……大気中の残留魔力濃度、依然変化なし……前回の観測記録は八十年前──」
机の、中心で。本と紙とに囲まれて、キーボードをひたすらに叩き続ける作業を続けている。
ここ、高町家の一室。ついぞ、定期的に家主が掃除をして状態維持に努めていた以外、使用する者にも生活感にもご無沙汰であった、聖王陛下のものでもその母親どちらかのものでもない、本棚に壁を埋め尽くされたそこに今、明かりが灯っている。
「主な原住種族は有翼人種──僕らの世界で言うところの「天使」、か」
眼鏡をかけた彼が、管理局の用意した寮を出て。
戦技教導官である幼なじみが我が子とともに暮らし始めたこの家に厄介になるようになったのは、さほど遠い以前の話ではない。
生活サイクルも違えば、職場も違う青年と、母子だ。たびたび青年は家を、部屋を留守にしたし、むしろ一年でこの部屋に寝食することのほうが少ないくらいでもある。
「──はい?」
それでもこの家の家主と、その娘と。少女のもうひとりの母親とは青年に……ユーノにとっては大切な友人であった。ゆえにこの広い家は自分にとってもったいないくらいの、居心地のいい場所だとユーノは思う。
ふと、向こう側からノックをされた扉に、振り返りながら。
「お仕事、捗ってる?」
「なのは」
ティーセットと、お茶受けのお菓子とをお盆に持って現れた件の家主である幼なじみが、軽く小首を傾げてみせる。
お茶、飲む? ──発した問いへと頷くユーノになのはは室内へと歩みを進めて、一瞬資料の山に埋もれた仕事机に目を向ける。
机上には──……置けない。予想はしていたのだろう、ベッドサイドのテーブルに、カップやポットの載ったお盆を彼女は降ろしていく。
「ごめん、散らかしちゃって」
「平気平気。ユーノくんの部屋だもん。好きに使ってくれて」
うーんとひとつ、伸びをしながらユーノは席を立つ。
ここらでちょっと、一息入れるのもいい。
「いいの?」
「うん、少し頭の中もクールダウンしないとね」
「そっか」
ベッドに腰掛けたなのはが、香りのいい紅茶を注いだカップを渡してくれる。
受け取って、その隣に並ぶように、ベッドへと腰を下ろす。
「論文?」
「うん、そう。こないだの発掘隊の」
口に含んだ紅茶は薄すぎず、渋くもなくちょうど良い。
「書いてて、楽しい?」
「うーん。楽しい、っていうか。充実してる、かな」
そう言うのが、正確だと思う。
煩わしかったり。面倒に思う部分がやっている最中にけっしてゼロではないけれど。発掘をして。研究をして。ひとつひとつをやり遂げたときの達成感はなにものにも、換え難いものだから。
「なのはは? 最近は武装隊も、大きな出撃はないって聞くけど」
「わたし?」
ユーノが一瞬そうであったように、彼女もまたうーんと、一瞬考える表情になる。
「今に始まったことじゃないけど。ママをやるのは、楽しい?」
──もちろん。
そう返ってきた笑顔はある種、予想通りであり、予定調和だったのかもしれない。
楽しげに彼女は語っていく。
娘のこと。娘との、生活のこと。
家族でもなんでもない、親しいだけの、青年に。
*
「なーに、やってんだ」
「わっ」
柄にもなくそんな声を上げてしまったのは、不意にそうやって、肩を叩かれたから。
「……ノーヴェ。どうしてここに」
「あん? バイト先のダチとの買い物だよ。映画観て、遊びにきてんの」
くい、と親指を向こうに向けると、小柄な部類のノーヴェとは頭一つ分くらいの差があるだろうか、大柄な青年が軽く、手を振っている。
「ミカヤのやつが急に稽古が入ったっつってな」
「ミカヤ……ああ、覇王睨下の?」
その名前には、オットーにも覚えがある。
たしか、覇王であるアインハルト・ストラトスがこのところ頻繁に、出稽古に赴いている先の、ノーヴェの友人だとか。
つまるところノーヴェはそのミカヤ女史の代理か、もしくは三人の予定が二人になってしまったか。今日の買い物に同行ができなかったのは、このためだったのだろうか?
「で、お前何してんだ? ディードと一緒にチビたちの引率だろ?」
「あそこ」
ノーヴェがやったように今度は、オットーも同じように指し示す。
ほぼ真正面。女性ものの洋服店が中心の、ブティックビル。行き交うのは若い女性や女の子たちばかりのそちらに、ひとまず姉妹の目を向けさせる。
「うん? お前は行かないのか?」
「趣味じゃないし、どうせ行っても似合わないものしか売ってないだろう」
「え? だって──……」
前、着てたじゃん。ディードとおそろいで。
きょとんとするノーヴェの、言わんとするところもわからないではないけれど。
「あれはディードのコーディネイト。ディードが選んでくれたから、だよ。僕個人じゃこんなものくらい」
言ってオットー自身、自分の今日の服装を上から順に見回していく。
フードつきの、薄手のパーカーの上着。……Tシャツ。ジーンズに、スニーカー。
何の変哲もない、普段着がそこにはある。
「オットー、お前」
「だから護衛として、外から陛下たちの周りを固めてるんだ」
ビルの中にディードたちが消えて、もう十分ほどになるだろうか?
「……お前、まだ悩んでるのか。自分の身体のこと」
「どう、かな」
時間をそう思い出したとき、ノーヴェの背中の向こうで、彼女の連れが時計を気にしたのが一瞬見えた。
──あまり引き止めるのも、迷惑だろう。
「ひとまず、あんまり人を待たせるの、よくないよ。ノーヴェ」
「ん……ああ、そうだな」
煙に巻いたと思われただろうか? 離れていく赤毛の姉妹は、ちらちらと何度も、こちらを振り返っていた。
その姿が、人ごみに消える。
「──悩んでるんじゃない。わからないでいるだけだよ、ノーヴェ」
見えなくなった、彼女に言う。
遺伝子。性。齟齬。矛盾。突然変異──それら単語をとめどなく、脳裏に思い浮かべながら。
性別上は間違いなく『女』であるオットーはビル街の空を見上げ、呟くように言う。
「僕はディードの兄じゃなく、姉だ。もう結論が出てるはずのことを」
(つづく)
− − − −