ひさびさの恋愛ものだよ。

 
 というわけで新連載だヒャッハー!
 メインカップリングは敢えて伏せておく。ってわけで640の新連載です。
 あ、神楽風香さん、レス不要とのことなので、とりあえずコメント把握しましたー
 
 
 てなわけで続き読むから新連載、どうぞー
 
 
↓↓↓↓
 
 
 
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「やあ、いらっしゃい」
 そう言って出迎えてくれたのは、見知らぬ眼鏡の男性だった。
 長い、一つ結びの明るいサンドブラウンがかった、金色をしたブロンド。
 眼鏡の奥には、中性的な雰囲気をどこか漂わせる、澄んだ翡翠色の瞳がこちらを、見下ろしている。
「噂はかねがね。ヴィヴィオたちからよく聞かされてるよ。もう少しで宿題、終わるって」
 ささ、上がって上がって。その男性はぽかんと玄関口から見上げていたアインハルトに、早く靴を脱ぐよう催促をする。
「えっと」
 目の前にいる。それは、エプロン姿の男性。
 ここはどこ。ヴィヴィオさんの家……高町家だ。
 はじめて見る、男の人。その人物が出迎えてくれた。スポーツウェアなどを買い込みに、買い物に行こうと、年下の三人組や聖王教会の面々との待ち合わせに訪れた、アインハルトを、だ。
「アインハルト・ストラトスです。ええと、失礼ですが」
「うん?」
 勧められたスリッパに爪先を入れて、そして先導するように踵を返した青年へと、問いへ続けていくべき枕を投げかける。
だが、はてさて。その先はどう言ったものだろう?
 初対面なのは絶対に、間違いのない相手に対して。
「ああ、そうか。自己紹介がまだだったね」
 幸いにして、大人であるあちらが、子供であるこちらの困惑に気づいて、汲み取ってくれた。
 そして、彼は言った。
ユーノ・スクライアです。はじめまして、アインハルト」
 
 

魔法少女リリカルなのはVivid
 
〜We will make it better〜
 
第一話 父親でなく、夫でもない  1
 
 
 
 結局出ることのなかった答えは、直接年下である後輩のの少女へと尋ねることになった。
 ──のだが。
「えっと、ヴィヴィオさん?」
 引率にとついてきてくれている、双子の教会騎士が、六人掛けの広い丸テーブルの向こうに座っている。
 その左右に、聖王の学友がそれぞれ。アインハルトは頬を掻いてため息をついた、ややふくれっ面気味の少女ととなりあった形になる。
「あの、なにか私、失礼を?」
「あ、いえ。そうじゃないんです」
 なにか、まずいことを訊いてしまったのだろうか?
 自分ではそんなつもりはなかったのだけれど──コミュニケーション下手を自覚するアインハルトはつい、そう思ってしまう。
 アインハルトはけれど、ただ訊いただけなのだ。
 自分を出迎えてくれた男性について。ヴィヴィオに。
 ──「温厚そうで、やさしそうなお父さまなんですね」って。
 ──「一体、どちらのお母さまの、旦那さんなんですか?」と。ただ、そう尋ねただけ。
「ですよね。普通、そう見えますよね。そう、思っちゃいますよね」
「はい?」
 見える? 思える?
「ユーノくんは朴念仁だし、なのはママは自覚なさすぎだし。わたしもフェイトママもいい加減、どうにかならないかなぁって思ってはいるんですけど」
 テーブルの上にぺたりと脱力して身体を投げ出す聖王の少女に、いまいち言わんとしていることの飲み込めないアインハルトは首を傾げざるを得なかった。
「お行儀が悪いですよ、陛下」
「はぁい」
 そのままの姿勢で、小さめに割られたスコーンへと手を伸ばし怒られる当代の聖王陛下。
 リオさん? コロナさん、これは一体? ──彼女の学友に問いを含んだ視線を投げかけるも、向けられた二人はなぜだか、顔を見合わせて苦笑をするばかりで。
「オットー。ディード。どっちでもいいや、ユーノくんのこと、アインハルトさんに教えてあげて」
「はい」
 では、私が。長い黒髪の、今は私服姿であるシスターがそのように応じる。
「──ユーノ・スクライア司書長。次元世界における若き考古学の権威であり、結界及び探査の魔法においても優秀な魔導師でもあります」
 現職の、時空管理局所蔵データベース「無限書庫」のトップでもある。それらのことを、赤いカチューシャの教会騎士は簡単に、アインハルトへと説明をした。
「そして、陛下のお母さまである高町一尉や、フェイトお……執務官の、十数年来のご友人、つまり幼なじみでもあります」
「なるほど」
 陛下の検索魔法の先生でもありますし、覇王猊下が興味をお持ちのシュトゥラの歴史資料についても、力になってくれるかもしれません。……ますます、なるほど。
 無限書庫のトップ。管理局の執務官と、教導官の幼なじみというのなら、たしかにそのくらいすごい人でもおかしくはないのかもしれない。
「でもね、ほんとにそれだけなんですよ。うちのママと、ユーノくんってば」
「え?」
 ヴィヴィオのついた深い溜め息に、アインハルトはそちらを見る。
 それ、だけ?
「ユーノくんはなのはママに魔法を教えてくれた恩人で、幼なじみで。今でもたった、それだけなんです」
 ユーノくんにとっても、なのはママにとっても。
 言うヴィヴィオの口はその間中ずっと、尖ったままだった。

 お土産に買ってきたプリンを、玄関に出迎えにきてくれたリインへと渡す。
「おっす。珍しいじゃん。一人か?」
 通された居間には、ソファへとヴィータが横になっている。手にしているのは文庫本。ぱらぱらとそれを、めくりながら。ゆったりと、くつろいでいる。
 あとは──……、
「今日は、はやては?」
「もうすぐ帰ってくると思うけど? どうかしたか?」
「いや」
 ほんの少し。少しだけ。
「ちょっと、話したくなってね。いるかなって思って」
 自身の金髪を、フェイトはそっと肩から振り払う。
 きょとんと、ヴィータはその様を見上げていた。
 フェイトが彼女に返すのは、苦笑というか、なんというか。その理由を率直に、ヴィータへと伝える。
「ユーノがね、発掘旅行から帰ってきたんだ」
「ああ……それはまた」
 ほんの一言で、ヴィータはすべてを理解したように納得の表情を見せる。
 気ぃ、遣ったんだな。……うん、遣いましたとも。
 ヴィヴィオも、私も、ね。
「そりゃあ、だべりたくもなるか」
 でしょ?
「ただいまー」
 そう、たった今帰ってきた家主と……同じく長年見守ってきた旧来の親友と、あれこれ話したくなったって、仕方がないではないか。
「「おかえり」」
「れ? フェイトちゃん? ああ、そか。表の靴、フェイトちゃんやったんか。いらっしゃい」
 居間に顔を出した夜天の王に、おじゃましてます、とフェイトは親友同士の会釈を返す。
「どないしたん? 今日はひとりなん? なのはちゃんとヴィヴィオは?」
 やはり家族と言うべきか、ヴィータとほぼ同じ質問が矢継ぎ早に、はやての口からは発せられる。
 こちらも同じ解答を告げようとして──……、
「朴念仁の眼鏡かけた小動物が帰ってきたんだと」
 ヴィータがより簡潔に(身も蓋もなく、とも言う)、そうやって説明してくれた。
 うん、大体あってる。
「……なるほど」
 肩を竦めるはやて。理解がはやくって、正直助かる。
 ……「朴念仁」「眼鏡」。小動物はともかくとして──たったそれだけですべてが通じてしまうことそれ自体がむしろ、問題ではあるのだけれども。
 だって。もう十年以上、だものなぁ。ユーノも。なのはも。
 そりゃあキーワードだけで把握できるくらい、ツーカーな話題にもなるさ。
「ん、着替えてくるし。お話、聞こか」
 お話、聞かせて。
 うん、もちろん。全力で。
 アイコンタクトにお互いこめるのは、ここにいないもうひとりの親友の言い回し。
 ひらひらと手を振って、フェイトははやてを送り出す。
「ただいまー」
 そして入れ替わるようにもうひとり、居間へと姿見せる者、ひとり。
「や、アギト」
「っと、フェイトさん。いらっしゃい」
「おー、おかえり」
 スーパーの買い物袋を抱えた、赤毛の融合騎。アギトがよっこらしょと、両手いっぱいのそれらをテーブル上に置く。
「さっき、ルーテシアから連絡あったぞ。来週あたりこっちに遊びに来るって。夜にもまた通信するとか」
「あーうん、バスん中でメールきてたー」
 ──来週?
「ルーテシアが?」
 それは、奇妙な符合。
 果たして、偶然なのだろうか? ……それとも単に、フェイトが知らされていなかっただけ、知らなかっただけなのか。
「たしか、エリオとキャロも来週、クラナガンに出てくるって言ってたな、そういえば」
 はたまた──年若い三人の、波乱の幕開けか。

なのはさんとユーノさん、ヴィヴィオの家で今、どんなお話してるんだろうね」
 リオが振り向いて、鞄を提げたヴィヴィオへと笑う。
 きっと──ものすごーく。楽しそうにしてるんじゃないかな。ヴィヴィオがするのは、そんな予想。
「仲がよろしいんですね、お二人」
「アインハルトさん。……ほんと、仲だけはものすごくいいんですよ。なのにどうしてずっと、ああなのか」
「オットーさんと、ディードさんのように?」
 子供たち全員、四人が四人とも、後に付き従っていた二人のほうを見る。
 見られた側の双子は、きょとんとしていた。ディードは幾度か、目を瞬かせて。
「……え」
 聖王教会の二人は、顔を見合わせる。
「──私たちは双子で、姉妹ですから」
「……ええ。ディードの言うとおりです」
だよねー。歩道の、コンクリートのタイルを一同の靴底が打っていく。
先頭。リオ。続いて、ヴィヴィオにアインハルト。少し遅れて、コロナ。
最後尾が──双子。いや。
「オットー?」
 双子、か。だから──当たり前。仲が、よくって。
 パーカーを羽織った、デニム姿の少年……ううん、短髪の少女がひとり、少し遅れる。
 彼の……いや、彼女の呟きは心の中のみで発せられて。
 一歩前を行く形になったミニスカートの、長い黒髪を揺らし振り返ったその妹にさえ、聞こえなかった。
「どうかした?」
 そう。僕らは双子で。姉妹なんだ。誰にもそれは、届かない心の声。
「なんでもないよ」
 ただ、首を横に振るだけ。
 かけがえのない妹の、パンプスを履いた踵を、オットーは追う。
 その向こうで、覇王の肩に乗ったアスティオンが、邪気のない瞳でじっとこちらを見つめていた。
 にゃあ、と鳴いて、尻尾を振っていた。
 
(つづく)
 
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