いやもう色々と。
日常生活が大変です、はい。そんな私の最近の一服の清涼剤はレンタルで見てるアイドルマスター(アニメ版)だったりします。
ほんとなんでこれリアルタイムで観てなかったんだろう、ってくらいキャラがくるくる動いてイキイキしてて面白い。
お気に入りは我那覇君と真と美希ですなぁ。てか美希マジPの嫁。
とまあ前置きは手短に、少し間が空いてしまいましたがまどマギss更新、第六話です。
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「ったく。スゲーな、アレ。『ワルプルギスの夜』だっけ?」
くるくると回したグレイブを構えなおしつつ、杏子が空を見上げていた。
その頬に、腕に、大腿に。いくつもの切り傷を刻み、着衣に綻びをつくりながら、それでも彼女はそこに駆けつけた。
──それは、彼女だけにあらず。同じように傷つきながら、マミもまた。
「どう、して。ふたりとも……っ」
抱かれたその腕からそっと下ろされて、両者を見上げながらほむらは困惑する。
「あれが……あの魔女が私で、この世界の因果に取り残された存在なら……っ!! あなたたちを、巻き込むわけには……っ!!」
「んなこた、どーだっていいだろ」
こちらを見ずに、杏子が言う。マミが屈んで、ほむらの頬をそっと撫でる。
「佐く……杏子ちゃんの言うとおりよ。わたしたちは、『魔法少女』で、あの巨大な怪物は魔獣を生み出している。あるいは、それに類するものでこの世に、害なそうとしている。なら、あれはわたしたちの倒すべき敵だわ」
「そーゆーこと。アレ、あのまんまにしとくわけにはいかねーだろ」
立ち上がったマミと、見上げる杏子と。ふたりが一歩、前に出る。
「言えよ。どうやれば、倒せるのか。弱点とか、ないのか」
そのふたりに──記憶が、ほむらの脳裏へとフラッシュバックする。
あのときだって、他の誰かのために強大な相手に立ち向かった……命を散らした、杏子。
今よりずっと弱くて、今より何も知らなかったほむらたちの先頭に立ち、戦い──斃れたマミ。
ダメだ。……ダメだ!! 戦わせては、いけない。
もうこの世界に、魔女はいないんだ。
アレはきっと悪い夢で、なにかの間違いで。ふたりが魔女と戦うことなんて、もうない。
「弱点なんて、ない。わからない……」
一度たりとて、ほむらはアレに勝てなかった。奴と、ふたりを戦わせてはいけない。
マミも、杏子も。アレにはきっと勝てない。
今まで、奴を倒せたのはたったひとりだけ。消し去れたのも、ひとりだけ。結局あの魔女の前では、ほむらはひとりの女の子に犠牲を強いることしかできなかった。そう、あり続けてしまった。
そこに、理由があったとして。どうにもならない。ほむらには、どうすることもできない。
ワルプルギスの夜がほむら自身だというなら、ほむらがかつて持っていた無限の因果を奴が持っているなら。
ほむらにはあいつは、絶対に倒せない。この世界の、マミや、杏子にも。
「くるぞ!!」
飛来する、無数の魔獣の群れ。
それらは三つの大きな流れを形成し、それぞれに集合体となって姿かたちを変えていく。
「これじゃあ……せっかく、まどかが絶望を取り払ってくれたのに……っ!」
ひとつは、巨大な顔に極彩色の瞳を輝かせ、長大な黒き身体を翻らせた獣となり。
もう一方は胸元を不釣り合いなリボンに飾った、人魚のごとき悪鬼へと姿を変える。
ほむらを襲うのは──先ほどと同じ。時間を止める、例のやつが、一直線に。
どうすればいいのか、わからなかった。
どうしてこうなったのかも、わからなかった。
それでもほむらは、戦わなければならなかった。
消え失せたはずの絶望に、巻かれながら。
魔法少女まどか☆マギカ 〜everyman,everywhere〜
第六話 行かなきゃいけないところがあるんだ
ずっと、友だちが欲しかった。
失ってしまったのは、自分自身をさらけ出したそのときだった。
なくしてしまったから、欲しくてたまらなかった。なのに、求めることが怖くなった。
でも、だからというわけじゃあない。
木影が魔法少女となったのは、それとはまったく別。
素質があると言われた。持たず生まれてきた片目だって、手に入ると言われた。けれど、それも理由ではない。
ただ、することがなかったから。
これといって趣味もなく、学友たちとの交流もない。
友だと思っていた皆は、木影から離れていったから。怯え、気味悪がり。
木影の見せた右目の義眼に、真っ青になって逃げだしていったあのときに。
真実を伝えて、友を失った。誰も、いなくなった。
逆に、言えぬ秘密を抱えることで得たものがあった。……そう、魔法少女となることで。
眼と、友と。
魔法少女でいる間だけは、木影は隻眼ではなかった。両目があるとは、こういうこと。こんな風に皆が見えているのかと、素直な驚きもあった。
「はじめて、お会いしますね」
そう思えてしまえる自分は、なにかが決定的に……それは片目を本来持っていないということとは別に、欠けているのだと実感した。
自分の肉体が既に、心や魂と呼ばれるものから切り離された人形のようなものでしかないということを知ったときもさして、動揺しなかった。
そんなのは、大したことじゃあない。魔法は友だちを与えてくれたのだから。行為に対して見返りがあるのは、当然。
今も現在進行形で魔獣たちを喰らい、噛み砕き蹂躙する異形の生物──サイカ。
その身体は、喰らうたび膨れ上がっていく。そうなるたび、聞こえてくる声と気配とが少しずつ、明瞭さを増していく。
そこに、少女がいるのがわかる。
蒼の少女は、木影の背後で小さく頷いた。
“あと、もう少しなんだ”──耳ではなく心の奥に、少女の声が響く。
──会って早々、悪いね。行かなきゃいけないとこがあるんだ。
白いマントを翻し、そうして少女の気配は消える。
もはやサイカの大きさは魔獣たちなど丸呑みにしてしまえるほどに肥大化をしている。
雄叫びとともに、その咢が開く。見え隠れするのは、蝶番と歯車に囲まれた円盤。サイカの体内に埋まったそれを、木影は見る。
それがなんなのか。どうなるかも、知らないまま。
喰らい続ける相棒を、じっと見下ろしている。
*
面倒な相手だ、と思った。
不愉快だ。気分が悪い。なにがどうというわけではなくて、向かい合っているだけでいらいらしてくる自分がいる。
なんなんだよ、コイツ。杏子は思わず、舌打ちをする。
「てめーは、消えろよっ!!」
背後の上空へと回り込む。
しかし甲冑を身に纏ったその人魚──魔女はそれを予測していたかのように腕を振り上げ、そのままに手にした刃を杏子へと浴びせかけて。
「ぐ、うううぅぅっ!!」
グレイブの柄で、どうにかそれをガードする。
だが、その衝撃までは殺しきれない。押し切られて、刃を防いだその態勢のまま、すぐ傍のビルへと叩きつけられる。
ガラスを破り、コンクリートを砕いて。土埃をあげ、その中に弾丸のように叩き込まれる。
「佐く……杏子ちゃん!!」
ああもう。何度、同じ呼び間違いすんだよ、マミのやつ。
二度、三度と同じ場所に剣が叩きつけられる。
このままでは杏子が危うい。更に追撃せんと、もう一度振り上げられる剣へ──そうはさせじと、自身もまた異形と戦っていたマミが注意を引こうと牽制の射撃を放つ。
弾はすべて炸裂弾。外皮を抜けなくてもいい。派手に爆発して、注意を逸らせることができれば。
「マミさん!!」
そうやって、二体を同時に相手として──散漫になっていた。ほむらの声に、ようやくマミはそのことに気付く。
気を逸らすべきでは、なかった。
戦っていた、全身に赤い斑点を持つ、黒き竜のごとき魔女。それがいつしか、マミの頭上へと迫っていた。
回避も迎撃も、間に合わないほど近く。
その巨体、動作とは不釣り合いに人を小馬鹿にしたような顔の大口を開けて、マミの首から上を呑み込まんと。
「!!」
マミの目が、見開かれる。そこに移るのは、鋭き牙。
自身を噛み砕かんと迫るその、鈍い輝き。黒き、深き穴。
帽子が、はらりと落ちた。漆黒が、金髪を呑み込んだ。
銃が、ビルとビルの合間に落ちていく。両腕も、両脚も。だらりと垂れさがって。
そう──喰われた。
巴、マミが。
ほむらにとっては、「また」。
「そん……な」
マミさんが、やられた。目の前の光景に、ほむらは愕然とする。
それはかつてのほむらならば、意に介すこともなかっただろう犠牲。
しかしまどかの守ったこの世界で、ともに戦い、ともに生きてきた先達の既視感を呼び起こすその姿は今の彼女を動揺させるには十分であり。
ソウルジェムごとマミの頭部を呑み込んだ魔女の口から、残ったその肉体がぶらぶらと揺れている。
その光景に、ほむらは膝を折る。
まるで頑健さのそこにない、柳の枝のように。一切の力を抜けさせたマミの身体が、吊られている。
*
「──マミ!!」
呆然と、膝をついた。だがその直後、声を聞いた。続き鳴り響くは、砲火の重なる音。
それらは、ほむらの直上で標的に命中していた。
時を止める魔女の顔面と思しき個所に的確に当たり、炸裂弾ゆえの爆風でその視界を遮る。
直後閃いた稲妻は、赤。
壊れたビルの瓦礫を突き破り、舞い上がり。ふらふらと、また別の屋上に降りていく。
「ったく、世話やかせやがって……っ!」
そうして貯水タンクの上に蹲った杏子は、わき腹を抑えながら黒き長き身体の魔女を見遣る。
額からの流血流れ込む片目を伏せつつも、強い意志の宿った瞳をそちらに向ける。
釣られて、ほむらもまた。そして──気付く。
魔女が、困惑していること。
たった今魔女に『喰われた』はずのマミの死体が、そこにないことに。
たしかに、やられたはずなのに。
そして背後に聞こえた着地音に振り返り、その理由をほむらは理解する。
「マミさん!」
硝煙燻る銃身を投げ捨て、杏子同様マミもまたその場に蹲っていた。
「だい……じょう、ぶ。杏子ちゃんが、いなかったら……やられてた、わ……っ」
荒い息をつくマミの右肩から先は、着衣が引き裂かれべっとりと血で染まっていた。
なんて無茶を──こんな傷を負った腕で、たった今ほむらに迫る危機に対し、炸裂弾を撃ち込んだというのか。
「すごく痛くて、辛いけれど……死んでない。だから、大丈夫……っ」
それができたのは、杏子がいてくれたからだ。
マミが、傷つきながらもほむらを救ったように、彼女が負傷で済んだのも、杏子のおかげ。間一髪、杏子が生み出した幻が魔女を惑わせた。そのためにマミは首を食いちぎられずに助かった。
食いちぎられたのはそう、マミ本人ではなく幻影のほう。
だが、見ての通りに無論無傷ではない。
完全に魔女の牙を避けきれたわけではない。助かったマミも、彼女を助けた杏子も、けっして軽くはないダメージを負っていた。
三体の魔女による追撃を避け、マミを庇いながらほむらは杏子のいるビルを目指す。ほむらに連れられながら、リボンで無理矢理止血をするマミ。激痛ゆえの呻きが、喰いしばったその歯の間から漏れ聞こえてくる。
「……たく、よ……っ。あたしだって、わりといっぱいいっぱいなんだぞ……っ」
右脇に、マミ。そして拾った杏子を左脇に庇い、ほむらは逃げ惑う。
反撃に転じる暇もない。ワルプルギスの夜が浮かぶ空の下を、三人はただ魔女たちに追われるばかり。
「!?」
だから、すぐ傍に突如現れたその存在に、反応もできなかった。
これは、魔女なのか? それとも、使い魔か?
疑問を解決する間もなく、三人揃い吹き飛ばされる。
ひび割れたアスファルトの上に投げ出される。
彼女らを見下ろす小さな影──それは、ほむらたちの知るところではないにせよ、間違いなく魔女。
周囲にリボンを浮かべたそれは、上空に佇んでいる。
その身体は、あまりに小さく。そしてその姿を見上げたマミが、大きく目を見開いて。
「あれ……は……?」
「う、おおおおぉっ!!」
負傷を押して飛びかかっていく杏子。だがこともなげにその小さな魔女は黄色のリボンを駆使して、彼女を打ち据え到達前に叩き落す。
「杏子!」
いけない。あの傷では。マミを一瞬見返し逡巡し、それでも救援に入らんと駆け出すほむらの前に、更に別の敵が立ちはだかる。
「また……! これも、魔女なの……っ!?」
それはさながら、騎馬兵のごとき様相をした魔女だった。
その頭部には燃え盛る炎が灯され、全身を包む衣は赤。跨った馬は使い魔なのか、それともその馬自体、魔女の一部なのか。
両腕を、魔女が大きく広げる。そしてそれに呼応するかのように、空を影が埋め尽くしていく。
「これは……分身……っ? 幻!? それとも、使い魔!?」
上空に浮かぶワルプルギスの夜すら、隠してしまうほど。
圧倒的な数を見せたそれらもまた、魔女と同じ姿かたちをしていた。
数えきることすら不可能な、そのすべてが皆。
「──行け! ほむらっ!!」
だからたとえそのうちの数体が切り刻まれ、灰燼と化したとてその状況は変わらない。
瓦礫と、土埃のむこう。杏子の槍が大蛇のごとく解き放った鎖によって、無数のそれらを薙ぎ払ったとして。彼女が屠ったのは、その一角にすぎない。
なのに、杏子の声がほむらを行かせようとする。
「こいつらの相手は……あたしらがやるっ!!」
血飛沫を飛び散らせながら、そして杏子は一直線に弾丸となって突進をしていく。
まず、一体。槍で直接貫いて、引き抜きざま鎖を開放、また周囲を刃の嵐に巻き込んで。
「そっちには、そっちの相手がいるんだろうがっ!!」
「だけど!!」
癒えぬ傷を押し、杏子は叫ぶ。
同時、ほむらへと向かい伸びてくる小柄な魔女のリボンを、マミのリボンが打ち払う。
「行きなさい! 杏子ちゃんの言うとおり! この子たちは、わたしたちが!」
そして、どす黒く汚れた包帯代わりのリボンを振り乱し、マミもまた黄色の魔女へと向かっていく。
左右の手の銃を、交互に撃ち放つ。
「いけない!! ふたりとも、その傷では!!」
この数と、この魔女たちを相手にするのは無理だ。
やられる、死んでしまう──……!!
脳裏に浮かんだその判断が、ほむらの脚をその場に縫い付ける。
ふたりを、見捨ててはいけない。いや、ひとりで行ったって、あのワルプルギスの夜にはほむらひとりでは──……。
──なんだ、らしくないなぁ。弱気になっちゃって。もう誰も頼らないんじゃなかったっけ?
そして、逡巡の瞬間に、声を聞いた。
肉体そのものを槍と化し、無数に飛来する使い魔たちに杏子が切り裂かれ、翻弄される中。
魔女のリボンに、マミがその四肢を絡めとられて、いく中に。
それが現実のものなのか、空耳だったのかを確認する間すらない。
次に響くのは、雄叫び。
大地を震わせ、空の雲すら散らしていくほどの、唸り。
「あれ……は……?」
空の怪物と、果たしてどちらが大きいのだろう。
建造物を踏み潰し、薙ぎ倒してゆっくりと進む、巨大な異形。
それは、琥珀色の魔法少女が連れていたあの生物──サイカ。かつてのほむらの象徴であったあの円盤を口蓋内へと宿したあの蟾蜍のごとき生き物に、他ならなかった。
(つづく)
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