一次創作やんないとだけどね。
てわけでss更新。まどマギss第五話です。
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「──『ワルプルギスの夜』? あの方が、そう呼んだのですか?」
琥珀色の、和装じみた着衣を身に纏った魔法少女は空を見上げている。
「そうなるね、絆 木影。暁美ほむらはたしかに、そう言っていた」
まったく同じ時刻、ほむらたちがそうしていたように。
ほむらが驚愕に、眼を見開いていたように、だ。
「ですが、それをなぜわたしに?」
彼女の肩から、異形の生物もまた同じく、悠然と降りてくる「それ」を見上げている。
キュウべえの伝えた呼称。ヴァルプルギスの夜という、その巨体を。
「わたしを不良品として見限っていったあなたが、そのような情報をわたしによこすなんて。なぜです?」
そんな彼女たちの前に、高く、長く。
佇むビルの屋上すら超えて、魔獣が立ちふさがる。
──いいわ、サイカ。短く、木影は言う。頷きもせず、のそりと肩の生き物は動き始める。
捕食の瞬間は、瞼を瞬くほどの時間さえおきざりに敵対者たちを屠っていった。
巨大に広がったサイカの大口が、魔獣たちを食いちぎる。
木影の差し出した手に、醜悪なその生物は結晶体を吐き出していく。
頬のソウルジェムを浄化した、その使用済みのグリーフシードは再び、彼女のパートナーたる異形に。
その口蓋より伸びた長い舌がグリーフシードをからめとり、ごくりと音を立てて呑み込んでいく。
「キミたちが、不良品だからこそさ」
その様子に嫌悪を表すでもなく、変わらぬ無表情にキュウべえは言う。
グリーフシード。魔法少女が戦い続けるために必要な、穢れを払う結晶体。
ソウルジェムの穢れを移した、使用済みのそれをインキュベーターたちは欲し、それゆえ魔法少女たちとのギブ&テイクは成立している。
だが、彼女の場合は違った──イレギュラーだった。
今まさに見せた様相が、そうであったように。
彼女とその相棒は、インキュベーターたちへとなにも残さない。
魔獣を倒し、得たグリーフシードは消費され、そして異形の口蓋へと使用済みのそれもまた消えていく。消費が彼女たちのみで、完結している。
インキュベーターにとって得るもののない魔法少女、それが彼女たちだった。
「こういうときでもないかぎり、キミたちからの回収は難しいだろうからね」
何を思っているのか、何も思っていないのか。
木影は、「今は見えている」右目でインキュベーターを見据える。
「あの怪物は、ほむらの言うとおりならばかなりのエネルギーが回収できそうだからね。手はひとつでも多いほうがいい」
合理的で、無機的な彼ららしい。評しつつ、木影はサイカを呼ぶ。
ぬめる足跡を地面に残しながら、異形の友は彼女の肩へと這い上がる。
「たしかに、放っては置けませんしね」
そして彼女は、ひらりと宙に身を舞わせる。
「ああ、そうそう。千歳ゆまはどこだい?」
「千歳……ああ」
あの、ワルプルギスの夜。暁美ほむらに関係があるのならば、もしかしたら──円環の理。その向こうにいる少女ともなにか、関係があるのかもしれない。彼女が言おうとしていることに、連なるのかもしれない。そう、思いながら。
「シスターのところに預けていますが……それが、なにか」
振り返ったそこに、インキュベーターの姿はない。
どこに行ったのかを悩むほどの興味は、生憎と彼女にはなかった。
魔法少女まどか☆まぎか 〜everyman,everywhere〜
第五話 一番のともだちがほしい
なんで、あの子を選んだの? ──友の問いは、至極単刀直入で、明快だった。
最初は、ほんとうに偶然だったんだ。そう返すと、ショートヘアの友だちはちょっと意外そうに、目を丸くする。
──へえ。てっきり、なんかすごい人選の眼力みたいなのが発揮されたもんかと。
友の言いように、苦笑する。
そんなんじゃあ、ないよ。別にわたしは、神様でもなんでもないんだし。
──またまた、謙遜しちゃって。……んじゃさ、なんで?
白いマントを翻らせて、友はこちらを振り返る。
ええっと、ね。少女は少し顎に指先を当てて、記憶を手繰っていく。
そう。あれはほんとうに、たまたま。偶然という以外のなにものでもなかった。
聞こえてきた声が、あったから。
──声?
──うん、そう。
遠くにふたりは、巨大なそれを見つめている。
ワルプルギスの夜。あれが、いる。
──ほんとうの。一番の友だちがほしいって、声が聞こえたんだ。
彼女たちは大丈夫だろうか、と、少女の心に、いとおしく思う三人の少女の面影がよぎる。
白いマントの少女は隣に立つと、手袋越しに彼女の手をぎゅっと握ってくれた。
ありがとう。言うと、片目でウインクを作って、友は笑いかけてくる。
──時間をどうこうはできなくても。この子ならもしかしたらって、思えたんだ。
友の手は、実体さえ既にないはずなのにあたたかかった。
彼女も、信じている。『ほむらたち』のことを。
あの子たちなら、大丈夫だって。だから、握り返す。同じように信じている自分を、伝えるように。
概念となった少女は、自身の一番の友だちを、最高の友とともに信じ続ける。
奇跡が起こるのではなく、人の手によって起こされるものであることを、願い続けている。だから、行く。
──じゃあ、行こうか。
○※×が、言った。
たった一度きりの、奇跡を迎えるために。
誰にも絶望をさせないために。白マントの少女は、友の願いを胸に、頷き彼女とともに行く。
*
「ったく、なんて数だよ、こいつらはっ!?」
斬り伏せても斬り伏せても、きりがない。
グレイブを振り回しながら、杏子は思わずそう漏らしていた。
街は、瘴気に満ちている。そしてそれ以上に──魔獣たちに、満ち溢れている。
碌に狙わなくったって、適当に放った攻撃が当たるほど。
空中に身を躍らせたマミが、周囲に放出した無数の銃を片っ端から無造作に撃ち放っては捨てていく。それで当たるし、魔獣たちがグリーフシードの結晶に変わっていく。
いくつ、そうやっても。いくら倒しても、まったく数を減らすそぶりを魔獣たちの大群が見せる様子はないが。
まったく、一体どれだけ湧いて出てくるのか。
「あ、おい、ほむらっ!!」
おそらく、こいつらを生み出しているのは上空高くに聳えるあのでかぶつだ。そんなことくらいはわかっている。
けれど魔獣たちの物量に押されて、三人は進めずにいる。
中心の、あの怪物──ほむらの呼んだ名前だと、『ワルプルギスの夜』。あれに、どうにか向かおうと試みながらも。
その状況に焦れたのか、マミの援護を、前に出る杏子を尻目にひとり、ほむらが突出していく。
「マミっ!!」
「こっちも手一杯なのっ!!」
あいつ、接近戦向きじゃないってのに。
ほむらひとりを先行させるわけにはいかない。追いかけようとするも、魔獣たちの壁は厚い。
一歩が二歩、二歩が三歩と、一瞬の踏み込みの差が、ほむらと杏子たちの間に少しずつ距離を隔て広がっていく。
「ほむら!! 戻れって!!」
次々に魔獣を切り伏せながら、杏子は叫ぶ。
目線を向けた先を走るほむらは、魔獣たちの攻撃をかわし、身を翻しながら、己の武器である弓を空中に消失させ、手放す。
「馬鹿、なにやって──……!?」
こんな乱戦の中で武器を手放すなんて、自殺行為だ。杏子が彼女の正気を疑った直後、マミのものではない銃声が鳴り響く。
「──え?」
いつの間に、どこに隠し持っていたのだろう。
ほむらの手に握られていたのは、鈍く黒光りする、大型の拳銃。弓矢よりもはるかに近接戦闘に取り回しのいいそれを駆使し、ほむらは更に前へと進んで行く。
「あれ……は? あんなの、あいついつの間に──……っ!?」
マミのマスケット銃とも違うその様は、見たことのないものだった。
そうだ──あいつがあんな銃、使うところなんて見たことない。あんなの。そう思ったそのとき、ずきりと脳髄の奥底が不快な頭痛を発し、杏子はこめかみを押さえよろめく。
上空、信号機の上から斉射を続けていたマミのほうを見る。彼女もまた杏子と同じように頭を押さえ、思わず膝をついていた。
「ぐ……っ!?」
見たこと、ない? ほんとうに?
そう思った自分自身に対して、どこからともなく疑問が湧き上がる。
魔獣の振り下ろした一撃を避け、へし折られた信号機の上から離れて、ふたりは背中合わせに合流を果たす。
「マミ、あんたも……か?」
「ええ、あれは──ああやって戦う、ほむらちゃんの姿は。きっと、はじめてじゃあない……!」
ほんのひととき、こちらからの迎撃の手が止まっただけでもう周囲は魔獣たちによって隙間なく囲まれている。
「もっと、詳しい話聞かさせねーとな。全然すっきりしない」
「ええ、そうね……だけど!」
この状況。ひとり突き進んでいった彼女を追いかけることすら難しい。
ここを、どうにか突破しないと。
「でかいので、道つくれるか?」
「その間、守りきってくれるなら、ね」
マミの火力で、道をこじ開けるしかない。ふたりの認識は同じだった。
「わーってる。やるしかねーだろ」
グレイブから、鎖を解き放つ。
「急げよ」
大蛇のようにうねる連節棍が閃き、周囲から魔獣たちを切り刻み、追い散らす。
来るなら、来いよ。得物を構え、魔獣たちを睨みつける。
その眼前で、無数の魔獣が肉片へと変わり、遅れて結晶となる。
「「!?」」
その殺戮をなしたのは杏子ではない。一体、何が起こった。
瞬きする間もなく、魔獣たちは次々になます切りにされていく。
「突破口を開く準備があるのなら、はやくその用意を」
そしてふたりの背後からは、静かな声が響く。
身を翻せばそこには、純白のドレスがあった。
「そういうことっ!」
頭上に舞い踊るは、対照的な漆黒。
燕尾服の袖口から、それぞれに鋭利な三本爪を左右に広げた眼帯の少女が降下とともにまた魔獣を屠り去る。
「あなたたちも……魔法少女……?」
純白の魔法少女は、マミの言葉に応えずただ、無言で促す。
見据える相手の表情にやがてマミも頷き、眼前に乾坤一擲の一手を形成すべく、瞳を閉じる。
杏子も、じっとしてはいない。
黒衣の魔法少女だけにはやらせじと、周りの魔獣の掃討にかかる。
「ハハッ!! なァんだか、変な感じっ!! どこかで会ったこと、あったっけ!?」
そりゃあ、こっちだって同じさ。黒の魔法少女の笑い声に、思わず苦笑する杏子。
「さァなっ! あんた、名前はっ?」
愛槍、一閃。振り抜いた瞬間に生まれた隙を、もう一方がカバーし。
「キリカ! 呉、キリカさっ!」
「そうかいっ!」
初対面のはずなのに、はじめて会った気のしない相手のフォローを杏子もする。
お互い、高速を身上とする近接戦闘型のスタイルの持ち主だ。どこをどう、補い合えばいいかくらい、体感でわかる。
「ほんとうに、不思議」
形成されていく砲身を前に、マミも呟く。
これも、『以前の世界』があったからこそ抱く感覚なのだろうか?
なんとなく、わかる。そういう世界があったということを告げられたからだろうか、認識できる。
自分たちも、彼女たちも。きっと以前も魔法少女だった。
関係が良好だったのか、そうでなかったのかはわからないけれど。
きっと自分たちはここではないどこかの世界でも出会い、戦ったことがある。そういう同じ存在が、今すぐそばにいる。
「ここは私とキリカで食い止めます。あなたたちは、お友だちを追いなさい」
「ええ……そうさせてもらうわ!!」
そして、巨大な砲塔が正面にその大口を開ける。
撃鉄ががちゃりと、鈍く動く。
「ふたりとも! いくわよっ!!」
黒が。赤が。身を宙に翻し、砲口の前に射線を開ける。
マミの振り下ろした手が、その一撃を撃ち放つ。
「ティロ……フィナーレッ!!」
*
あそこに、行かなくては。ほむらは、走る。
あれは、あるはずのないもの。あっては、いけないもの。
「どうして……そんな!」
久しく握ることのなかった拳銃と、同じに。上空に浮かぶそれはかつての世界でほむらとともにあったものだった。
己が手の武器として。その武器を向ける相手として。
自らの意思で、ひとつの目的に向かい走り出したそのときから常に。
「ワルプルギスの夜……あなたは、消えてなくっちゃあいけないのに!!」
眼前に湧き出る魔獣。走る両脚を、ほむらは休めない。
跳び上がり、その顔面に組み付いて。オートマチックの拳銃が放つ鉛玉、ホローポイント弾を断続的に叩き込む。
「あれが……私!? 私だというの!?」
自分の積み上げた因果だから、倒せなかった。
常にそのときの自分より強力な存在であったから、より強大な自分自身だったから……私には、かなわなかった?
返るたび、時間を戻るたび。すべてがリセットされていたと思っていたのに。特別な魔法の使い手だった自分以外、なにもかも。
その特殊な例外だった自分自身が、あれになった?
聳える巨体を見上げながら、ほむらの心は吐き気じみた苦みに満たされていく。
ワルプルギスの夜は、もうそこまで迫っている。
ほむらは拳銃を捨て、矢を番えた。
「私は……私はっ!!」
ありない。ありえないよ。今までの、私の絶望は全部まどかが持って行ってくれたんだ。
だからお前はいてはいけない。お前はこの世界にいらない──張り裂けそうな叫びとともに、ほむらは無数の矢を放つ。そしてそれはワルプルギスの夜に向かっていく。
全弾。ひとつの例外もなく、命中。
これが、私とまどかの力。お前は、いなくなれ。肩で息をしながら、ほむらはワルプルギスの夜を包み込んだ爆風を見上げる。
「……っ!!」
その爆風はしかし、ほどなく巨体の巻き起こした突風に吹き飛ばされ周囲に散っていく。
──無傷。あまりに頑強、あまりに、強固。
こんなところまで、以前と同じ。違うのは──……、
「使い魔!? 違う、魔女!?」
いいや、魔女でもない。ワルプルギスの夜の一部だ。『それ』を見た瞬間、ほむらはそう判断する。そして即座、応戦に移る。
ワルプルギスの夜が放出した、複数の物体。それが粘土のようにかたちを変え、みっつの同じ姿を形成していく。
黒い三角帽、長い、やはり黒の三つ編み髪。漆黒の身体。
それは今までほむらが見た魔女たち、使い魔たちの中で最も「魔女らしい魔女」の姿をしているように見えた。
間髪入れず、ほむらは矢を放つ。三発同時、それらめがけて。だが。
「!?」
動きの軌跡も見せず、それらは矢を避け、ほむらに肉薄「していた」。
「いつのまにっ!?」
驚愕しながら、再び距離をとりながら。しかし内心、ほむらは理解していた。
たった今、こいつらが見せた動き。矢を避けいつしか間近にあった現象。これは、かつてほむらの得意としていたものと同じ。
「時間操作……っ!」
ビルの屋上から屋上を、跳びまわる。
距離をあけては、また詰められる。その繰り返し。相手は時を駆けられるのだ──振り切れるはずもない。
「な……しまったっ!?」
何度かの繰り返しの後、その均衡は崩される。
先回り──気付いても、遅い。
足場として目算していた眼下のビルが、文字通り追跡者たちの手によって、「破壊されて」いた。降り立つはずのそこが、崩れ落ちていく光景があった。既に、用意されていた。
「く……!」
ならば、反撃だ。身を反転させ、弓を構える。
だがそのときにはもう、三体の怪物はほむらの間近にあった。
発射したとて、もはや再び、時すでに遅い。
こんなところで、やられるわけには。ほむらの首筋を、冷や汗が伝っていく。どう、すればいい。
「背中ががら空きよっ!!」
取り囲む、三体。しかしその攻撃は、それぞれの背に地上から命中した炸裂弾の爆風が遮っていく。
更に迫るのは、黄色いふたつのリボン。それは敵だけにではなく、ほむらへもまたまっすぐに伸びていく。そしてその一本はほむらを巻き取り、包囲網から引きずり出し。もう一本は三体を同時にからめ捕りひとつの場所に密集させるため。
「う、おらああああぁぁっ!!」
ひとところに集められたそれらを、横一文字の斬撃が真っ二つに切り裂いていった。
その様相に見とれていたほむらは、地面ではなく両腕の中に落着する。
「ったく。よーやく追いついた」
眼前に降り立つ赤と、抱き止める黄。
「杏子……マミ、さん」
傷だらけの仲間たちが、そこにはいた。
ワルプルギスの夜が支配する空の下、ほむらはひとりではなかった。
(つづく)
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