投稿作品は

 慌てずじっくりとつくりあげる方向と自分では決めているんですが(就活もせにゃならんしね)。
 それでもまあ、なんらかの賞の〆切が近づいてくるとやっぱり焦りにも似たものは心のどっかに生まれてくるわけで。
 ラノベラノベしたお話か、自分の得意な作風に徹するかとか含めて色々悩んだり迷ったりすることばかりでございます。
 
 閑話休題
 
 さて、まどマギss第七話でございます。たぶんあと二話くらい?←どうでしょうラストランなみに終わり話数があやふやになってきた計画性のない男
 六話までは短編保管庫に。
 では、続きを読むからどうぞ。
 
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 見た瞬間、ひと目でわかった。
 こいつらが、なんなのか。あたしにとって、どういう存在なのか。
 杏子は──理解してしまった。
 
 こいつらは。こいつらの大元の、あの火頭は。あれは、あたしだ。戦いながら。いや、一方的にいたぶられながら、杏子はそう、はっきりと認識する。
 
「う……、ぁ……っ」
 
 ずたずたになった着衣が、邪魔でしょうがなかった。
 穂先の折れた槍を支えに、身体ごとそれらを引きずるようにしてどうにか身を起こす。
 瞬間、蹴り飛ばされる。
 魔女の跨る、その馬の蹄に。地面を転がりながら、忸怩たる思いを噛みしめる。
 
 ──そりゃ、そうだよな。だってあたし、強いもんな。
 
 電柱へと激突をし、ようやく止まり。咳き込む息とともに血を吐き出す。
「け、ふ……っ。く、そ……っ」
 
 ──そのあたしが、あんな化け物になってんだ。そりゃあ、無茶苦茶強いに決まってる。
 おまけに、敵はもう一匹いるときている。
 甲冑をまとった、人魚のような別の化け物。見ているとなぜだか不愉快になってくるそいつが、動けぬ杏子の身体を鷲掴みにして握りしめる。
「ぐ、ああああぁぁっ!!」
 全身の骨が悲鳴を上げる。体じゅうが軋み、声の限りに杏子は苦悶を叫ぶ。
 一方的だった。そうやって締め上げられている杏子の周囲に、どれが本物かすらわからない戦旦の魔女とその使い魔たちが群がってくる。
 状況は、絶望的。しかし掠れ声を杏子は、必死に振り絞る。
「い……け、よ……ほむ、ら……っ」
 馬鹿野郎。こうやってあたしが、「あたしより強いあたし」の相手してやってんのに。
 マミだってそうだ。重傷の身を押して、迫るリボンを懸命にかわし。崩れた態勢に容赦なく大蛇のような尻尾で打ち据えられ、叩き落されて──それでも二対一の不利な状況に立ち向かっている。
 たぶん、杏子同様にあの黄色の小さな奴が自分自身であると、理解しながら。
 
 ──行け、っつってんのに。ほんと、らしくねえ。
 一対一なら、ほむらの実力なら抜けられるはず。あっさり楽勝とはいかないにしろ、集中することができれば、倒せる。なのにほむらは敵を倒しあぐね、こちらをしきりに気にしている。
「うあ……っ」
 強く、強く全身を握りしめていた腕が、無造作に杏子を投げ捨てる。
 杏子は、まっすぐに瓦礫の上につっこみ、転がって。それ以上の声すら上げられず、折れた標識の前に転がる。
「杏子……っ!! マミさん!!」
 ──だーかーら。名前呼んでる場合かっての。
 言いかえしてやりたかった。でも喉がくぐもって、もう言葉が紡げなかった。
 顔も持ち上げられない。微かに動くのは、血だらけの指先だけ。もはや痛いとか、痛くないとかさえ通り越して、全身の感覚が消えかけている。
  
 どさりと、すぐ隣で音がした。
 マミ、か? テレパシーを送ると、少し間が空いてやはり、呻き交じりの声が返ってくる。
 どうやら、お互い。だいぶん、限界にきているらしい。
 
 こいつはもう……ダメかも、な。
 どうにか、渾身の力を込めて、先ほどは持ち上がらなかった首から先を動かす。
 少しずつ迫ってくる、怪物たち。
 自分の相手だけと戦って、倒していればいいのに、こっちのことなんて放っておけばいいのに。やっぱり、らしくない。ほむらはそいつらを止めようと躍起になって、挑みかかって。そして苦戦している。
 その向こう。数十メートルはあるだろうか、先刻、教会で見たあの不気味な生物があまりに大きくなった巨体を蠢かせて、……はたして杏子たちに気付いているのかいないのか、ただひたすらに魔獣たちを噛み砕き、飲みこみ続けている。
 空には、でかぶつ。結局、どうにもできないままだ。
 あたしらが斃れたら、あとはほむらひとりだけ。──ここまでかな、あたしたちも。
 不思議と、絶望とか、そういう感情はなかった。
 諦めというか、観念というか。どうしようもない。「仕方ない」って、そういう感情が真っ先だった。
 
「──キョーコっ!!」
 
 その声を、耳にするまでは。


魔法少女まどか☆マギカ 〜everyman,everywhere〜
 
第七話 まもりたいよ、まどか

 
 
「……ゆまっ!? どうして!?」
 振り下ろされた爪を、弓で受けながら。ほむらは現れたその姿に、眼を見開いた。
 倒れ伏す、杏子とマミ。そこへ駆け寄っていく深い色の髪。
 その少女は、『魔法少女』でもなんでもない。単なる小さな女の子。
 どうして、ゆまがここに。驚愕に脳裏を支配されつつも、後ろに回り込まれた瞬間、敵である魔女へととっさに牽制の矢を放つ。
 
 たしかにかつて、ほむらの知る時間軸のゆまは魔法少女『だった』。
 けれど、今は違う。契約なんてしていないはずだし、保護者である杏子がそれをゆるしているはずもない。
 その、無力な女の子のままであるはずのゆまが、どうやってここに。
「不思議かい?」
「……キュウべえ、あなたまさか……!?」
 後方に後ずさって魔女たちから距離をとったほむらの隣に、白い影が降り立つ。
「なにもボクの知る魔法少女はきみたちだけじゃあないということさ。ちょうどいいことに、『聖団』の手を借りることができてね」
「──聖団……?」
 無表情の、白い監督者。その、さも当然のような言いざまに、物陰へと身を隠しつつ、眉を寄せる。
 そこに重なる、見えるはずのないイメージ。黒い……キュウべえ
 一瞬浮かんだその虚像を振り払い、白き契約者をほむらは見つめる。
 ゆまが、契約したのではない。ならばどうして、彼女をこんな危険な場所に連れてきたのか。
 
「きみたちをまだまだ失うわけにはいかないし、あの上空のやつからは素晴らしいエネルギーがもらえそうだ。きみたちには頑張ってもらわないとだからね」
 
 守るものが側にあれば、ヒトという存在はより頑張るものだろう?
 言ってのけるインキュベーターは、何の感慨もその言葉に含ませてはいない。あいかわらず──こいつは、こういう連中ということか。
「それに、杏子が納得しさえすれば、ゆま本人は既に魔法少女になりたがってるんだ。てっとり早く戦力も増やせるし、すぐに投入もできる。いいことずくめだろう?」
「あなたというモノは……っ!」
 つまり、ゆまは杏子に対するエサ。
 こいつは、いつもいつも。瞬間的に膨れ上がった憤りが、思考を満たす。
 なのに。
 
「!?」
 
 次にその白亜の身体へと浴びせかけていたのは、怒りを込めた鉛の弾でも、光の矢でもなかった。
 
 なぜか──ほむらは、忌々しきその相手を、庇っていた。
 上空から降り注ぐ、攻撃。ワルプルギスの夜からの、災厄の驟雨から。
 庇う理由など微塵もなく、またそれを受けたところでインキュベーターにとって僅かの痛痒にも感じぬはずなのに。
 他のどんな魔法少女よりほむらはそれを、わかっていたはずなのに、だ。
 なぜだか自分でも把握できぬまま、ほむらは白いその意識の集合体を抱きかかえ、身を呈していた。
「ぐ……、ぁ……っ、く」
 足が、腹が。穿たれる。
 続き降り注ぐ瓦礫に、身体が押し潰される。
 激痛の中、ほむらはどうにかそこから、這い出して。
「……ほんとうに、きみは変わったね。まったくもって、不思議だよ」
「う……く」
 吐き出す息から、血の匂いがした。
 震える身体を、必死に両手で支える。
「前のきみなら、ダメージ覚悟でボクをかばうなんてしなかったはずだ。この、数か月間。やはりきみはなにかが少しずつ、おかしいね」
「言う、なっ……!!」
 更に、追い打ちの攻撃。無様にほむらはそれに撃たれ、あるいは身を捩って、惑い続ける。
 どうしてかばったかなんて、自分でもわからない。
 やられたってどうせ、すぐまたこいつは現れるに決まっているのに。
 そう、わからない。わからない──……わかってなんか、ない。自分が、理解できない。
 
 ……ほんとう、に?
 
「わた、し、は」
 杏子が、ボロボロの身体をひきずって、抱き寄せたゆまとともに攻撃から逃げ続けていた。
 マミが──ふたりから魔女の注意を引きつけようと、もはや狙いすら定まらない銃口を持ち上げて、撃ち放っていた。
 対する魔女は──いや、魔女たちに見えるそれらはきっと、以前のようにワルプルギスの夜が生み出した使い魔なのだ──その数は、一向に減らない。次から次へと空より吐き出され、その数を増やし続けていく。
 ふたりとも、既に限界などとっくに超えている。長くは、もつまい。
 今にも、ふたりが消え失せそうになっている。それは友が消すことを望んだまさに絶望の二文字、そのもの。
 
「私は、もう」
 
 あの子と、かわした約束を忘れたことなんてない。かたときも。何度だって、この目を閉じれば浮かんできた。確かめ続けてきた。
 世界が、変わる前から。世界が変わってからも、ずっと。
 闇が押し寄せてきても、振り払って進んできた。
 
 やっと、そうして。辿り着けたんだ。ここに。
 
 あの子の見せてくれた、この世界に。壊れた世界の、歪んだ因果から、抜け出すことができた。
 だから今、私はここにいる。
 この世界で、生きている。
「もう……なにも……、失いたく、ない……っ」
 そうだ、だから失いたくない。
 あの子のくれた、この世界を──その、すべてを。
 杏子や、マミさんや。ゆまや、それだけじゃない、多くの人々。それに、その性質を僅かとはいえ変えた、キュウべえでさえ。
 守りたい。守りたいんだ。
 
「守り、たい……よ……まど、か……っ」
 
 なのに。この世界で、私は弱くなってしまったのだろうか。
 皆や、まどかのやさしさに包まれて。振り返れば、仲間がいて。誰にも頼らないと決めた、あの頃よりも。
 降り注ぐ攻撃に倒れ伏しながら、霞む視界で空を見上げる。霞んだ双眸は、潤んでもいて。
 頭上の空高く座する絶望の化身を、自分は倒すことはできないのか?
 今度も、また。
 強くあろう、打ち倒そうと一心不乱だったあの頃より、自分は弱くなったのか──弱いままなのか。仲間を得ても、やっぱりダメなのだろうか?
 あの怪物の覆い隠す向こうにある蒼い空を見ることは、できないのだろうか?
「どうしたら……どうしたら、いいの……っ」
 今の自分に、時間をリセットする能力なんてない。失ったものを、やりなおせない。
 空には、魔女。大地には異形喰らう巨魁咆哮する中、ほむらは嗚咽する。
「なにが……できるの……? わかん……ないよ……」
 守るって、決めたのに。
 まどかの望んだ世界を、守り続けなくちゃいけないのに。
 
 守れない──の?
 
 あの、空に浮かぶ絶望の前ではあまりにほむらは、無力で。
 昔なら。ひとりで戦っていたあの頃なら、それでも折れることはなかったのかもしれない。
 だけれど、今は知ってしまっている。
 まどかの守った、皆のいる世界を。絶望のない場所に、やすらぎをきっといつしか、覚えてしまっていた。
 辿り着いたこの世界を、失いたくない。
 失いたく、ないよ。
 
「杏子ちゃん!!」
「!!」
 
 マミの叫びに、視線が引き寄せられる。
 上空から、緑の影が投げ出されていた。
 その影を──とっさだったのだろう、杏子の放した幼いゆまの身体を、マミは自身の血を撒き散らしながらも受け止める。
 ゆまを手放した杏子は、叩き落される。
 受け身もとれず。魔女たちの攻撃を受け、瓦礫の中に埋もれていく。
「杏子!!」
 夢中で、矢を番える。
 だが、させじとばかりに空から降り注ぐ無数の光の矢。
 ほむらの全身をそれらは撃ち、悲鳴とともにほむらは崩れ落ちる。
 ダメだ。失えない。失いたくない。瞳に流れ込む血で染まった視界で、なおもほむらは起き上がろうとする。
 自身に迫る、決定的な危機に気付かぬまま。
「ほむらちゃん!! 逃げなさい!!」
 マミの声に、ようやく認識する。
 瓦礫の上でもはや微動だにせぬ杏子へと、とどめを刺さんと魔女が迫るのと同様に、自身にも凶刃が近寄りつつあること。
 避けようも、防ぎようもない。
 あの子を待つのは、おわり。ごめんなさい──マミさん。あなたを、私たちはひとりにしてしまう。
 
 ごめんなさい、まどか。私……守れなかった。
 
 目を伏せながら、ほむらは思う。
 
 思った瞬間、現れるのはあまりに陳腐な──走馬灯のような、記憶と想い。
 あの、ワルプルギスの夜が自分自身、ほむらそのものであるのなら。消えたはずのあれを連れてきたのは、自分だ。
 だったら最初から、こうなる運命だったのかもしれない。
 すべての因果が書き換えられたこの世界に、変わらぬ記憶を残した自分が存在したそのときから。
 もう、ダメだ。やりなおせない。その力も、手段も今のほむらにはない。
 奇跡を起こすには、相応の代償がいる。相応の、力もいる。
 ほむらには、起こせない。やっぱり、頭を巡るのは同じ。繰り返す──走馬灯じみた、無数に繰り返してきた時間の記憶と、そこから解き放たれた後のあたたかな記憶。
 
 結局私には、何ができたんだろう?
 やさしいあの子と、あの子のくれたこの世界のすべての人たちに、甘えてばかりで。
 守ろうとしたけど、ダメだった。
 守れないなら、自分にやれるのは……もしかすると、消えることだけなのだろうか?
 
 たしかなのは、もうじきその世界から自分がいなくなるということ。消えようとしている杏子を、救えぬこと。マミさんを、残して逝くこと。
「──ごめん、なさい……」
 ごめんね、まどか。
 髪を飾ったリボンが、ほどけた。膝の上に落ちたそれを、ほむらはぎゅっと握った。
 
 ──大丈夫。奇跡も、魔法も。……あるんだよ。
 
 そして聞いたその声は、空耳だったのだろうか? いや。
 
 ──約束したじゃない。絶望で終わらせたり、しないって。
 
 聞こえたそれらは、あるはずのない少女たちの声。ふたりぶんの、語りかける言葉。
 なぜ、聞こえたのか。理由をほむらが、知る由もなかった。
 
「──……っ?」
 
 それらの声が響いたその瞬間に、魔獣たちを喰らう巨獣の胎内で、砂時計の砂が最後のひと粒まで落ちきっていたこと。
 円盤の歯車がかちりと音を立てて、奇跡を起こし始めていたこと。
 それから。巨魁なる異形の喰らった魔獣の数が、ほむらの繰り返してきた時間の、七の七十倍を、刻んでいたことを。
 それは、奇跡の数字。しかしそのことさえ知らず、座してほむらは最期を待った。
 
 矢が、迫る。その、視界が。光に包まれていった。
 やわらかな──桜色の光に、包まれていった。
 
(つづく)
 
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