もうすぐ新スレの時期ですね。

出かけ前に更新。
スレ投下分の第五回〜七回にあたる部分です。
 
 
forget-me-not
 
第三回 フェイト救援
 
「頼んだよ、フェイト」
 
クロノの言葉に、フェイトは小さく頷いてみせる。
言うと同時に彼が肩に置いた手には、信頼が篭っている。
ならば、自分はそれに応えなくてはならない。
 
「行ってきます」
「アルフも。なのはのことを頼む」
「ああ、わかってるよ。行こうか、フェイト」
 
フェイトとアルフ。二人の身体が、黄金色の光に包まれる。
長い距離をわずかな時間で移動するための、転移魔法。行き先は───……、
 
「地球、日本の海鳴市へ」
 
光は次第に強くなっていき、それに溶け込むかのようにフェイト達の身体が薄らいでいく。
そして光が消えた時──すでに二人の姿はそこにはなかった。
 
「……頼む」
 
現在アースラは、強大な魔力の発動を感知し地球に近い座標に停泊している。
90%以上の確率でダイムによるものである───……。
アースラの誇る最新鋭の計器類は、調査の結果をそう結論付けていた。
本来なら武装局員を率い、執務官たるクロノも前線に立つべき状況だ。
しかし膨大な魔力によって引き起こされた航路の乱れが、
それ以上の艦船による接近や、多人数での転移を不可能なものとしていた。
行けるのは、せいぜい一人か二人。
そう聞かされたとき、自分が行くつもりだったクロノよりも早く、即座に志願したのがフェイトだった。
 
「約束したから。なのはが困っていたら、助けに行くって」
 
かつてクロノ達に見せたことのない強い意志のこもった目で、フェイトは言った。
 
「なのはのことを……守りたいんです。助けたいんです、友達だから」
 
踵を返し、早足でブリッジへと向かうクロノ。
二人の行ってしまった余韻をじっと眺めているヒマはない。
すべきことはまだ、山ほどあるのだから。
なのはの元へ向かったフェイトには、フェイトの。
この場へと残ったクロノにはクロノの、やるべきことが。
 
*     *     *
 
前に向けた掌へと、意識を集中する。
イメージは光の矢。次第に魔力が収束してくるのが、自分でも感じられる。
 
「いっけええっ!!」
 
気合とともに放たれた矢が向かうのは、目の前の空間。
そこだけがまるで塗りつぶされたかのように真っ黒になっている、その場所だった。
着弾と共に轟音が響き、辺りに土煙が立ちこめる。
 
「どうだっ!?」
 
肩で大きく息をしながらも、少年──ユーノはじっと、光弾の当たった先を見つめる。
煙が晴れた先には先ほどと何ら変わることなく、黒く塗りつぶされた空間が広がっていた。
 
「だめ、かっ!!」
 
少年は落胆を隠せなかった。
思わず尻餅をつき、流れ落ちる汗をぬぐう。もうほとんど魔力も残っていない。
元々あまり得意でないタイプの攻撃魔法を連発したために、普段よりも消耗がはげしい。
 
(くそっ!!)
 
眼前の黒い空間は、おそらく結界。それも、ユーノの力では破壊することもできないほど強力な。
そしておそらくは、連絡のとれなくなったなのはもあの中にいる。
他のどこにも見つけられなかった以上、そう思って然るべきだ。
 
(だけど……)
 
結界に秘められた魔力はあまりに強大で。その外壁はあまりに強固だ。
なのはやフェイト並みの破壊力がなければ、進入することはできまい。
 
「もう、一度!!」
 
なんだかいやな予感がする。例え残った魔力が少なくても、やらなくては。
立ち上がり、再び詠唱をはじめるユーノ。
魔力が尽き果てるまでは、何発でも。なのはの元になんとしてもいかなければ。
そして、ユーノが次弾を発射しようとしたその時。
 
「っ!?」
 
「何か」が眼前の空間から、閃いた。黒く金属質な「何か」が。
魔力弾を放つことのみに集中し、かつ消耗しきったユーノにそれをかわすことは叶わない。
 
「ぐ、うっ!?」
 
両手、両足。四肢を、万力で締め上げられるような痛みが駆け巡る。
いや、違う。
ユーノの身体は、空間内から突如現れた幾重もの漆黒の鎖によって、がんじがらめに拘束されていた。
強靭なその力の前に、ユーノは必死でもがくものの全く身動きが取れない。
彼自身も鎖によって相手を拘束する魔法を使うが、この鎖の力はそんなものとは桁違いだった。
 
『───邪魔は、させない───』
 
(女の子の、声……!?)
 
強まっていく鎖による圧迫感の中で、ユーノは少女の声を聞いた。
悲しげな、けれどユーノにとってどこか懐かしい声。
鎖から魔力を吸収されているのだろう、身体から次第に力が抜けていく。
 
「なの、は……」
 
無力感と、疑問。様々な思いを抱えながら、ユーノの意識は混濁していった。
 
*     *     *
 
──だが。
 
『scythe form set up』
 
救いは訪れた。
消えかかった意識の中、聞いたのはいつか聞いた声。
 
『scythe slash』
 
そして、いつか見た技。
光輝く刃が、いくつもの軌跡を描く。
漆黒のマントを翻し着地した少女は、手にした無骨な大鎌を縦横無尽に薙ぎ払っていく。
 
「はあああっ!!!」
  
少女がその動きを止めて振り返った時、少年の身体を拘束していた鎖、その全てが断ち斬られていた。
そして少女は、力なく倒れる少年をやさしく抱き止める。
 
「あ……?」
 
やっとのことで見上げた、そこにある顔。
 
「フェイ……ト……?」
 
懐かしい少女──フェイト・テスタロッサ
殆どの魔力を失い、朦朧とする意識のなかでも間違えるはずはない。
君がどうしてここに。訊ねようと唇に力を込めるが、もぞもぞと動くだけでそれ以上声が出ない。
 
「説明は、あとでするから。今は、手当てを……アルフ」
「あいよ」
 
もう顔を動かすこともできなかったけれど、ユーノにも返事をしたのがアルフだとわかった。
 
「よかった。これといって怪我してるとこはないみたいだね」
 
安心したような、アルフの声。
実際、魔力の消耗こそ激しいものの、ユーノの身体にこれといって大きな怪我はなかった。
小さく頷き、横たわるユーノの上へと手をかざすフェイト。
魔力を消耗しているだけなら、こちらの魔力を分け与えて補ってやれば良い。
しかしアルフは主人のその行動を押し止め、首を左右に振る。
 
「ストップ」
「アルフ?」
「フェイトは魔力とっときな。まだ、本番が残ってるんだからさ。少しでも温存しとかないと」
「でも」
「大丈夫。あたしがやる」
 
フェイトの手を下げさせ、代わりに自分の手を向けるアルフ。
要領は、かつてジュエルシードを強制発動させた時と一緒。
ただ、違うのはやさしく。相手を傷つけないように魔力を送る。そのことに注意すればいい。
少しずつ、少しずつ。
荒かった呼吸は徐々に規則正しいものに変化し、苦しげだった彼の表情も落ち着いたものになってくる。
 
「よしっと」
 
それでもユーノに分け与えることができたのは、必要最小限の魔力に過ぎない。
アルフも、魔力を温存しておくに越したことはないのだから。