さばかん氏の話には独特の味があるなぁ、と読むたびに思うのですよ。

ただ人を選ぶだろうなー、とも。あわない人にはとことんあわないだろうな、と。
それがさばかん氏の作風だと思います。その分独創的で面白い。
 
 
んでは加筆版の第五回を。スレ投下版の十二回〜十五回分です。
 
 
forget-me-not
 
第五回 理由
 
  
銀の少女が放つ光弾を、フェイトは次々とかわしていく。
 
「許さない!!なのはに、こんなことを……っ!!」
 
光弾の間隙を縫ってフォトンランサーを撃ち出す。
狙いは正確、威力は充分──少女は防御魔法を張りつつ、ぎりぎりで回避する。
 
「悪いけど、バルディッシュには!!君の能力は通用しない!!」
 
──そう。力を封じられたなのはのようには、いかない。
叫びながらバルディッシュの光の刃を、横一文字に薙ぎ払う。
 
結界の外でユーノから聞いた、ダイムの結界発生能力。
それこそが、なのはが手も足も出せずに敗北し。
そして、目の前の銀髪の少女───彼女、ダイムが封印されたもう一つの理由。
その中ではダイムは常に最大出力を発揮できるという。
だが一方で、結界内に満ちたダイムの強大な魔力はスクライア族製のデバイスへと干渉し、その能力を著しく低下させるのだ。
 
「はあっ!!」
 
なのはのレイジングハートも例外でなく、
大きく力を制限された状態ではさしものなのはも勝てるわけがなかった。
 
(けど、バルディッシュなら)
 
フェイトの杖、バルディッシュは完全オリジナルのワンメイド品。
幼い頃母親代わりだった女性が、手塩にかけて作り上げた代物だ。ダイムからの干渉をうけることはない。
 
───きっと、なのはを助けてみせる。
 
少し、戦ってみてわかった。目の前の少女が相手なら多分勝てる。
魔力ではあちらのほうがずっと上だが、戦闘能力自体は昔の、出会ったばかりの頃のなのはより少し上程度。
これなら、やれる。早くなのはを助けなければ。
フェイトは休むことなく砲撃魔法を放ち、自らも光刃を手につっこんでいく。
 
『────仕方ない────』
 
ダイムはせまる光弾をすべて迎撃すると、なのはのほうをちらと見る。
その挙動はフェイトの目にも映っていた。
少女の不審な行動に、彼女は目を顰める。
 
(何を……?)

『───雷撃───』
 
少女の言葉に雷が煌き、周囲が真っ白に染まる。
 
「あああああああっっ!!!」
「なのはっ!?」
 
雷の撃ったもの。それは他でもない、囚われの少女の肉体。
落雷の閃光が、なのはの全身を駆け巡り彼女は悲鳴をあげる。
雷に貫かれる友の姿に、フェイトの動きと思考が停止する。
ダイムへの攻撃の手を止めなのはの名を叫び、思わず手を伸ばした。
力なく拘束されるだけだった彼女の身体が、電撃によってびくびくと激しく痙攣を繰り返していた。
 
『──ここ──」
「しまっ……!?」
 
フェイトがなのはに気を取られている隙に、ダイムは至近距離まで詰めてきていた。
 
『──落ちなさい──』
 
フェイトの腹部に、強烈な痛みが衝撃を伴って、走った。
 
 *     *     *

 「フェイト!!」
 
ダイムからの攻撃を至近距離でまともに喰らい地面へ墜落するフェイトを、間一髪アルフの腕が抱きとめる。
強力な魔力弾の直撃にバリアジャケットの腹部が破れ、煙を噴いていた。
気が遠くなりそうな痛みに、フェイトはぎりぎりと歯を食いしばり耐える。
 
「大丈夫!?」
「平気、なのはは……もっと、痛くされたんだ……!!」
 
なのはの受けた痛みに比べたら、こんなもの。てんで大したことはない。
押しのけるようにしてアルフの腕の中から、もう一度フェイトは飛び立っていく。
ダメージはけっして浅くはない。それでも、なのはを助けるために。
 
バルディッシュ……!!」
 
フォトンランサーの発射体勢をとろうとするフェイト。
 
『───邪魔はさせない───』
「っく!?」
『──あの子がどうなってもいいの──』
 
そして再びなのはの身を撃つ、一条の雷。
轟音と悲鳴が、結界内に木霊する。
 
「なのはっ!!」
 
駄目だ。今のなのはの状態では。これ以上は、なのはの身体がもたない。
目の前の少女を無視し、上空に繋ぎとめられたなのはの元へ急ぐ。
手遅れになる前になのはを、助け出さなければ。
 
「やめてぇっ!!」
 
だが、それこそがダイムの狙い。
邪魔者と、標的。その両方を一度に葬るための罠。
 
『───スターライト、ブレイカー───』
「!?」
 
チャージタイムゼロで放たれた一撃。
極太の光の柱が、フェイトとなのはを目指し、飲み込んでいく。
 
 *     *     *
 
───行かなきゃ……。
 
少年は、苦痛に顔を歪めながらも顔をあげる。
その先にはひび割れ、大きく穴の穿たれた漆黒の空間が見えている。
あの中に、行かなければ。
皆の待っている、戦っているあの場所へ。
 
(フェイトたちの言ったとおりなら……)
 
「彼女」に本当のことを伝えなくては。それができるのは、「彼女」を作った一族である自分だけ。
 
「待ってて、なのは……フェイト……。そして、ダイム……」
 
 *     *     *
 
引き裂かれそうなほどに、右腕が痛い。
 
「っ……ぐうううううっ……!!」
 
光の噴流の中、フェイトは全力で防御魔法を展開し、ダイムの一撃を耐えていた。
本来、自分が防御魔法を苦手としていることなど、重々承知の上だ。
相手の攻撃に、当たらないに越したことはない。
それでも、フェイトは避けるわけにはいかなかった。
彼女の背後には、傷ついたなのはがいる。それを放っておいて自分だけが逃げるなど、とても考えられることではない。
 
「っ……どう……して!?」
 
差し出した右腕はみしみしと今にも折れてしまいそうな音を立て、圧迫感に耐えている。
泣き叫びたくなるような痛みは、その防御があまりにも彼女の防御能力に対し無理をしているから。
 
「どうして、こんなこと……っ!!」
 
額に汗を浮かべ、眉根を寄せ。フェイトは語りかける。
それはかつて、なのはが自分にしてくれたこと。自分にだって、きっとできる。
わけを聞く。聞けばきっと、なんとかする方法がある。
 
どうしてそうまでして、レイジングハートを……なのはを憎むのか。
 
「君にとってレイジングハートは……妹も同然じゃないか……!!」
『───言うな……!!───』
「ぐっ、うぅっ……!!うぁ……!!」
 
光芒が、その太さを急激に増していく。怒りに任せて、ダイムが魔力を魔法に上乗せしたためだ。
ダイムの右腕に込められる魔力の増加に伴い、スターライトブレイカーの破壊力も雪だるま式に膨れ上がっていく。
必死にそれをこらえるフェイトのラウンドシールドには幾筋ものヒビが蜘蛛の巣状に広がり、
それを耐えるにはもう、彼女の能力では限界が近いということを告げていた。
 
『───何が、妹だ───』
 
ダイムの全身に満ちるのは、どす黒い怒り。
これまでのどこか冷たさを感じさせる態度とはうってかわった、激昂しすさまじいほどの激情だけに支配された姿。
 
『───私はそいつに───』
「あっ……く!!」
 
シールドを維持していた右の手袋が裂け、中の手から血が滴り落ちる。
思わず苦痛の声をあげるフェイトの前で、シールドの亀裂が広がっていく。
端のほうはもうすでにグズグズになり、ぽろぽろと崩壊を始めている。
 
『───全てを奪われたんだ───』
「く……!!」
 
だめだ。これ以上は、支えきることはできない。
 
(せめて、なのはだけでも!!)
 
左手に持ったバルディッシュを掲げ、サイズフォームに変形させる。
──アークセイバー。鎖さえ切断すれば、きっとアルフが受け止めてくれる。
 
『──だから私はそいつを───』
 
だが、フェイトがそれを行動に移す前に。
少年の声が、その場の一同の意識をそちらに向けさせる。
 
「違う!!やめるんだ、ダイム!!攻撃を、やめて!!」
『───!!───』
「ユーノ!?」
「あの馬鹿!!あんな体で……!!」
「はやく!!さもないと、君の身体がもたない!!!」
 
身体をひきずるようにして、そこに。
ユーノ・スクライアが立っていた。