「聖痕の刻まれし蒼き鷹」にて連載がされていた

長編「Southern Cross」が、無事完結されましたね。
おめでとうございます&素晴らしい作品を読ませて頂きありがとうございました。
ケインさん、本当にお疲れさまでした。
毎回、楽しく時には胃を痛くしながら読ませていただいておりました。
これからも短編、その他諸々楽しみにしています。
統括あとがきにて様々な裏話などが明かされていますので、
まだの方はリンクの時空管理局さんからどうぞ。
……俺もがんばらにゃあorz
 
 
 
と、とりあえずforget-me-not加筆修正版の第六回を(汗
スレ投下版の第十六回〜十八回分に当たります。
  
  
forget-me-not
 
第六回 真意と決意
 
 
少年は、上空の少女に語る。
 
真実の言葉を。
一族の心からの懇願を。
 
「はやくその姿を解いて、元の宝石に戻るんだ」
『───お前は───』
 
「……君を造った、スクライア族の……人間だ……」
『───!!───』
  
ダイムの右腕から光が失せる。
フェイトもまた防御魔法を解き、疲労と痛みからくる荒い呼吸でユーノを見つめる。
アルフも含め皆、状況を把握するのが困難であった。
 
『───どういう、こと───』
「君が、封印されたのは……レイジングハートのせいなんかじゃない、
 彼女が完成して、君が用なしになったからじゃない」
 
ユーノが喘ぐようにしながら告げる、ダイムが封印された本当の理由。
それは───……。
 
「君はもう、君自身の力に耐えることができないんだ……」
 
ダイムが完成したのは、もうかなりの昔になる。
 
それは当時のスクライア族にとっての技術の結晶であり、
その能力・出力は現在の魔法具、デバイスの中においてもトップクラスに値する。
更にダイムはスクライア族の皆のため、長年にわたって力をふるい続けてきた。
機体は次第に自らの持つ強大な魔力による侵食を受け、ダメージを蓄積し。
もはや稼動していくに耐えうる状態になくなっていた。
 
彼女の性能は彼女の肉体に対し、あまりに高すぎたのだ。
 
「君は……十分、僕らスクライア族の力になってくれた」
 
このまま力を使い続ければ、いつか制御できなくなり、暴走。あるいは完全に消滅してしまう。
 
「長老が言ってた……君のそんな姿はみたくなかった、と」
 
封印を施したのは、そうなってほしくなかったから。
ずっと彼女に、スクライアの一族のことを見守っていて欲しかったからだ、と。
 
『───……嘘───』
「なのはを───放して」
 
ユーノの宣告に、ダイムは呆然としていた。呆然と脱力して天を仰いでいた。
 
これで、終わった────そこにいるだれもが、そう思った。
そう思って、安堵していた。
 
*    *     *
 
『───嘘だ───』
 
安堵は、一瞬において立ち消える。
 
震えるダイムの声が響き渡ると共に、辺りを包む結界の表面に細かな亀裂が走っていく。
 
『───嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
   嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ────』
 
亀裂を作り出している原因は、ダイムそのもの。
急激に増大したダイムの魔力が、自らの生み出した世界を蝕み、傷つけている。
 
「く!!」
 
それはまるで、魔力の洪水。ただの魔力であっても、直撃すればただでは済まない。
空中のフェイトも、地上のユーノとアルフも、防御魔法を使いつつ避け続けるのが精一杯の状況だった。
 
『──私は、私ハ……!!』
 
均衡が崩れ去った後の、完全なる暴走。
恐れていた事態が、起ころうとしていた。
 
長年の酷使によって耐用ぎりぎりだったダイムの機体が、戦闘による度重なる魔法の使用と、
真実を知り、それでもそれを受け入れることのできない心のおこしたねじれによる負荷を受け。
やり場のない憎しみによって、ついに限界を迎えたのだ。
 
『──壊ス……!!』
 
あるのはただ、その崩壊の引き金となった憎悪と破壊のみ。
ダイムにはもう、理性など存在しない。衝動だけが彼女を支配している。
 
「なのはっ!!」
 
ユーノの声に、フェイトは振り向く。
 
「ッ……!?なのは!?」
 
濃密な、魔力という名の強酸に晒され。
なのはの身体を拘束し、支えていた鎖が右腕の一本を残し溶け千切れていた。
それ以外に支えるもののないなのはの身体は魔力の波に煽られ、右へ左へ、不安定に揺られ続けている。
そして右腕の鎖もまた、今正に朽ち果て風化し、千切れようとしていた。
 
(く……間に合えっ……!!)
 
一刻の猶予も、なかった。
考えるより先に、身体が動いた。
 
例えその身を魔力の大波に晒すことになったとしても。
どれほど傷つこうとも、そんなことは関係ない。
 
助けなくては、なのはを。
 
大切なたった一人の友達を、助けなくてはならない。
約束したんだ、彼女と。その想いが、フェイトを衝き動かす。
 
「間に合えええええぇぇっ!!」
 
叫び、飛び込むように彼女へ向けて両腕を伸ばす。
 
 
 
───間一髪、地面すれすれ。
千切れた鎖と共に落下するなのはを、フェイトはしっかりとその両の腕で受け止めていた。
 
*    *    *
 
「ひどい……」
 
腕の中のなのはの状態は改めて間近で見ると、なおも無惨なものだった。
 
「こんなに……」
 
バリアジャケットは上着がほとんど原型をとどめないほどボロボロに破れ、
右の袖はなんとかくっついている程度。
服の裂け目からはいくつもの傷が覗き、中にはまだ出血しているものもあるほどだった。
 
トレードマークのおさげも片方を結っていたリボンがちぎれ、ほどけている。
顔の右半分も、目蓋の上から流れ出た血が乾き、こびりついた状態だ。
スカートも裾からあちこち、大きく破れている。二本の足も切り傷、擦り傷が痛々しい。
 
「なのは……」
「こいつは……ひどいね……」
 
駆け寄ってきたアルフもまた、なのはの状態に呻くように言う。
 
──と、その時。
 
ぱりん、と。
無機質な乾いた音と共に、彼女達の周囲を囲んでいた結界が崩れ落ちる。
ダイム自身の放つ魔力に、彼女自身が張った結界が耐えられなくなったのだ。
 
『─────』
 
ダイムの目に、光はない。ただ、目の前にいる敵を破壊する。
その衝動だけが今のダイムの肉体を動かしている。
 
流れるような動作で掲げられた両腕が、ダイムの頭上に巨大な光の球を形成していく。
フェイトを、なのはを。レイジングハートを屠り去るための、最大最後の一撃。
 
(きっとあの子の、全力……。ダイムの本気……)
 
相手が本気でくるというのなら。
ならば、することは決まっている。
 
「アルフ、なのはをお願い」
「フェイト!?」
「ユーノは結界を」
「フェイト、まさか……?」
 
言うまでもない。決まりきったことだ。全力には、全力で。
 
フェイトに残された全力で受け止めて、全力で応えるしかない。
なのはなら、きっとそうする。私も、そうしたい。
あの子のすべてを、受け止めてあげたい。
 
「あの子──ダイムを止める」
 
これまでを見ればわかるように、暴走したダイムの魔力は凄まじい。
暴走状態の彼女とまともに戦ったのならば、フェイトでもおそらくは勝てないだろう。
 
だが今のダイムは暴走しているとはいえ、連戦と急激な魔力の放出・消耗によって、
その力はずいぶんと弱まっている。
きっとフェイトの残った魔力でも、ほぼ互角に戦えるはずだ。
 
(今なら……今ならやれる……!!)
 
これ以上、ダイムにだれかを傷つけさせたくない。
この子は、昔を取り戻したかっただけ。愛し、愛してくれた人達を取り戻したかっただけ。
ほんの少し、そのベクトルが狂ってしまっただけなのだから。
 
(母さんとこの子は、きっと同じ……)
 
そういう人を、自分も知っているから。
だからきっと、止めてみせる。
決意と共に、フェイトは拳を握り締める。
 
今度こそ、止めるんだ。