筆が進まんとですよorz

プロットは全部出来上がっているというのにorz
 
気分転換に加筆版forget-me-notを更新。
第七回、スレ版の第十九〜二十一回になります。
 
  
forget-me-not
 
第七回 二つの力
 
 
「アルカス……クルタス……エイギアス……」
 
フェイトの口から、呪文が紡がれていく。
 
雷光を呼び、破壊の嵐を起こし。
己の持つ魔力、そのすべてを開放するフェイトにとっての最大の攻撃魔法。
その詠唱される魔法の名は───……。
 
フォトンランサー・ファランクスシフト……!!」
 
雷を帯びた幾多の魔力弾が、フェイトの周囲に発生する。
その数はかつて、なのはとの戦闘において使用した時よりも増加している。
威力もそれに比例するように増しているであろう。
 
けれど。
 
(まだ。これじゃ、ダメだ……足りない)
 
それだけでは終わらない。
 
右手に保持したバルディッシュを天に向けると、
先端に魔力弾が集まりひとつの大きな光球を成していく。
それはアースラで暮らすようになって、クロノと共に訓練を繰り返し練習してきた、
ファランクスシフトのもうひとつの発射形態。
 
「はあああっ!!」
 
バルディッシュの先端に集めた魔力、すべての破壊力を一度にぶつける。
その一発の威力は、なのはのブレイカーと同等。
手数で勝負するのではなく、一撃の破壊力を増加させることに重点をおいた変型の一発だった。
 
「ダイム……君を、止めてみせるから……!!」
 
必殺の一撃を放ったのは、双方、全くの同時。
どちらが先に撃ち放つでもなく、「自然にそうなった」。
 
「いっけえええっ!!!」
 
真っ向から二つの強大な力がぶつかり合う衝撃は、地面を、木々を揺さぶり。
結界内に満たされた緊迫した空気を振るわせていく。
互いが互いへと及ぼす轟音と干渉の火花もまた、その威力を物語る。
 
『───!!!!!!!───』
「ぐ、ううううぅっ!!!」
 
両者の力は互角。どちらに傾くこともなく、丁度中間でせめぎあっている。
ずたずたにちぎれそうな激痛と重みが、フェイトの右腕を支配した。
 
(負け……、っ、ない……!!!)
 
少しでも気を抜けば、均衡は崩れる。それほど伯仲した力だった。
ゆえに、フェイトもダイムも、相手に押し切られまいと歯を食いしばって耐える。
その身に残るありったけの魔力で。
二人の力のぶつかり合いは、いつまでも途切れることなく続くようにさえ見えた。
 
*   *   *
 
────どれほど、拮抗状態が続いていただろう。
 
「っぐ、う……う……!!」
 
徐々に───ほんのわずかずつ、だが、フェイトはダイムの魔法に押されはじめていた。
 
「あ、ああ……っ!!」
  
彼女の予想したとおり、確かに二人の残った力や攻撃の破壊力は互角だったのだが。
 
フィジカルの状態の差が、誤算であった。
無傷のダイムと、その攻撃を受け傷ついたフェイト。
そのダメージの差が少しずつ、二人の均衡を崩していく。
 
さらにファランクスシフトとは本来、多数の魔力弾を立て続けに撃ち出す魔法だ。
いくら何度も訓練して身につけたとはいえ、それらを収束して放ち続けるという
まだ慣れぬイレギュラーな発射形態がフェイトの身体に及ぼす負担も、けっして軽いものではない。
 
ダイムの魔力弾に、ランサーが徐々に後退していく。
その度に、フェイトの両腕にかかる衝撃が、ずしりと重いものになっていく。
それはフェイトの表情に限りない苦悶を強いた。
 
「あ……っ、く、うぅ……!!」
「フェイト!!」
 
アルフの悲痛な叫びに対し大丈夫、と返す余裕もない。
対照的にダイムの表情には次第に押し始めたことを自覚したせいか、わずかずつ余裕が浮かびだしはじめていた。
 
状況は、絶望的だった。あと、ほんの少しだというのに。
そのほんの少しの差が、ランサーを支え続けるフェイトにはひどく遠いものに感じられる。
あともうわずかにでも、魔力があれば。だがそれが存在し得ない。
 
このままではフェイトは負ける。
 
だが打開する方法はなく、拮抗状態が崩れれば光弾とランサー、二発分の魔力がフェイト達を襲う。
そのときはフェイトだけでなく、後ろに控えるなのは達もひとたまりもないだろう。
 
「ぐうう、うううっ……!!!」
 
光弾の勢いに押され、フェイトの身体が後ずさる。
両足の靴が、地面にめりこんで跡を刻んだ。
 
(ごめん……なのは……私の、私の力じゃもう……!!)
 
君を、助けることはできない。約束を、守れない。
あの日の誓いを守れることが、できない───……。
 
(───あきらめ、ないで……)
 
「!?」
 
フェイトは、諦めようとしていた。
精一杯の力でダイムの攻撃を押し返しつつも、見つからぬ打開策の前に。
どうしようもない。約束を果たせない自分を責めていた。
 
「スター……ライ、ト……」
 
けれど、彼女の耳には福音が。
聞き覚えのある声が、すぐ隣から聞こえてくる。
友情を結んだ少女。大切な友達の声が。
 
「ブレイカァーーッ!!!」
 
両手にかかっていた、締め付けるような圧迫感がすっと軽くなる。
破壊の噴流を支える腕は、彼女の右腕の横に更にもう一本増えていて。
フェイトは恐る恐る、横に立ち自分と共に光弾を支える人物へと目を向けた。
 
「なの……、は……?」
 
傷だらけのなのはが、そこに立っていた。
シューティングモードのレイジングハートを構え、共にダイムの浴びせる攻撃の威力を支えている。
 
「なのは!!意識が……!!」
「うん……多分、もう……大丈夫、だから。アルフさんが、魔力を分けて……くれたから……」
「よかった……」
 
そこまで言って安堵し、もう一度改めて冷静になのはを見たフェイトは思わずハッとする。
 
彼女の言うとおりの状態ではある。
たしかに、たしかになのはの魔力は、完全ではないものの、ある程度回復している。
しかし、なのはの状態が満身創痍であることに変わりはない。
魔力が回復しようと、肉体はそうはいかない。
 
現にその両足はなのは自身の体重にがくがくと振るえ、
苦しげにあえぐような呼吸、痛みを堪える表情は、立っているだけでも辛いということの証明に他ならない。
まして、そんな状態で身体への負担の大きい必殺技であるスターライトブレイカーを撃つなんて自殺行為に等しい。
 
「なのは!!やめて、その身体じゃ……!!」
「大……丈夫……ぐ、う!!」
「だけど……!!」
 
大丈夫、だから。
額に苦痛の脂汗を滲ませたなのはが、こちらに眼を向けてそう言った。
 
「フェイトちゃんと、二人でなら……大丈夫。やれるよ」
 
(───きっと、大丈夫。信じてるよ。だから、信じて)
 
なのはの目が、そう言っていた。
自分は信じているから、そちらも信じてくれ、と。
 
(───わかった)
 
だからフェイトもまた、目で返事を返す。
 
「……いこう、なのは」
「うん……!!」
 
もう、これで終わらせる。
二人の手には、更なる力が篭る。
 
「「いっけえええーーーーっ!!!」」
 
結界が失われた以上、なのはの力を制限するものはない。
そして、声と共に重なり合った二人の力は、ダイムのそれを大きく上回っていた。
フォトンランサー・ファランクスシフトとスターライトブレイカー
二人の最高の一撃、二つの螺旋状に絡み合う光が光弾を、ダイムの身体もろとも飲み込んでいく。
 
「君を大切に想ってくれていた人達……君が大切に想っていた人達!!その思いのためにも、今はもう……眠って!!」
 
フェイトの叫びと共に、一筋の光が天へと上って行った。