スレの新職人さんの「K」氏。

クロフェを某所で書いていると言っていたけれど、
某所ってどこか非常に気になる罠。
クロフェ=聖痕の刻まれし〜のケインさんの代名詞って感じだから、
違う人のもけっこう読んでみたかったり。
人によって捉え方とかも違うでしょうし。
誰かオヌヌメのssがあったら紹介きぼんぬ。
 
 
さてさて。
forget-me-notの続編、she&meの加筆修正、第一回分が完了いたしました。
スレに投下したもの、保管庫に置かれているものの
第一話〜第二話分にあたります。
大筋についてはforget-me-not加筆版と、変わっていません。
 
 
 
魔法少女リリカルなのは〜She & Me〜
 
第一話 the night
 
暗闇の中で眠る町に、轟音が木霊する。
獣の雄叫びと、爆裂音。それらの混ざり合った単純でない騒音にも、
結界によって視覚、聴覚のいずれをも遮られた人々が目を覚ますことはない。
 
───来る。
 
フェイト───……時空管理局所属魔導士ことフェイト・テスタロッサ=ハラオウンは、
近づいてくる気配に向け、手にした無骨な愛杖・バルディッシュを構える。
 
バルディッシュ、ランサーを」
『yes,ser』
 
残った魔力は少ない。
結界はユーノが担当してくれているから問題はないが、無駄使いできないことに変わりはない。
漆黒の戦斧の先端へと、金色に輝く魔力が収束していく。
 
『photon lancer』
 
形成されたのは、攻撃魔法。
標的へと向けて、光の槍が放たれる。
 
「ファイアっ!!」
 
───それは、正に異形と呼ぶべきものだった。
大きく裂けた口に、血のように赤い凶暴な瞳。フォトンランサーが目指すその敵は、
巨大な狼と例えることもできなくはないが、それよりもはるかに醜悪な外見をしている。
 
「……」
 
自らを焼き尽くすべく迫る光の槍を異形は俊敏な動きで避け、その牙を剥いてフェイトに迫る。
 
バルディッシュ
 
だが、一発目を当てる気ははじめから毛頭ない。あくまでも最初の一撃は、必殺の二撃目を確実に当てるためのおとり。
単に相手に狙い通りの動きをさせるために放った、牽制に過ぎない。
間髪をいれずに放った第二撃が、フェイトの意図したとおりに異形の身体を貫き、焼き尽くしていく。
 
───やっと、終わった。
 
炎上し、倒れる異形の様子に、フェイトはほうと息をついた。
今週だけでもう10体目。いくらAAAクラスの魔導師とはいえ、疲労しないわけがない。
そんな状況が、本来冷静なフェイトをつい安堵させ、注意力を奪っていた。
 
「ッ!?」
 
うかつに近づこうとしたのがいけなかった。
炎に包まれ、完全に沈黙したと思われた異形が再び立ち上がり、襲い掛かってくる。
 
───やられる!!
 
避ける暇などありはしないし、オートのディフェンサーでは防ぎきれない。
かといって重ねて防御魔法を起動するほどの魔力も残ってはいなかった。
今にも異形の牙は、フェイトの小さな身体を噛み砕かんとする距離にあり、どうすることもできない。
フェイトは迫り来る最期の想像に、身を強張らせた。
 
だが。
刹那、側面から飛来した光弾が異形を撃ち抜き、フェイトを救った。
 
「……なのは」
 
振り返るとそこにいるのは、純白の衣を纏った親友。
 
「よかった……。なんとか、間にあった……っ」
 
駆けつけたなのはの放ったディバインシューターが、彼女の危機を救い。
生の本能だけで生きている異形へととどめをさしたのだった。
 
「ありがとう、なのは」
「うん……でも、ちょっと……限界、かも……」
 
フェイトも、フェイトを助けたなのはも。
共に大きく肩で息をし、杖でようやく身体を支えている。
二人とも、ほとんど魔力は底をついていた。
 
「とりあえず、帰ろっか」
「……うん……」
 
バリアジャケットを解き、元の服へと戻る二人。
なのははオレンジ色のタートルネック、フェイトはクリーム色の縞インナーに黒の上着
二人寄り添うようにして、多少ふらつきながら踵を返した。
 
「……」
 
……そのように力を使い果たした二人が、気づくことはなかった。
はるか遠くから二人を見つめる、強大な力の持ち主がいることに。
 
*   *   *
 
───リンディからフェイト宛に指令書が送られてきたのは、二週間ほど前のことになる。
 
地球と、その周りの次元に強力な魔力反応を感知したので警戒するように……といった内容が、
養母─母親としての、娘を案じるごく個人的な手紙と共に一つの封筒に同封されていた。
クロノからの手紙も一緒だった。
今は地球からかなりはなれた次元での任務の最中で、まだしばらくはこちらに向かえそうにないこと、
それが終わり次第こちらに向かう旨が、クロノらしい簡潔で丁寧な文章でまとめられていた。
 
以来。なのはとフェイトは出現するようになった異形と、力を合わせて戦っている。
原因は不明。ただ突然に現れ、本能のままに暴れていく。
二人の対応が間に合い、死傷者が出ていないのが幸いだった。
 
(それにしても、数が多すぎる)
 
これまで、二人が倒した数は合わせて50体以上。
正体も目的もわからない敵との戦いに、二人の消耗の度合いは大きかった。
 
「……フェイトちゃん、起きてる?」
「なのは?……うん、入って」
 
廊下から、なのはの声が聞こえた。
ドアが開くと、パジャマ姿のなのはが入ってきた。
眠いのか、しきりに目をこすっている。
 
「なのは、疲れてるなら寝たほうが」
「ううん、平気。……ちょっと疲れてるけど、気になってることのほうが強いから」
 
ベッドに腰掛け、疲れてるのはフェイトちゃんもいっしょでしょ、となのはは続ける。
 
そう言われると、フェイトはなんだかすごく申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。
手伝ってくれるのは嬉しいし、なのはのおかげでなんとか戦えているのも事実。
けれど、できることならば大切な友を巻き込みたくはない。
嘱託だから、といって手伝ってくれる彼女ではあるが、自分と違いまだ嘱託の彼女に、無理はさせたくない。
まだ嘱託魔導士から正局員になったばかりであってもこれは、自分がやるべき仕事だから。
 
なによりこうやってなのはに大変な思いをさせたくはない。
なのはとフェイトは、友達なのだから。
きっとそんなことを言ったら、なのはは一人で抱え込むなと怒るだろうが。
 
「あの怪物さんたち、何なんだろうね、一体」
 
それは、フェイトにもわからない。わかっているのは、たった二つ。
 
「すごく……高密度な魔力の塊。使い魔や前に戦った……傀儡兵のようなものじゃないかな。ジュエルシードの時とは全然、違う」
 
もちろん、純粋魔力の塊と機械の傀儡兵とでは根本は違う。
この場合フェイトが言っているのは、魔力なしにはどちらも動けないということ。
なのはの肩のユーノも、フェイトの推測にうなずく。
そして、もうひとつは。
 
「だからかな……?封印もできないし、一発におもいっきり力を込めないと止められないのは」
「多分。ロストロギアみたいなものが原因なら、封印できるはずだから」
 
怪物たちの持つ、その魔法に対する抵抗力がかなり高いということだけだった。
自然発生的なものなのか、あるいは人為的な何かによるものなのかすら、わからない。
その上破るためには普段以上に放つ魔法に対して魔力を注がねばならない。
 
フェイト達の消耗の原因は、その敵の数だけではないのだ。
一度の出撃でほぼ毎回、魔力が空になる。ジュエルシードのときよりも遥かにハードな仕事だ。
 
「お兄ちゃん達が……早く来てくれるといいんだけど」
「大丈夫」
「なのは」
「私たちだけでも、大丈夫。それに、クロノ君やリンディさん達もお仕事が終わったらきっとすぐにきてくれるよ」
 
膝に置かれたフェイトの手を握り、元気付けるように言う。
彼女の手は、暖かかった。
 
「それにユーノ君も、アルフさんだっているんだから」
 
そして微笑むなのはに、フェイトもまた静かに微笑みを返す。
 
「……うん」
 
──────つづく